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牢の中の混沌(カオス)

これは遊び過ぎた!!

戦後について、少し説明する内容だったはずなのに、気がついたら変態だらけに!

ピチョン……

カサカサ……


薄暗く狭い石室の中で、三人の男の声が響いている。


「ヒィヤア!なんか、虫!虫がいるっぽい!ととと殿っ!助けて!」

「阿呆!罰で牢に繋いでおるのに、助けるわけが無かろう」

「ねえ、某ちゃんと『ごめんね』したよね?せめて、手首の鎖は外して下され!逃げないから!でないと、私が虫さんから逃げられない!!」

「ふふふ……可愛う御座るぞ、柴田殿……大丈夫。某がずうっといっしょに過ごしまする。柴田殿に近付く虫は、某が全て捕らえて喰ろうてしんぜましょう。柴田殿の目の前で、ね」

「殿お!このドS鬼畜授乳野郎!!なんて恐ろしい罰を考えやがるんだ!目の前で虫を食べる闇米にわながひでと水入らずで牢の中!そして、私がふんどし一丁!」

「ははははっ。鎖で繋がれておる故に、催したら毎度衣の着脱が面倒であろう?何、垂れ流しにはさせぬ。そこの五郎左が、嬉々として世話を焼く故な!鎖を引きちぎるなよ。お主が言うたのだからな、上杉の助命嘆願のために、どんな罰でも引き受ける、とな」

「地獄ぅ!」



実に楽しそうな信長と、嬉しそうに真っ黒な瞳で微笑む長秀、そして裸で両手を鎖に繋がれ、絶望的な表情を浮かべる希美は、箕輪城の石牢の中にいた。


あの日、輝虎と箕輪城に戻った希美は、信長等に詫びを入れた。

そして、各所と連携を取り、戦後処理を行っていった。

数日後、希美の処遇が決まる。

今回の出奔騒動の罰と、輝虎の助命嘆願のために、十日間ほど丹羽長秀と牢に入れられる事になったのである。

ただ単に牢に繋ぐだけではない。より心をえぐってくる信長の懲罰プランである。

(おのれえ、第六天魔王!いつか絶対、『本能寺の変』ドッキリしかけてやる!!観念して敦盛ダンスキメてる所へ、『ドッキリ大成功!』のプラカード持って爆笑しながら出ていってやるわ!)

それを見た明智光秀さんにとっても、ドッキリだろう。



恨み骨髄で復讐を誓う希美に、信長は告げた。

「上杉領の取り分けが決まった。武田は魚津城、天神山城、松倉城などの越中にある上杉方の城を、北条は箕輪城から南の上杉方の城を、松平は今回協力する事で、武田と今川攻めの協定を結び、遠江の権利をわし等全員で認めた。武田が協定を違反すれば、北条と織田が武田を攻める。まあ、同盟じゃな」


(これで、三方原の戦いが消えたな!武田が越中に侵出すれば、神保氏とぶつかるからそっちに集中するし、私達を敵に回してまで遠江侵攻はしないでしょ。て事は、三方原での家康の脱糞事件も消えたか)

だが、脱糞事件は既に森部で起こっている。

つまり、脱糞は家康の運命だったのだろう。

そして希美も現在、他人事ではない。



「芦名は?上杉方の家臣が越後に『主が柴田のペットになったよ』って伝えに行く時に、いっしょにうちから『休戦よろ!』の伝令送ったで御座るよね?」

酷い言い種だ。

越後で留守番中の上杉家臣はさぞ混乱しただろう。


信長は、『芦名』と聞いてニヤリとした。

「当然取り分けのおこぼれを預っておるわ。越後の雷城、神戸城を取るそうな。今、来ておるぞ。その方に会いたい、とな」

希美は慌てた。

「なんと?!ならば、すぐ支度せねば!」

「いらん」

「は?」

「そのまま、会え」

「は?え?某、裸で鎖……牢の中……」

「くくく……その情けない姿を見てもらえ。『えろ』などというおかしな夢から目が覚めるやもしれぬ」

希美は唖然とした。

相手は、戦国大名だ。失礼だろう。

いや、この男、希美を貶める事を心から楽しんでいる。

最高の笑顔の信長が非常にしゃくにさわった。

そりゃ、嫌みの一つも言いたくなるというものである。


「まあ、いいですよ?殿がそれでいいなら。芦名殿からしたら、殿は、家臣を裸で鎖に繋いで喜ぶ変態にしか見えないでしょうけど」

「な、なんじゃとお?!」

「事実じゃないで御座るか!こんな高度なぷれい、某だってした事ないし!」

そりゃ、そうだ。ご家庭に、石牢など無い。

「お、おのれ、憎まれ口を……そこに直れ!」

(『そこに直れ』も何も、繋がれてるから動けない……)


信長が池田恒興の名を呼んだ。

すると、牢の外から恒興が馬鞭を持って、やって来た。

(指示されてないのに、既に馬鞭を!恒興さんのお役目、馬鞭係!)

希美が驚いて見ていると、恒興は信長に馬鞭を手渡し、さっと上半身を脱いで四つん這いになった。

(お前が打たれるんかい!?)

だが、信長はスタンバイしている恒興を完全に無視し、希美に向き直った。

(あ、あれえー?)

希美は恒興の背中を観察した。

刀傷などはあるが、打たれた跡はない。

(ま、まさか、いつも、馬鞭を期待させられて、この状態に?!)

希美は思わず、長秀を見た。

長秀は、目で微笑みながら、こくりと頷いた。


(くっ!池田恒興……なんと哀れな!)

だが、長秀は首を振った。

そして、目線を恒興に向けて、くすりと笑った。

希美は恒興をもう一度見た。

よく見ると、肩が上下している。

ふーっ、ふーっ、と荒い鼻息も聞こえた。


(あ……、放置の方ね)

ドMの世界は奥が深いぜ……

希美は決して足を踏み入れない事を心に誓い、信長に言った。

「鞭はもっと変態に見える」


「おのれ!権六め!おのれえ!!」

ぴしぴしと鞭で叩かれるが、特にダメージは無い。

(ぷぷ、ちょっと涙目になってんの。そんなに熱くなる事かよ?)

希美は、少し可笑しくなった。だが、次の言葉を聞いて、笑いが止まった。

「よくもわしを置いて出奔などと!裏切りおって!」


「あー、うん。それはごめんなさい」

「許さぬわ!次は無いからな!次やったら、その方が守るもの全て、根絶やしにしてくれるわ!」

「ええ……じゃあ、殿も根絶やしになるんですが……」

「わ、わしもか……そうか。ならば、わし以外じゃ!」

「はいはい。わかり申した」

(ちょっと嬉しそう。そっか。裏切られたと思って、寂しかったのか)

この魔王は、案外身内に甘くて寂しがり屋だ。

パワハラは凄いが、こういう所が愛すべき希美の主である。

多少はおとなしく、鞭でしばかれてやろう。

そんな風に希美が考えていた時だ。


「あったかい!!」

気がついたら、長秀が火のついた蝋燭を近付け、溶けた蝋が希美に垂れていた。

「何やってんの」

「殿のお手伝いを。牢内は薄暗う御座るので」

「鞭と蝋燭のコラボはいけない!さらに変態度が増したぞ!」

長秀はそれを聞くや、嗤いながらより一層蝋燭を近付けた。




牢外から声がした。

「芦名止々斎様をお連れ致しました」



牢に足を踏み入れた男が見たものは、


ふんどし姿のまま鎖に繋がれた男。

ふんどしの男を鞭でしばき回す男。

ふんどしの男に蝋燭の蝋を垂らす男。

その傍で、裸の背を見せ四つん這いになっている男。


混沌カオスであった。


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