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1-2-2. 昼休みと惣菜パン

 2時間目の生物の授業で一瞬だけ寝落ちしそうになったものの、それ以外は何事もなく過ぎていった。

 先生が板書をしている真っ最中だったので気付かれなかったのはラッキーだった。

 そこまで疲れている感じはしていないのだが、自分の与り知らぬところでいろいろと蓄積しているのだろうか。


 ――いや。

 よく考えれば、ボクは本来なら昨日行くはずだった買い物をまるっと忘れているのだ。

 生活に不可欠なはずのものを忘れてしまうのは、やはり疲れが来ているのかもしれない。


 疲れは自覚しすぎると余計に疲れてくるので極力無視をするタイプなのだが、そうも言ってられないのだろうか。

 手遅れになる前に、今日は早く寝ておこうか。




 とにもかくにも、ようやく昼休みになった。


 通学路途中にあるパン屋で既に食べるモノに関しては調達済みだ。

 調理パンの系統を2つに、サラダ。

 パンはいつも気分で選ぶが、サラダだけは忘れないようにしている。


 しかし、飲み物は買ってきていない。

 コンビニなどで買うよりは購買を使った方が安く済むし、品揃えも悪くは無い。

 利用しない手はない。


 ちなみに、我が高校の購買も、パンなどの種類に関しては申し分ないのだが、人気のモノはやはり一瞬で売り切れてしまう。

 価格を考慮したとしても、ありつけない可能性のあるギャンブルに打って出る気には、ボクはならなかった。

 そこはやっぱり、食べたいものを食べたいでしょう。



「お、瑞希じゃん」

「ん?」


 不意に横から声がかかる。

 とはいえ、それは聞き慣れた声で。


「祐樹か」

「あれ。瑞希、飲み物だけ?」


 ボクの手には紙パックのミルクティー。

 所謂、定番の品。

 カフェオレだったり、レモンティーだったりもするけれど、今日はミルクティーの気分だった。


「昼ごはんは道中で買ってあるからね、パンとか」

「……よくそんな余裕あるよな」

「それは……。祐樹も、もう少しだけ早く起きればいいんじゃないかな?」

「……痛いところを突くなぁ、お前」


 祐樹の口調からして判ることだが、彼は朝には強くない方だ。

 稀に、朝のチャイムと同時に玄関に滑り込んでくる様子を教室から目撃することもある。


 野球部で朝練があるときとか、どうしているんだろうか。



 ――起こしてもらっているのだろうか。



 きっと、そうなのだろう。

 あまり考えたくはない。


 母親かその類いの人に、だろう。

 きっと。


 身も蓋もない言い方かもしれないが、そういうことを考えるために脳細胞という名のリソースを割きたいとは全く思わない。

 思いたくもない。


 情けなかったとしても、それが今の自分に出来る最善策だと思う。



「それで? 欲しいものは買えた?」

「一応はな」


 大きなメンチカツがごろっと入ったパンをこちらに見せつけてくる祐樹。

 ――ああ、これ結構美味しいんだよね。

 ハイカロリーだけど。

 尤も、野球部所属の祐樹なら、食べたその後のことを考慮する必要も無いだろうけど。


「あと、これも」


 さらにもうひとつは、チョコチップ付きのメロンパンか。

 ――ちょっとだけ栄養バランスが、などと思ってしまったが、口に出すのは止めておこう。

 美味しいモノは美味しいのだ。

 それはきっと、祐樹にとって間違いなく正義なのだ。


「とりあえず戻ろうか」

「おー」


 さすがに購買前の人集りの中に紛れての会話は不毛だ。

 何よりも他の生徒の邪魔にしかならない。

 ここで時間を潰すよりは教室に戻っている方が良い。






「あ、そうそう。会ったら言おうとしてたんだ」

「何?」


 パンの入った袋をぐるんぐるんと回しながら祐樹が言う。

 ――吹っ飛ばさないだろうかとか、誰かにぶつけやしないだろうか、と心配になる。


「昨日の日本史のノートって持ってきてる?」

「あー……、日本史は今日無かったから持ってきてないな」

「おお……マジか。っていうか、そりゃそうか。全クラス同じ時間割じゃないもんな」


 がっかりした様子の祐樹。

 残念ながら、ウチのクラスの次の日本史は明日の午後イチだ。


 だが、仕方ないことだろう。

 1年生は全部で9クラス。

 自分の学級以外の時間割を把握している生徒が居るのか、という話だ。

 そんな人は、今のところお目にかかったことは無い。


「あ、でも」

 ひとつ、思い出す。

「日本史は無かったけど、世界史なら持ってきてるぞ?」

「え、マジ?」


 落胆の色が一瞬にして喜色に変わる。

 相変わらず軽快なヤツだ。

 時々だが、うらやましくなるときはある。


「そっちは今日これからあるからね」


 1年7組の本日最後の授業が世界史だ。

 疲労がピークに達しようかというタイミングでの板書のオンパレード。

 これが不得意科目だったりする人は、さぞ悩ましいことだろう。


「頼む!」


 両の手の平を合わせて、神に祈るかのようなポーズ。


 そこまで人が多くは無いとは言え、学校の廊下で祈られるのは、割と恥ずかしいのだけど。


「コピーする?」

「察しが良くて助かる!」


 ――うん。まぁ、昨日の今日だし。

 そう来るんじゃないのかな、とは思っていた。


「あー、じゃあ、今ココに持ってくるよ。丁度コピー機そこだし」

「ほんっとに助かる!! マジ神! マジ天使!」

「……天使はどうかと思うよ?」


 神もどうかと思うけど。


 ほら。

 途中から話を聞いていて事情を良く知らない3年生がボクを見て妙な顔してるし。


「……とりあえず、持ってくるから。待ってて」


 居心地の悪さに堪らず離脱。

 仕方ないよね。

 よく分からない羞恥プレイは願い下げだ。


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