1-3-21. 聖夜に聴くのは
フォンダンショコラのパフェのバリエーション違い、やっぱりこれを選んで正解だった。
濃いめの生クリームと、甘さ控えめのチョコレートソースとキャラメルソースが良くマッチしている。
前回の時と違って、分量が適切なのも良かった。
聖歌も、同じくフォンダンショコラのパフェをチョイスしていた。
この前ホームページを見せたときにいちばん写真に食いついていたが、そのときのインパクトがまだ残っていたらしい。
見せた甲斐があった。
他のみんなも、好みが出ていて面白い。
正統派とも言えそうないちごのパフェを選んだのは早希、歌織、エリーの3人。
いちごと4種のベリーのパフェは、仲條さんと花村さんのテニス部コンビ。
神流はすこし変わり種の、南国系フルーツ盛り合わせ風のフルーツパフェだった。
みんなわりとフルーツ系が好きなようだ。
チョコレート系がボクと聖歌だけだったのは少し予想外だった。
「そろそろさー、いろいろ考えないとだよねー」
「……何を?」
ほどよくアイスが溶け出してきた頃合い。
パフェスプーンを舐りながら言う花村さん。
視線がこちらに向けられていたので、何となく反応しておく。
――ちょっとドキッとしたのはナイショだ。
本人にそういう意図は無いはずだろうけど。
たぶん。
きっと。
恐らく。
「何を、って……。クリスマスでしょ、クリスマス!」
「ああ……」
「何その色気もクソもない反応はー!」
ウソでしょ! と花村さんの顔が全力で訴えかけてきている。
それはいいけども。
――クソ、って。
ちょっと、言い方。
まさか、アレか。
女子比率が高い――というか、男子はボクひとりだ――から、飾る気も取り繕う気も全く無いという話か。
薄らと気付いてきていたけど、コレにて確信。
花村すみれ、やっぱり完全に『高島神流型』の娘だ。
このふたりが違うクラスになっていて、本当に助かった。
こんなキャラクタはひと家庭に1匹、クラスにひとりくらいのバランスで丁度いいのだ。
だけど、言われてみればたしかに、もうそんな時期だ。
正直なことを言えば、その認識をするだけの余力がない。
年がら年中部活で演奏しているような生活をしていると、年末とか年始とか――言ってしまえば、平日・休日の違いとか――そういうものの感覚が希薄になってくる。
「もうそんな時期か……」
「え。カレンダーとか見ないタイプ?」
「そういうわけじゃないけどさ」そんなわけはないけれど。というか、さすがにその認識はあんまりでは無いかと思いつつ、「イヤでも店の飾りとかクリスマス意識してくるんだから、一応認識はしてるよ」
こちらにも、少しだけ言い訳めいた事情はあるわけで。
「クリスマスだよ、クリスマス。高校入って最初のクリスマスだよ?」
「うん。それはわかるけど」
「常識的に考えて、カレシ必要でしょ?」
――どこの世界線の常識ですか、それは。
というか、少し夢見すぎな気がするのだけれど。
どの子もそんなもんなのか、と思わせられる勢いに若干引く。
とはいえ、これはただ見ている分には面白くなってきそうなくらいのぶっ飛び方なので、敢えて少し野放しにしてみよう思う。
「あ、海江田くんの場合はカノジョか」
そういう問題じゃなくてですね。
「ん? いや待てよ……。カレシのパターンも無くは無い……?」
「まったくもってそういう問題じゃなくてね!」
ガマンできなかった。堪えが利かなかった。
「なーんだ」
早希さん。貴女はどうしてそこで残念がるのですか。
「ウチは、中学入ったくらいからそこまでクリスマスだなんだってやらなくなったからなぁ……」
「そうなの?」
「親の仕事の関係でね」
「それは仕方ないかー」
必ずその時期は全国各地で演奏系のイベントがあるし、ボクも部活で遅かったりすることが多かった。
致し方ないという側面の方が強い。
「あ。……そういえば、彼氏持ちの聖歌ちゃんの誕生日もそろそろだったよね?」
「う、……うん」
「あ、そうなの? ……クリスマス・イブあたりとか?」
当てつけのような花村さんの言い回しは気になったが、話題の矛先がボクから外れてくれたので一瞬だけ肩をなで下ろしつつ、ちょっと違うところに注意を巡らせておく。
名前からしてそうだろうな、という神流の予想は間違ってはいない。
だけど、そんな予想は残念ながらハズレだ。聖歌は苦笑いをしながら首を横に振った。
「実はね、大晦日なの」
「え! そうなの? ……マジか。早とちりしちゃってごめんよー。名前的にクリスマスくらいが誕生日なのかな、って思ったのに」
「それ、結構言われる。12月生まれだ、って言うと大抵『クリスマスと重なって大変だねー』って。そんなに間違ってはいないんだけどね」
その光景はボクも何度か見たことがあった。
その都度その都度訂正している聖歌の姿を見ていて、それこそ大変だなぁ、なんて思ったくらいだった。
そういえば、『冬休み中だし、年末も年末だから、なかなか学校の友達と誕生日に会えなくてちょっとだけ寂しい』とは言っていた記憶もある。
「でも、ほら。聖歌って、別にクリスマスに歌われるモノってことでもないからね」
「あー……」
あまり解っているようには聞こえない、神流の相鎚だった。
「ぶっちゃけちゃうとさ、賛美歌とか何かいろいろあるけど、その違いとかって全然わかんないわ。調べようとしたこともないし」
「……幼稚園くらいのときに説明された記憶があるなぁ」
「どんだけ難しいことやってんのよ、ミズキの幼稚園」
「けっこうきっちりしてたんだよ」
「で、ですよ。クリスマス。……ご予定は?」
本題に軌道修正した花村さんは、そのまま話の矛先をボクに向け直した。
助かった。
そのまま話の流れがそちらに向いたままだと、ボクの胃に穴が開きかねなかった。
「ま、そうは言うけどさ……」
「あれ? やっぱり先約とか?」
「そういうことじゃなくて。……っていうか、『やっぱり』って何さ」
「先約って言い方が合ってるかはわかんないけど、無いこともないよね。『アレ』があるから」
「まぁ、そうな」
ひとまず神流に同意しておく。
「『アレ』って?」
「クリスマスの日は午前で終わるんだよね、ウチの部活って」
「え。それって、もしかして? ……そういうコト?」
神流の言葉に、花村さんの瞳が爛々と輝きだした。
どうにも何かを暴走気味に勘違いをしているようだけど、どうしたものかな。
「安心して。ある意味『お勉強』みたいなものなんだよね」
「お勉強ってことはつまり、……恋愛のお勉強ってことね!?」
「いや、違……、ああ、もういいやそれで。うん」
否定はしないでおく。
きっと何人かはある意味『恋愛のお勉強』に走って行くのだろうな、とは思っているし、現にそれを公言している姿を見ている。
とりあえず彼女が暴走し続けていれば、そちら方面に話の矛が向くことは無いだろう。
なんとなく顔が赤いような聖歌に、花村さんを止めるのはとうに諦めて苦笑いを浮かべている仲條さん。
抱腹絶倒しているエリー、早希、歌織。
完全に自分本位のため息を、誰にも聞かれないだろう大きさで吐いた。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。
ということで、次回更新からはクリスマス篇。
これが終わればようやく『クロスロード・カンタータ』第1章第3部も終了となります。
よろしくどうぞお付き合い。
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