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変態不可避ロード

信長からの呼び出し。


希美が待ち望んでいた事である。

このまま遠ざけられて、信長に会えなくなるのではないか。

必要とされなくなってしまうのではないか。

希美はこのふた月、そんな不安に苛まれていた。

それは、加賀の尾山御坊で、抜きに抜かれた柴田勝家のぞみの無駄毛の総量が物語っている。


それが、ようやっと、信長と会える機会が巡ってきた。

それも、信長から、希美をお誘いしてきたのだ。

もちろん希美は喜ぶべきだし、実際嬉しくは思っている。

きっかけを作ってくれた顕如に、お礼の一つもすべきだろう。


だが、問題はその顕如だ。


一向宗本願寺派宗主の顕如は長年、えろ教の神である希美を仏敵として憎み、排除しようとしてきた。

それはそうだ。

宗教掛け持ちOKのえろ教の勢いは留まる所を知らず、一向門徒の中に多くの隠れえろを生み出したのだ。

ある時、顕如が隠れえろ狩りを始めたので、希美が大坂まで隠れえろを助けに行った。その時は、一向宗本願寺派の尼『筑前尼』として顕如の妻である御裏方様の侍女として潜入したのだが、顕如は女装姿の希美(笑)を見初め、妻にと望んだのである。

それ以来、顕如は『筑前尼』に執着し続けた。

『筑前尼』をえろから取り戻し、手に入れるために、各地に一揆を誘発させ争乱を起こすほどに。


だが、顕如はまだ知らない。

己れの憎んだえろ教の神『柴田勝家』が、己れの愛した『筑前尼』であるという事を。


このまま信長と会談に臨めば、柴田勝家と筑前尼が同一人物でる事がバレてしまう。

まずい。完全にまずい。

希美は信長の待つ、京の都は本能寺へと向かう道中、どうしたらよいかとぐるぐる考え続けていた。



まだ整備の行き届かぬ道を、越前を抜けて敦賀で泊まり、そこから南下して愛発席あらちのせきを越えて、古い街道をさらに南下する。

すると、琵琶湖が見えてきた。

北近江の景である。


希美達一行は琵琶湖の西を行かず、浅井氏の居城である小谷城へと向かうルートをとった。

当主で織田の同盟相手の浅井長政に挨拶し、そのまま南下して六角氏の居城である観音寺城で六角義治に会うためだ。

織田の一武将としては、正しい社交ルートだ。

ただ、希美としては大変危険が危ないルートでもある。


なぜなら……。




「おお、えろ大明神様!こちらに参られる事は、あなた様の眷属たるわしには、とっくにわかっており申したぞ!えろ大明神様の発するえろの気が、わしの身勝手に暴走する聖槍に祝福を与え、鎖で縛りつけても元旦から噴火が止まりませぬわっ!!」


小谷城の広間に、変態武将の興奮した声が響いた。

希美が恐れていた通り、当主の浅井長政と共に、竹生島に封印されていた筈の先代、浅井久政へんたいが痛々しくも堂々と出迎えたのである。

げんなりした希美は、とりあえず彼の思い込みを訂正しておいた。


「お、落ち着け、浅井下野守(久政)。我等が加賀を発ったのが三日前だ。計算が合わんだろうがっ。つーか、お前は元旦からナニやってんだ!」

「近江の湖を白き聖湖に変えるのが、我が一生の使命……」

「やめい!!お前はともかく、近江の湖周辺のみんなが使用する貴重な水源だぞ!みんなに白き聖水飲ませてんじゃねええ!!」

「おお、言われてみれば、確かに皆がわしの白き聖水を……!うおおお!!噴火がっ、琵琶湖へ放流せねば!えろ大明神様、急ぎますので御免っ」


「「「……」」」


浅井久政は、広間から慌てて出ていった。

小谷城を飛び出し、琵琶湖へ走っていくのだろう。

琵琶湖の水質汚染が彼のライフワークなのだ。

非常に迷惑な男でもある。


「す、すみませぬ……」


浅井長政が、身を縮ませて頭を下げている。


「ええんやで……。君がまともに育ってくれてる。それだけで、おばちゃんは嬉しいんや……。あ、これ、今度柴田屋(うち)で売り出した『殿の乳首焦がし』なんやけど、これでも食べて元気出しや……」


希美は気の毒過ぎて、思わず謎の関西弁で長政を慰めた。

正直、息子の長政があれに染まってないだけ、奇跡である。

希美はひと晩小谷城へ泊めてもらい、小谷城を後にした。




希美等はその足で観音寺城に寄った。

六角義治と義定兄弟は、父承禎亡き後も、力を合わせて南近江を治めているようだ。

元気そうな彼らと六角家臣団の様子を確認し、手土産と売り込みのために『殿の乳首焦がし』を渡し、一晩泊めてもらってから、希美は朝早く逃げるように観音寺城を後にした。


「それにしても殿、このような夜も明けぬうちから出立されるとは。それに、妙に急いでおられる。何か観音寺城でありましたかな?」

道中、供についてきた河村久五郎に尋ねられ、希美は首を横に振った。


「いや、観音寺城のもてなしはありがたかったし、満足のいくものだったよ。ただ、この地はできるだけ早く通り過ぎたいんだ」

「何故に御座る?」

「観音寺城から少し行ったところに、うちの殿が安土城を築いているのを知っているよな」

「えろ」

「ナチュラルにえろ弁挟んでくんな!……まあとにかく、あそこには闇より昏い漆黒の米がある。あれを無理やり食らわされたくない」

「はあ」


久五郎は、首を傾げながら頷いた。

希美は、何やらキョロキョロ警戒しながら、道を急いでいる。


(うん、大丈夫そうだ。丹羽長秀の奴、安土城建築の指揮で忙しいのかもな!あいつなら、ひょこっと行く手に現れてもおかしくはないから、警戒するに越したことはないけど)


希美は、『闇米』丹羽長秀の出現を警戒していたようだ。

だが、辺りを見回しても、太陽の下で黒装束の伊賀・甲賀忍者達が何人か並走しているくらいで、特に異常はない。

希美は、それでも警戒を続けながら、大津の石山寺にその日の宿を求めた。


奈良時代創建の石山寺はその昔、紫式部が源氏物語の着想を得たそうで、観音信仰の寺である。

剥き出した珪灰石の不思議で力強い景観と、その岩盤の上に立つ寺の妙が古くから人々を惹き付けてやまない。


(さて、大津に来たし、京まで後少し。ここまで来ればもう丹羽長秀も現れないだろう)


希美は寺の宿坊でそんな事を考えながら、床についた。



夜中。


希美は、何やら胸元に温かさを感じ、目が覚めた。

寝ぼけ眼で、何の気なしに胸元を見れば、薄ぼんやりとした光に浮かび上がる全身真っ黒な人。


「くぁwせdrftgyふじこlp!!!?」


あまりの恐怖に、目を剥いて声にならぬ叫び声を上げる。

だがその黒尽くめの人は、希美がこちらを見ている事に気付くと、真っ黒な頭巾を取り、うっとりと微笑みかけた。


「おや。目覚めてしまいました?いやあ、私も『乳首焦がし』なるものを食べてみたくて……。こうしてこっそりと焙って食べてしまおうと思ったんですが、バレちゃいましたねえ」

「に、ににににににににににわ、にわ、にわ……」


黒い人は、黒い忍者服を着た丹羽長秀であった。

希美は、恐怖で強ばる体を鞭打って、首だけ動かし、胸元をよく見た。

丹羽長秀の手には火のついた蝋燭が握られ、己れの単は、胸元がはだけられ乳首が露出している。

希美の大胸筋をよく見てみれば、溶けた白い蝋が転々とこびりついてる。


「ふふ……あなたが近江に入ったと報告を受けて、小谷城にいる時からずうっと、近くで見ていたのですよ。浅井と六角に渡した『乳首焦がし』。食べたくて食べたくて機を伺っていたのに、なかなか隙を見せないのだから」


丹羽長秀は真っ黒な瞳で笑んで、希美の胸元に目を落とした。


「ああ、焦げてなくても、美味しそうだなあ。……ねえ、食いちぎっても?」


長秀が蝋燭の火を希美の胸に押し付けた。

火が消えて、視界が闇に包まれた。

しかし、闇米は触感でその存在を希美に伝えている。


ふいに希美は、胸を噛みきろうとするような衝撃を覚えた。


「くぁwせdrftgyふじこlp!!!?」

「あははっ!全然、噛みきれない♪」


希美は、心の底から、恐怖の夜を味わった。

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