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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (1) / Pathetic Prelude〜  作者: 御子柴 流歌
1-3. スノーマジックファンタジー

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58/90

1-3-14. 待ち合わせ

 週末、土曜日。


 昨日の夕方から雪が降り続いていたが、朝になって気がつくとすっかり止んでいた。

 眠りが浅く、何度かに起きるたびに窓の外を眺めていたが、そのときはまだ降っていたのだが、気がつけば朝。

 空に舞う雪の姿はなかった。


 時刻はもう少しで11時を回るくらい。

 休日でもこの時間まで家にいるのは珍しかった。

 いつもは大抵部活だ。

 この時間帯ならば、パート別練習の真っ最中だろうか。

 正直言うと、ここまでまったりと過ごしていることに、かすかな罪悪感のようなものがある。

 職業病のようなものなのだろう。


 しかし、そろそろ待ち合わせの時間だ。

 危うく登校のときに使うカバンに手をかけそうになったが、何とか思いとどまってトートバッグをチョイス。

 服は、余り頓着するほうではない。

 スキニーのデニムパンツにクルーネックのニット。

 コートはいつも使っているモノで問題無いだろう。



「みーずきー」


「んー?」



 少々迷って結局選ばなかったシャツ類を仕舞っていると、背後から母・美波(みなみ)が扉に隠れるようにしてひょっこりと顔だけを出している。

 何となくめんどくさそうな予感がして、視線をクロゼットの方に戻す。



「あ、もう準備してた」


「なにさ」


「そろそろ行く時間じゃないのー、って言おうとしただけよ」


「そ」


「あら、何でそんなに冷たいの」



 ちょっと久々に見たエプロン姿。

 それで目元を拭う真似をする。


 ――ほら。予想通り。


 後期中間考査が終わった翌日、母は無事に、いろいろと巡ってきた箇所のお土産を大量に携えながら、ハイテンションで帰ってきた。

 どれだけハードなスケジュールで回ってきていたとしても、帰ってくるときは出かけたときよりもテンション高く戻ってくるから、不思議で仕方がない。


 ひとまず年内は『一応はゆっくりできる』とのことだが、これはあくまでも『本人談』というヤツだ。



「別に、ふつうでしょ」


「まー、いーけどねー。……せっかくの部活休みなんだからゆっくりすればいいのに、ママ寂しいわ」


「なにをいまさら」


「で? 今日は誰とデート?」



 ほら、これだ。


 口ではそう言って泣き真似をしつつ、自称・大人カワイイを体現したというショートボブ――かなり明るめのブラウンカラーリング――を揺らしているが、実態としてはそれほど寂しがっちゃいない。

 むしろ、久々に直接実の息子をイジリ倒せることに気分が高揚しているような雰囲気があった。

 わりと『ご姉弟ですか?』と聞かれようとしている節がある、アラフォーの――というか40ジャストの――母だった。



「デートじゃない。テストが終わってお疲れさんってことで集まるだけ、ってこの前も言ったっしょ」


「ふーん……」


「なんだよ」



 こちらを見透かすような顔に、ちょっとたじろぐ。



「そのわりには、きちっとした恰好にしたのねー」


「そりゃあ、……そうでしょ。人と会うんだし」


「ふーん、そおかー、へぇー……」



 これはまずい。

 何だか尾を引きそうな予感がしてきた。


 間違っても、アレを訊かれると――。



「それで? その集まりって、部活のメンバー?」


「……うん」


「何人くらい来るの?」


「10人くらい、だったかな」


「なるほどねー。……男の子は何人?」



 ――ダメだ。

 こういうときは本当に鋭くて困る。

 回避不可能。



「……ふたり」


「みずきを抜くと?」


「ひとり」


「ふーん……、へえー……。ほほー」



 ハイ。

 めんどくさいモードに入られましたー。



「下手な合コンより恵まれてるわねぇ」


「うっさいうっさい。……もう、それでも何でもいいよ」



 ここのところ安定して静かだったウチが、ひとり増えただけでこうである。

 ボクが静かすぎるだけか、それとも母さんがうるさ――元気なだけか。

 そのどちらも当てはまっているのかもしれないけれど。


 気がつけば、もう出ないと第1の待ち合わせには危険水域な時間になっていた。

 この前の誕生日の時に、母さんの仕事仲間たちからプレゼントしてもらったブーツを履く。

 キャメルブラウンのチャッカーブーツ。

 なんとなく学校に履いていくのは勿体ない気がしていたが、今日くらいならいいだろう。



「それ履くんだ」


「ん」


「どう?」


「うん、イイ感じ。……ありがとうございます、って伝えておいて」


「もっちろん。『ばしっとキメるタイミング選んで履いてくれたわ』って言っておくね」


「……行ってきますっ」


「おみやげ話、待ってるわよーん」



 絶対、教えない。


 でも、口封じのためにも、シュークリームでも買ってこよう。

 あそこのお店は、持ち帰りのスイーツも美味しいのだ。













 今日の最終目的地は星宮(ほしのみや)中央(ちゅうおう)駅方面。

 その中央駅の一つ手前、三番街(さんばんがい)との間あたりにある人気店。


 1ヶ月ほど前に店舗拡張をしたことで、ある程度のグループでの来店にも余裕で対応できるようになっている、とのことだった。

 ――神流(かんな)からの情報である。

 そのお店のことは知っていたのだが、広くなっていた事は知らなかった。


 ここからなら、幸い通学定期で行ける範囲。

 こういうときに交通費がかからないのは嬉しい。


 ポケットの中でスマホが震える。

 丁度良いタイミングで信号が赤になったので確認すると、『みなさま、今日は宴にござい』と、わけのわからないテンションで神流がメッセージを送ってきていた。

 内心では、寝坊した・遅刻するなどと書き込まれなかったことに安堵していた。


 が、間もなくして、佐々岡(ささおか)くんの『ちょっと遅れそう』のコメントが流れてきた。

 そっちか。

 思わず口に出して言ってしまった。

 こちらが寝坊かと思ったが、どうやら弟さんの付き合いで一旦中央駅の駅ビルで用事を済ませてから来るので、10分くらい遅れそうだ、という話だった。


 その他の面々からは、了解のスタンプがぺたぺたと貼られている。ボクもそれに混ざっておくことにした。


 そうこうしているうちに、信号も青。

 いつもよりは車の通りも穏やかに見える。

 道路脇に膝丈ほどに積まれた雪は、心持ち汗掻いているようだった。


 今日のメインの待ち合わせ場所は、そのお店の最寄り駅である三番街駅。

 ここ、石瑠璃(いしるり)からは5駅。

 さほど遠くはない。

 他のメンバーは済んでいるところがわりと違っている。

 使っている路線もその方向も違っている。

 はぐれたりすると面倒だから、強制はしないけれど、基本的には近い人同士で集まってもらえると嬉しい、という風にはなっていた。

 良く道に迷うタイプの子からの熱烈な()し――というか()しもあって、そうなった。


 三番街の辺りは大型書店や文具店があったり、ちょっと珍しい雑貨店や楽器店もあったりと、いわば根城のようなものだ。

 幸いなことに方向音痴でもない。


 こちら方向がボクしかいないのであれば、それで全く問題は無かった。


 でも、もう目の前に迫っている石瑠璃駅の改札口は、今日のもうひとつの待ち合わせ場所だった。



「……お待たせした、かな?」


「だいじょうぶ、ちょっと前に来たとこだから」



 聖歌(せいか)が、静かに笑っていた。


 待ち合わせの相手は、御薗(みその)聖歌(せいか)


 一昨日の夜にダイレクトメッセージがあった。

 誰だろうかと送信元を見れば、聖歌だった。

 ボクがスマホを持ち始めたのは高校入学のタイミング。

 その時にはすでに互いに話す機会もなくなっていたため、アドレスの類いの交換はしていなかったことに、このとき初めて気がついた。

 全員参加している勉強会グループから探してきたのだろう。


 中身を見てみると、『明後日に行くところってどこなのかな』ということだったので、そのお店のホームページを貼ろうとしたが、よく考えれば彼女もまた地図が不得意なタイプだった。


 念のため『地図とか住所とか、教える?』と先に送ったが、泣き顔の絵文字とともに『わからないかも』の文字。

 そして、続けざまの『もしよかったらなんだけど』、『連れて行ってほしい』の連投。


 そこまで言われても一瞬迷ってしまったが、さすがに彼女を往来のど真ん中で迷わせるわけには行かなかった。


 結果、こうして最寄り駅を待ち合わせ場所にして、いっしょにお店へと向かうことになった。


 首元にはあたたかそうな、太めの紅いチェックのマフラー。

 シンプルなベージュのロングコートはゆったりとした印象で、小柄な彼女をたっぷりと包み込んでいた。



「……はい。これ」


「え?」



 つい、と差し出されたのはカフェオレの缶。

 ミルク増量中の文字がお馴染みの、ボクが好みのモノで、もう片方の手にも同じモノが握られていた。



「あげる」


「……いいの?」


「道案内のお礼ってことで」



 そういうことなら、奢ってもらう罪悪感のようなものは薄まる。

 ありがたくもらっておくことにする。



「……あったかい」


「手袋とか、してないの?」


「あー、ポケットに突っ込んじゃってるかな」


「転んだりしたら危ないよ? したほうがいいと思うよ」


「……気が向いたらね」



 一旦改札を通り、ゴミ箱の近くにあるベンチに腰を下ろして、ふたり同時に缶を開ける。


 ひとくち。


 あたたかさが満ちていく。


 幼なじみとして――ただの友人としての時間だ。


 きっと、悪いことではないはずだ。


 そう思っていたかった。




ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


以前、存在だけはほのめかしていましたが、

瑞希ママ、美波さんの初登場です。

美人です、可愛い人です。でも息子からしたらうるさい人です。


で、待ち合わせしちゃいましたね。

次回は、この「ウラ」のシーンになります。お楽しみに。


感想などお待ちしてますー。

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