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信玄の変化

後方に待機していた武田軍と柴田軍が駆けつけた事により、この世の極楽じごくは終わりを告げた。

希美が、必えろ技をかけ続ける河村久五郎に、ストップをかけたのである。



「久五郎、今すぐ必えろ技を止めろ!地獄ごくらくの規模が広がってしまう!」

「むしろ広げてはどうですかな、お師匠様?一気に武田軍をえろ化できますぞ?」

「てめえ、見てみろこの惨状を!サンドイッチ武士の数珠繋ぎだぞ!?敵も味方も忍者も足軽も、みんなで数珠!輪になって踊ってんじゃねーわっ」


すごい。武士と武士とが前後で繋がり合い、それが行列のように伸びている。

その行列を辿っていけば、いつの間にか最後尾と先頭が繋がっており、まさに輪の状態で、まるでリズムをとるが如く全員がテンポ良く動いている。

その数、人数の少ない輪では、数十人。多い輪は、百人を超す。

これはもう、ギネスに申請せねばなるまい。


「これぞ、えろのもたらす真の平和也……」

「こんな平和、糞ミソ喰らえええ!!!」


もし規模が広がり、全員で繋がったらさぞ圧巻であろうが、そんな光景など見たくない希美の命令により、久五郎は渋々必えろ技を解除したのである。



そしてかつての戦場は、祭りの跡となった。

戦意を喪失し、未だ極楽の余韻から抜け出せぬ敵味方の武士がそこかしこにへたりこんでおり、今だけ武士から賢者に転職した者達が、悟りを開いたような眼をして空を見上げている。

そこへ駆けつけた両軍は、鼻を摘まみながら負傷者を運んでいき、敵である神保兵を拘束して連れ出していった。




「平和とは、いいものであったな……」


数珠玉の一人から、戦国武将武田信玄に戻ったその男、信玄は、座り込んだままぽつりとそう呟いた。

これまで領地を守り、広げるために、武田の頭領として君臨し、武田の者達を牽引してきた信玄である。

特別であるが故に、その課せられた責任は重く己れにのし掛かる。

誰が敵で、誰が味方か。

時には味方を敵と為して家中の結束を謀り、戦いに明け暮れるのが当たり前の日々。

そんな修羅の毎日が、武田信玄の生き方であった。


しかし、極楽じごくでは違った。

誰もがえろの前に等しく一人の人間であり、繋がる相手が誰であろうと、えろは等しく快楽を与えてくれた。

気が付けば、信玄は誰やらに接続し、誰やらから接続されていた。

接続した者はまた誰かに接続し、そうやって、皆が一つになる。

大いなるえろの快楽の中、信玄は誰でもない男であり、えろの一部となった。

誰も疑わず、謀らず、殺さず。そんな事が酷く幸せだった。


その幸せをもたらしたえろの神、それが目の前に立つ男、柴田勝家だ。


柴田勝家は、確かに死なぬ男だ。考えの甘い男でもある。

だが、信玄や武田の家臣達を死なせまいと、千手……千えろ?観音と化してまで、敵の矢の前に立ちふさがったあの気迫よ。

その背は大きく、尻は引き締まり、己れの弱さ、矮小さを理解させられた。

負けた、と思った。強さでも、度量でも。

信玄達を救おうとするあの懸命さは、本物だった。

この乱世において、真に信頼できる存在だと、信玄は思い知らされたのだ。


争いを好まず、敵となった自分を守ろうとした心優しき強者、柴田勝家。

その男が、信玄に向かって口を開いた。


「よし、すぐに神保を攻めるぞ!」

「そうか……やはりお主は神保を許し……はあ!?攻めるじゃと!?」


柴田勝家である希美は、呆れたような目で信玄を見やった。


「賢者タイムで腑抜けたのか?信玄らしくもない。対岸のあそこを見ろ。あそこで尻丸出しで倒れてんの、多分裏切った神保長織だろ?そんでこちらには、神保の兵が乗ってきた大量の小舟と、駆けつけたばかりの柴田・武田連合軍。いつ攻めんの?今だろーが!!」

「お、おま……、争いたくないんじゃ……」

「は?争いたくないに決まってんだろ?でも、あいつのためにこっちは全裸になってまでお前と話し合ってんのに、裏切って殺そうとしたんだぞ。死傷者だって出てる。この世にあんな地獄ごくらくが出現したのも、あいつのせいだ!神保にお仕置きせねば、死傷した者にも、えろに堕ちたサンドイッチ武士達も、浮かばれねえわ!」


サンドイッチ武士は死んでない。

極楽じごくを味わい昇天したかもしれないが、死んではいない。


そして希美は、今がアタックチャンスであると理解していた。

すぐそこで神保長織等が事後で呆けている今なら、ほとんど犠牲を出さずに捕らえられる。

だが今を逃せば、奴等はまた増山城に籠り、攻め落とすのに多くの人命と糧食を食い潰すだろう。



そこへ、飯綱権現を象った兜の武者が、信玄を見下ろして言う。


「おい、生臭坊主。牙()()抜かれて、甲斐の虎が猫になったのではあるまいな?」

「ああん!?てめえ、輝虎!!牙どころか、逆鱗まで抜かれた越後の青大将が!嬲るぞ!!」

「なんじゃと?!ヤれるもんなら、ヤってみよ!」


武者は上杉輝虎であった。

一触即発の空気であったが、目が合った瞬間殴り合わなかっただけマシである。

希美が輝虎に手早く告げた。


「おい、やめろ!ケンさん、これから神保を攻める。あの小舟で対岸に渡るぞ。で、あそこで伸びてる尻出し武将を捕らえる。あれが、恐らく神保長織だ」

「御意じゃ」


了承した輝虎に向かって頷くと、希美は信玄に聞いた。


「で、お前等武田はどうする?私達はこれから攻めるけど」


信玄は、平和ボケしていた頭を切り替えた。


「取り分は?増山城をわしにくれるか?」


共同で攻めるなら、利は山分けだ。信玄は、どうせなら良い条件を引き出したかった。

だが、希美は鼻で笑って一蹴した。


「お前の取り分なんかないよ」

「はあ?何故じゃ!」

「いや、お前果たし合いに負けたし。私はお前に増山城も神保も、何一つ渡すつもりはない。お前は、私に従わないといけないんだから、取り分なしな!」


「ぐっ……!ずるいぞっ」

信玄は歯噛みしたが、希美はニヤニヤして信玄を追い込んだ。


「まあ、取り分ないし、武田は来なくてもいいよ?さっきはあいつらに散々矢をいかけられて、死傷者多数出したのは武田だけどな!利ばかりを求めて、弔い合戦も満足にできないんじゃあ、しょうがないよなあ?」

「な、馬鹿にするな!!越中に関しては取り分なんぞいらんわ!」


希美が笑う。

輝虎は、ふんと鼻を鳴らした。


「じゃあ、ここからは柴田と武田の共同な。目標は、神保長織を生きたまま捕らえる。そして、増山城を落とす」


仕切り始めた希美の言葉に、輝虎と信玄が耳を傾ける。

時間はない。だからこそ計画も端的に。



そうして希美はすっかり、自分が全裸であることを忘れて出撃したのだった。




眠くて頭働いてないので、明日また読み返して、改稿入れるかもしれません。

おやすみなさい……


気になる箇所をいくつか修正加筆して、改稿入れましたー。

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