#2 幼馴染
俺はお気に入りの木の下で横になる。
最高。やっぱこの場所最高だわー。風も気持ちいいし、やなこと全部忘れられる。しばらくこの感覚を満喫しよう。
そして、また俺は本日2回目の睡眠に突入した。
少しすると、上から声がした。
「はぁー。やっぱりあんたはここにいるのね」
目をこすりながら相手を見ると幼馴染の霧崎刀華が俺の上に立ち、俺を見下ろしていた。
ちなみに刀華はこの学校の中でもトップクラスの強さを誇り、学校騎士隊と言う、学校を魔物などから守る隊の第8番隊の隊長を任されている。
「なんだ、刀華か。で、なんか俺に用?」
刀華がこの時間に声をかけてくるなんて珍しい。刀華はこの時間、騎士隊の隊長の仕事や自分の隊の人を教えたりすることなんかで忙しいはずだ。別に隊長は部下に教えなければならないわけではないが、刀華は指導しているらしい。やっぱり優しいな。
なので、なんか用事や伝言があるとしか思えない。
「別に用はないわよ」
刀華はあっさりそう答える。
「ふーん。じゃなんで声かけたの?」
「みんなが部活したり、強くなろうと努力しているときにほぼ毎日、木の下で寝ている人を見つけたので」
刀華は顔に笑みを浮かべているがその顔は一切笑っていない。幼馴染だからこそわかる。
「不快にさせたようで悪い」
「てかさ、いい加減ここに寝てないで、特訓とか修練したら。せっかくこんないい学校に来たんだから」
刀華が飽きれような口調で言う。
そして、刀華はしゃがみこんでくる。
「特訓とかしないとダメだよ、蓮。ここの学校ただでさえ強い人多いのにこのままじゃドンドン抜かされるだけだよ。
ていうか、蓮、実技のテスト前回何点?」
「受けてない」
「また? 蓮。なんでまた。
ということは実技の授業もまだちゃんと受けたことないでしょ」
問い詰めるように言う。
「おっしゃる通りです」
「学年全体、蓮のことで持ちきりだよ。実技を全く受けないとか授業中毎回のように寝ているだとか。果てにはこの学校の歴史の中で1番弱い奴だとか、家はなくダンボールハウスだとかっていう根も葉ない噂までたっているわよ」
「そうなんだ」
周りでわざと聞こえるように言っている奴がいるのでほとんど自分の噂の内容についてはほぼほぼ知っているがわざと知らないふりをして答えた。
「しかし、まさかここまで落ちぶれるとはねぇ。小6の春に才能を認められて騎士に連れられて、魔王討伐に行ったあのとても強かった蓮がここまで」
なんか悲しそうに言った。
不謹慎だがその悲しそうな顔がとても可愛いと思ってしまったが気づかれないように言った。
「あの時はあの時だよ。俺もあの4年間で色々あって、変わったんだよ。」
‥‥‥でも変わっていたとしてもかっこよくなっていると思ってたなぁ〜。あの時と同じようにいつも私の前にいて、私を引っ張ってくれて、とっても優しくしてくれると思っていたのにな〜。あの時の蓮、かっこよかったなぁ〜。今も優しい所とか昔のままだしだから今も好きなんだけど‥‥‥
俺がしゃべり終わったら刀華は横を向き小さい声でなんかぶつぶつ言いはじめた。何言っているのかさっぱりわからないが多分自分のことだろう。せっかくだし聞いてみることにした。
「なにぶつぶつ言ってるんだ」
「なんでもない。なんでもない。なんでもないったらなんでもない」
なぜか刀華は顔を赤くしながら急に声を大きくして返してきた。意味わからん。すると、
「さっき、ぶつぶつ言っていたこと聞こえてないよね」
まだ、顔を紅潮させてもじもじしながら問い詰めてくる。やばい、可愛い。
「聞こえてない。聞こえてない」
内容がわからないので聞こえたの範囲に入らないだろう。
「本当に聞こえてないよね」
「聞こえてないって」
「はぁ、よかった」
刀華はとても安心したように息を吐き顔見せる。その顔を見ているとこっちまでにやけてくる。
「なに、にやけているの。」
顔を近づけ問い詰めてくる。
やっべ、まじでにやけてた。
「なんでもない。なんでもない。」
必死に取り繕う。
「ふぅーん」
刀華はまだ少し疑っていたが、少ししたら納得してくれた。よかった。ていうか、そんなに聞かれたくない内容なら言わなければいいのに。
その後も少し刀華と話しをしていると、
「じゃ、私、隊の練習行ってくるね。絶対強くなるんだから。蓮もちゃんと体、動かすのよ」
と彼女が言った。
なんだろう。言わないと思っていたことがあったのだが言って謝らないといけない。こんなに自分のことを心配してくれた幼馴染にとても申し訳ないと思った。ここは、恥を忍んで言おう。
「じゃ、最後に一言、言ってもいいか?」
一応、幼馴染に確認を取る。
「いいけど、何?」
確認が取れた。
「前から言おうと思っていて、言えなかったけど‥‥」
刀華の顔が赤くなる。
「ちょ、ちょと、蓮。そ、そういう大事な言葉はここじゃなくてもっと違う場所で」
急に慌てて言ってきた。スカートも抑えてもじもじしている。あ、多分、刀華も気づいたな。
「いや、今言っておいたほうがいい。もし違ったらやだし」
「そ、それはそうかもしれないけど」
刀華が少し戸惑い、周囲を見回す。まぁ、そうだよな。こんな話誰にも聞かれたくないよな。
「大丈夫。周りには聞こえないように言うから」
刀華の不安を取るためにはこのような言葉を言うのが1番早い気がする。
「わかった。ちょと待って」
そう言うと刀華は大きく深呼吸をして、呼吸を整えた。深呼吸している姿もやっぱり可愛いかった。
「いいよ」
刀華は何かを決心するように頷き、力強く言った。
「じゃあ、言うぞ」
「うん」
恥ずかしいが言うしかない。蓮、男をみせろ。
「そ、その体制、ときどきパ、パンツ見えてるぞ」
「え」
刀華は呆然として立ち尽くした。自分としては恥ずかしすぎて完全に脳がショートした。もう何も言えばいいのかわからないので思いついたことから言っていく。
「そのぐらい気をつけないと。と、刀華は可愛いし。見てしまったので謝っておきます。ごめん。本当にごめん。あ、あ、あと、う、嘘は言ってないぞ。ちなみに今日はピンク色の」
「それ以上口に出すな、変態」
おもいっきり、腹を殴られた。それにより、やっと正常の思考回路に戻った。昼食ったものが一瞬逆流してくる。腹を殴られること、これは、しょ、しょうがない。これは俺が見てしまったことに対する罰だ。受け入れよう。
「変な勘違いしたじゃないの」
今度はおもいっきり顔面を殴られた。
なぜだ、俺、その勘違いに対してはそんなに関与してなさそうなので殴られる必要なくね。
「この。この。この」
そういいながら、何回も腹を蹴ってくる。やばい、天国が見えそう。花園が遠くにうっすらと見える。
「蓮のバカ、変態。知らない」
刀華はそう言って去って行った。
落ちていく意識の中、俺は思った。あいつは何と勘違いしたんだ。あと、こんな蹴らなくてもよくね。
結局、俺が長い眠りから覚めたのは6時30分をまわろうとしている時だった。
やっべ、歩に謝らないと。