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お気の毒ですが、森可成エピソードは消えてしまいました

前田利家。

有名な戦国武将である。

この乱世において、なんだかんだ生き延びて、晩年は経験豊富な老将兼豊臣政権の大老としてあの徳川家康からも一目置かれる存在となる男だ。


この『馬ウェイク』が、である。


(まあ、若い頃はめちゃかぶいてたって言うし、馬でウェイクくらいはするのかもしれんな!)

希美は全てを『かぶき者だから』で片付けようとしている。



将来の大物である『馬ウェイク』利家はどろどろの姿で立ち上がると、希美に親しげに話しかけてきた。

「もう、大変な目に遭いましたよー。柴田殿がいなかったら、某、絶対死んでた!柴田殿にはまた助けてもらいましたなー。あの糞苛つく拾阿弥を殺った時も殿に助命嘆願してくれたって聞きましたぜ?もー、どんだけ某を助けたいんですか。某の事、好き過ぎで御座ろー!」

(チャラいぞ、こいつ。まあでも、例の転生もの小説は好きで読んでたからなあ)

「まあ、好きっちゃ、好きだけど」

希美の言葉に、利家は嬉しそうににやついたが、

「あ、でも某、殿に心捧げてるんで、柴田殿の気持ちには応えられないっす。すんません!」

と断りを入れてきた。

「私だって、お主のような若造、好みではないわっ」


(腹立つな、こいつ。もうこいつの名前、『馬ウェイク』な。よし、)

「これからお前を『馬ウェイク』と呼ぶぞ!」

「うまうえいく?」

(あ、途中から口に出てたわ)

利家改め馬ウェイクが目を見開いて呟いている。

「うまうえいく……馬上行く……馬で戦場を駆け回り武功を立てて上り詰める……!俺の生き様にぴったりじゃねえか!!」

「え……?」

「最高だ!柴田殿っ、是非ともそのように呼んでくれ!俺は今から『馬うえいく』だ!」

「な、何言ってんだ……?又左衛門?」

「俺は又左じゃねえ!『馬うえいく』だっ!!」

「あ、はい」

(もしかして、馬鹿なの??)

希美は、自分の撒いた種の回収を諦めた。



「すみませんでしたあっ!調子に乗って柴田殿に失礼な口を……」

利家が少し落ち着いたようなので、希美は気になっていた事を聞いた。

「そもそもお主、何故あんな事になっておったのだ?」

「いやー、某今、殿を怒らせて拒まれちゃってるじゃないですかー。でも某、どうしても殿と天下布武の夢を共に見たいんですよ。で、槍働きで功を挙げて許してもらおうと、美濃攻めにこっそりついてきたんですけどね。『攻めの三左』で有名な森殿の側で勉強しようと森殿を探してたんです」


(そういえば、そんな話あったね。早く一戦交えたいと焦る前田利家に、森可成が「焦ったらダメだ。充分敵を引き付けてから攻めるんだ」みたいな事を言って、利家が関心する話。その時に利家が一番槍で『首取り足立』って呼ばれてる足立六兵衛ってすごい武者ともう一つ首を取って、信長がその功績で利家を許すんだったはず)


「で、途中で某の馬がダメになったので、なんかちょうどいい馬いないかなーと探してみたら、主が死んだかなんかで誰も乗せずに走ってる馬がいましてねー」

希美は何となく展開が読めた。

「まさか、走ってる馬を捕まえようと、縄を?」

「そうそう。縄を投げて、かかったのですぐ体に縄をくくりつけて。そうしたら、思いの外馬の力が強く引きずられましてなあ、そこへ誰かが落とした兜に足が両方とも、スポッですわ。はっはっはっはっ」

(ああ、そのまま馬ウェイク状態になったのね。……なるほど、やはりこいつ馬鹿だったのか)

希美は呆れ果てて溜め息を吐いた。



利家は、「あ、そうだ!」と何かを思い立ち、自分がはね殺した美濃兵の元に向かうと、やおら刀を引き抜いて、その死体の首を切断した。

そしてこちらへ戻ると、仰天する希美にその首を手渡した。

「これ、たぶん一番槍だと思います!いつもお世話になっているし、良い呼び名を頂いたので、某の気持ちです!」


希美はドン引きし過ぎて倒れそうだったが、利家を見ると、本当に希美のために『一番槍の手柄』という良いプレゼントを渡したつもりのようだ。

希美は引きつる笑顔で、なんとか「ありがとう……」と言えた。



そこへ、一益がやって来た。

「おい、権六、何してるんだ?!吉田殿にに柴田勢を任せっきりで。頭はお前なんだから、仕事しろよな」

希美は遠い目をして言った。

「いいんだ、次兵衛は。あいつは私が命令すると鼻血を出して喜ぶんだ。御褒美なんだよ」

「なんだそれ、気持ち悪いな。お前等、できてんのか?」

一益の言葉に、希美は顔をしかめた。

「お前こそ、気持ち悪い事を言うな。次兵衛は、義兄で、家老で、しかもどっちもおっさんだぞ。こいつの格好より、どろどろの展開不可避になるだろ」

「こいつ?」

そこで一益は初めて、利家に目を向けた。

「お前!又左じゃないか!また行軍に潜り込んだのか?!」

利家が言い返す。

「滝川殿、某を又左と呼ばず、『馬うえいく』と呼んでくだされ!」

「何言ってんだ?」

また訳のわからない事を……と呟いた一益は、ハッと何かに気づき、希美を見た。

その目は、どうせお前の仕業だろ、と訴えている。そのうち、一益の目は希美の手元を見ると、驚きの声を挙げた。


「おい、その首、『首取り足立』じゃないか!権六、お前がやったのか?」



「まじか……」

(この生首が足立さんなら、私がもらってしまったら馬ウェイクが信長に許してもらえず、ずっとプータロー状態やんけ!そもそもこの人、一番槍で討ち取られるはず。真実は、一番ウェイクで事故死だったのか……)


希美は、利家に言った。

「馬ウェイクよ、お前に御仏の御告げをやろう」

利家は目を輝かせて希美を見た。

「柴田殿、御告げとかできるんですか?!すっげー!!」

「落ち着け、馬ウェイク。まずはこの首、お主に返そう。そして、森三左衛門の所へ行きもう一つ首を取って来るのだ。この戦が終わり殿にその二つの首を献上した時、お主は『首取り足立』を討ち取った功績が認められ、殿はお主を許し、さらに扶持の加増があるだろう……」

希美はもっともらしく見えるよう、右手の指をそろえて手のひらを利家に向け、左手は親指と人差し指で輪っかを作り、半眼で利家を見た。

仏ポーズである。

利家は興奮している。


「すっげー!!柴田殿、もう完全に仏でしたわー!殿に許してもらえるなら、某、仏だろうが悪魔だろうが何にだってすがりますよ!早く、早く行きましょう!敵の首を取らねば!」

希美の手を引っ張り急かす利家に、希美は諭した。

「落ち着け!弓部隊もまだ射かけておるし、敵はまだ遠い。槍働きは、もっと敵を引き付けてから一気に力を出すものよ。功を焦るといざという時に力が発揮できぬぞ」

(森可成も、そんな事を言って利家を諌めて……あ!)

希美は、森可成が利家に言うはずのセリフを今自分が先に言ってしまった事に気付いた。

利家が、キラキラした眼でこちらを見ている。

(や、やっべー!!三左衛門、マジでごめん!セリフ泥棒やっちまった!)



とにかく、可成の所に連れていって史実通り首を取らせれば、一番ウェイクとはいえ一番に足立さんの首を取ってる事は間違いないから、なんとかなるはず。

そう計算した希美は、利家を可成の元へと連れて行った。



そこで、早く暴れたいとそわそわする利家に「焦ったらいざという時に力が出ないぞ。引き付けてから攻めるのだ」と声をかけたが可成が、利家に「あ、それ柴田殿にもう教えてもらいました」とあっさり言われているのを目にした希美は、思わず膝から崩れ落ちたのだった。

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