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希美への論功褒賞(嫌がらせ)

森部城で城主の河村久五郎と諜略戦を繰り広げてから、ゆうにひと月が過ぎた。

希美は今は、清洲に戻ってきていた。



ひょんな?事から久五郎のエロ師匠となってしまった希美は、引き続き教えを乞いたいと久五郎に引き留められた。

始めは罠かと警戒していた希美だったが、城主の師として毎日至れり尽くせりであり、エロについて久五郎とただただ語らう日々だった。

そのうち久五郎は、次兵衛と一益をも快く受け入れ、三人で森部城に滞在する事ひと月足らず。

希美達は森部城で、城主が京から呼んだそのエロの師一行としてすっかり馴染んでいたのである。


その和やかな敵地生活は、ある時終わりを告げた。

一益の配下を通じて、信長から希美宛の書状が届けられたのだ。




《意訳》


権六へ


おい、権六ぅ!!いつまで油売ってんだ?!

もういっその事そのまま油売り続けて、油売りの息子(義龍)に仕官するか?ああ?!

それでもいいんだぜ?

そん時は、毎晩お前の寝床に女間者を送り続けて、必ずあの世へ送り返してやるからなあ!

御仏がなんぼのもんじゃい!

まあ、どうしてもわしの所に戻りたいっていうなら今すぐ戻ってこいよな。

七日以内に清洲に顔出したら許してやらんでもないぞ。


追伸

べ、別に早く権六の顔を見たいから、急いで帰れって言ってるんじゃないんだからね!

末森城主の責任果たせって思ってるだけだから!

…………待ってる。


上総介より




「こんな事が書いてあるから、そろそろ帰ろうか、彦右衛門」

「この手紙のどこをどう読めば、そんなとんでも意訳になるんだい、権六。私には、殿が死ぬほど怒ってることしか読み取れないんだけど」

「心の眼で視るんだ、彦右衛門よ。さすれば、殿とて丸裸に見えるだろう」

「殿を丸裸にして、私に何の得があるんだよ……」

「確かに」

「でも、長く滞在し過ぎだから。だから何度も言ったろう?早く帰ろうって」

「は、働かずに食べるご飯が美味しくて……」

「早く帰ろう、権六。あんた、ここにいたら駄目だ」


一益とエロ道を極めつつある希美のそんなやり取りもあり、希美はやっと重い腰を上げたのだった。





「遅い!!」ドンッッッ

「ああっ!着物に穴が!!」

(久々に清洲に帰ったら、狙撃されたで御座る)



清洲に着いてすぐ、希美と一益は登城した。

次兵衛はそのまま清洲を素通りし、末森に向かった。柴田家の筆頭家老が戦も合わせるとひと月以上も留守にしていたのだ。下の者達や連絡役を務めてくれた一益の甲賀衆がフル活動で領地運営を助けてくれていたとはいえ、仕事は溜まっているだろう。

次兵衛は悲愴な面持ちで修羅場へと旅立った。

しかし、登城した希美にも修羅場が待っていた。


狙撃で『おかえりなさい』である。


信長は銃を構えたまま白い煙を纏い、希美を脾睨して言った。

「ひと月も森部で何をしておった」

(エロ道を伝導していました、なんて言ったら、絶対信長が第二形態に入るぞ)

最終段階まで許すと第六天魔王化した信長が、末森城ごと希美をバーニングである。

希美は、エロについて言わない事に決めた。



「申し訳ありませぬ。城主の河村久五郎と思いの外仲良くなりまして、随分と引き留められ申した。」

信長は一益に目を向けた。

「本当か、彦右衛門」


(ひどくないですかね……)

希美は信用が無い。


一益は答えた。

「は。諜略のため森部城を訪れたその日に、河村久五郎は陥落。その後は柴田殿を生涯の友として親しく付き合い、森部城にて我等まで下にも置かぬもてなしを受け申した」

一益も、エロ伝導者御一行の過去を信長に告げる気は無いようだ。

あの有名武将滝川一益の人生に希美がつけてしまったとんでもない汚点は、是非歴史の闇に埋もれていって欲しい。


「で、あるか」

(おお!生『で、あるか』いただきましたー!)

ガスッッ

「何故?!」

火縄銃そのものを希美に全力投球した信長は、事も無げに言った。

「その方がにやけておった」

「この火縄銃、お高いんですよね?!」

(相変わらず信長が鋭い……)



信長は希美を無視して一人ごちた。

「まさか、あの河村久五郎がのぅ……」

一益が希美を見た。

「柴田殿の諜略は、通常のものでは御座りませぬ故」

「仏の加護か……」

一益が渋い顔をした。御仏の御加護(未来予知)もあるが、実際はエロの功績が大きい。一益は森部城での快適な客人生活に、よく「諜略はこんなものじゃない……」とぶつぶつ言っていたな、と希美は思い返した。



希美は微妙な空気に、信長に自分の功績をアピールする事にした。


「何にせよ、河村久五郎の諜略は成り申した」

最後、森部城を発とうとする希美に、城内に社を作るから、そこに住んで見守ってほしいと泣きすがる久五郎を思い出す。あれで、やっぱり斎藤で!とはならないだろう。

それにしても、何故社なのか。

希美は、考えても仕方ない事だと、目の前の信長に集中した。

「これで義龍死後の美濃攻めが楽になりましょう」


信長は鼻にしわを寄せ、頷いた。

「その方の奇行はともかく、功績は認めよう。美濃攻めではわしの命を救い、河村久五郎を諜略した。金百貫と名刀『あざ丸』を与えよう」

「有り難き幸せ」

殿で一益がギョッとする。

(刀はともかく、百貫はとんでもない大金だ!殿に一生ついていきます!!)

希美はほくほく顔だ。

信長は珍しく笑顔を希美に向けた。

「その刀はその方にとらすため、態々熱田から取り寄せたのじゃ。あの五郎左にも使いこなせなかった名刀。その方になら使いこなせよう」

希美は長秀のお下がりと聞いて、呪われてそう……などと思ったが、この頃の刀なぞ新品でない限り皆血を吸っているのだ。元より刀に興味ない希美は、深く考えなかった。


この刀に、あの長秀をも蝕んだ呪いが本当にとり憑いている事など。


長秀が闇の片鱗を見せ始めたのは、この刀を使い始めてからだという噂がある事を。





しかし、この刀について勝家の記憶を掘り起こしもしなかった希美は、肉体チートで毎日元気にこの刀を腰に差した。

始めは、いくらとり憑いてもピンピンしている希美に、毎晩『怨怨』と泣いていたあざ丸さんだったが、いつしか諦め妖刀の名を捨てたという。



後に、あざ丸さんは語った。

「いやあ、昔はわしも若かった。大好きな主が盲目でしてな、忘れられず、その後の主人にも面影を求めて、目を患う呪いをかけておったのよ。だが、今の主はどんなに呪っても全くこたえぬ。が、いつしか今の異常に体の強い主に呆れ果ててしまい申した!今や、ただの名刀で御座る。わっはっはっ」



なんだか幸せそうだ。

希美は知らぬ間に一本の妖刀の運命を変えてしまったようである。


なんのこっちゃ……

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