2人で邪魔しますー(早く帰らせて)
「いやぁ、やっとだなハチ」
「ああ、長い道のりだったな。ミロク」
俺達は東海道線下りに乗り、聖地沼津を目指していた。
色んな異世界を渡り歩き、やっと辿り着いた地球。
そしてサブカルチャーの聖地日本!
俺達はその中でも恋してやまなかった聖地沼津へ、今正に向かっているのだ!
途中で乗って来た学生が後ろでキャイキャイと五月蠅いが、それ以上に俺達の心臓は高鳴っている。
待ってろ!ダイヤたそ!花丸たそ!
この丹那トンネルを抜ければもう直ぐだ!
とその時、電車の床が光る。
幾何学模様や謎の文字が散りばめられた丸い魔方陣。
魔方陣の輝きが増し、辺りが光に包まれる。
「キャー!なにこれ!?」
「ちょっと何よこれ!」
「2人共僕に掴まって!!」
「え…マヂかよ…召喚陣…!」
「ちょ!もうちっとで沼津なの………」
眩く光る魔方陣。視界が光で埋め尽くされ、そして学生3人とオタク2人は消えた。
其処には初めから誰も居なかったかのような振る舞いの乗客たち。
そして、何事も無かったかのように電車は丹那トンネルを抜けて行った…
徐々に収まる視界。そして其処に見えたのは、
魔方陣の中央に抱き合って固まる男1女2の学生。
隙の無い構えで陣の周りを固める騎士達。
でっぷりと肥え、王冠を被り、指やら首にジャラジャラ着けたおっさん。
胡散臭い笑顔を張り付けた如何にもお姫様って感じの女。
鶴のような細さと腹黒そうな顔した神官ぽいジジイ。
そして召喚に携わったのであろう、数名の魔法使い。
(うわぁ…如何にも胡散臭い感じだな… 転移で戻っちまうか?)
(いあ、地球の座標は分かってるから、今は様子見よう… 沼津目前で邪魔されてムカつくからな)
(そうだな。絶頂からどん底に落とされた礼くらい返さないとな)
アイコンタクトでミロクと会話した俺は、正面に目を向ける。
「よくぞいらした異界の勇者達よ!我はこの国ファンデベール王国国王である!」
椅子に座ったまま立つ事もせず声高らかに宣う国王。
「異界の勇者様方。今我が国は魔族の侵略に押され、危機に瀕しております。民もその日の食に事欠く始末でして… どうか…どうかお救いくださいませ!」
おうおう。女優顔負けだな。そんな姿に男子学生はポロリといってしまったようだが…
「だが!俺達にはそんな魔族と戦う力なんて持ってません!」
「それは大丈夫でございます。この世界に呼ばれた者は、この世界の神バステーム様より力を授かってるはずです。この水晶球に触れる事によってステータスが見れますので順に触れて確認してくださるようお願いいたします」
そう言っておずおずと水晶球を学生達の方に差し出してくる神官。
そして順に触り、ステータスを確認する学生達。
そのステータスは以下の通り
名前 ケン・ニシムラ
性別 男
職種 異世界人・勇者
LV 1
HP 1200
MP 600
筋力 300
知性 150
魔力 150
器用 150
敏捷 150
スキル 剣術9 光魔法7 雷魔法8
加護 バステームの加護・取得経験値2倍
名前 ユウカ・ザイツ
性別 女
職種 異世界人・聖女
LV 1
HP 800
MP 1000
筋力 100
知性 300
魔力 250
器用 50
敏捷 150
スキル 治癒魔法8 支援魔法6 槍術3
加護 バステームの加護・取得経験値2倍
名前 アオイ・ミヤマ
性別 女
職種 異世界人・賢者
LV 1
HP 600
MP 1500
筋力 50
知性 350
魔力 400
器用 50
敏捷 50
スキル 全魔法9 召喚魔法4 治癒魔法3
加護 バステームの加護・取得経験値2倍
「まぁ!勇者様に聖女様に賢者様!それにステータスも素晴らしいですわ」
学生達のセテータスを見てお喜びなお姫様。
「うわぁ。健凄いじゃない!勇者だって!子供の頃から何か違うと思ってたのよ私!」
「健さん凄いです!勇者がとても良く似合います!」
「え?へへ、そうかな?勇者の名に負けないように頑張るよ」
浮かれまくってる学生達…
(なあハチ。あれって強いのか?)
(人間では強いんだろうな… ウチらが真面に測ったらあの水晶ぶっ壊れるぞ)
(んじゃどうしよっか?あいつ等より強い数値にするか弱い数値にするか)
(弱い数値で。平民HPMP100ステオール10スキル加護なしで。早いトコ此処を追い出された方が良い気がする)
(なるほど、了解。でも追い出されるのね?出てくんじゃなくて)
(出て行ったら追手が来そうじゃん。そゆの面倒臭いし)
アイコンタクトークをミロクとしているとオズオズと水晶球を差し出す神官。
触れて現れた俺達の弄くりまくってステータスを見た国王が、
「何故そのような者が此処におる!」
国王の絶叫と共に槍に囲まれる俺とミロク。
「この城にはお主等のような者の居場所は無い!即刻城からつまみ出せ!」
槍で小突かれ、召喚陣の間から出される俺達。
その背中に、
「うわーあの人たちのステータス酷すぎじゃん? 笑えるんですけど」
「私達の召喚に巻き込まれたのでしょうか? 運の無い方々ですね」
「そうだな。俺達には何も出来ないし、恨むなら運が無いのと自分達のステータスを恨んでくれよ」
言いたい放題である。
まぁこれでアイツ等に何があっても助ける気が無くなったから気が楽になるな。
騎士達に背中を押されながら進まされ、城門の所で蹴飛ばされた。
「さっさと消えろ!カス共め!」
捨て台詞を言って去って行く騎士達。
無言で立ち上がった俺達は胸糞悪い城から離れる為、足早に歩く。
城エリアを抜け、城下町に入る。
城下町に入ってすぐ、裏路地に入り、姿を消した。
そこに現れる2人の男。俺達を殺すために国王に送り込まれたヤツ等。
俺達の姿が消えた事に驚き、慌てて探し回る男達。
俺達は、その背後からそっと手を翳し、消し飛ばした。
「やってくれるねあの豚王」
「そんなもんだろ?あんなブクブク太って、あんなジャラジャラ宝石付けて、そんで国の危機なんです!民が大変なんです!って阿保かと」
「ハチさんや、そんな大変な民達は、大通りを笑って歩いてますよ」
「召喚した人間を兵器としか見てないんだろうな。あの学生達も最終的には王家の奴隷になって働かされるんだろうな… だから最初に嘘だろうがなんだろうが丸め込みたいんだよ。あの豚は」
「こんな理不尽な召喚するって事はさ、此処は最高神管理外の異世界って事なんだろうねー」
「だと思うよ。取り敢えず着替えようか。地球の恰好は此処では浮く…」
透明化してるから堂々と着替える俺とミロク。
セピアな感じの地味な服装に俺は茶、ミロクは黒の外套。
俺は背中に180cmほどの棍を背負い、ミロクは130cmほどの仕込み錫杖を持つ。
「先生!先立つ物が有りません!」
城下町中に魔法を展開。落ちている使える貨幣を手元に集める。
ちょっとした小山のようになった硬貨を2つに分ける。
「さて、んじゃメシ食いつつ情報収集か、身分証作るか」
「メシ!」
大通りに出て、色々な店を見つつ貨幣価値の確認する。
どうやら、銅貨=100円 銀貨=1000円 金貨=10000円くらいらしい。わかりやすーい。
そして小綺麗なオープンカフェみたいな所でメシを取ることにする。
「いらっしゃーい。適当な席に座ってねー」
バインバインの色っぽいねーちゃんが愛想を振りまいている。
まぁうち等2人共ピクリとも食指が動かないんだが…
「おすすめ2つ」
おねーさんの胸元に目もくれず、サクッと注文。
そして周りの声に耳を傾ける。
「そーいや、また勇者召喚したらしいぞ。発表は明日らしいけどな」
「へー。またすぐ死ななきゃいいけどな」
「死んだらまた呼ぶだろうよ。死んでも元の世界に帰るだけだって言うし」
「ああ、バステム教の聖書にも『勇者死しても此処の民気にする事無かれ』なんて書いてあるしな」
「今度の勇者は長く使えるといいな」
「そうだな」
「「……………………」」
なんだこの胸糞悪い会話は…
ミロクなんて、手握り過ぎて真っ白になって震えている…
「おねーさん悪いね。急用が出来たからお代此処置いてくよ。料理は食べちゃって」
「え?ちょっと…」
お代をテーブルの上に置いて、店を出る。
こんな教義に染まったヤツらの料理なんて食いたくも無い!
「ミロク…もうこの街出ようぜ。胸糞悪いって」
「そうだね… やろうと思えば何処でも出入り自由だし… 身分証もいらないね」
沸々と煮えたぎるような怒りを内に秘めながら、俺達は街を後にした…
──sideファンデベール国王──
「なに?刺客の2人が戻ってないだと?」
「はい。派手な格好の者が外に出たという報告もありません」
「ふむ。盗んで着替えたとも考えられるが… 普通の平民より劣るあのステータスでは何も出来まい。取り敢えず捜索はしておけ」
「了解しました」
騎士が一礼して部屋を出て行く。
そして入れ違いに姫が入室する。
「お父様」
「おおリリス。勇者達は手筈通りか?」
「はい。すばやさが50上がる腕輪って言ったら嬉しそうに疑いもせず着けましたわ。ちょろすぎですわ」
「わはは。馬鹿だのう。だが前みたく早々死んでも困るから騎士団に少し揉んでもらうかの」
「おほほ。それが良うございますわ。せっかくバステーム様から頂いた兵器なのですから」
わははおほほの声と共に夜は更けてゆく…
──sideハチマン──
街道から少し入った森の中。
結界を張って中にテントを張る。
目の前には焚火。そして飯盒とグツグツ煮える鍋のカレー。
「流石に腹減りまくり…」
空腹で地べたにゴロゴロしてるミロク。
つか俺達に空腹なんて感覚無かろう…
「いやいや、キャンプでカレーよ?食わなくてどーするよ?」
まぁ分からんでもないが… その時、
「しくしくしくしく……」
何処からともなく鳴き声が…
そして森の奥を見る俺とミロク…
そこにはボゥっと光る、1人の少女の姿が…
「「うひっ」」
2人して思わず声がでる。
だが無視する訳にもいかない。
キャンプしてる傍でずっと泣かれたら困るのだ。
「お嬢さん。どうしたんだい?」
『ふえ? あ、あのわたしの事見えるんですか?』
「うん見えてるよ。一体どうし『ふぇえええええええええええええええええええええん!』た…」
取り敢えず落ち着くのを待つ事に…
『私達4人は此処でワイバーンに殺されてしまったんです…』
少女の霊の傍で泣き止むのを待っていると、3体の霊が近寄って来た。
どうやらこの男2人女2人計4人が前回召喚された勇者一行らしい。
『僕達は浮かれてたんです。物語の主人公みたいだと…』
『その時騎士団が一緒だったんですが、ワイバーンを見た瞬間、そそくさと逃げだして』
『でも、私達も夢見てたんです… 勇者、聖女、賢者、剣聖が居るから勝てるって…』
『結果は惨敗でしたわ… ゴブリンやコボルトしか倒してない私達がワイバーンに勝てるはずないのですわ』
『死ぬ時は痛かったし恐怖もありました。でも死んだら元の世界に戻ると小耳に挟んで… 帰れるんだ…主人公になれなかった…って』
『気が付いたら皆此処に居たんです。幽霊として。しかも此処周辺5mくらいしか動けなくて…』
『此処は森の中だから誰も通らない。通っても気付いてくれない。時々何か吸い取られるかのように力も抜けるし…グス…』
『もう…このまま此処に縛り付けられるのは嫌ですわ! う…うう…』
言葉も無いとはこの事か…
「ハチ。ちょっと…」
いつになく真面目な顔のミロクが少し離れた場所で呼んでいた。
「この場所に龍脈の根が伸びている。あくまで仮設だが、召喚で呼んだ者が死んだ後、その霊体をその地に縛り付けて、その霊体から精神力を龍脈で奪い、世界の力に利用しているんじゃないかと思う」
死して尚利用されるというのか?
こんな非道が許されるのか?
瞬間、目の前が真っ赤に染まり、怒りと共に湧き上がる力。
「落ち着け!!!!」
ミロクに殴られ、吹き飛び、何本かの木をへし折り止まる。
「この子達も消し飛ばす気かよ!!!」
途端、冷静になる。怒りに我を忘れるとは…
「済まない… もう大丈夫だ。悪かった」
ヨタヨタと歩いて、怯えてる4人の少年少女に頭を下げた。
「申し訳なかった。怒りでコントロール出来なかった。ごめんなさい」
『謝らないでください!私達の為に怒ってくれたのでしょう?』
「ああ、そうだな」
『なら大丈夫です!私達の為に怒ってくれてありがとうございます!』
それから色々な話をした。
俺達が巻き込まれ召喚された事。
神である事。
少年少女の世界は分からなかったが、八幡って神社がある事。
そして未来に弥勒菩薩っていう神が人々を救う伝承がある事。
「我々神も、何でも出来る訳じゃないんだ。完全に失った肉体は元に戻す事は出来ない。知ってる世界じゃないと戻してやる事も出来ない。今俺達が君達に出来る事は、此処の縛りを無くし、転生してもらい、来世の幸せを願う事くらいなんだ…」
「俺もハチマンも精一杯の事はするつもりだ。だけど、不甲斐ない神でごめんな」
『いいえ!大丈夫です!悪意をギャフンとやっちゃってください!』
他3人も大きくうなずく。
「ありがとう。後君たちの名前、教えてくれるか?」
『はい!笹原愛です』
『桜庭慎一』
『本多圭太郎』
『箕輪芳美ですわ』
「うん覚えた。ありがとう。では行くとするか」
「おう!んじゃ君達にも分かるようにぶっ飛ばしてくるから期待してて」
『『『『はい!気を付けて!』』』』
「「おう!」」
そして俺とミロクは空に飛び立ったのだ。
「あ、カレー…」
「先ずは召喚陣潰すか?」
「糞神潰してから神気で召喚陣と召喚関係の記録と召喚陣覚えてるヤツは頭パーンすりゃよくね?」
「少し乱暴すぎないか?」
「いやいやハチさん。ちょっとくらい乱暴じゃないと皆が神の怒りに触れたって思わないっしょ」
「ああ、それもそうか。此処の住民も腐ってたな」
「って事で、此処の神界にカチコミかけよーか」
「りょーかい!」
て事で天空にある神界、の結界前に到着。
おうおう。使徒がコッチを見て集まってるぞー。
「んじゃま、行きますか」
「ほいよー」
2人で一緒に結界にパンチ!砕ける結界!驚く使徒達!
そして神界に着陸する。
ミロクは「シャリン」と仕込み錫杖から剣を抜き、使途をメッタメッタしている。
その間に俺はこの神界の結界より大きい結界を張る。
これで誰も逃げれないし、俺達がフルパワーでも力が外に漏れない。
「ミロク準備オッケーだぞー」
「りょうかいー!」
そして俺とミロクは神化した。
俺はもう1対の腕が生え、肌は発光し、額には第3の目が現れる。
ミロクは背中に4対の翼が生え、後光が差し、額に第3の目が現れる。
その圧倒的な力の前で、神界は揺れ、その光に触れただけで使徒は消え去った。
そして現れる眷属と思われる神々。だがその身体は恐怖に震えていた。
「き、き、きさまら!い、いったい何者っ」
「んー 俺等? 俺等はてめぇよりずーっと強い神様だよ」
「ちーっとおまえらに物申ーしに来たのさ」
「申すだけ?潰しちゃうの間違えじゃね?」
「違いねぇ」
うっひゃっひゃっひゃっと笑うウチ等。
ちなみにこの模様はこの世界全ての者、そして死した後も捕らわれ続ける召喚されし霊達にライブ配信中です。
「そんな事が許されると思ってるのかぁぁぁぁぁ!!!」
叫びながら襲い掛かる眷属たち。
だが残念。ミロクの一振りで襲い掛かって来た全員がブロック肉に早変わり。
「えー こんな血生臭いとこ歩くの嫌なんですけど」
「ごめんごめん。適当に刀振っちゃった」
仕方ない。手を翳してエイッ!ブロック肉を固く閉じていた門と共に吹き飛ばす。
その崩れた門の先にはこの世界の中枢を司ると思われる眷属が十数人と豪華な椅子に座ったのが1人。
愕然とした馬鹿面でこちらを見ていた。
「ういーっす。お話合いに来ましたー糞野郎共~死ぬ準備ОK?」
「ハチマンが完全にキレてるの久々に見たわ…話し合いになんのかな? ははは…」
迷いなく前に進む。
そして門の内に入った時には眷属の何人かは気絶しており、他の者は立つ事さえできず、主神のバステームだかは豪華な椅子に座ったまま大量の汗を流していた。
「な、何故このような…暴挙を…」
「暴挙…暴挙かなぁ? 他の世界から見たら此処は害悪でしかないから潰そうと思っただけだけど?」
「わ、私は何も悪い事はしていない!全てはこの世界のためだ!」
「へぇ… お前はこの世界の人間が召喚されて魂まで利用されて怒らないのか?」
「くっ…だ、だが!」
「だがも何も無い。自分達の世界の事は自分達でやれ!無理ならそんな世界滅んでしまえ!」
沈黙に包まれる神界。
「バステーム様。我々の負けに御座います。どう足掻いても勝てる相手では御座いません」
「マリウス…貴様!」
「此処は我等が命よりも、この世界に住まう我等が子孫、可愛い子等を生かす事こそ肝要かと…」
「クッ…」
「我等は自分達の世界可愛さに他世界を蔑ろにし過ぎました。怒って当然。逆の立場であれば自分も激怒するでしょう…」
「だまれだまれだまれー!!!マリウス!キサマは何時も説教臭い事ばかりぬかしおって!!此処は俺の世界だ!何処の馬の骨か分からんヤツに好き勝手されてたまるか!!」
立ち上がったバステームは傍らに有った剣を抜き、そしてマリウスの腹に突き刺した。
「な!バス…テーム様…?」
「お前はもう用済みだ。だから死ね」
剣を引き抜くバステーム。そのまま仰向けに倒れるマリウス。
「お前等なにをぼーっとしておる!この異分子共をさっさと片付けろ!」
その言葉に我に返る眷属達。
各々が武器を構え、俺達に襲い掛かって来る。
俺は左の2本の腕を軽く横に振った。
その腕の軌道に合わせて広がる神気のオーラ。
そのオーラに触れた者から順に消え去って逝くのだった。
そしてミロクはと言うと…
仕込み錫杖を横に構える。僅かに金色のハバキが覗いている。
そして「キン…」という音と共に鞘に収まる仕込み錫杖。
その時、襲い掛かって来た眷属達全員が、全て赤い霧となり、風に流れていった。
「今回丁寧に斬らせていただきましたー。雑にやるとまたブロック肉とか言われちゃうからねー」
そして正面に目をやると、あっけなく眷属達が負けたのに、今更恐れを抱いたのか逃げだすバステームの姿が…
それを見たミロクが一閃。スパっとやっちゃうよね。足を…
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
五月蠅い濁声の叫びが響く…
相手を脅すためだけに使ってた余計な神気を抑える。神界の揺れも収まる。
そしてミロクはバステームの方へ。俺はマリウスの方へ向かう。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
ミロクはバステームの腕までチョンパしたようだ。
耳障りな叫びを無視して、俺はマリウスに回復魔法を掛ける。
「な…何故……」
「お前はこいつを止められなかった責任がある。責任の取り方にも色々あるだろ? 此処で死ぬのがお前の責任では軽いと判断した。生きて苦労しろ。それだけだ」
立ち上がり、バステームの元に。
踏みつけながらチクチクと刺しているミロクが楽しそうだ…
「よう。素敵な姿だな。主神様」
「な!キサマ!あ、そうだ世界の半分やるから助けてくれ!女も金も信仰もよりどrぎゃああああああああああああ!!!」
ミロク…五月蠅いから刺すなよ…
「どっかの盗賊頭のセリフみたいで腹立った」
「はは、そうだな。んで、異世界召喚した理由はなんだ?」
「そんなの魔獣対策に決まっている!この世界の民が戦うより他所から強いヤツを連れてきた方が手っ取り早いからだ!!」
「死んだら元の世界に帰るとかって嘘はなんで?」
「もし死んじまっても戻れるならって信じれば扱いやすいだろ?それに此処の住民も気に病む事もないしな!」
「…死んだ召喚された人達を、その地に縛って精神力をも吸い取ってたのは何故だ?」
「此処は俺の世界だからな!使えるモノは何でも使うさ!なぁもういいだろ?半分やるからさ。な!なげふぅ!?」
俺はバステームの顔を踏みつけた。
「本当に、お前が下種で助かったよ。殺るのに躊躇いが無くて助かる」
「…な…なにを言って…」
「ちなみに、乗り込んでからずっとさー、俺達の神託としておめーの大好きなこの世界の民とやらにライブ中継で生放送中なんだわ」
「……???」
「分かってねーな。要するに乗り込んだトコから今まで、この世界の民は全部見てたって事だ」
俺は足に力を込める。
「………………!………!……………!」
口も地面に塞がれ真面に声も出ないようだ。
「この世界の者に告げる。この世界の主神であったバステームは、最高神たる俺が悪神と判断し、魂ごと消滅させる事にした。ちなみに俺達に殺られたコイツの手下共は全てミジンコからのやり直し転生だ」
「そしてコイツの消滅により、バステームの力の宿る物は使用出来なくなまーす。魔方陣、加護、魔道具もあるのかな?まぁ他にも色々あるかもしんないけど、ウチ等関係無いしね」
「ま、バステームが消える事は、俺達を巻き込んで召喚した時点で決まってたんだがね」
「そだねー。コイツだけは許せないよねー」
「そうコイツは…」
「コイツはウチ等の…」
「「聖地巡礼in沼津の邪魔をした!!」」
最初から有罪なんです!
「だから無駄な期待しないでサクっと消えてねー」
「そだな、グダグダしてても仕方がないので実行します。ばいばいバステーム。君は魂まで利用価値の無い下種野郎でしたよ」
踏みつけた俺の右足が光り、突き刺したミロクの刀が光る。
光が強くなるにつれ、バステームの身体がどんどんミイラのように干からびてゆく。
「………………!………!………………!」
血走った目を見開き、涙を流し、怯えた目で俺を見るバステーム。見んなキモチワルイ。
そして光の輝きが最高潮に達した時、そこにあったのは完全に干からびたバステームの姿だった。
足をどけ、刀を抜き、2人で同時に蹴飛ばしたバステームの身体は砂となり、風に流されていった。
「さて、これからが本番だな」
「んだねー。じゃあ転生世界の門は開いとくね」
ミロクは錫杖を地面に突き刺し、目を瞑り、印を結ぶ。
「オン・マイタレイヤ・ソワカ…」
するとミロクの身体が発光し、錫杖の先に光が集まる。
「シャリィィィィン…」錫杖の鳴き声と共に、一筋の光が天空へと放たれる。
それは大きな光の環となり、その場で回転し、留まっていた。
あれこそが魂が転生する為に集まる世界。転生世界の入り口である。
「後はよろしこー」
「まかしろー」
目を瞑り、精神を穏やかに、優しい気持ちを持って、身体に神気を漲らせる。
そして思うは、この世界に閉じ込められた哀れな召喚された者達への慈悲、救済そして祝福…
言葉に神気を乗せ、神言としてこの世界中に散らばる召喚された者の霊に語り掛ける。
『この世界に召喚されし御霊よ… この世界に縛られし異界の御霊よ… 既に悪神による呪縛は消滅し、力を奪われる事もない。 天空にある光の環を潜るがよい… 其方達の来世が待っている。 其方達の思っていた救済とは違うかもしれない… 完全に無くなった肉体を戻す術が無い… 其方達を元の世界に戻す術が無い… 力の無い神で申し訳ない限りである。 だが、其方達が、来世で幸せになれるよう、此処に居る最高神ハチマンと上級神ミロクが祝福を授けよう… だから…皆……空へ………』
その時、この世界中の彼方此方から光の球が浮かぶ。
この世界に召喚され死後も世界から搾取され続けた魂。その数1043。
その魂がゆっくりと天空の光の環を目指している。
「転生を受け入れてくれてありがとう…」
俺とミロクは来世に幸あれと心から思いつつ、魂1つ1つに祝福を掛けてゆく…
祝福する度に点滅する魂の光。
………ありがとう………
そんな声が聞こえた気がした…
そんな中、物凄く点滅する4つの魂の光が…
たぶんあれは愛達なんだろう… アピールが激しい。
「愛、慎一、圭太郎、芳美、やったぞ…」
呟いた言葉が届くはずもないのに、4つの光は更に輝きを増した。
「ふふ。喜んでるみたいよ」
「だな。みんな来世で幸せにな…」
そして全ての魂は光の環の中に吸い込まれるように消えて行った…
「この世界の者に告げる。最早分かっているかとは思うが、先ほどの光の球は、この世界に召喚され、死後もバステームによりこの地に縛られ、搾取され続けた魂である。 お前等はバステームの虚偽により、騙され、知らなかったのであろう。だがお前等は彼等を道具のように扱った… 「死んでも元の世界に帰れるんだから」「死んだらまた呼べばいい」 この世界の者よ。考えろ。 死とはそんなに軽い物なのか? お前等は死んでも1回生き返れるならワイバーンに立ち向かい食い殺される事が出来るのか? よく考えるがいい…」
一息つく… そして何故か茫然としているマリウスを呼ぶ。
「そして今後、この世界はこのマリウスが中心となり廻ってゆく。異世界からの召喚も出来ない状況であるので、この世界で起こる脅威の対処は自分達でする事になる。今後、自分達の世界の事は自分達で対処するように」
「そしてそしてー。召喚陣、それに関する書物や遺物、召喚に関しての深い知識を持つ者の記憶、全部消しますからね」
「そういう事だ。これからのこの世界の未来は此処に住む者の奮闘次第だ。頑張ってくれたまへ。…ああ、忘れてた。この真実をバステム聖教国?上層部とバステームの直系子孫のファンデベール王国の王家は知ってたから。以上で神託を終わる」
こうして全世界中継神託は終わった…
「いやぁ~疲れたねぇ」
「ホントだよ… まったく面倒だった…」
「あのぉ… ハチマン様? 私にこの世界の主神なんて出来るんでしょうか…?」
「ああ、大丈夫じゃね? 回復した時強制的に神の位上げといたから。バステームより強くなってるぞ」
「な!」
「後、俺の兄ちゃんの庇護下に入れ。異世界同士で大きなグループ作っててな。運営に行き詰まったらアドバイスとか貰えるんじゃないかな? 連絡しとくから、後で視察が来ると思う」
「は…はい…」
「後は、グループの中にこの世界に召喚された人の世界の神が居るかもしれん。 まぁ俺が解決してるから襲われる事は無いだろうけど、文句くらいは甘んじて受けろ」
「っ… 分かりました…」
なにやら既に疲れた表情のマリウス。まだまだこれからだぞ。
マリウスと話してる間に、ミロクが世界全体に神気を広げバンバンと爆発させていた…
しかも大地とか揺れてるのもお構いなしだ… 揺れ序に地中の龍脈も動かしたらしい…
「これくらい、神罰です」
どうやら召喚関係で、書籍は燃やし、遺跡、遺物は爆破し、陣の構成や形状など知ってるヤツの記憶を飛ばしてるらしい…
「マリウスと話してるから暇で。ストレス解消と思って始めたら余計ストレス溜まった…」
そりゃミロクさんお疲れちゃん。
「んじゃ魔方陣ぶっ壊しに行こうか? さっさと終わらせて帰りたい…」
「さんせー お腹が空いたよ…サバイバルカレーも食えなかったしさ…」
「マリウスは如何する?」
「私も見届けます。見届けなければいけないと思います…」
「そうか。んで魔方陣って何処に幾つある?」
「ファンデベール王国に1つ、バステム聖教国に1つ、この2つです」
「んじゃ聖教国から行こか?ファンデベール王国はあの豚がどんな顔してるかゆっくり見たいし」
「りょうかいー!」
やって来ましたバステム聖教国。
ミロクの神気により、至る所が崩れております…
そして大神殿に群がる人・人・人…
俺達が現れた事に気づいた群衆は、割れるように大神殿までの道を開けた。
開いた道を堂々と進む。すると…
「我々をお助け下さい!」「慈悲を!」「救いを!」「祝福を!」
それらの声を無視して歩く。
大聖堂の階段を登り切り、群衆に振り向いた俺は、
「嫌だね」
静寂に包まれる一帯。
絶句する民衆。
腹を抱え苦笑するミロク。
目を閉じ、口を真一文字にするマリウス。
「甘えるな」
そう言って大聖堂の鍵のかかった入り口を吹き飛ばして入って行った。
中には教皇派の神官やらシスターやら聖騎士やらが一杯居てウンザリです…
しかも襲い掛かってきます。神に勝てると思ってるんだろうか…
面倒臭いんで放ちました。強めの殺気を。
皆気絶して静かになりました。中には逝っちゃった人も居るようですが…
そしてドンドンと奥に進み、やって来ました召喚の間。
しかしその扉の前では教皇とその仲間達が陣取っていた。
なんで腐った組織のトップってデブなんだろ?
教皇もその例に漏れず豚だった…
ブヒブヒと五月蠅いので転移。大聖堂前の群衆のど真ん中に落としてあげた。
そして扉を開けて中へ。
そこにはファンデベール王国で見た物と同じ魔方陣が。
でも特筆する事も無く、ガラスのようにパリーン!と割って砕いて光となって消えて終了。
次の目的地、ファンデベール王国へ! ん?教皇達?知りませんな。
そして到着。ファンデベール王国の召喚の間。
此処は1度来てるから直接飛べるんだよね。
でも来てみて驚いた。其処には最初来た時と同じようなメンツが揃っていたから…
学生達も居た。格好は変わって武器を構えてるけど。
「殺れえええええ!!!」
豚の掛け声に、一斉に掛かって来る騎士達と学生達。
また殺気でもと思ったら、マリウスが動いた。
あっという間に騎士と学生を無力化したマリウス。
まぁ俺等が動くと少なからず死人が出るしね。
マリウス的には人口が減るのは困るのだろう。
「知らない仲でもないのに、随分な挨拶だよねー。豚ちゃん」
「神化した姿で会ってないしな」
そして神化を解く俺達。
その姿を見て全員が目を見開く。
「な!お前たちは!」
「お、人化した姿は覚えてるんだ。豚の癖に頭いいねー」
「いやいや、2~3日前に召喚したヤツの顔くらい覚えてるだろ?」
俺達の会話にプルプルと震える豚王。
「なんで!なんでお前等が!」
「神に向かってお前等とか無礼すぐるんですけどー」
「そうだな。躾がなってないな。因みに説明するけど、召喚時、たまたま其処の学生の傍に居た、たまたま召喚元の世界に遊びに来てた神たる俺達が巻き込まれて此処に来て、ステータス弄って見せたら追い出され、この世界の裏を知って大暴れ。色々と壊しに壊しまくって、今此処の召喚陣壊すトコロ。ОK?」
「さ、最初から騙してたのか!?」
「騙してたなんて人聞き悪い… 最初からお前等を信用してなかっただけだ」
真っ赤になる豚。紅の〇…
その時、「パリーン…」
暇だったミロクが召喚陣を殺っちゃったみたです…
「「「ああああああああああああああああ」」」
豚と姫と神官が叫ぶ。
「なんでそんな絶望そうな顔してんだ?有っても使えないだろ?神の力添えは無い。龍脈も動かされてるし」
「「「へ?」」」
「だから陣が有ってもピクリとも動かないっての。俺等は念の為に壊してるだけ。分かった?」
「「「……………………」」」
言葉も無いようである。
「あー。お前等酷いなー。この子達奴隷化しちゃってるよ」
ミロクが気絶して転がってる学生達をツンツンしてる。
そして学生3人が着けてる腕輪を順にデコピンしていった。
簡単に砕け散る奴属の腕輪。
「「「…………………」」」
それを見てさらに固まるトンチンカン。
「ミロク。随分と優しいじゃないか」
「流石にこいつ等の奴隷って可哀そうじゃん?」
そう言ってペシペシと学生達のホッペを叩くミロク… 叩くのは可愛そうじゃ無いらしい…
「う、う…ん…」
「っ…か、神は…?」
「いっ いたた…」
ん。起きたようだ。
「でもなんで起こしたんだ?」
「気分?」
「な!お前等は!」
「なんでアンタ達が此処に居るのよ!」
「神は!神は何処に行ったのです!?」
起きたら五月蠅いだけだった…
「神ってさー こんなヤツ?」
俺とミロクは学生達の前で神化してやった。
「「「ああああああああああああああああああ」」」
「お前等が神だったのか!?」
「貴方達のせいで私達が大変なんですよ!加護とか消えちゃうし!」
「そうよ!勇者とか聖女とか賢者とか!消えちゃったのよ!何とかしなさいよ!」
ウザイ。激しくウザイ…
「なんでー?君達の称号?加護が消えようが関係ないんだけどー。後奴属の腕輪は壊してあげたよ?」
「あ、ほんとだ。でもお前等が此処の主神を倒してしまったせいで加護とか消えたんだから責任取るべきだろう!」
「責任なら、お前等のせいで巻き込まれたんだから責任取れよ」
「ゴチャゴチャ言ってんじゃないわよ!アンタ神ならアンタの加護寄越しなさい!」
「嫌だよ。お前等に興味無いし」
「なら!私達を元の世界に帰してください!加護も無しにこんな世界、死んでしまいます!」
「だから嫌だって。そんな義理も無いだろ」
「神なら助けなさいよ!」
「神が何でも助けると思ったら大間違いだ!」
俺の一喝にビクっとし、黙り込む学生達。
「なんで口の利き方も知らないガキを助けようと思えるんだ?自分達の要求ばかり通そうとするばかりで… お前等は初日、オール10のステータスだった俺達が追い出される時、何て言ったか覚えてるか?「酷すぎて笑える」「運の無い人」「恨むなら運の無いステの低い事を恨め」そう言って助けようともしなかったんだがね…」
「でも加護とか無くてもさー。そのステならちゃんと頑張ればいいトコいけるんじゃない?」
「勇者とかステに出てて浮かれてたんだろうな。その称号が無くなって急に現実が見えたんだろ?奴隷にもされちゃったし」
学生達は俯き、唯々涙を流していた。
そんな学生達に、俺とミロクは指を1つ鳴らした。
「優しいね」
「お互い様」
クスクス笑いながら学生達に背を向け、離れる。
俺達が学生達に2度と目を向ける事は無かった…
「それじゃマリウス。帰るよ」
「じゃーねー」
「はい。ありがとうございました」
あっさりとした別れの挨拶を交わし、さっさと帰る俺達。これ以上面倒は御免である。
そしてその場に、泣き崩れる者、茫然とする者、気絶する者を残し、マリウスを残し…
「面倒を押し付けられた気分ですね… ハァ…」
その後、学生達は加護が2つ新たに付いてる事に気づく。
ハチマンの加護(小)80歳まで不死。幸運(小)
ミロクの加護 呪詛無効 精神攻撃無効
「「沼津が待ってるんだよ!これ以上お前等の事なんて知るか!!」」
お読みいただきありがとうございます。 これを元に連載版書いてるんですが、私の文章力ではなかなか難しい。。。