1-3-24. スノーマジックファンタジー
小学校低学年くらいまではそれなりに友達の家に招かれたりはしていたが、プレゼントらしいものを送ったような記憶はそんなにない。
あるのは、学校帰りに遊びに行くようなノリで、その子の家に行きゲームをして帰るような、それくらいのものだったような記憶だ。
それ以外で、となれば、聖歌の誕生日とクリスマスくらいしか記憶に無かった。
中学に入ってからは部活とか――その他諸々があって聖歌の家に行くこともなかったが、それまでは幼少期ほどの頻度ではないものの、遊びには行っていた。
年末には母さんの仕事が重なることも多く、そのときは確実に御園家に預けられていたものだった。
どちらかと言えば誕生日兼年越しが重なる大晦日の方が大々的なイベントになる御園家だが、クリスマスもしっかりやっていた。
『全部ひとまとめにされて哀しい』という年末生まれの子どもの話がテレビから流れてきたときは、子供心に聖歌の両親は偉いなぁ、などと若干上から目線で思ったものだった。
本題のプレゼントの話だった。
モノは基本的に母とふたりで選び、持って行くのは母が居ればふたりで、そうでなければボクの単独だった。
そういえば、それ以外にも、楽器を弾いたこともあった気がする。
曲は、定番の『ハッピーバースデー』だったり、クリスマスソングだったり。
楽器は、トランペットだったり、サックスだったり、鍵盤楽器だったり。
――そういえば、聖歌はプレゼントに『キーボードが欲しい』と言っていたときがあった。
歌を歌うのは好きな聖歌だったが、楽器に関してはとくに自分で弾くようなことはなかったので意外だった。
結果的に無事に手に入れることができていたが、箱から開けて一通りのセッティングを終えてすぐに聖歌は、『弾いて!!』と満面の笑みでボクに言ってきた。
覚えているのは、なぜか母さんが持ってきていたピアノの楽譜を使ってミニコンサートみたいなことをし終え、一息吐いて横を見たときの、聖歌の笑顔だ。
少し潤んだ彼女の瞳の色は、今でも目に焼き付いて離れなかった。
「どしたの? みずきくん」
「あ。あー、ごめん。いや、ちょっと迷っちゃうよね」
「そーだよねー……」
物思いを隠すような言い方をしてごまかしてみるが、意外とうまくいったらしい。
少し申し訳ないけれど。
「いっそのことゲームっぽい感じにしちゃって、3人に好きなモノ選んでもらうとかは?」
「あー、それアリかも」
「なんとなく雑な気がしなくもないし、最後まで選んであげたい場合はオススメしないけどね」
「ううん、そういうのも楽しそうだし。そうする。ありがとね」
「いえいえ」
対面に居る店員さんにそれぞれ小分けにして包装をしてもらう。
と、和恵さんが何やらじっとこちらを見てくる。
「ん? 何か付いてる?」
「みずきくんは、誰かにあげたりしないのかなー? って」
「え?」
「プレゼント」
「……とくに、ないかなぁ」
「……そっかぁ」
なぜか少し残念そうな声色の和恵さん。
「お母様などには、いかがですか?」
「ああ……」
店員さんにそう言われて、断れるだけの図太さは持っていなかった。
ショーケースに身を乗り出す。
ただ、そうは言っても、思い浮かんでいるのは母の顔ではなく、聖歌の顔だった。
自分の女々しさに嫌気が差す。
アタマの何処かでは必死に警鐘を鳴らしているのだけど、どうしたって脳裏に焼き付いたモノを剥がして落とすことができていない。
「みずきくんのお母さんってどんな人?」
「ん?」
「プレゼントのアイディアをくれたお返しに、私が選ぶのを手伝ってあげよう」
「楽しそうだなぁ」
「そりゃーもう、楽しいですよ? 喜んでくれる顔を想像したら、楽しくならないわけがないでしょう?」
その通りだった。思い浮かぶのは、キレイに残っている思い出ばかりだった。
「それで、みずきママはどんな人?」
「んー……」
ただ、ここまで『母へのプレゼント』として道筋を作られてしまうと、やはり無碍にすることはできないわけで。
――だって、後が怖いし。
「……こんな人」
「うわ、めっちゃカワイイ!」
「わー!! 姉弟でも通用しそうじゃないですか!」
和恵さんどころか、店員さんまでもテンションが上がっている。
先日のパフェ会から帰った直後、ボクを羽交い締めにしながら自撮りしたモノだ。
お土産のスイーツにテンションが上がった結果こうなった。
その上、DMで強制的に送りつけられる始末。
母はこれを待ち受けにして、次のツアー周りで見せびらかす気満々だそうだ。
今から寒気が止まらない。
「それでしたら、このあたりがオススメですっ」
「あ、すごく似合いそうです!」
勢いよく答えたのはボクではなく、和恵さんだ。
楽しくならないわけがない、とは言うけど、それはさすがに楽しみすぎじゃあないだろうか。
スマホの時計が一瞬視界に入ったのだが、残り時間的にはあまり迷ってもいられないくらいだった。
恐らく神流たち3人もそろそろ戻ってくる頃だろう。
こういうときは一瞬の判断に賭けてみよう。
「だったら、こっちで」
「ありがとうございますー。……実は私もそちらの方がいいかなぁ、って思っていたのでよかったです」
「あ、そうですか? ならよかったです」
「うんうん、みずきくんナイスセンス。さすが、女子力高い系男子」
「だから、それやめてってば」
意識高い系男子よりはいいけれど。
「えー、イイじゃない」
「おふたりさーん!」
「お待たせー!」
「あれー? なんかイチャついてなーい?」
商品受け取りに合わせたようなタイミングで3人が戻ってきた。
全員見事に違うショッパーを持っている。
約束はしっかりと守られているらしい。
「あれ? ミズキも何か買ったの?」
「んー、まぁちょっと……」
「お母さんへのプレゼントだよー」
暈かそうと思ったのに。何言われるか。あまり考えたくも――。
「あら、優しい子だわー」
「そういえばミズキくんのお母さんってどんな人?」
「すっごいカワイイよ」
「あ、ちょ!」
神流がまたアタマを撫でようとするのを回避している隙に、会計をするときに適当にワゴンのところに置いたままだったスマホを和恵さんに奪われた。
「えー、私たちも見たいー!」
「和恵さんだけずるいー!」
エリーと早希の大ブーイング。
「……あー、もう、いいや。見せる見せる」
何だかいろいろとどうでも良くなってきた。
店員さんの何とも言えない表情は気になったものの、3人とも和恵さんたちと同じ反応だったので好しとしておく。
――この状況を母さんが見ていたとすれば、『姉弟に見える』としこたま言われたので大喜びしていることだろう。
「んじゃあ、そろそろ行きますかー」
「早めに着いておいても問題無いしね」
「……あれ? ミズキ、どしたー?」
「あ、いや、ちょっと見足りないところがあってさ。すぐに追いつくから先行っててイイよ」
「別に良いけど、遅れないよーに!」
「りょーかい」
中央エスカレーターのところで4人と別れる。
2つ下のフロアまで降りたところを見届けて、さきほどのショップへと戻る。
「どうぞご覧くだ……あ、さっきの」
「どもです」
「どうされましたか?」
「えーっと……」
無駄に言い淀んでしまう。
こんなところでごちゃごちゃしていてもダサいだけだ。
わかってはいる。
――今からオレは、間違ったことをしようとしているんじゃないか。
そんな風にしか思えなくて。
でも、どうしても。
「もうひとつ……、プレゼントが欲しくて」
「はい! どなたへのですか?」
「……幼なじみなんです」
ビルの外へ出ると、まだ雪が降っていた。
さっき建物の中に入った時より強めだ。
人通りが多いし、ロードヒーティングも効いている。
地面に降りた雪はすぐ解けてしまうが、歩道の縁石あたりを見るとだいたい20分前くらいから降ってきたくらいの積もり方だった。
今日はいつもの通学用カバンではない。
トートバッグにはプレゼントが2つ。
何となく外から触って、その感触を確かめてしまう。
「こんなコトする予定じゃ無かったんだけどな」
誰にともなく。
1時間くらい前までは前後左右に部活の仲間が居たし、ついさっきも4人が居た。
――アレ? そういえば、佐々岡くんはどうしたんだろうか。
予想したとおりではあったけど、終ぞ戻ってくることはなかった彼。
道に迷うような性質ではないし、放っておいても問題無いだろう。
彼は放置プレイもご褒美と思ってくれる人種だろうし。
脳内のどこかで『今思い出すのかよ! 薄情だな!』とか言っている彼がいるが、そもそもキミが最初にあの場所を抜け出したのだから、どちらかと言えば文句を言っていいのはコチラサイドだろうし、何も問題は無い。
「誰からか、って知らせない方がいいんだろうか」
ただの不審者だろう、とは思う。
とはいえ、心の何処かでは、甘い観測がないわけではなかった。
だから、それが甘えだ、っていうんだ。
たまたま居合わせただけで、また話せただけで。
切れていたと思っていた糸は、たとえ繊維の欠片だけだったとしても繋がっていた。
そのことがわかっただけでも充分だった。
恐らく、あちらは、今も昔も特別な感情なんてありやしなかったんだろう。
そう思っていれば、誰も傷つく事なんて無い。
幸せと同時に悲しみも去来する。そんな雪景色だった。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
今回のエピソードタイトルは同名の曲があります。
SEKAI NO OWARI ですね。
もちろんそれがモチーフですが。
……どこに使ったかちょっと探してみたりしていただけると幸いです。
とっても簡単です。
いよいよ次回で第1章第3部も終わります。
そして次は「5の倍数」の回。
……お楽しみに。





