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上杉さんは潔癖症

「照虎って誰だよ(笑)」という方へ。

上杉謙信さんが謙信になる前の名前です。


お詫びです……

「照虎って誰だよ(笑)」なんて書きましたが、本当に誰だよ(笑)でした……

『照虎』じゃない!『輝虎』です!!

照れた虎もかわいいけどさあ、『てるとら』入力したら『照る虎』と出る我がスマホの変換機能よ……

鋼鉄のざるなんです。しっかりしてるようで、ザルな作者です。


上杉さんと皆様にお詫び申し上げ、すぐに訂正します!

上野国館林城。

前年の十二月に将軍義輝から゛輝゛の一字を賜り、政虎から改名したばかりの上杉平三輝虎は、この館林城を攻めていた。

輝虎は戦いに明け暮れ、上野国で年を越している。

前年は、信玄との川中島での戦いが激しいものとなり、互いに損害も大きかったが、輝虎は休む間もなく戦を続けていた。


越後の冬は厳しい。

ただでさえ貧しいのに、冬は雪深く厳しい土地だ。

毎年冬を越せない者が少なくない。

まだこうやって、他所に攻め入りそこで冬を過ごす方が、ずっと過ごしやすかった。


そんな苦しい冬も終わる。もう二月だ。

雪解けは既に始まっている。

越後の雪もそろそろ溶けて道も良くなっているだろう。

輝虎は焦っていた。早めに方をつけなければ、甲斐の坊主が動き出すやもしれぬ。

何を思うたか、その甲斐の信玄坊主は今美濃にいる。

だが、流石に春になれば、甲斐に戻るだろう。


信玄がえろ教徒として、えろ大明神と称する柴田勝家という織田の武将の元に身を寄せている事は、『軒猿』から聞いていた。

だが、輝虎は本当に信玄がえろ教徒になったとは信じていなかった。

どうせ、強かなあの男の事だ。

主が代わり、豊かになりつつある美濃を狙って入り込んでいるのだろう。

あれは自分の欲望に忠実だ。

恥ずかしげもなく、欲しいものを求め、平気で裏切る。


輝虎には、そこが信玄と相容れない部分であり、無視できぬ部分でもあった。



欲望といえば。

「えろ教……悪魔の教えよ。許容できぬ」

人の欲望を募らせ、人々に邪淫を勧める悪魔の所業。

えろ大明神柴田権六勝家。人を正しき仏の道から堕落へと誘う、大悪魔。


輝虎が苦々しさに舌打ちをしたのと同時に、本陣に『軒猿』の頭領が現れた。

その報告を受けた輝虎は、激昂した。



「なんだと?!柴田権六に信玄坊主と松平の小倅が籠絡され、夜な夜な三人で目隠ししたまま抜きつ抜かれつの大乱戦?!その上奴等は上杉を侮り、柴田が主導で、織田と武田、松平が手を組み、『上杉を打ち滅ぼす』と息巻いているだと?!」


全ての情報が混ざって、最悪な報告になっている。

しかし『軒猿』の頭領は、いかにも自信ありげに頷いた。

上杉さん、こいつは更迭した方がいいですよ。



しかしそんな事情を知らない輝虎は、下知を下した。

「おのれ、仏敵柴田権六勝家!武田もろとも、この毘沙門天の化身が打ち滅ぼしてくれようぞ!!柿崎弥次郎!」

「応!!」

野太い声で柿崎景家が答えた。

「館林城を一気に落とす。赤井を滅ぼし、お主の猛将ぶりを見せつけてやれぃ!!」

「ははあっ!」


さらに輝虎は、上杉の家臣団に言い放った。

「皆の者、館林の次は唐沢山じゃ!そこを落としたら、一旦越後に戻り、大悪魔柴田権六勝家と信玄坊主を攻める!」

宿老の直江景綱が意見を述べた。

「武田はともかく、柴田は美濃。越後からは飛騨をまたぎまする。どう攻めるおつもりか?」

「誘い出す」

輝虎は短く答え、軒猿の頭領に向けて言葉を放った。


「おい、頭にふんどしを巻いたえろ教徒が越後にも入り込んでおろう。殺して、首を織田に送りつけよ」

「御意」

感情無く命を受け入れた『軒猿』に比べ、えろ教徒の活動を聞いていた上杉の家臣等は動揺した。

甘粕景持が声を上げた。

「なっ!教えや格好はどうあれ、あの者等は越後の農業を良うしようとしておるのですぞ?!百姓共が反発致しまする!」

輝虎はぎろりと家臣共を見渡した。

「えろ教は、人を仏道から堕落させる邪教だ。邪教の徒から恩恵を受けるなぞ、邪教の教えを受けるのと同じだ!決して、えろ教徒の持ち込んだ農法を用いてはならぬ。徹底させよ!」

「「「「「……ははっ」」」」」


家臣等は絞り出すように同意の声を出した。

貧しさの地獄を知るからこそ、自領の食料事情を改善できるやも知れぬ蜘蛛の糸を、自ら断ち切らねばならぬジレンマに苦悩したのだ。

だが、同じように貧しさを憎む主が、それでも許さぬと言うならば、従う他無い。


輝虎とて、貧しさを抜け出す術は喉から手が出るほど欲しい。

しかし、真摯に仏道に向き合う輝虎の異常な潔癖さが、えろ教の技術を受け入れる事を許さなかった。


輝虎は『軒猿』に命じた。

「織田の兵力を削ごう。朝倉に、『美濃の次は朝倉が織田に呑み込まれる』と噂を流せ」

「御意」



希美の引き起こした歴史改変。

その大きな反動が、希美に襲い掛かろうとしている。





だが、岐阜城では、真逆の知らせが続々と舞い込んでいた。


『織田家中柴田権六殿が、我が領の百姓に新しき農法を教えて下された事、真に感謝申し上げる 浅井新九郎』


『末森で成功したという農法、使ってみますぞ。織田殿は良き家臣をお持ちで羨ましゅう御座る 姉小路四郎二郎嗣頼』


『敵に塩を贈るとは、余裕な事であるな。あ、あんたなんて、父の敵なんだからね!全然許してないんだから!感謝してるなんて思わないでよね!! 今川彦五郎氏真』


『えろ大明神様の御威光により、我が領もえろの恵みを受けられそうで御座る。早く使徒になれるよう修行に励みまする。えろえろえろ 芦名止々斎』


『えろに出会ってから、運命が変わりました。悩まされていた吹き出物も消えて、可愛い側室もできました!えろはもう手放せません 六角四郎義治』



「ぐ、ぐおんるおくぅ(権六)めえーー!!!どうすりゃいいんじゃあーー!!?」


岐阜城には、卒倒寸前の織田信長の姿があったという。

もしかしたら、次話で完全に卒倒してしまうやも知れぬ信長に、合掌である。



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