1-2-16. 先輩のセンスとアテンダント瑞希
「本当はどんなところ見てきたのか訊きたかったんですけど、何だか面白エピソードとか痛いエピソードとか聞いてた方が面白そうですね」
「『痛い』って何よ、『痛い』って」
「まぁ、間違ってないな」
藤林先輩は不服そうに見つめてきたが、遠坂先輩はそうでもない様子。
ある程度達観した雰囲気さえある。
「細かいところまで調べたいんだったらさ」
春紅先輩が、いつの間にか持ってきていた生八ツ橋をボクの口に押し込みながら言う。
……肉桂か。定番だ。
「どういうプランにしたかは、多分来年になったら君たちに私らの学年で作った見学旅行の栞が配られるから、それを見た方が早いよ」
「私たちも、今の3年生の先輩たちの栞とか参考にしたからね」
「……たまに『これはやべえだろ』みたいな班あるから、期待しておけよ?」
何だろう、すごく気になる。
調べてみたくなってしまうじゃないか。
が、とりあえず今はもうひとつ八ツ橋が食べたい。
机の上の食べ物類は大分減っているが、やや特殊な味の八ツ橋は売れ残り気味だった。
抹茶味がひとつだけ残っていたのを発見したので確保しつつ、藤林先輩たちのところへ戻る。
「でもなー。ホント、マジでリベンジしたいわ……。卒業旅行的なの企画して、みんなで京都行くとか考えちまうわ。……今から貯金すれば間に合うよな、たぶん」
「それもいいけど、来年の子たちに混ざって行きたいわ」
「あ、それめっちゃ良さそう。……案内役は瑞希くんあたりにして」
「ちょ、え? いきなり何なんですか」
戻ってくるなり、いきなり矛先がこちらへ向いていて焦る。
「え? いやいや、見学旅行リベンジマッチな話。卒業旅行的に行くんだったら、瑞希くんをガイドさんにすれば安全ぽいよね? って」
「海江田、何かあんまり道に迷ったりとかしなさそうだしな。……さっきの感じから考えるとな」
真正面から向けられる春紅先輩のにっこりとした満面の笑みを受け流そうにも、右から遠坂先輩にがっちりと肩を組まれてどうしようもない。
――え? これ、ホントに?
「……まぁ、そのときが来たらよろしくね?」と、部長の笑顔。
「責任重大だねえ」と、鈴木先輩も笑顔。
――マジで?
「あ、そ、そういえば」
これ以上は耐えられないので話を逸らしにかかる。
「あの袋って、結局誰のお土産なんですか?」
「あの袋って……、何だ?」
遠坂先輩の疑問に答える感じで、その袋がある方向を指差す。
部活が始まる前にその存在には気付いていた。
あの、どう見ても京都土産の色香ではないモノを周囲に撒き散らしていた得体の知れない袋。
置き場が全く変わっていないところを見ると、その雰囲気故か誰もまだ触れてすらいないようだ。
「ああ、あの派手なヤツか?」
「そうですそうです。あれって……」
「あ、それ私」
けろっとした様子で、自分を指差す春紅先輩。
「……なるほどです。で? ちなみに、あれはどこで?」
「アメリカ村。ウチのグループ、大阪の方をメインにしたからねー。大概が京都行くんだろうし、だったら大阪行ったろかー! ってことで」
下手な関西弁を織り交ぜつつ自信満々な先輩。
ある意味予想通りというか。
他とは違うところを狙ってプランを組む辺りなどは、春紅先輩らしさがあると思う。
「ちなみに買ってきたのはアニマル柄の小物とかだから、欲しい人が被ったらじゃんけんとかの予定だったけど……」
「そもそも誰も開けてないんじゃね? あれって」
「ウッソ、マジで?」
遠坂先輩の容赦ないツッコミに少し慌てる春紅先輩。
先輩には申し訳ないけど、あそこまで食べ物系のお土産が集まれば放置されるのも無理はないと思います。
――そもそも、袋からしてあの見た目だし。
「仕方ないなー。こうなったら……」
ダッシュ一閃からの袋奪取。
「はーい、こっち注目!!」
大きな音を立てつつ椅子に駆け上がって、袋を掲げて高らかに宣言。
同級生も先輩も皆が一様に注目するが一瞬にして眉根に皺が刻まれる。
そして間を空けずに先輩たちは失笑、同級生達は怪訝な顔を崩さない。
「これ、欲しい人!!」
「ぅえ!?」「うわ」
「ちょっとアンタたち、それどういう反応よ!」
――至極当然の反応かと。
取り出されたのは、思いっきりヒョウ柄のシャツ。
先輩、そいつのどこが『小物』なんですか?
ある意味ではド定番かもしれないけれど、明らかにボクらよりも年上の『お姉様』がお召しになる系統の代物か、もしくは罰ゲーム的なモノの衣装ではないでしょうか。
「こうなったら、全員参加でじゃんけんね! 最後まで私に勝ったらプレゼント!」
「…………」「…………」
ザ・芳しくない反応。
もはや男気じゃんけんの様相。
――いや、だったら問答無用で皆負けだ。
これはプレゼント企画というよりも、ただの押しつけではないだろうか。
というか、何故アレにそこまでの自信を持てるのだろうか。
数分後。
いろんな意味で大盛況となったじゃんけん大会の末、ボクは妙に薄っぺらい星条旗柄のアウター……のようなモノをゲットしてしまった。
――来年の見学旅行のお土産、期待していてくださいよ。春紅先輩。
その後神流も加わって盛り上がるにいいだけ盛り上がった見学旅行トークは、施錠予定時間を超えた18時30分に神村先生がやってきたところで一旦お開きとなった。
てっきり思い切り怒られるかと思いきやそうでもなかったのは意外だった。
こうなることは概ね予想通りだったらしい。
正直言うと全く聞き足りない。
たしかに、これ以上聞くと自分たちの旅行がつまらなくなってしまいそうなのだが、それ以上に面白い話を聞きたい欲が上回っている。
ちなみにだが――。
結局、再来年の3月、先輩方の卒業旅行@京都・大阪が決行された暁には、栄えあるガイド役としてボクが同行することが決定されてしまった。
今のうちからそのための資金面を考えなくてはいけないらしい。
先輩方のやらかし話に食いつきすぎたのが原因であるように思えてくる。
とはいえ、責任の一端はたしかに自分にあることは否定しきれないのだが、どうにもこうにも頭が痛くなるのは、盛大にその流れに火を付けたのが他ならぬ高島神流だからだ。
『先輩たちのミスを踏み台にして楽しんでくるもんね』などと、こちらを見ながら言い放つとか。
テスト後に奢ってもらうメニューのランクをこっそり上げてやろうか、などと思ってしまった。





