神保長織の反撃
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そして、今回の話もまあまあ酷いので、先に謝っておきます。
ごめんなさい。(土下座)
希美の指示で、極楽経験者以外の柴田・武田連合軍は、すぐに小舟に乗り込み対岸の増山城を目指した。
対岸に着いた小舟は、船頭役以外の兵を下ろしてまた川原に戻る。そうしてまた兵を積み込み、対岸に渡った。
その繰り返しで、最終的に計八千もの連合軍兵士が増山城へと雪崩れ込んだのである。
さて、希美は川原側で兵の輸送を管理する総責任者として上杉輝虎を残し、河村久五郎、斎藤えろ兵衛(龍興)等を従え、ピストン輸送第一陣の小舟で対岸に渡った。
ちなみに信玄も武田の家臣達と、第一陣の別の舟に乗っている。
輝虎を川原に残したのは、信玄と輝虎の物理的な距離を確保したい希美の人員配置の苦慮であるが、まあそれはよい。
計画としては、希美は神保長織の確保をし、武田軍と柴田軍とで圧力をかけながら、城内の者達へ降伏勧告する。そんな取り決めである。
対岸に渡り、先ほど神保長織らしき尻があった所にたどり着いたが、そこには何やら嫌な匂いと、人の体から排出されたらしい様々なアレやコレやが撒き散らされているばかりで、長織の姿は見えない。
流石に、こちらが舟で渡っているのを見て、慌てて城中に逃げ戻ったのだろうか。
「む……まだ温かさが残っている。つい先ほどまで、この上に人が座っておったという事。つまり、神保長織は、この近くにまだおりましょう」
甲賀忍者の多羅尾四郎兵衛が撒き散らされたアレやコレやに手を突っ込み、名推理をかました。
希美は、鼻に皺を寄せて後退る。
「推理の仕方が超絶汚ねえ……。まあ、いいや。おい、聞いたか、お前達!ここら一帯を探せ!まだそう遠くには行ってないはずだ!!」
「「「「「応!!」」」」」
連合軍の声が揃った。
希美は多羅尾四郎兵衛に、きつく命じた。
「お前は今すぐ、そこの川で手を洗ってこい。石鹸代わりにムクロジの実をやるから、必ず指の股や爪の間まで、丁寧に汚れを落とすんだぞ。いいな!」
「ははっ」
希美は懐に手をやろうとして、全裸なのに気付き、傍にいたてるからムクロジの実を分けてもらい、多羅尾四郎兵衛に手渡す。
四郎兵衛は、川へ向かった。
希美は先ほどの光景を思った。
多羅尾のあの手は、適当に手拭いかなんかで拭いただけでは許されない手であた、と。
希美は、走り去る多羅尾の背を眺めて「うむ」と頷くと、自身も神保長織の捜索に加わったのである。
さて、人海戦術で神保長織が戻ったであろうルートや、それ以外の場所も、神保兵と遭遇する度に小競り合いしながら探してみたが、長織らしき人影は見えない。
「いないな、神保長織」
そうぼやいた私に河村久五郎が言う。
「もう城中へ戻ってしまったのでは?」
「それにしても道中に影も見えないなんておかしいわ。タラちゃん(多羅尾)の見立てだとまだ近くにいるみたいだったし。逃げ戻る姿が見えてもおかしくはないと思うのだけど。城の様子もなんだか不穏な気配がするのよね……」
てる(下間頼照)が、山の中腹から山頂にかけて築かれた山城を見上げた。
もっと山を登って門や曲輪に近付きたいが、近付き過ぎると矢や鉄砲を射かけられる。
それ故に、希美達は、堀代わりの川を渡ったはいいが、山裾で二の足を踏んでいるのだ。
あるいは、このまま長織など気にせず、一気に攻め滅ぼすのも一つの手だろう。
だが、そうすると多くの兵と時と糧食を失う。
冬の戦は堪える。
日数が経つほど凍死する者も増える。
だが、首魁の神保長織を手中に収めれば、頭を失った家臣共を降伏させる事もできよう。
故に希美と信玄は、長織捜索を続けているのだ。
「よし、現場百回だ。何か手がかりがないか、神保汁のあった所に戻ってみよう」
『嫌な匂いのするアレやコレや』は、希美によって『神保汁』と命名された。
そんなのは死ぬほど、どうでもいい。
さて、神保汁の跡が凄惨さを物語る現場に戻ってきた。辺りには、ピストン輸送された連合軍兵達がうろうろしている。
現場は特に変わりはない。
草木が繁り、地面には神保汁が飛び散っている。
神保汁は複数箇所あり、その量も多い。
片膝をついてそれらに手を突っ込みながら、多羅尾四郎兵衛が希美を見上げた。
「恐らく、一人の量ではないですな。何人か……そうですな、五、六人はいた量でしょう」
「なんで、いちいち触らないと推理できないんだよ!てか、よくそんなもの触れるな。私は見てるだけで吐きそうだわ」
「ハッハッハッ、甲賀の忍びの修行場では馴染みのあるものに御座る故」
甲賀忍者は何の修行をしているのか。
希美はすぐさまムクロジの実を多羅尾四郎兵衛に渡して、川へ行かせた。
その後、希美達は現場をうろつき、痕跡を探した。
しかし容易ではない。
思ったより草が繁っている。神保長織のいた辺りは、まだ拓けてはいたが、ちょっと山側に向かうと希美の腰ほどの高さの草が葉を広げており、その茂りに茂った草から繋がるように、山の斜面に移行する。
斜面はかなり急角度で、天然の城壁だ。
「流石に、この崖を登らないよね……」
「まあ、登っていたら我々から見えておりましょうな」
希美の呟きに久五郎が答えた。
そこへ、思案していたえろ兵衛(斎藤龍興)が考えを口にした。
「先ほどまでは、城への戻る道筋を考えて探しておりましたが、隠れた通路があるのやもしれませぬな。」
「なるほど、隠し通路か」
えろ兵衛にアイデアを得て、希美は少し考えた。
(隠し通路。よくゲームでは、壁か玉座の裏なんかを『調べる』したら、通路が発見されてたよなあ)
希美は、スーファミ世代である。
それはともかく、希美の目の前には、壁の如くそびえる山の斜面。
これは『調べる』しかない。
希美は、壁(斜面)に近付く事にした。
草むらをかき分ける。
かき分ける。
かき分ける。
かき分け……ガッ!何かに躓いた。
バランスを崩した希美は、前のめりになりながら、何か柔らかいものをかき分けた。
※。
希美の目に、ほぼゼロ距離で飛び込んできた※。
一瞬理解が追い付かず、希美はフリーズした。
すうううう……。
そんな希美の顔面へ吹きつけられた、一陣の風。
サイレントポイズンウィンド。
肉体チートで強化された嗅覚が、希美に最大限の苦痛を与える。
しかし、やはり肉体チートによって、卒倒もできない。
ただただ、苦痛。
まさか、肉体チートがこんな所で仇になるとは。
しかし希美は、目の前に穿たれたものが何であるか理解した。
そして、自分が何をかき分けたのかも。
誰ぞの尻だ。
「き、きぃやああああああ!!!」
尻の持ち主も、あまりの事にフリーズしていたのか、ようやく悲鳴を上げた。
つられて希美も雄叫びを上げる。
「ぎいやああああああ!!!露出魔あああああ!!!」
ばっごおおーーん!!
希美は、思わず尻たぶを張り手した。
酷い話だ。希美とて全裸なのに。露出魔はお互い様だろう。
それも、向こうは半裸だ。
どちらかといえば、全裸の希美の方が、より露出しているのでギルティだ。
そんな『お前が言うな』略して『おま言う』の希美に平手打ちされた尻は、持ち主ごと斜め前方に飛んでいき、山の斜面に激突して崩れ落ちた。
「「「「「と、殿おおお!!!?」」」」」
草むらの中から、神保家家臣らしき武者達が下半身丸出しで立ち上がった。
どうやら草むらの中に隠れていたようだ。
つまり、先ほど飛んでいった尻は、神保長織……。
思わぬ展開に、河村久五郎等柴田勢は丸出し武者達をぐるりと囲み、得物を向けて警戒する。
神保勢は、こうなっては最早逃げようという気も起こらぬのか、囲まれたまま動かない。
しかし、何故か希美が、現場から逃走した。
「お、お師匠様!?どちらへーー!」
「手に!手になんかついた!!神保汁ついたーー!川ああ!石鹸手洗いいい!!!」
希美はそのまま斜面を転がるように駆け降りていく。
そして実際慌て過ぎたのか、何か木の根に躓いて、そのまま川に転がり落ちていった。




