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勝家はん課長4

寝落ちしてました……

「てめえが茂吉を助けたって浪人か」


(ぷ○さんだ。ぷ○さんがいる。目の前に。)

ぷ○さんとは、例の上半身だけ服を着て下半身はは丸出しの、もし人間であれば逮捕待ったなしな格好をした小熊である。

当然、あのキャラクターが現実に、それも戦国時代に存在しようはずもない。

だが、希美の目の前にいる男は、そのぷ○さんによく似ていたのである。


(別にこの人の頭に熊耳がついているわけでも、全身が黄色いわけでもないのに、そこはかとなく漂うこのぷ○さん感。つぶらな瞳、小太り、全体的に愛らしい……なのに、なぜ声がバリトン!)

深く思考の海に沈んでしまった希美を、次兵衛がこっそりとつつき、現実に戻した。


「あ、ああ。俺が助けた。ちょっと面白そうな相手だったんでな」

ぷ○さんは訝しげに希美を睨んだ。

「面白そう、だと?」

「俺達がこの茂吉と行き合った時、三人男が斬り倒されていてな、武芸者と思しき男が茂吉を斬ろうとしておった。なかなかの手練れと見えたので乱入して斬った。いや、面白き相手だったよな、゛次長之進゛」

希美があごをなでながら、ニヤリと笑って次兵衛に話を振る。

「左様。゛課長之介゛が追い込まれた所は久しぶりに見たな」

次兵衛は即座に希美に合わせた。

「いや、追い込まれたといっても一瞬の事。すぐに立て直して逆に斬ってやったわ」

「然り然り」

希美と次兵衛が笑い合う。茶番であった。

しかし、盗賊団に信用されるための茶番だ。

茂吉も参戦してきた。

「お頭、本当にすごかったんですぜ。こう袈裟でズバッと……」

「てめえは黙ってろ!」

ぷ○さんが怒鳴った。そして胡散臭げに希美等を見た。

「それで、わしらの仲間に入りたいと?」

希美は鼻を鳴らした。

「ふん、俺達はそこの茂吉に誘われたのよ。まあ、儲け話があるなら誘いに乗るかとやってきたが、俺達を雇う気はあるのか?」

「実力次第だな。おい、平五郎さんを呼んでこい!」


盗賊(子分)に連れられてやってきた平五郎さんは、「お前達か、勘違い野郎は。お前の武芸など子どものお遊びだったってことをわからせてやるよ」とニヤニヤしながらかかってきたので、希美は遠慮なくボコボコにした。

平五郎さんは、うずくまって倒れている。

(どこかで同じような光景を見たな……)

まあ、かませ犬的な人物はみんな似たような末路を辿るものなのだろう。



結果、ぷ○さんは希美達を受け入れた。

「わしは、この盗賊団を率いる斉賀風太郎という」

「俺は、総務課長之介、こっちは経理次長之進だ」

ひどいネーミングセンスだった。

希美は自分の事は完全に棚に上げ、笑いをこらえた。

(こいつ、ふうたろうっていうのか!ぷ○さんに寄せすぎだろ、風太郎の親よ。これ、完全に私に、プータローって呼ばせたいよね)

「よし、プータローと呼ぼう」

口から出ていた。

「はあ!?お頭と呼べよ!」

「いや、せっかく仲間となるのだから、親しみをこめてみたのだが、嫌だったか?」

希美は内心焦りながら、適当に誤魔化した。

ぷ○さん、もといプータローは小さな声で呟いた。

「…………別に、嫌なわけじゃねえけどよ」


(プータローがデレた!!)



希美と次兵衛は一通り寺の中を案内され、僧坊の一室を与えられた。

身の回りの世話をさせるためと、茂吉もつけさせた。

プータローは「何で世話なんて必要なんだよ」と訝しんだが、希美が「良さそうな尻だからかな」と含み笑いをしてみせると、顔をひきつらせ「おし、茂吉に世話をさせよう!気張れよ!」と言い、足早に去っていった。


部屋に入り、三人きりになってから希美達は今後を話し合い始めた。

「さて、上手く入り込めたの」

希美は、ほっと安堵の息を漏らした。

「殿はなかなかの演技にて」

次兵衛が笑って言う。

(まあ、こっちに来てからずっと柴田勝家になりきっているからね)

茂吉は情けない顔をして言った。

「わしは、上手うやれておるか、心配で……」

そんな茂吉に、希美は助言した。

「茂吉よ、ギヤマンの面を被るのだ……」

茂吉は仰天した。

「ギヤマンの面なんて貴重で高価げなもんを?!」

「まことの演技達者は、千のギヤマンの面を持っているらしい」

「ほぇー、演者とはそがいに儲かるんですかい、あやかりてえ……」

二人は話が噛み合っていなかった。


次兵衛が咳払いをする。

「それよりお二人とも、今後の事です」

「ああ、拐ってきた者達の居場所も知れたしな」

「寺の中については絵図面を私が描きましょう。予想では明日か明後日には、《試し》をすることになるはず」

「盗賊の仲間と認められるために、略奪をしてくるのだったな」

希美の言に茂吉が頷いた。

「へえ。奪ったもんは、仲間みんなで分け合う事になるから、皆が集まります」

希美は薄らと笑う。

「奪った荷が大量の酒であれば、こぞって集まるだろうの。酔いつぶれた所で、茂吉が山門の閂を外し合図を送る。……後はお楽しみよ」

次兵衛は茂吉に

「茂吉、試しに行くと決まり次第、荷の手配と絵図面をお前に託す。繋ぎ役にしっかと渡せよ」

「はいっ」

茂吉が力強く応えた。


いよいよ捕物である。

全員命のあるまま捕縛、とはいかぬだろう事を希美は理解していた。

(命を背負う、か)

希美は、勝家の言葉を思い出していた。


(奪ったならば、最後まで私が連れていくよ)


障子に映る日影が橙の色を帯びている。

次兵衛と茂吉の影も濃くなった。


そろそろ、逢魔が刻である。


狼牙風風拳って、もう使わないんでしょうかね……

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