1-2-11. 朝の依頼は意外な人から
買い出しに明け暮れる週末に別れを告げ、月曜日の朝がやってくる。
祝日を含めて3連休となった上に、天気もそこそこ良かったのだからまだマシだった。
これで雨が降ったり、雪が降るようになったりするといよいよ大変になる。
やはり自転車という武器を取り上げられてしまう冬をどう乗り切るか、その一点に集約される。
できれば身の回りに普通免許所有者が居てくれると有り難いのだが、そうも言っていられない。
――ならいっそ自分が取れば。
そう思うのだが、生憎とボクは10月生まれ。
受験を数ヶ月後に控えているであろうタイミングで自動車学校通いが出来るかと言えば、甚だ疑問である。
というか、無理だろうなぁ。
いつものようにそれなりの朝食を摂り、シャワーを浴びたりなんかして自室へと戻ると、ボクを待ち構えていたようにスマホが鳴った。
地下鉄に乗るのもあり、ひとまずサイレントモードに切り替えてから着信内容をチェックする。
正体はアプリのDM。
相手は――。
「ん? 祐樹?」
『ん?』のピッチがものすごく高くなった。
自分の声帯に少し驚く。そんな高い音出せたのか、声帯。
珍しい。
あまりにも珍しい。
朝に弱い男が、こんな時間に。
――これ以上のことを本人を目の前にしてぶつけたら、流石に機嫌が悪くなりそうだが。
『今日、日本史ってある?』
「……マジか。マジメか」
先週タイミング悪く日本史の授業が無いときに来たため、貸し損ねていた日本史のノートをご所望のようだが。
それにしても、こんな時間にこんな内容のメッセージを送ってくるとは思わなかった。
『そもそも起きてたのか』という驚きもあるのだが。
「何だ。……小テストか何かでもあるのか?」
あり得ない事では無かった。
祐樹のクラスの日本史担当とウチのクラスの日本史担当は違う。
あちらの方の授業の進め方はあまり把握していないが、ウチのクラスの担当は、まず黒板一面に板書を書いている間に、前回の授業の振り返りを兼ねてお手製のミニテストを行う。
ノートや教科書を見ても全く問題なし。
記憶しているかどうかの確認が目的ではなく、どちらかと言えば今日の授業を進める上で少しでも思い出しておくと理解が深まるような事柄を机に並べるような感じだ。
とりあえず今日の時間割をチェック。
日本史は、たしか入っていたはずだが――――うん、有る。2時間目。
カバンを検めると、しっかり革張りのルーズリーフバインダーが入っている。二つの意味で大丈夫だった。
「『あるぞ。今日コピーするか?』……っと」
送ったところでしばらく返信が来ない可能性もある。
時計を確認すると、だいたいいつもより4分くらい早いくらいのタイミングだった。準備も完了している。
「……行くか」
自分に言い聞かせるようにして立ち上がる。
「行ってきます」
靴を履き、いつもの挨拶。
今週もまた日常が始まる。
いつも通りに月雁駅で下車。
区役所や消防署、警察署など官公庁関連の施設も多いため、他の駅よりも乗降客が多い。
ひとまず大方の人並みが改札へとつながる階段を上がりきる寸前くらいまではホーム中央付近のベンチに腰掛けるのはいつものこと。
これくらいのタイムロスは折り込み済み。一般的な生徒の登校より早めにしている理由のひとつがコレだった。
とりあえず着信をチェックする。
祐樹からの返信が1件と、吹奏楽部のグループの投稿が2件、吹部1年生オンリーのグループが1件。
あとは雑多なダイレクトメールだった。
少し迷ったものの、祐樹のメッセージを開封することにした。
何となくの、気分の問題だった。
開いてみると、『頼む!!!!』と猛烈なまでにエクスクラメーションマークの連投、からの『お願いします』系スタンプのオンパレード。
タイムラインがうるさいことこの上ない。
今まさに、自分の目の前で全身全霊で平身低頭、土下座でもしようかという勢いでボクを拝み倒している祐樹の姿が簡単に想像できた。
さすがにそのテンションに着いていく気は全くない。
スタンプを返そうかとも思ったが、それすら出来そうにも無い。
何だか元気を吸い取られたような気分になって、結局サムズアップの絵文字1つを返信とする。
本当に、月曜の朝からなんつーテンションだ。
何か良いことでもあったのだろうか。
ふと周囲を見回すと、ホーム上の人影はかなりまばらになっている。
そして、タイミングを合わせたように、上り方面ホームに次の車両が来ることを告げるアナウンスが響き渡る。
これに巻き込まれるわけにはいかない。
何のために乗ってきた列車の人垣を避けたのかわからなくなってしまう。
部活関連のグループ着信は気になるものの、ひとまずホームから退散することにする。信号待ちとかのタイミングで読めば問題ないだろう。
改札口へとつながる階段を昇りきろうとした瞬間、背後のホームに列車が入ってくる。
猛烈な風――。
追いかけてきて、すぐさま追い越していく。
一瞬だけ、息が止まる。息が詰まる。
追い風は何時だって正しく背中を押してくれるとは限らなかった。





