1-2-15. 旅のお供はハプニング part.2
「ドジだよねー。東と西を盛大に間違って逆方向に行って、訳わかんなくなってるんだもの。何かの地図アプリ使えば傷は浅かったのに、見栄張ってしばらく使ってなかったっていうからどうしようもないっていうね」
「仕方ないだろ。そんなことやらかしたこと無かったんだから」
「自信過剰も大概にしないとねぇ」
口を尖らせる遠坂先輩を思いっきり見下したようなドヤ顔で見遣る藤林先輩。
「いやもうほんとそれは深く深く反省する次第で……」
「結局、遠坂くんの班って、1箇所見て来られなかったんだよね?」
「……うん。嵐山の方に行く予定ではあったんだけど、あまりにも時間ロスした所為で泣く泣くカットした。ホント、みんなに申し訳なかったわ、あれは」
鈴木先輩のツッコミ。
どうやら少し精神的に持ち直した様子だ。
しかし、それは辛い。
今時期の嵐山は紅葉も見頃だと思うのだが、それを見逃してしまうのは痛恨のミスだろう。
嵐山方面行きを省略したと言うことは、メインのルートは洛中かあるいは東山だったのだろうか。
自分のときもその辺りには注意しておかないといけないかもしれない、とは思う。
いつもと違う場所、違う環境だ。
予想も付かないようなことが起きることだってあるだろう。
誰とグループを組むかということも大事だけれど。
「ヨォヨォ、いったい何のお話ダイ?」
ヒップホップの出来損ないみたいな、絡みづらいノリで春紅先輩がやってきた。
「ん? 見学旅行失敗談的なヤツだ」
「ああ、そっか。遠坂くんもゆっきーもミスったんだっけ?」
「そう。コイツがスマホ落として、俺の班が迷って」
「ライン来たときびっくりしたもん。……遠坂くんの方のはめっちゃ笑ったけど」
「ひでえな、お前」
「仕方ないっしょー。ガイド役が京都の碁盤の目で迷うってさ」
「あれ? 遠坂先輩、ガイド役だったんですか?」
「……おうよ」
苦虫を噛み潰したような顔で遠坂先輩はこちらを向いた。
だったら、その意気消沈具合にも納得がいく。
格好が付かないことこの上ない話だ。
「マジで一生の不覚って言っても過言じゃないわな……。ホント、リベンジしたくてしゃーないわ。卒業旅行とか本気で考えるくらいだ」
「お。いいね、それ。でも遠坂くんには任せたくないなぁ」
「お前……! それじゃリベンジにならないだろ」
立つ瀬を失いかけている遠坂先輩。
ここは助け船のひとつでも出してあげた方が良いだろうか。
話題の矛先を変えてみよう。
「ちなみに、春紅先輩のとこは?」
「ウチはもう、パーフェクトよパーフェクト」
腰に両手を当てふんぞり返る春紅先輩。
あ、ダメだ。
ボクの助け船は、残念なことに船底に小さくない穴が空いていたようだ。
「……ちょっと瑞希くん? そんなに意外そうな顔で見る必要は無くない?」
「え? そんな顔してました?」
「してましたっ。『え、ウソだぁ。先輩に限ってそんなことないでしょ』みたいな顔してましたっ」
「いやー、そんなことないですよ。『ああ、きっとしっかりした人がメンバーに居たんだなぁ』って思ぐふっ」
容赦の無い肘鉄がボクの脇腹に突き刺さった。
肺の下辺りにあったはずの空気が一瞬で抜けていく。
「付き合い長いとは言え、君はもう少し先輩を敬いなさい」
「……さーせん」
「これだもん。ったく、きっちり図星突いてくるあたり、余計に困るわ」
ほら、やっぱりそうだったじゃないか。
あれ?
ってことは、これってまさか殴られ損では?
「……っていうか、そこで平気な顔してるけど、香奈のところもやらかしてるよね?」
「うぐっ」
藤林先輩は脇腹を刺されたような声を上げた。
今日の春紅先輩は切れ味鋭く人の脇腹を攻撃している。
――え、マジで? 藤林先輩も?
そんな素振り全く見せてなかったけど。
「しかも、最後の最後で結構大きめのヤツ」
「ちょ、ちょっと」
「……あ。まさか香奈ってば、後輩くんの前で好いフリしようとして隠そうとしてたとか?」
「そ、そぉんなことは別にー……」
絵に描いたようなしどろもどろ具合。
遠坂先輩や鈴木先輩を上回るような事案のような気がしてしまう。
「春紅先輩、部長のとこは何しちゃったんですか?」
訊きながらちらっと藤林先輩の方を見ると、半ば諦めたような顔でボクと春紅先輩を交互に見つつため息を吐いていた。
それを見た春紅先輩は発言許可を得たと捉えた。
「タイムオーバーしたのよ」
「え? マジですか、それ」
「制限時間の21時に間に合わなかったのよ。土壇場で移動経路ミスったのよね」
「……うん」
「うわー……」
そういえば、と思い出すのは今年の4月。
1年生全員での宿泊研修。
月雁高校では入学して間もなく――3週間経たない程度のタイミングだったはずだ――で、2泊3日日程で宿泊研修を行う。
クラスメイトの顔を覚え学年全体の雰囲気を作り出す、唐突な割に、今にして思えばかなり重要なイベントだ。
その時にも、時間を守ることに関してはかなり厳格に管理されていたのだ。
遅れが5分ともなれば生徒指導からみっちりと絞られる。
消灯時間を守らなかった他クラスの男子が横並びに正座させられてもいた。
そう考えると、グループ研修での門限違反は、土壇場にして最大級のやらかしかもしれない。
「……怒られませんでした?」
「それはそれは。もう。筆舌に尽くし難い、ってヤツよ」
「……ご愁傷様です」
これしかかける言葉は思いつかなかった。
お叱りの内容なんて想像したくもない。
「ホントに、いろいろあったんですね、先輩方」
「他にもあるけどね。……そういえば、結局土日疲れ取れなくてぶっ倒れて今日学校休んでるのも居たっけ?」
「あれ、疲れ取れなかったんじゃなくて、土日も旅行のノリではしゃいだかららしいけど?」
「めっちゃ自業自得じゃん、それ。しょーもなー……」
思った以上に先輩方がやらかしていて、逆に少しだけ安心する。
しばらくは話のネタには困らなさそうだし、後学のためにも、帰り道に一緒になったときなどにいろいろと聞いてみるのもいいかもしれない。





