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#13 不甲斐ない自分


先生と別れて1人になれる場所を探して走る。俺が知っているだいたい1人になれる場所ってお気に入りの木のところしか知らない。 森のかなり中ほどにあるので、ほとんど誰も来ないし、気づかれない。

刀華(とうか)には何故かバレたが、大丈夫だと信じている。刀華がいないことを今回は切に願う。



木のところに着くやいなや(れん)は木を拳で殴る。木が揺れ、まだ緑色の葉が少しヒラヒラと落ちる。


『俺の馬鹿野郎。刀華があんなに苦しんでいるのに俺は何にもできてないのかよ』


何度も何度も木を殴る。そのたびに葉が落ちていく。


『刀華はそんな状況でも俺に声をかけてくれていたって言うのかよ』


俺の目から涙が落ちる。


『自分がそんな辛い状況なのに俺のこと気にかけてくれていたのかよ。あんなに明るく振舞っていたのかよ』


手が赤くなっているが俺は殴るのをやめようとしない。涙を止まらない。


『俺の馬鹿野郎、馬鹿野郎、馬鹿野郎』


自分への怒りを込めて木を殴り続けた。




10分ぐらいして殴るのをやめた。手はもう赤く腫れていた。泣いている時は分からなかったが、今はかなり痛い。


刹那、気配を感じた。殴っている時にはわからなかったが誰かが俺を見ている。

朝の奴か!!許せない。

お前のせいで刀華が苦しんでいるんだ!!


「隠れてないで出てきたらどうだ!!」


相手にも聞こえるように怒鳴る。前の木からカサッっと音がして、相手が出てきた。


「ごめんなさい。(のぞ)くつもりはなかったんです」


出てきた相手は図書室でよく話しているおとなしい彼女だった。

やっちまった。完璧に襲ってきた奴だと思って怒鳴ってしまった。


「本当にごめんなさい。ちょっと気になってしまって、興味本位に見てしまいました。ごめんなさい。」


彼女は謝りながら近づいてきた。


「こちらこそごめん。君とはわからなくて。怒鳴ってしまって。申し訳ない」


「でも、何かお詫びさせてください。見られたくない姿を、見てしまいましたし、そのような勘違いが生まれたのも私のせいですし」


「いや、お詫びなんていいよ」


「駄目です。私の気が収まりません」


「だからいいって」


その後、俺と彼女のこの(みにく)い争いは5分くらい続いた。




「〈キュアヒール〉」


結局、あの後彼女が赤くなった俺の手にヒール魔法をかけることで落ち着いた。


「だいたい、3分くらいしたら完治します」


回復魔法は完治までに時間がかかる。なので戦闘訓練や試合などでは使われない。

ばんばん回復できていたら、人類は魔物相手にさほど苦労しないだろうし。


「ありがとう。助かったよ」


「いいえ、お詫びですので。それにしてもすごいですね」


「なにが?」


感知(かんち)系統(けいとう)の魔法を使わずに私の隠蔽(いんぺい)魔法に気づいたことです。私もまだまだですね」


「あははは」


まぁ、あれはなんだ、長年の感かな。


「それにしても、えっと〜?あなたもこの場所よく使うの?」


「あなた?」


「あっ。えっと〜〜」


なんて言えばいいんだ。こういう時。


俺が長考していると彼女が気づいてくれた。


「あっ、そういえばまだ神崎さんに名前言ってなかったですね」


「ごめん。聞く機会がわからなくて」


「いえ。言わなかったこちらが悪いんですから。2年の結城(ゆうき) 奈緒(なお)です」


覚えておこう。

この学校で数少ない、俺と話してくれる人だし。


「じゃ、一応こちらも神崎 蓮です。今後ともよろしく」


「こちらこそよろしくお願いします」


2人共々お辞儀をする。


やっと知れた。長かった。半年だよ。


「話題を戻すけど、結城さんはなんでこんなところに」


「私、故郷が田舎(いなか)だったので、自然に囲まれているこのようなところが好きでよく歩きまわっているんです。そしたら、今日泣きながら木を殴っている神崎さんを見つけてしまって。どうかしたんですか?」


「少し、自分の不甲斐(ふがい)なさが情けなくなってね。ちょっと泣きたくなってしまって。誰も来ないと思ってあそこで」


「それ、ちょっとわかります」


結城は立ち上がり、腕を後ろに組む。そして、快晴の空を見上げた。


「私も魔法使いになりたての頃はこの前、神崎さんに話した彼に教えてもらっていたのに、全然できなくて、上達しなくて申し訳なくてよく秘密の場所で泣いていました。今では、いい思い出ですけどね」


「そうなんだ。大変だったんだね」


「でも、その悔しさをバネに私は今できることを精一杯やってここまで来れました。まぁ、教えてくれた彼がすごいんでそのおかげかも知れないですけど」


結城が振り返る。


「だから、神崎さんもできることをやって見てください。きっとうまくいきますから」


「そうだな」


少し考える。でも、答えはすぐにでた。


「よし、今できることをやるか」


蓮は立ち上がり、叫んだ。


「そのいきです」


結城のほうを向く。


「で、少し手伝ってくんない」


「いいですよ」


結城は笑顔で答えてくれた。


結城さんはやはりいい人だった。

彼女に好かれてる彼は幸せだろうな。


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