#10 紅の罠
それから2時間、騎士団の修行を見て蓮は帰りの道についた。帰り道のけやき道は綺麗な夕日に染まっていた。
「蓮〜〜〜〜〜」
刀華が手を振って、こちらに走ってくる。とても可愛らしいが誰かに見られたら、恋人っぽく見られると思うので辞めてもらいたい。
いいのか、騎士団の人も近くにいるかも知れないのに。それに騎士団の人と帰ればいいのに。
「なんで先帰ったの」
「えっ」
もともと、俺と帰るつもりだったの?
「どうして」
「他の騎士団の人と帰るのかなと思って」
「ふ〜ん。私と帰りたくないんだ。5年ほど前は嫌と言うほど一緒に帰っていたのに」
「高校生になったから一瞬に帰ったことないだろ」
「屁理屈」
なんで。違くない。
これ以上言うともっとめんどくさくなりそうなのでやめとくけど。
「ごめん。決して一緒に帰りたくなかったわけじゃない」
「本当に?」
「本当だって。刀華って高嶺の花じゃん」
「そうかな?」
「そうだよ。刀華って優しいし、可愛いし、強いし、隊長としてみんなから慕われているし」
今日の第8隊の様子を見ていたら、よくわかった。刀華がかなり部下たちに信用されていることが。
急に刀華の足が止まる。俺も数歩遅れて止まる。
「どうした、刀華」
「ねぇ、蓮。ちょっと相談を聞いてくれない?」
「いいけど‥‥‥」
二人で近くのベンチに座る。なんかこの感じ恋人っぽくない。
違うけど。
「ねぇ、蓮。私って強いと思う?」
はぁぁぁ!!!
とてつもない深刻な相談だと思ったよ。
さっきも言ったし、俺。
「強くなっていると思うけど」
「もし、蓮が襲われている時、助けられるかな。蓮のこと」
真剣に聞いてくる。
「助けられると思うよ。今の刀華の実力なら」
断言できる。刀華は隊長に任命されるほど強い。こんなことで悩まなくてもいいはずなのに。
「私は隊長としての仕事や責任を全うできていると思う?」
何言っているんだ刀華のやつ。
自分のこと見れてないのか?
ちょっといらっとくるぞ。
「刀華が全うできてないわけないだろ。いつも、隊員に教えているし。休みの日もちゃんと練習したり、頼まれたら教えてあげてる隊長が仕事していない。責任を果たしていない。ふざけるな。果たしてなかったら、あんな隊員から慕われてないよ。自分のしていることを信じろよ」
〈グスン〉
「ごめん。ちょっと胸借りるね」
急に刀華が蓮の胸に顔を当てた
「えっ」
なんでこんなことになった?
俺の胸に顔を当てると、刀華は泣き出した。
俺、変なこと言った。
少し強い言い方で言ったけどこれで泣く?
やばい、女の子、泣かせた。
「ごめん。おれ変なこと言った?」
「〈グスン〉ごめんなさい。蓮はなんにも〈グスン〉悪くないの。蓮の言ってくれたこととっても嬉しかったし。〈グス〉でも、同時に自分の〈グスン〉不甲斐なさも感じて。ごめん。迷惑だよね」
泣き声混じりで聞こえてきた。
「別に迷惑じゃない。刀華の気がすむまで泣け。俺はその間胸をずっと貸してやる」
その顔見せて放っておけるか。
言ったセリフはかなり恥ずかしかった。
「ありがとう、やっぱり蓮は優しいね」
5分後、やっと刀華が泣き止んだ。
いや〜、地獄だった。何がって。刀華の泣き姿可愛いんだもん。何度抱きしめようと思ったか。欲望を抑えるので必死だぜ。
「自販機で飲み物買ってくる。それで少しおちつけ」
「ありがとう」
刀華をベンチに残し、飲み物を買いに行く。
雰囲気からするとコーヒーだけど、苦手だったらやだしな。
結局、コーラと昔、刀華の好きだったレモンティーを買って戻る。
戻る途中あることに気づいた。
やばい。言わないと。
でも、時間がない。
頼む、刀華信じてくれ。
「刀華。左に飛べ」
大声を出す。
刀華は訳が分からないらしいが左へ飛んでくれた。
飛び終わった瞬間、さっきまで刀華がいたところを赤いレーザーのような光線が通過する。
「よし」
俺は叫んだ。
刀華も一瞬で状況判断したらしく千鳥を構える。そして、ベンチの後ろの森からくる光線をつぎつぎと切っていく。
なんだ、やっぱ強いじゃん刀華。
その後も順調に光線を切っていく。その時だった。俺は刀華の後ろの建物から赤い光が見えた。
まさか!!
「刀華、危ない」
言う時間はないと思い、俺は刀華に向かって飛んだ。
「きゃっ」
いきなり飛びつかられて、刀華は短い悲鳴をあげる。
飛びついた俺の背中のギリギリのラインを建物から発射されたであろう光線が通過する。その態勢のまま二人とも地面に倒れる。このままだと撃たれる。
せめて、刀華だけは傷ついて欲しくない。
その時、
「刀華、どうしたの?大丈夫?」
学園の方から辻さんが走りながら駆け寄ってくる。
すると、急に光線がやんだ。
助かった。なんだったんだあれ。
ずっと刀華の上に倒れている訳にもいかないので起きあがる。
「刀華、終わったぞ。ごめんな、急に倒れて」
「あわわわわわわ〜〜〜〜〜」
何、動揺しているんだ刀華。
「何をしているんですか神崎さん」
辻さんから冷たい視線を感じる。
「刀華を押し倒して、胸を揉むなんて、覚悟はできているんですよね?」
「はい?」
起きあがるために掴んだ土と思われる存在を確認する。しかし、俺の手はしっかりと土ではなく刀華の胸を掴んでいた。なるほど。確かにこの状況は第三者が見ると辻さんが言っていた通りに見えるぞ。
って冷静に状況を見ている場合じゃないぞ。
「うお〜〜〜〜」
俺は絶叫し、飛び上がった。やってしまった。絶対に刀華に嫌われた。
紳士の俺が台無しだ。
「ごめん。刀華。そんなつもりじゃなかったんだ」
「神崎さん、一緒に来ていただけませんか」
辻さんの冷たい重い声が響く。
「違うんだ。これは、不可抗力というか手段がこじれた結果であっていやらしいことをするつもりでは決してなかったんだ」
必死に釈明する。俺もさすがに落ちこぼれはいいけど、変態のレッテルは貼られたくない。
「あなたが悪いか悪くないかは被害者である刀華が決めることです。一応事情を聞きたいので来てください。もちろん、刀華も」
刀華頼むぞ。俺の無罪を晴らしてくれ。
「蓮に胸を揉まれ……………た」
刀華は呆然として座ったまま胸を隠している。
これ、駄目かもしれない。
その後、2時間くらい取り調べを受け9時過ぎにやっと解放された。
長かった。