表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/249

人事異動は突然に

眠すぎて頭が働きません。もうだめだ……

「いや、やはり柴田殿は面白い」

今まで黙っていた長秀が耐えきれぬように笑いながら言った。

「天王寺屋も、織田の動向が知れると期待して文を開けたら、食材の無心ばかり。とんだ肩透かしを食うでしょうなあ」

「なるほど、柴田殿は天王寺屋を翻弄し、情報の撹乱を狙っているという事か」

一益も合点がいったとばかりに勝手な事を言っている。


(いや、そこまでは考えてなかったんだけど。敢えてこの流れに乗るか?!柴田勝家知将伝説が増えるチャンス?)


「わかってしまいましたか」

希美は半笑いで流れに乗っかった。

信長は胡散臭そうにこちらを見ている。



「そういえば、柴田殿は御仏にお会いなされたとか。もはや柴田殿の御名は知勇に止まりませぬなあ」

長秀の言葉に、信長がはっと目を見開き希美に詰め寄った。

「そうじゃ!それじゃ!その方、全て報告せよと言うたのに、なぜそれを言わん!?御仏に会うたなどと訳のわからんことを言い出しおって!!」

(ちょっ、唾が散ってるから、もう汚ない!……あれ?でも信長の唾って、レアじゃね?現代だったら浴びたい奴いっぱい居そう。だが、私は嫌だ)

信長に胸ぐらを掴まれながら、また希美はどうでもいい事を考えていた。が、信長の追及には答えなければならない。希美は正直に答えた。


「忘れておりました!」


テヘペロである。

信長は、おっさんのテヘペロにぶちキレた。



「お前という奴は、御仏に会うたなどと言うから間者に入り込まれ、命を狙われたのであろうがっ!!末森を間者だらけにしおって!何故斯様な嘘を吐いたっ。吐けぃっ!!」

げしげしと希美を足蹴にする信長を一益は羽交い締めにして止め、長秀はにこやかに眺めている。

希美は考えた。

(流石に、信長は信じないか。比叡山焼き討ちマンだもんな。でもここで嘘だと言えば、こいつが妙な縁談を持ってくる可能性もあるし、最終的にお市との結婚フラグはぶち折っておきたい)


「殿、御仏の件ですが、真の事なのです」

「……なんじゃと?」

信長が動きを止め、希美の上から足を下ろした。

「以前殿より膳をぶつけられた折、死んでしもうたらしく、御仏が迎えに来られたので御座る。死にとうないと暴れて迎えを拒みました所、この世に留まる条件として女犯を禁じられ申した」

「そんな馬鹿な……」

「馬鹿も何も事実に御座る。故に某はもう女と交わる事はありませぬ」

希美の真剣な眼差し(大嘘)を受けて、信長は戸惑った。その話が本当だとすれば、御仏はともかく、あの日信長は勝家を癇癪で殺した事になる。

信長は、ちょっと負い目に感じた。


はたして、信長は折れた。

(そういう事もあるのかもしれぬ。……だが)


「それとこれとは話が別じゃ!天王寺屋の件といい、そのような大事を何故わしに報告せんのじゃ、このうつけ!!」

「それは誠に申し訳ありませぬ」

希美は素直に頭を下げた。

(確かに上司への報連相を怠っちゃいけないよね)

「わしに話しておれば、間者対策もわしがしてやれたのじゃ。馬鹿めが」

(あれ?これ、心配してくれてんのかな。やだ、ツンデレ)

何だかんだ言っても、良い上司なのだ。

希美は信長の事がちょっと可愛く思えてきた。


「おい、そんな目でわしを見るな」

希美を嫌そうに見た信長は、すこし距離をとって座り直した。


「権六、その方に与力をつける」

信長の言葉に希美は眉をひそめた。織田家という親会社から、柴田家に与力という社員が出向してくるのだ。

「与力ですか、どなたで?」

「おい、彦右衛門」

信長に呼ばれ、一益が進み出た。


「滝川彦右衛門一益で御座る。今後は柴田家の与力として励みまする」

「はあ?!」

(与力にするには、年も実力もありすぎるだろう!)

のけ反る希美に、信長は鼻を鳴らした。

「ふん、しばらく貸しておくだけよ」

「ふふ、殿は柴田殿のお命を狙う間者共の対策のために、甲賀衆をまとめる滝川殿を与力につけ為されたのですよ」

長秀の説明に、希美は完全に信長を見る目が変わった。

(流石戦国スーパーヒーロー織田信長!!こんなん、惚れてまうやろー!!)


「殿、ありがとおぉ!」

「うわ!抱きつくな!なんじゃ、お前は趣味ではないわ!わしは元服後あたりの若馬の如き男が良い!!」

「お巡りさん、こいつです!!」

思わぬ信長の嗜好に再度見る目を変えた希美は、飛び退き後ずさった。




「さて、殿。お戯れはこのあたりに為されませ」

長秀の言葉がこの説教タイムの幕を引いた。


信長とて暇ではない。

この説教タイムの肝は、『一益を柴田勝家の与力とする』という人事異動通知だったようだ。

それが終わってしまえば、美濃攻めについて長秀と兵糧の相談があるとかで、希美と一益は退出する事となった。



しかしこれで終わる闇米ではない。

去り際、今回の闇米はまともだったなあ、と安堵した希美の耳許に、長秀は囁いた。


「柴田殿、柴田殿と御仏の邂逅の話、心打ち震えて御座る」

「うひゃぅ!」

油断していた所への不意打ちと、耳許に息を吹きかけられた事で思わず変な声が出た希美に、長秀は重ねて言った。


「あの尊きお方に暴行を加え、脅しつけて現世へ戻られたとは、某、昂り過ぎて果ててしまう所でした……」

希美はギョッとした。

「そんな事は全く言っておらんわ!お主、バチが当たるぞ」

「ふふ、柴田殿と共に当たる仏罰なら、某も本望というもの」

「さらっと私まで仏罰の仲間に入れんな、この野郎っ」

長秀がとろりと希美を見やった。

「ああ、昂りが止まらぬ。某が女であれば、今すぐ柴田殿を押し倒しておる所……」

「それ、私を殺す気ですよね」


長秀は、恍惚としている。

(信長さん、間者よりも危険な奴がお前の側近なんだが……)


希美は闇米に絡まれぬよう、とっとと魔王の部屋を逃げ出したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ