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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (1) / Pathetic Prelude〜  作者: 御子柴 流歌
1-2. 雨音はショパンの調べ

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1-2-7. 3年生の襲来

 今日の部活は部員だけの練習日になっている。


 顧問の神村先生は非常に熱心な先生で、基本的には全体指導にパート別コーチングと動き回るのだが、週に1度の職員会議がある日は基本的に不参加となる。

 それが今日だ。


 そして現在2年生は見学旅行中。


 そうなると、必然的に部活に参加できるのは1年生部員と――。


「先輩、忙しくないんですか?」

「忙しいから来てるんだよ。息抜きって大事よー? アンタ達も、もう2年経ったらよーく解るから」

「予備校までの時間潰し、っていうのが一番の理由だけどねー」

「とくに私たちはね」

「そうそう」

「うわ、皆さん正直」

「だって、いちいち家になんて帰ってられないよ? 二度手間だもん」


 気怠そうに机と椅子を陣取って管を巻く姿に、居酒屋の背景画像を合成したくなるような口調だった。


 早くも半数弱の1年生部員が集まっている第1音楽室。

 その中に数名――4人か。

 1年生の履く上靴とは違うカラーのモノを履いている生徒が居る。


 こうして時々――いや割と頻繁に顔出しに来てくれる、今は引退している3年生の先輩だ。

 今日は4人来てくれているのだが、毎回様々な組み合わせで来るのでちょっと面白い。


 実際、受験勉強は大変なのだろうけど、大概そこまで大変そうな顔は見せないあたりは、やはり先輩なのだ。

 たとえ、目的が息抜きだろうと、後輩いじりだろうと。


 尤も、こういう勉強にはストレスが一番の敵であることは、程度は比べものにならないとは思うが、高校受験のときに薄らと経験済みだ。

 こうして話していることでいろいろと解消できているのであれば嬉しい限りだった。


 その内のひとりは、よくお世話になっていた人だった。

 一瞬誰か判らなかったが、チラリと見えた横顔で確信した。


「川崎先輩、久々なんですから息抜きと気分転換の序でに、ちょっと教えていってくださいよ」

「あ、ミズキくんだー! おひさー!」


 人の話を聞いているんだか聞いていないんだかよく分からないあっけらかんとしたノリは相変わらずだった。

 ボクと同じくオーボエを担当していた川崎かわさき里帆りほは、ぶんぶんと左手を大きく振って満面の笑みを浮かべている。


 そういえば、しばらく見ない間に少しヘアスタイルが変わっただろうか。

 セミロング気味になっている。

 前はもう少し短いくらいをキープしていたと思ったが。


「お久しぶりです。一瞬判らなかったですけど」

「え、何それ、どゆこと?」


 片方の眉だけを器用に上げてこちらを探るように見てくる。


「いやー、何か雰囲気変わったかなー、って思っただけですよ。……で、モノは序でってことで、コーチングしていってくださいよ」

「えー?」

「いやいや、『えー?』じゃなくてですね」


 川崎先輩はニコニコとした表情を全く崩さない。

 すっごく楽しんでいる目をしている。

 見飽きたと言っても過言では無いくらいに、よく見た表情だった。

 この人は後輩と話すときは大抵こんな感じなのだ。


「名前で呼ぶって決まりは、まだ生きてるんだけどなー?」

「へ? ……あー、すいません。つい」

「しばらく頑なに呼んでくれなかったもんねー、ミズキくんは。まー、私もちょっと忘れてたけどね。……普通に返事しちゃったし」


 川崎先輩――もとい、里帆先輩はやはり楽しそうに、しかし先ほどよりもいたずらっぽく笑う。


 我が吹奏楽部には、「川崎先輩」が3人居た。

 その内2人が3年生で、しかもその2人ともがオーボエ担当だった。

 そうなると、「川崎先輩」と呼ぶのはかなりの面倒ごとを引き起こすことになってしまう。

 ちなみに、3人の川崎先輩に血縁関係は無いと言う話だった。


 そこで、当然の帰結と言えばそうなのだが、里帆先輩が提案したのが『名前で《《呼び合う》》こと』だった。


 ボクがさっき「川崎先輩」と呼んでしまったのも、3年生の引退後は「川崎先輩」が1人になったために呼び分ける必要がなくなった所為だ。


 冷静になって考えれば川崎先輩を呼び分けるだけで充分だったはずなのだが。


「こんちゃーっす。……って、里帆先輩だー!」

「あー、カンナちゃんもおひさー!」

「お久しぶりですー! 先輩、何か雰囲気変わりました? ってか、髪型変えましたね?」

「そーなの! 最近ちょっと伸ばしてみようかな、って思ってて」


 途中でちょっと忘れ物をしたとやらで一度教室に戻っていた神流も来たようだ。

 意外に早い。

 階段を一段抜かしで駆け上がるくらいのことはしてきそうだ、神流のことだし。


「にゃーるほど。オトナのオンナを目指すわけですか」

「お、わかるかね。カンナさんよ」

「もちろんでゲスよ」

「さすがでやんすね」


 顔を寄せ合いつつ、徐々にゲスい顔になっていくふたり。

 安い芝居を見ているような気分になる。


 口調が訳の分からないことになっているが、ある意味これも日常の風景だったものだ。

 神流と里帆先輩は、担当楽器こそ違えど、妙に気が合っていた。

 そして、ノリも合っていた。時々姉妹に見えてくるくらいだった。

 ――ただし、神流の方が里帆先輩よりも10センチ程度背が高いため、神流が姉に見えるのだが。


 引退してしばらく経っているので、幾許かの懐かしさが去来する。


「きっとそこでぼけーっと立ってる海江田氏は気付いてなかったでしょー?」


 ――あ、やばい。懐かしんでいる場合じゃなくなりそうな予感しかしない。


「ううん。カンナちゃんと同じで『雰囲気変わった?』って言ってくれたよ」

「え。マジですか」

「マジマジ。大マジ」

「えー?」


 ものすごい不満げな声色と共に、180度反転。

 こちらを向いた神流の眉間には猛烈に深く皺が刻み込まれていた。


「私には、そういうこと一度も言ってくれないのに……」


 そして直ぐさま、儚げな乙女を装う。


「いやいやいやいや」


 ちょっと待て。それは八つ当たりですら無い。

 というか、ボクに一体何を求めているのやら。


「そもそも会ってからそこまで大きく髪型変えてないでしょ」

「……チッ」


 舌打ち!


「バレちまっちゃあ、仕方あるめぇ」

「そりゃバレるわ」


 毎朝、元気は元気だが、割と眠気に負けそうな顔をして教室に入ってくることも多い神流のことだ。

 言い方は悪いだろうから直接は言わないが、きっと『日頃のお手入れが楽そうな髪型』をきっちりキープしている、という感じだろう。


「カンナちゃん、気を落とすこと無いよ?」

「……何でですかー?」

「ミズキくん、けっこうしっかりカンナちゃんのこと見てるってことじゃない?」

「ぅえ゛?」


 思わず喉の奥の方から聞いたことのないような変な声――いや、音が出た。

 想定外も想定外。

 死角から音速で突っ込んでこられたような返答。


 本当に、このふたりが組み合わさると、場の状態は途端に混乱の渦に突き落とされる。

 嗚呼、久しぶり哉、この感覚。出来ればもう少しご無沙汰でいて欲しかったけれども。


「え? あれあれ? まさかのまさか? 私ってば、そんなに熱烈な視線を受けていたの?」

「それはない。……それは無い」

「……同じ事2回言うんだ」


 そりゃ言いますとも。

 2回目は少しだけ強調してでも、言いますとも。


「大事なことですからね」

「ま、別にいいけどね。ふーん」


 別にいいとは口だけで、神流の眼差しは長雨の空模様のようにじっとりとしている。


「……やっぱ、結構しっかり周りのこと見てるよね、ミズキって」

「気が早いけど、今2年生も居ないから言っちゃうけど、ミズキくんって部長向きだと思うのよねー」

「あ、先輩もそれ思います?」

「そりゃもー。演奏も巧いし、っていうか何でも吹けるし、良く気がつくし、カワイイし」


 ――最後、関係無いんじゃない? カワイイってなんですか。


「うわー、先輩べた褒め。甘すぎません?」

「それは、ほら。目の中に入れても痛くない、ってヤツ?」


 おばあちゃんですか?


「おばあちゃんじゃないんだから」

「あ、それはちょっとひどくない?」

「先輩が言ったんでしょー?」


 危ない。口滑らせなくて良かった。

 間違いなく里帆先輩と神流でステレオ状態のツッコミが延々続くところだった。


 ――いや、そうではない。それどころじゃない。

 このままだと駄弁っているだけで時間が来てしまう。


「……せんぱーい、そろそろ練習始めたいんですけど」

「あ」「あ」


 見事なシンクロ。


「やっぱ、部長向きだわ。少なくともパートリーダー」

「間違いないね」

「はーい! そろそろ練習始めよー!」


 ふたりのツッコミは敢えて無視。今日イチの大声を張り上げた。


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