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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (1) / Pathetic Prelude〜  作者: 御子柴 流歌
1-2. 雨音はショパンの調べ

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1-2-9. 時間つぶしと帰宅前の予定

 悪ふざけトークに間隙が出来たところで、先ほどちらりと脳裏を過ぎっていたことを訊いてみる。


「ところで、そっちは片付け終わったの?」

「終わった終わった」


 いらえは早い。が、思いっきり視線を逸らしながら言われても。


「……ホントに?」

「…………ほんとほんと」


 腰に手を当てて仁王立ちするのは良いのだが、聞き手側を向いてそれを言って欲しい。


 と、そんなことを思っていると、準備室から神流と同じクラリネット担当の子が出てきた。自分の荷物を持っている子も居るところから察するに――。


「自分のだけは片付けた、ってことでオーケー?」

「おーけー」

「じゃないっての。……ったく」


 何もしていないよりはマシだが。


「まぁ、いいや。……そうそう。鍵って今日開けたの誰だったっけ?」

「今日は俺だけど」

「お、丁度良いところに」


 振り向けばトロンボーン担当の佐々ささおかくん。右手の人差し指でキーリングをくるくるとさせていた。


「ちょっと用があってもう少しここに居るから、鍵はボクが返しておこうと思ってね」

「あ、マジ? 助かるー」


 言うが早いか、鍵をふわりとトスしてくる佐々岡くん。コントロール良くボクの左手に収まった。


「用って何よ?」

「ちょっとね。……このまま一緒に帰るのはタイミングが良くないんだよね」

「……あんまりよくわかんないけど、まぁいいわ」


 納得しかねるというような顔を少しだけ見せるが、あまり詮索するようなことはしないあたりが神流らしいところでもある。会話のテンポが良かったりするのもこの辺が要因としては大きいと思っている。


 また明日、じゃーねー、などと言いながら、ひとり、またひとりと音楽室から人影が消えていく。そもそもかなり広めの空間になっている音楽室だ。収容人数が減れば減るほど、余計にさみしく、そして寒くなっていく。


「私たちは予備校あるから、お先に失礼するね」

「はい、気を付けてくださいねー」

「ありがと。ミズキくんもねー」


 ぱたぱたと小さく手を振って、里帆先輩たちも帰って行く。












 大きくひとつ、息を吐く。


 身体の中に澱んでいるようなものもすべてまとめて吐き出すように、深く、長く。


 そして訪れる、静寂せいじゃく。――静寂しじま


 今はどちらの読みでも好い気がする。この空間には自分だけなのだから。


 数分前までは楽器の音や話し声で満たされていたというのに、手の平を返したような変わり様だ。


 壁掛けの時計を見遣る。

 あと20分くらい居られるだろうか。

 あまり長く居てもそれはそれで問題になるだろうし、しかし今ここで出て行ってしまうのも意味が無い。


 そういえば、と思い出すのは来週締め切りのレポート課題。

 レポート用の資料も、丁度今カバンの中にある。

 大きく身体を伸ばしてから、レポート用紙と資料を取り出す。

 時間を有効活用するには、それくらいしか思いつかなかった。

 家での時間が盗られるくらいなら、片付けられるだけ今のうちに片付けてしまった方が得策だろう。









「電気が点いていたから来てみれば……。消し忘れて行ったかと思ったぞ」


 不意にドアの方からバリトンが響く。

 作業や会議が終わったのだろう。神村かみむら先生のお出ましだった。


「ん? 海江田ひとりか?」

「ええ、みんな帰ってます」

「いやいや。お前も帰れっての。もういい時間じゃないか」


 神村先生は腕時計を見ながら言う。

 面白半分で買ったというスマートウォッチ。案外使いこなしているように見える。先生の長女である春紅はるか先輩曰く『あれは典型的な、スマートウォッチに使()()()()()タイプのおじさんよ』ということだったが。

 ――まぁ、現在時刻を調べるくらいはできるか。

 それすら出来ないのであれば持つ意味が無いし。


「部活の活動時間はリミット超えてるぞ?」

「まだもうちょっと時間あるじゃないですかー。部活自体はもう終わってますし」

「ったく」


 お。諦めてくれたみたいだ。ありがたい。

 教員が一緒であれば18時を過ぎてもある程度はお咎めが来ないのだ。


 口調が荒かったり、ちょっとぶっきらぼうな感じの態度や物言いをすることもあるが、生徒の頼みや相談にはとことん付き合ってくれるし、実は雑談のノリも良いタイプ。

 端的に言えば、イイ先生だ。

 先生仲間からは『月雁高校のウラ番長』という二つ名が与えられているという話だが。


「それで? 何でまたひとりで」

「レポート課題を片付けてしまうということを名目にしつつ、本当のところはスーパーのタイムセールにばっちり合わせるために時間を潰すためという感じですかね」

「……おお。随分所帯染みたことしてるのな」

「大事なんですよ、結構」


 1円単位で削れるところは削っておきたいタイプだ。

 明らかに親譲りだと思っているが。


「ああ、そうか。今は自宅にひとりだったか」

「そうなんですよ」

「それなら、まぁ……一応納得しておいてやるか」


 家庭環境やその状況についてもある程度は把握してもらっているというのもあり、話が早い。

 その上理解のある先生なので、本当に助かる。


「鍵は?」

「持ってます。代わりに返しておくから、って言ってもらっときました。で、そこに」


 ピアノの譜面台付近を指差す。

 先生もその所在を確認したようで、小さく頷いた。


「帰る準備は?」

「完璧です。コレごとカバンに突っ込めばいつでも出られます」

「……抜かりないなぁ」


 褒め言葉として受け取って大丈夫なのだろうか。

 少し呆れ気味な声ではあるが、眼鏡の奥は笑っているようなので、勝手に好意的に受け取っておく。


「あとどれくらい居るつもりだ?」

「そうですねー……。10分も居ないかも、ってくらいですかね」

「なら、鍵は預かっておくよ。そのまま帰っていいぞ。まだちょっと残んなきゃいけないから」

「え、マジすか」


 ピアノの上に置いてあった鍵を掴みボクに背を向けた。

 そのまま前側の扉へと向かっていく。

 本当に明かりが点いていたから確認に来ただけで、この時間でもまだ忙しいようだ。


「窓の鍵とかだけはきっちり閉めとけよ。閉め忘れとかしてたら、明日以降残ってたらすぐつまみだしてやるからな? ……まぁ、あんまり心配はしてないけど」

「ありがとございまーす」


 ひらひらと背中越しに手を振りながら去って行く先生。

 口だけでは無く本当に心配なんかしていなさそうな雰囲気さえあった。


 神村先生だけではない。

 ここの高校の教員陣は、完全放任主義ということではないが、ある程度は生徒の自立心に任せてくれるようなところがある。

 少なくとも過度な干渉をしてくるようなタイプの先生はいないように思える。





 先生が出て行き、再びの静寂が第1音楽室を支配する。


 先ほどよりも強く、底から冷え込むような肌寒さを感じる。


 いい加減早く帰れ、と空気が伝えてきているような、そんな雰囲気だった。


 手元のレポート用紙を検める。

 思ったよりも書き進められたような気がしている。

 このくらいまで行けたならば、残った分は週末に回しても充分間に合うだろう。


 大きく伸びをして、首もストレッチ。

 そして、先生に言われたとおりに音楽室すべての窓の施錠を確認する。

 若干野蛮な物言いだったが、本当にやらかしていた場合あの先生はガチでつまみ出すだろう。

 それをされるのは今後の生活に――主にタイムセール的な意味で――大きな影を落とすことになってしまう。


 問題なし。

 そもそも部活動中に誰も窓を開けてはいなかった。

 どこかの学級で音楽の授業があったとしても、今日の天気なら誰も開けてはいないだろうと予想していたが、これも的中していた。


 忘れ物が無いか確認。

 これも問題なし。


 今日の安売りの品目を軽く夢想しながら、音楽室の電気を消した。


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