熱狂サマーえろ神フェスin森部
斎藤方は軽海以来、大きな動きを見せていない。
希美は対斎藤を睨み、墨俣砦と十九条城の要害化を進めていた。
たまに斎藤方が嫌がらせに小競り合いに来るので、信長から美濃攻めに使った船を全てせしめ、建築材をある程度組んだものを森部から長良川を使ってピストン航送している。
正直、人材は有り余るほどいるのだ。
なんせ、十四条の戦いでえろ大明神の威光に戦線離脱した美濃人達が、処罰を恐れ森部や墨俣、十九条に大量流入したのである。
合戦に当たって、織田軍も民家を随分焼いてしまった。
しかし希美は、今後の支配を考えて青田刈りはしないでもらっていた。元々そこに住んでいた者達も、一旦森部に疎開させていたため、住民感情は悪くなかった。
そしてそれがクチコミで美濃人に伝わり、流入した者達も元々の住民達も、非常に協力的に建設に参加してくれたのである。
人が集まり、仕事もあり、領主は優しく金もある。
森部含め、柴田領となった墨俣と十九条は、あっという間に家が建ち、城下町や周辺の村々は以前以上に栄えた。
そして、えろ教布教。
これも全てえろ大明神である柴田勝家様の御威光であると、えろ教信者は爆発的に増えた。
柴田勝家の居城である墨俣砦と十九条城は『お社』と呼ばれ、『会いに行ける神様』として柴田勝家は熱狂的な支持を集めたのだった。
そうして美濃最前線の柴田領がある程度落ち着いた頃、えろ教徒達が待ちに待ったその日を迎えた。
えろ大明神降臨祭である。
えろ大明神が最初の弟子にえろ道を伝えたとして、えろ教徒から『聖地』と呼ばれるここ森部には、美濃全土から一万を越す信者達が集まっていた。
男は奇妙な人形に紐を通して首から下げ、女はきっちりと襟を合わせ綺麗に着物を着ている。
大半の男はそんな女達を凝視しているが、女達は特に気にしていない。いつもの事だからだ。
むしろ視られる事で意識するのが良かったのか、えろ教徒の女は美しくなったと評判である。
美しくなりたいがためにえろ教に転ぶ女も出てくる始末だという。
そして、皆何かを待つように、森部城を囲んでいた。
希美は森部城の大広間、本来なら城主が座る上座に座っていた。
脇には最初の弟子である河村久五郎が座っている。
それはよい。
ただ、目の前には、二百人の変態が座っていた。
変態男等は、顔に白い布を巻き、目だけ布を切り取って見えるようにしている。
それ以外はふんどし一丁だ。
『頭隠して尻隠さず』を変態バージョンにしたらこうなった、そんな出で立ちである。
「なあ、久五郎。何なんだ、こいつらは……」
希美は頬をひきつらせながら聞いた。
久五郎がどや顔で答える。
「お喜び下され!お師匠様の示されたえろ道の神髄を極めし使徒達で御座ります!極めた者として、えろ教祭司となり各地に布教できる資格を得まして御座る。どうか彼らに祝福の御言葉を!」
「ちょっと待て。神髄を極めたって、まさか……」
「はい。彼らはどれだけ着物を着込んでいようと、女を裸に見る事ができる者達で御座る。当然わしも神髄を極めておりますぞ!」
(とんでもない奴らを増殖させてしまったあぁーっ!!)
希美は頭を抱えた。この男共、格好どころか骨の随まで危険な変態であった。
そんな奴らが使徒。
その使徒が現在進行形で変態を量産している、カルト教団のトップにして神、それが希美である。
希美は気を失いそうになった。
希美は、変態共の格好も気になっていた。
なぜ、こうなったのか。
中身も外見も変態など救えない。
「……久五郎、彼らは何故頭に白布を纏っているのだ?」
「ははは、お師匠様。見覚えありませんかな?以前御願いした、お師匠様のふんどしですよ」
「ふんどし?!そう言えば、こないだお主が墨俣に来た時に大量に持ってきて、つけては脱ぎを繰り返させられた、あの苦行ふんどしか!!?」
「左様。彼らの使徒昇格への祝いとして、えろ大明神であるお師匠様の最も大事な部分をお守り申し上げた、有り難い聖布を下賜しまして御座る。彼らはお師匠様にあやかりたいと、使徒の象徴として、頭巾に」
「なんで、ふんどしを頭に巻くんだ?!ふんどしとして使えよ!」
「霊験あらたかな聖布を不浄な股間に巻くなど、そんな事は許されませぬな」
「いや、私の股間だって不浄だよ?!使用済みふんどし頭巾とか、なんか私が汚された気持ちだわっ!だいいち、なんで頭以外は着てないんだよっ」
「そりゃ、夏に頭に頭巾は暑いでしょうが。せめて他は涼しくしないと」
「馬鹿なの?!」
さも希美がおかしな事を言っているというような久五郎である。
「さ、早く頑張った使徒達に御言葉を」
と催促してくる始末だ。
希美は仕方なく、上も下もふんどしのみのダブルふんどし頭巾達にねぎらいの言葉をかけた。
ダブふん頭巾達は、感涙にむせんでいる。
希美は、自分がダブふん頭巾の長である事を呪った。
その時、外でドーン、ドーンと太鼓の音が鳴った。
希美は思わず音の鳴った方向を見た。
「そろそろ時間ですな」
久五郎の声に振り向いた先には、ダブふん頭巾姿の久五郎が経っていた。
「久五郎っ、お前もか……!」
希美はどこかのカエサルさんのようなセリフを言ってしまったが、それも仕方ない事だろう。
久五郎が自慢気に言った。
「実はこの聖布には染めで番号が振られておりましてな。わしは一番なので御座る」
お前、権力使っただろう。そんな事を思った希美だが、本当にどうでもいい情報なので、スルーした。
その後、高覧付きの廻り縁に案内された希美率いる変態軍団は、まずは使徒紹介という事で、ふんどし頭巾の説明と、ダブふん頭巾達が流れ作業で廻り縁から民衆に姿を見せ、前座は終了した。
そして、いよいよ『えろ大明神』の御降臨である。
ドコドコドコドコドコドコ…………
太鼓がいい感じで、希美の登場を煽る。
そして希美は、廻り縁に向かって進み、高覧の傍に立った。
うおおおおおおおぉぉぉぉ…………
地鳴りのような歓声が森部一帯を震わせた。
希美は集まった民衆を見渡した。
万はいる。皆、希美を見ている。
希美は震える体を支えるように、高覧に手を掛けた。
「えろ教の信徒達よぉっ!私が『えろ大明神』柴田権六勝家であぁるぅ!今日は私の来舞によく来てくれたぁ!!」
希美はちょっと調子に乗った。
ううあおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!
オーディエンスの反応が絶好調過ぎる。
希美は、かなり気を良くした。
「じゃあ、一曲目行くぞお!お馴染みの織田軍歌!『おお魔鬼婆は緑』!!」
織田軍歌は、何故か美濃人の皆さんにも知られていたようだ。
何度か美濃に遠征に来て、歌いながら行軍していたから、覚えられ広まったのだろう。
気持ち良く信徒達と熱唱した希美だったが、ふと冷静になった。
(よく考えたら、この歌って美濃勢の首を刈ろうぜって歌なんだが、こんな盛り上がっていいのか?美濃の皆さんっ!?)
とにもかくにも気を取り直し、希美は民衆に語りかけた。
「私は美濃人にとって、敵である尾張織田の将だ!」
民衆は、静まって耳を傾けている。
希美は、叫んだ。
「だから、なんだあっ!!敵とならば、私は容赦しない!しかし、お前達は、我がえろ教信徒だあっ!お前達は、えろ教を信じて私と繋がり、私の家族となったあ!!」
おおおぉぉ…………
民衆の声が熱気を帯びてくる。希美は大音声で言い放った。
「私は家族を守るためにここにいるっ!お前達も守れぃ!家族を!仲間を!この祝福された地を!えろ教に斎藤だの織田だの関係ない!!そんなものに拘らず、えろ教のもとに互いに助け合い守り合うならあっ!」
「私が斎藤だろうが、織田だろうが、お前達家族をみんな守ってやる!!!」
うあおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!
森部は熱狂の渦に包まれた。
この中には美濃攻めで互いに戦い合った斎藤方も織田方もいるはずだ。
しかし、今は皆同じえろ教の家族として声を上げ、涙を流し、思いを一つにしている。
(いやー、今ならこの勢いで天下取れそうだわ。一向宗の人達もこんな風に勘違いしちゃったんだろうなあ)
怖い怖い。宗教って怖いわあ。希美は身をすくめた。
その後、軽くマイコー若村の滑るようなダンスを披露した後、希美は来舞を終了した。
とはいっても、後は流れでお祭り騒ぎが続くだろう。
河村久五郎は感極まり、五体倒地のまま快楽の向こう側に逝き果ててピクピクしていたので、希美は本日とんでもない変態を見せられたお礼に、久五郎のシリアルナンバー1の聖布を奪って城を出た。
興奮冷めやらぬ民衆達と混じって、共にお祭り騒ぎを楽しもうというのである。
城下町に出ると、竹下通り並みの人込みに、たくさんの屋体や店が賑わいを見せている。
とんでもない経済効果だ。
ここはまだ楽市楽座をしていないから、かなりの税が久五郎に落ちるだろう。
希美は来舞の出演料を請求する事を心に誓った。
そんな時だった。
「あ!みつけたー、柴田殿っ!」
声を掛けられ向いた先に、馬ウェイクと少しそばかすのあるモブ顔の少年が立っていたのである。