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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (1) / Pathetic Prelude〜  作者: 御子柴 流歌
1-2. 雨音はショパンの調べ

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1-2-17. またしても気だるい月曜日

 正直な話をするならば、土曜・日曜と部活に向かうために定期券を使って地下鉄に乗っていると、曜日感覚は無くなりがちだ。

 辛うじて朝の出がけに掛けているテレビ番組が、平日朝の情報番組か、土曜日のバラエティー色強めの番組か、あるいは日曜日の報道番組かというところで見分けを付けるくらいだ。


 今日は月曜日。11月も第2週に入り――次の定期考査まであと1ヶ月くらいだ――かなり冬の足音が近付いている。


 そのはずなのだが、先月末に一度きり降った以降、この街・星宮市には雪の便りが来ていない。

 寒さは徐々に厳しくなってきて、とくに朝晩の冷え込みは冬そのものと言っても差し支えは無いくらいだ。

 登下校時に学ランの上下に着るモノを厚くしてはいるが、靴はまだ秋物のままだった。

 これがかなりのミステイク。

 そのおかげで昨日の部活の帰りにひどく足先が冷えてしまい、お風呂のお湯が熱く感じて堪らなかった。


 当然だが、風呂上がりに冬用の靴をクローゼットから探し出すというミッションを完了する事態になり、結局その所為で余計な汗をかいてしまったため再び風呂に入らねばならなくなってしまった。

 今後はモノを探した後でお風呂に入ろうと誓った夜だった。


 本来であれば昨日はそこまで遅くなる予定ではなかったのだが、思い出話を語り足りない先輩たちの奢りでジャンボパフェで有名なパーラーへ行き、かなり盛り上がってしまった結果こうなった。

 末端の冷えの原因はそのパフェのアイスなのではないか疑惑もあるが、いずれにせよ冬靴は必要だった。


「さて、と」


 天気予報も占いのコーナーも終わり、そろそろ頃合いだ。


 誰に言うでもなく、結局は自分に言い聞かせるようにして椅子から立ち上がる。

 何か自分のエンジンを始動させるスイッチのようなものだ。


 一人暮らしに近いような生活が長いからなのだろうか。

 自分ではそうは思っていないのだが、これを不意に話してしまうと妙に納得したような顔をされる。


 ついこの間みたバラエティー番組でも、俳優さんがつい家で独り言を言ってしまうその理由として、一人暮らしが長い所為かもしれない、と言っていた。

 それに対して「いやいや、そんなことはないだろ」とひとりテレビに向かってツッコミを入れてしまったのだが、その後も続いた俳優さんへの熱いツッコミのオンパレードに、そんなことがないわけ無い、と独り言に対する認識を少し改める必要が出てきた。

 他人の気がしなかったのだ。

 今後は彼が出ている映画やドラマは少しだけ積極的に情報収集してみようと思った。


「あとは、大丈夫かな」


 今週はとくに提出する必要があるものは無い。

 レポートはあるがその提出期限は来週の月曜日。

 一昨日までに使うべき資料はまとめたつもりなので、まだ慌てる必要はない。

 この教科に関しては玲音が安定して良い成績を修めていたはずだ。

 何かあれば彼に訊いてみればいいという安心感も手伝って、かなり余裕を持っていた。


 エンタメコーナーのトップにその独り言俳優さんが出ている映画の情報が出てきて思わず足を止めてしまったが、大きなタイムロスではない。


「行ってきます」


 家を空けるときの挨拶は忘れない。

 たとえ何があったとしても。


 電線にとまるスズメも身体を小さく縮こまらせそうな風が、颯爽と情け容赦なく吹き抜けて行く。

 ――次にクローゼットから引っ張り出すものも決めてくれたようだ。












 特筆すべきことが何も無いまま、平穏無事に今日の授業を完了した。眠気との戦いも最小限で済んだことが何よりの要因だと思う。


 眠くなりかけたときは何でもいいからとにかく手先を動かすことにしている。ルーティーンのようなものだ。大抵は板書を取るノートの隅っこにテストのときなどに役立ちそうなメモを追加するようにしている。古文や漢文、日本史や世界史と言った教科の豆知識的なモノだったり、理系科目の計算式の細かいところとか、隙間時間に勉強しておくのが良さそうなモノを書き留めるのだ。祐樹にせがまれてコピーさせた例の日本史ノートも、こういう感じで書いているものだ。


 眠気覚ましとテスト勉強の二刀流。一石二鳥なのでみんなにも是非お薦めしたいところ。


 ぐいっと大きく背筋を伸ばす。ぱきぱきと小さく胸辺りから関節の鳴る音。気持ちいいのだが、板書中の姿勢が良くないことの証明でもある。


「今、何か鳴った? ぱきん、って感じの」

「たぶん、ボクのココかな」

「あ、マジで? そんな音するモン?」


 後ろの席に座る大石くんが訊いてきた。他の人に聞こえるくらいの音量だったのか、と少し恥ずかしくなる。


 月雁高校は1コマ65分で授業が展開される。近隣他校では50分程度の時間設定の高校が多いので平均よりは長いが、その分1日の授業コマ数は5つだ。持ってくる授業道具の数が少なくて済むので助かっている。


「しかも背中側じゃなくて前側かー。俺、そこの関節鳴らしたことないかもなぁ」


 そう言いながら大石くんも同じように背筋を伸ばす。途中で小さく「あ」と声が漏れたが、身体の何処かが返事をしたらしい。



 というか、大石くん。



 君のおでこの中心に、学ランの袖に付いているボタンの模様が刻まれているのだけれど。



 ――5時間目の現代文、寝てた? 結構がっつり目に。



 よく気付かれなかったね。たしかに、今日の授業では音読させられたのは廊下側の列だけだったし、こちら側にはあまり歩いてこなかったけど。



「うん、背中は鳴るけどな。……と、そろそろ部室行かないと。海江田は?」

「ボクは……、もうちょっとしたら行くかな」

「そか。行くんなら連れションとかって思ったけど、りょーかい。また明日なー」

「お、おー。また明日ー……」


 結局言いそびれた。


 トイレに行くと言うことなら自発的に気付いてくれるだろうか。その前に別な人に指摘されないだろうか。いや、あそこまでくっきりと、しかもあんなに目立つ場所に付いていたら指摘されないはずがない。彼が所属するサッカー部の面子が、あんなに面白いネタを放置するとは思えなかった。


 少し悶々とした気持ちになりながら、教室後ろのロッカーにレポート作成に使った資料集などを押し込んだ。

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