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神様、仏(の遣い)が脅してくるんです!

爆弾、どんどん行きますよー!そおれっ

「正気か、お主……」

久五郎は声を絞り出した。


「またもや、織田は攻めてくるのか?!」

「そんな馬鹿な。今から準備していると、こちらに来るのは稲刈りの時期になるぞ」

「いや、織田は常備兵を揃えているという。あり得ぬことではないぞ」


重臣達が騒ぐ。

(外野がうるさい)

「お前達、うるさいぞ!」

久五郎が一喝した。

希美と久五郎の気持ちは同じだったようだ。



久五郎は訝しげに、希美を見た。

「色々聞きたい事はある。しかし、柴田殿、それをわし等に教えてよかったのか?」

「よう御座る。知らねば、判断に迷いましょうからな」

「判断?それを聞けば、わしが殿に告げるとは思わぬのか?」

「さあ、どうでしょうな。しかし大筋は決まっておるのです。某としては、辿る道はできるだけ平坦な方が良いですし、この話は河村殿にも利がある故持ってきただけの事」

(斎藤義龍にチクられたら、やべーー!そんなんされたら、どうなるかわからないし!)

希美はすましていたが、本心は心配で吐きそうである。


久五郎は眉をひそめた。

「大筋?何を言っておるのだ?」


希美は鼻で息を吸い込んだ。

そして静かにそれを吐くと大事を告げ…………きれなかった。



「りゃいにぇんの事で御座る……」

「え?何て??」


(嘘でしょ……こんな大事な所で噛む??)

希美は自分の無能ぶりに愕然とした。

久五郎の目が生暖かい。

(くそっ!こっち見んな!おい、重臣!足つねっても、鼻息が笑ってんだよっ)


ちょっと妙な空気になってしまったので、希美はボソッと「仏罰……」と呟く事で、多少空気を戻した。

久五郎はともかく、重臣三人は信仰心が厚いようだ。ちょっと青くなっている。

(ごめん、当たんないよバチなんて。当たるとしたら、完全に私だよ……仏様、サーセン)

希美はどう転んでも残念な人である。




ともかくも、希美は仕切り直した。

「来年、んんっ、来年の初夏。」

「来年の初夏がどうしたというのです?」

久五郎の目が和んでいる。しかし、次の言葉で凍りついた。


「斎藤義龍が、死にまする」





ジーッ、ジーッ、ジーッ

ジワッ、ジワッ、ジーッ、ジーッ……


蝉の声が室内に響いている。

誰かが唾を呑み込む音が聞こえた。



「……それは、予言か?」

久五郎の声が震えている。

「予言ではありませぬよ。決まり事に御座る」

希美は静かに伝えた。

(え、死ぬよね?死なないとか無いよね?死ななかったら、私終わるから!!やべー、こええ!!)

心の中は、騒がしかった。




久五郎は一瞬放心状態になったが、すぐに頭の中を目まぐるしく働かせ始めた。

(殿が来年死ぬ?真か?いや、死ぬとしたら、これはかなりまずい事になる。後継ぎはおるが、あの年若い喜太郎様ぞ……宿老達がお支えすれば……いや、もし暗君と為らば……宿老達が見限れば……)

「斎藤は、擦り潰される……」


「殿!?」

「斎藤が滅びるなど、馬鹿な……」

思わず出た久五郎の声に、重臣達がざわめいた。




「美濃は織田のものになりまする」


希美の言葉に、ざわめきは消えた。

久五郎は疲れた声で聞いた。

「それも決まり事か」


「然り」


「そうか……」

久五郎は溜め息を吐いた。



希美はそんな久五郎に、思い出させるように言った。

「大筋は決まっている。が、辿る道は、選べまするぞ」

久五郎は希美を見た。

「河村殿を拾った道三殿は既におらず、今の主君も死ぬ。美濃が織田のものになるのも決まっておる。それでも斎藤と運命を共にするというなら、それも良いでしょう。なに、某等は多少遠回りになるだけの事」


希美は久五郎に従う重臣達を見た。久五郎も希美の視線の先を見た。

「『河村久五郎』が守りたいものは、道三殿を弑した者達ですかな?それとも……」




久五郎は選択を迫られた心持ちだった。


(あの日以来だ)

久五郎は昔を思った。

(織田家からの無理難題。濡れ衣。捨てられるは間近だった。津島衆として死ぬか、築いたもの全てを捨てるか迷った。あの時は、悔しさと、守る者と、生きよと押してくれる者がおったから……)

久五郎の脳裏に、道三の顔がよぎった。

(あの方のためならば、一族郎等道連れにして死ねようの……)

久五郎はもう一度家臣等を見た。道三が死んだ後、道三を弑した男を主と仰いだのは、久五郎に守る者等がいたからだ。

義龍という主の下ならば、守れると思ったからだ。

その義龍が来年には死ぬ。

(嘘であれば……)




目線を下げ深く思考する久五郎に、希美はあえて名前で穏やかに呼び掛けた。

「なあ、久五郎殿。某の言葉、信じられぬでしょうなあ」

久五郎は顔を上げ、希美を見た。

「某は、返事を急ぎますまい。久五郎殿も混乱しておりましょうしな」

「柴田殿」

安堵したかのような久五郎に向かい、希美は凄みを利かせた。

「だがの、『河村』殿。来年、初夏。斎藤義龍が死んだ時はすぐに腹をくくりなされ。我等は速い。森部での戦は、義龍の死から時を置かぬでしょう」




久五郎は、仏の予言が当たらぬよう捨てた神に祈った。


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