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1-2-5. 放課後の戯れ

 午後の2コマを終え、ショートホームルームが手短に済まされると、晴れてフリーダムな放課後になる。

 担任の中本なかもと英次えいじ先生は基本的に面倒くさがりなため、ホームルームにかける時間はいつも短い。

 必要最低限の情報共有が済んだら即時解散にしたがるのだ。

 こちらとしては部活やら委員会やらがある時には非常に助かるので、まさしくWIN-WINの関係だった。


 結局、天気予報は外れている。


 確かに午後になって空を覆う雲は分厚くなり、3時を回った辺りからはとうとう耐えきれなくなった雨粒がまばらに空中を埋めはじめてはいたものの、大きな傘が必要かと問われればそうでもない。

 少し迷ったが、置き傘として楽器格納庫の片隅にでも保管させてもらうことにする。

 幸いにして置き傘をパクって行くような生徒はこの学校には居ない。


 ホームルーム後の教室は賑やかだ。

 掃除当番に割り当たっている生徒も、もちろん手は動かすが、それと同じくらいに口も動かす。

 当番ではない生徒も、放課後活動への時間潰しのためか相当数残っている。

 掃除道具には個数に限りが有るため、雑談に興じながらも机の整理を手伝ったりしているようだ。


 今日のメインテーマは、現在見学旅行を満喫していると思われる2年生について。


 基本的には、『お土産楽しみだねー』というようなお話。

 自分たちが行くときはどんなところに行こうか、とかいう話題もちらほら耳に入ってくる。

 ちなみに、我が校の見学旅行はの行き先は広島・京都・奈良である。

 場合によっては大阪に行くこともあるようだ。


 ボクは、残念ながらその会話の和に入れていない。

 賑やかなところに背を向けて黒板をクリーンアップ。

 話に交わろうとすると自然と手が止まってしまう。


 そうは言っても、想像程度はしてもいいだろう。


 京都は、切実に行ってみたい。

 お寺とか神社とか、折角だからそういう名所を巡るようなプランで見て回りたいところだ。

 未だ日本史の資料集でしかお目にかかれていない仏像などの類いを生で見られるかも、とか思ったら、流石に気は早いのだが今から楽しみになってくる。


「できたー?」

「もうちょっと、かな」


 神流が箒を手にしてこちらへやってきた。

 ギターのような持ち方をしていることについては、触れてあげないことにする。

 どう見てもイジって欲しそうに、彼女の右手はじゃかじゃかと弦をかき鳴らすような動きをしているのだが、敢えての放置。


「他は終わってるのかな」

「そーだねー」


 リズムを取るように揺れる肩。身体。


「じゃあ、ゴミ捨てはボクが……」

「……ていっ!」

「痛っ!」


 ギターのヘッドにあたる部分――つまり、箒の柄が、ボクの脇腹に刺さった。


「実力行使は良くないと思うんだ」

「放置プレイも良くないと思うんだよ、私は」

「え。さっきの何をどう取り扱えば正解なの?」

「セッション」

「何を使うのさ」

「……黒板消し?」

「シンバル程度にしかならないでしょ。しかも見た目だけ」


 しかもめっちゃ埃が立って、掃除をした意味が無くなる。

 そこはせめてもう1本箒をください。

 絶対やらないけど。


「カホンみたいな音も出るじゃん? こうすれば」


 そう言いながらボクから黒板消しを奪い取った神流は、その2つを教卓の上に布の面を下にして置き、プラスチック部分を指の腹でぱかぱかと叩く。

 それは確かに軽快な打楽器の音に近かった。


 ――だが。


「……神流。教卓、拭いとけよ」

「え? ……あ」


 いくら黒板消しクリーナーでも吸い取りには限界があるのは誰もが知っていることだ。

 それを教卓の上に置いた挙げ句上から叩けば、その結果どうなるか。

 それは神流の絶句が物語っていた。

 


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