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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (1) / Pathetic Prelude〜  作者: 御子柴 流歌
1-2. 雨音はショパンの調べ

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1-2-26. 雨の月雁を往く

「ホントに、よかったの?」

「なにが?」


 信号を2つくらい通り過ぎたあたりで、仲條さんが口を開いた。

 それまではずっと雨音と通りを駆け抜けていく車の水しぶきがボクたちを包んでいたので、そこまでの窮屈さはなかった。

 たまに自室で、環境音としてよく風や雨の音色を聞いていたからかもしれない。


「傘、入れてもらっちゃって。何か話の流れ的に無理矢理入っちゃったような……」

「ボクとしては、仲條さんをこの雨の中を濡れて帰らせる選択肢が無かったけどね」


 北国の冬の足音が最早真後ろに迫っているような今日この頃だ。

 時間帯も、ほぼ夜。

 街灯の密度が低い路地裏なんかは、懐中電灯代わりにスマホのフラッシュを使いたくなるくらいに暗い。

 身も心も凍り付いてしまいそうな上に、この降り止まない雨。


「優しいよね」

「みんなそうするでしょ」

「ホント?」

「……たぶん」


 ふふ、と小さな笑い声。

 雨で流されてしまいそうで、それでいてしっかりとした強さはあった。


 反対側の車線を大型トラックが通過していく。

 強烈なしぶきと排気ガスのにおいを残して走り去る。


 あれくらいの強さで、何かを振り払えれば、もう少しラクなのかもしれないけれど。


「そういえば、勉強会って言ってたけど」

「うん?」

「吹奏楽部ってさ、意外とマジメだよね」


 思わず噴き出してしまった。

 そう思う原因は、やはり同じクラスのアイツのせいだろうか。

 脳裏の奥深くで『にゃははは、褒めたまえ! 崇めたまえー!!』などと言いながらふんぞり返っている高島神流の姿が見えた気がした。


「が……うん、まあ。そうね」

「え?」

「意外と、マジメよ? ボクたち」

「……あ、『意外』って言っても、海江田くんは全然意外じゃなくてね?」


 不意にぽっと口から出ていった言葉らしいが、それって結局本音ってことなんだ。

 人間、思わず口から飛び出す言葉こそが、その人の深層心理を表しているものだ。


「だいじょぶ、だいじょぶ。言うほどボクはマジメで生きてきてないからね」

「またそんなこと言って……」

「で? 意外っていうのは、神流?」

「…………うん。後で神流ちゃんに謝っておかないといけないかな」

「それも大丈夫。神流だし」

「……それ、どういう理由なの?」

「そういう理由なの」


 気にするだけ損だ。

 実際問題、ボク自身もそう思っていたわけだし。

 笑いながらそう言ってあげると仲條さんも諦めたらしく、笑顔を返してくれた。


「今日の勉強会もレポート?」

「いや、今日はテスト勉強的な感じ」

「……ヤバい、めっちゃ焦る言葉が聞こえた気がするんだけど」


 テストとか、ああそういえば来月の頭だっけ。

 英単語覚えないといけないし――。


 自分の世界に入り込んでしまったように、仲條さんは自分のテスト勉強の状況を省み始めた。

 そう言われれば、英単語の復習は必須だった。

 またシャーペンの芯を買い足しておかないといけないかもしれない。

 ケースひとつ分程度の余裕はいつも欲しかった。


「ちなみに、今日は物理をメインに」

「あ、あ……」


 ――断末魔? ギリギリと唸るような音が。


「ど、どしたの?」

「物理、私苦手だから。物理っていうか、理系全般得意じゃないから……」

「あれ? そうだったの?」

「そうだよー……。公式とか言われてもあんまりピンとこないし、そもそも覚えづらいし」


 あまり不得意が無いようなイメージを勝手に持っていたので、少し意外だった。

 かなり肩を落としている感じから察すれば、どうやら本当に悩みのタネらしい。


「ボクも、理系科目はそんなに得意じゃないんだよねえ……」

「文系は敵無しでしょ? 地理とか歴史とか」

「敵無しって、そんなチート遣いじゃないし。暗記系ならそこそこ自信はあるけどね」

「公式もそうやって覚えればいいんじゃない?」


 そう思って何とか暗記しようとしたことは、過去に幾度もあった。

 その結果今のこの状態なのだから、結果は察してもらえるかと思う。

 残念だけど、という感じで傘を持たない手を広げてみせる。


「言葉なら関連付けとかさせて覚えられるんだけどね、公式を覚えるにはやっぱりそれなりにその理由を頭に入れないと暗記できない脳みそになっているらしくて」

「……難しいね」

「だねえ」


 人間なんて、もっと単純な作りで充分なのに。



 そんなことを思っていると、区役所の庁舎を通り過ぎ、もう間もなくで月雁駅に辿り着くくらいのところまで歩いてきていた。

 あと残すところの横断歩道は、元々は星宮市電が通っていた旧電車通りを渡るだけ。そこからひと区画歩けば目的地だった。


 しかし、ボクの方には問題が一つ。


 ――それは、時間が潰し切れていないこと。


 あと20分くらいはどうにか消費しておきたいところなのだが、今日はひとりではない。

 しかもその相手はこの悪天候で傘を持っていない。

 放り出すと言う選択肢はやはり存在しない。


 ひとつ、仲條さんに訊いてみたいことがあった。返答如何では今後の時間の使い方に答えが出せるのだ。



「仲條さんって、このあとほんのちょっとだけ時間ある?」

「え? ……え?」


 思った以上に困惑したような声色が返ってきた。

 そこほどおかしなことを訊いた覚えはないのだが――――。




「あ! あ、違う違う! そういうことじゃなくて!」



 ――しまった。とんでもない失態。というか失言。


 月雁駅近辺は繁華街が広がる区域が存在する。

 ちょっとお高い系のバーはもちろん、庶民派の居酒屋。


 あとは、……()()()とか。


「決して、そういうことじゃなくてね!」

「う、うん! そうだよね! そりゃそうだよね!!」


 互いに多感だった。ひとまず咳払いをとても大きめにする。何よりも今するべき事は話題のリセットだ。


「20分くらいで良いんだけど、ちょっと寄りたいところがあるんだよね」

「……20分? それくらいでいいの?」

「ん、大丈夫。喫茶店、みたいなところなんだけど、そこでちょっとだけ」


 喫茶店と言い切れない雰囲気なのだ。

 とても表現が難しい業態をしている。

 適切な表現方法をボクはまだ知らなかった。


「それくらいなら全然」

「折角だし、どれくらいできるかわかんないけど、今日の勉強会の物理の部分を仲條さんに共有できるかなって」

「あ、それすっごい助かるかも! お願いします!」


 一瞬おかしくなりかけた空気も無事に元に戻った。


 信号が青に変わって旧電車通りを渡ったボクらは、東に真っ直ぐ歩いてきていた進行方向を北向きに変えた。

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