1-3-18. 対決! ネージュ・エトワール
どーーーん!
いや。どかーーーーん! だろうか。
その違いはどうでもいいか。
とにかく、そんなオノマトペが、全力でテーブルのど真ん中から強烈に放出されている。
高さ1メートル以上。
てっぺんにはメロン。
周囲にはイチゴやら桃やら、とにかくたくさん。
よりどりみどり。
ひとり当たりいくつ食べればいいのだろうか、などと思ってしまう。
生クリームに、ソフトクリームが、これでもかと言わんばかりにたっぷり。
「これ、これ! これよー!! これを待ってたのよっ!」
「最高っ……!」
「1回は食べてみたかったんだよねー!」
この威圧感に負けないどころか、軽く跳ね返すようなテンションの神流、歌織、好海の3人。
「これ……、マジで?」
「うはぁ……」
完全に気圧されている雰囲気の佐々岡くんと結花。
聖歌と和恵さん、それとボクは、ただ絶句していた。
写真で見るのと、現物を見るのとは、やはり全然違っている。
いわゆるジャンボパフェと言われる類いのメニューが、このお店の目玉だ。
当然、種類も1種類ではない。
ベリー系がベースだったり、チョコレート系だったり、今回選んだ『ネージュ・エトワール』のように全部ひとまとめにされたようなものだったり、いろいろだ。
サイズも何パターンか選べるようになっている。
――そうなっているのだが。
「ねえ、神流さんよ」
「なぁにー?」
スプーンを持ちながら、目を爛々と輝かせている神流に訊いてみる。
「さっき聴きそびれたんだけども」
「なぁにぃー?」
「……なんで、XXXLにした?」
「そりゃあ、挑戦するならやっぱり頂でしょうよ」
「限度があるだろ……」
XXXLサイズというのは、ジャンボパフェで選べるサイズの中でも最大のモノ。
ひとりあたりの支払金額も2000円近くになる。
そもそももう1サイズ小さいくらいので行くと思い込んでいたので、精神的ダメージは大きい。
いくら割り勘と言ってもそこそこの値段はするし。いろいろと懸念事項が多すぎる。
「いやー、そうは言っても、何だかんだで食べきれるとは思うのよねー。私、朝も抜いてきてるし」
「私もー!」
そこまで言うのなら、神流と好海に大部分を任せてしまおうと思うのだが。
そうでなくても、以前ここに来たときにも、神流は軽く食べきっていたし、そのあとでさらにレアチーズケーキを2つ食べていた。
このメンバー内でもトップクラスに甘い物好きなのは間違いない。
「っていうか、きっちり朝ご飯食べて来てる人って、まさか……いないよね?」
神流の恐ろしい質問に対して、首を縦に振った者はさすがに居なかった。
こっそりと肩をなで下ろす。
ボクも一応は極めて軽めの朝食に止めている。
ちなみにこの『ネージュ・エトワール』。
フランス語で『雪と星』と言う意味らしいが、モチーフは雪の降る星宮の街とのこと。
背が高いタワーがランドマークだったり、いろいろな建物が建っている姿を表現したのかもしれない。
載っているフルーツの種類が他のモノよりも多いので、食べ飽きしづらいような印象はある。
「ちなみに、グループででも最大サイズのパフェを食べきったら、あそこに写真貼ってもらえるからね! みんなでがんばろー!」
「おー!!」
ええい。後は野となれ山となれ、だ。
◯
――20分くらいは経っただろうか。
おなかはそれなりにキツくなってきている。
が、思っていたほどではない。
甘ったるいのかと思っていた生クリームが、予想外にあっさりしている。
以前に食べたチョコレートパフェのモノよりは確実にあっさりしていた。
あくまでも『重たくは無い』という範疇ではあるけれど、これは特大サイズ向けに調整されているモノなのかもしれない。
箸休め――という言い方が正しいのかはわからないけれど、そのためのフルーツがまた絶品。
酸味の強いパインやキウイをその役目として使ってきたが、意外に効果を発揮している。
唯一、パフェの土台部分としてど真ん中に鎮座している、スポンジ生地の部分が難敵だった。
だけど、これもソフトクリームといっしょに落とし込むことで何とか突破してきている。
攻略法を掴めば、案外イケるじゃないか。
「ミズキ、随分楽しそうに食べるよねえ」
「……うん?」
不意に神流が声を掛けてきた。
見れば、完全にソファに背を預けてニコニコと笑っている。
――いやいや、ちょっと待て。
「さっきまでの威勢の良さ、何処行った」
「いえいえ。ちょっとした休憩タイムですよ、休憩タイム」
どうも今ひとつ、信用に欠ける情報のような気がしてならないが、実際にはたしかに休憩タイムだった。
神流の座る正面については、下層部分が既に食べ終えられている。
問題なのは、いちばん嵩のあるスポンジ生地を残しているところだったりはするのだが。
アレを果たして、休憩とやらを終えた後に食べきることが出来るか、と言う話だ。
とはいえ、あれだけの威圧感を放っていたパフェも、なんだかんだで7割方片付いてきたように見える。
それぞれがもう一踏ん張りすれば無事に完食できそうな気はしている。
――もう一踏ん張り、出来ればだが。
ついでなので、他の子たちがどうなっているか見てみる。
甘いモノはあまり得意ではなさそうな結花は、好海とのペアの様相。
好海がクリーム類をメインで食べてくれているようだった。
対面の佐々岡くんは、……何だか既にグロッキー。
でも、正直言うと、もう少し食べていて欲しい。
漢を見せてくれ、慎也。
そういうときだけ慎ましくしなくて結構。
歌織と和恵さんは、自分のペースでじっくりとムリはしないで食べている様子。
隣の聖歌も同じようにゆっくりペースだが、少しつらさが出てきているのだろうか。
スポンジ生地を飲み込んで、ひとつ大きめに息を吐いた。
――一旦、いちばんヤバそうなヤツに声を掛けてみることにする。
「佐々岡くーん、生きてるー?」
「……死にかけてるー」
「ちょっと佐々岡くん、もう少しがんばってよ!」
隣の好海が不満そうに言った。
「いや、さすがにこれは……」
「何。甘いの苦手?」
「そういうわけでもないけど、得意な方ではないな……」
ぐへー、と言う感じで佐々岡くんは全身をソファに預けた。
これは、ほんのり再起不能感が出ている。
危険だ。
「もうちょっとがんばってくれよ。ほら、そのフルーツくらいはイケない?」
「いや、むしろ何で海江田はそんなに余裕があるんだよ……?」
「んー……、まぁ、甘いのはそんなに嫌いじゃないしね」
「『嫌いじゃない』じゃないでしょー?」
「……神流は早く起き上がって食べなさい」
「はーい」
意外と素直だ。
本当に休憩中だったらしい。
「なんか、佐々岡くんが役立たずだから、ちょっとずつ私たちで減らしていこっかー」
「そだねー」
妙にまったりと佐々岡くんをディスりながら、歌織と和恵さんが生き生きとスプーンを手に開拓を始めた。
突っ込む気力も最早喪失しているような佐々岡くんは、そのままふたりに任せてしまうようだ。
――そうなると。
「……ふぅ」
「大丈夫?」
「うん……」
これは、あまり大丈夫ではないヤツだ。
聖歌の弱々しい『うん』は、あまり大丈夫だった例がない。
「ヘルプは入れるから、あんまりムリしないで」
「あ、ありがと……」
「ん」
疲労困憊っぽさはあるものの、ふんわりとした笑顔。
ちょっと久々に見た所為か、一瞬視線をどこへ向けたらいいのかわからなくなってしまった。
――その後。
50分くらいはかかってしまったが、無事に完食することができた。
写真撮影については時間制限のようなものは設けられていないので、当初の目標は無事に達成。
ただ、その写真にきっちりと満面の笑みで写ることが出来た人は、残念ながら居なかった。
恐るべし、XXXLサイズ。
万が一『次』があるとしたら、せめてXXLに止めておいてほしいところだった。
まだ時間もあるということで、この後どうするかと言う話になった。
結花と好海のふたりは行きたいところが別にあるということで、ここでお別れ。
佐々岡くんは「胃が爆発しそうだ」ということでドロップアウトすることになった。
別れ際、ボクに対してえげつないほどの舌打ちをかましていったのだが、以前の彼の振るまいからその理由は簡単に察することが出来てしまった。
斯くして、ボクと聖歌、神流、歌織、和恵さんの5人で大通エリアを散策することになった。
それぞれで行きたい場所をチョイスして、そのすべてを見て回るということに決まり、ボクは楽器店と書店を選んだ。
雑貨も見て回りたかったが、敢えてそれは選ばなかった。
恐らく女子陣の誰かが選ぶだろうという目算があったので回避したが、予想通り。
ボク以外がそれぞれ違うお店を選んでくれたので、無事に目標を達成することができた。
道中で和恵さんが『海江田くん、女子力高い』と言ってきたのだが、その理由だけはよくわからなかった。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。
胸焼け、と言っても別にダダ甘な恋模様なんかではなくて、
ただただ大容量のパフェの食レポってことでした。
……まぁ、ダダ甘どころの騒ぎじゃなくなるんですけどね。
感想などなど、お待ちしてます。





