希美、ケツ断する
令和もよろしくお願いします!
そして、またまたシリアス回!
いつも誤字脱字報告ありがとうございます!!
「今宵、お前に夜伽を命じる。応じるか否かはお前次第じゃ」
顕如を無事に多羅尾達に預け、一夜明けた後のその日の朝、人払いされた離れの部屋で信長に告げられたのは、こんなシリ滅裂な言葉であった。
希美は、一瞬何を言われたのか理解できず、目を見開いたままで信長を凝視した。
信長は、感情の読めぬ昏い眼で、希美を見ている。
希美は、絞り出すように言葉を発した。
「本気……なんですか、殿?」
「本気じゃ」
「戯れでしょ、そうでしょ?」
「戯れなどではない」
「本気で、某のししし、尻を?」
「くどい。お前の尻を差し出せ、と申しておる」
私の尻に刺して出すのはあんたでしょ……。
およそ女子が発したとは思えぬ下な駄洒落がふと頭をよぎる。何の気なしに思いついた言葉だったが、その意味を改めて理解した希美は、蒼白になった。
「な、なんで、急にそんな!?」
顔色の悪くなった希美に、信長は問うた。
「お前は、わしに忠義を尽くすか」
「そりゃもちろん!」
希美は自信を持って答えた。だが、次の言葉で、希美の自信は打ち砕かれた。
「ならば、尻でその忠を示せ。主に忠を尽くすは家臣の務めであり、主に尻を望まるるは無二の信頼の証。臣の誉れじゃ。その主の心を、お前は拒むというか?」
(なんというありがた迷惑理論か……)
希美は真顔で力説した。
「あの、殿?もう、尻で忠義を確かめるのやめません?尻で何がわかるというんですか。尻で信頼関係が生まれるなんて、まやかしです。尻はう○こ以外、何も生み出さないんですよ?」
「では、どうやってお前の忠義を確かめる?」
信長は重ねて言った。
「お前が伽を嫌がるのは知っておる。だが、わしが真に必要とすれば、忠義を尽くす家臣なら、わしのために尻を差し出すものであろう。皆、わしのために命すら投げ出すのじゃ。だが、お前に投げ出す命はない。「ならば尻を出せ」というと、それも嫌がる。お前は自由じゃ。なあ、わしの命をお前の判断で取捨選択するお前は、真にわしの家臣か?お前は河村久五郎の鎖に簡単に縛られてやるのに、主のわしがお前の心を縛れぬのか?」
「殿……」
(いや私、河村久五郎の鎖に、一度たりとも望んで縛られてないんですがそれは……)
でも、そんな事言える雰囲気じゃない。
何故なら、信長の昏い眼の奥にすがるような光が見えるのだ。
希美は戸惑ったまま、信長の言葉を待った。もっと信長の心を聞かねばいけないような気がしていた。
信長は、静かに希美に告げた。
「権六、わしは、お前との間に確かな繋がりが欲しい」
「殿……」
希美は立ち上がった。そして、信長へと向かって歩いていく。
次第に距離が縮まり、いつしか希美の手が信長の腕に触れた。希美はそのまま膝をつき、信長を抱き締めた。
「以前、こうやって私は殿に忠義を示しましたよね。あの時、殿は私の忠義を、心を信じてくれた。なのに、どうして今さら私の尻を欲しがるの?尻じゃなくたって、こうして私達は繋がれるじゃないですか」
「足りぬ」
希美の巨乳の中で信長の虚ろな声が聞こえた。
信長が希美の雄っぱいを押し返す。
希美を自身の体から引き剥がし、信長は立ち上がると希美を見下ろした。
「わしが満たされるまで、お前はただ忠を示し続ければよいのだ」
「殿、私は……」
「わしを拒むか?」
「そういうわけでは……!」
希美が答えを出せぬのを見て、信長は背を向けた。
「殿、待って!私……」
「日が落ちるまで、返答を待ってやる。心を決めよ」
「殿!」
信長は足早に去っていく。
部屋の主がいなくなり、静まり返る室内で、希美はうちひしがれた。
希美は理解していた。
自分に対して、信長が何やら拗らせていると。
思えば、少し前からおかしかった。希美による救出を拒んだ事といい、信長は希美を遠ざけようとしている節があった。
「私、どうしたらいいんだろう……」
決まっている。物語を本格的にBL化させるのだ。信長×勝家だ。
暗転朝チュンを駆使して、具体的な性描写さえしなければ、R15でいけるはずだ。
しかし、問題は暗転中に起きるであろう、尻にまつわるエトセトラ。
一方通行の出口から逆走して入ろうとするなんて、とんだ迷惑行為だ。
大痔故流血不可避である。
「こ、怖え……。リアルBL!」
思いもかけぬ事態に、希美はすっかり自分がBLチート持ちである事を忘れて、震えている。
その時、「殿、彦右衛門に御座る」と外から声がした。
滝川一益だ。
不安な時は、吐き出すべし。
おばちゃんとは、病める時も健やかなる時も、友人に心の内を吐き出しまくるものだ。
希美はダッシュで出口に走り、戸をスパンッと開け放つや、一益の胸に向かって飛びかかった。
「彦右衛門、聞いてよおおっ!」
「おわっ、権六!?」
一益は華麗に避けた。
希美は、その勢いのまま、濡れ縁を飛び越えて庭にダイブしていった。
「酷いよ、彦右衛門っ!抱きとめてよ。何故避けたの!?」
顔から地面に突っ込んだせいで頭から砂まみれの希美が、むくりと起き上がって一益に抗議する。
一益も、呆れて言い返した。
「おっさんが飛びかかってくるのを、抱きとめてやる趣味はねえよ!」
「私だって、好きでおっさんなわけじゃないわ!」
体についた土や砂をはらう希美に、一益が声をかけた。
「殿は部屋にいないのか?」
「いない。出ていった」
「は?殿の部屋なのに、お前を残して出ていったのか?」
「……うん」
途端にシュンとする希美に、一益はため息を吐いた。
一益は知っているのだ。昨日、信長から全て聞いている。
希美が忌避してやまぬ『伽』を申しつけてやる、と。
希美は、力なくのろのろと濡れ縁まで近づくと、庭に向いてちょんと腰をかけた。
背が小さく丸まっている。よほど気落ちしているようだ。
一益は、チッと舌打ちして、希美に聞いた。
「殿の伽の相手、嫌なのか?」
希美は、バッと顔を上げて一益を見た。
そうして、瞳を潤ませた。
「な、なんで知ってんの~~」
「泣くなよ、阿呆!俺が知ってようが、そんな事はどうだっていいだろうが」
一益は昨日の顕如の事件を思い出し、とりあえず希美の背中を全力で一蹴りして、足を抑えて踞った。
「鉄でできてんのかよ、お前の背中は!」
そうしてしばらく「糞っ!糞っ!」と悪態をついてから、希美の隣に腰かけた。
といっても、互いに何から話せばよいかわからず、ただ時間だけが過ぎていく。
そのまま少しの間、二人は何も話さず濡れ縁に腰かけていた。
遠くから微かに人の営みの音が聞こえる。
離れの別間に詰める小姓や周囲を警護する侍達は、黙して職務を遂行している。
ただ枯れた冬の庭だけが、静かに、気まずげに並ぶ二人の武将の姿を見ていた。
そのなんともいえぬ静寂を破ったのは、一益からだった。
「なあ、お前が昔も今もこれからも、未来永劫変わらず阿呆なのは間違いないと、俺はわかってる」
「急に悪口!?」
不満げな希美の視線を、一益は受け止めて言った。
「だけど、殿は不安なんだよ。お前の存在は、世の中にとって今や殿よりも大きいし、そんなお前は、殿の意向よりも自分の好きに生きてる。殿はお前の純粋さを深く信頼しているが、お前は自分の都合次第で自分を裏切るだろうと危惧している。なんせ、お前は本当の意味で殿に臣従していないんだからな」
「臣従なら、ちゃんとしてる!」
「だったら、なんで伽を渋るんだ!」
希美は情けない顔を歪ませて一益に詰め寄る。
「だだ、だって、怖いじゃん!尻にモノを入れるとか、怖過ぎるじゃん!?」
「てめえは、何やっても傷一つつかねえだろうが!それこそ、屁でもねえだろ、尻だけにっ!」
「なんかうまい事言った!でも、そういえば私、BLチート持ちだったわ……忘れてたっ」
「てめえなら、ケツに刀や槍を突っ込んでも余裕だろうが。さっさと、ヤられてこいや!」
「で、でも、私、不潔は無理……」
「そういう所だ、殿がてめえを信じきれないのは!!」
バキィッ!
一益に頬を殴られた希美は、そよ風にでも吹かれたように何のダメージもなく、目を丸くして一益を見た。
「……ど、どういう事?」
一益は、涙目で手を擦りながら言った。
「お前、結局は殿よりも自分優先なんだよ。お前が殿の事を好きなのは、わかってる。殿も恐らくそこはわかってるんだ。でも、お前が今殿に従ってんのは、ただ単に殿を好きだから。でも、そんだけだ。それはな、俺達みたいな純粋な家臣とは違うんだよ」
「?彦右衛門だって、殿の事が好きで家臣やってるんでしょ?私と彦右衛門の何が違うんだよ!」
希美は、声を荒げた。
一益は、ぎろりと希美を睨んだ。
「じゃあもし、上杉を殺さねば殿のお命が救えぬとなった時、お前、上杉を殺せんの?」
「そ、それは……。そんなの……」
戸惑う希美に、一益が言う。
「どっちも救うか?そんな甘い世の中かよ!世の中の理不尽なんて、戦場で散々見てきたろ?いや、敵からしたら、お前こそが理不尽の権化だ。散々殺してきたお前なら、お前に殺された人間がどうにもならなかった事くらいは理解できるはずだ」
希美は、答えられなかった。
そんな希美に、一益はさらに追い討ちをかける。
「別に上杉じゃなくてもいい。お前が大事にしてる坊丸様を当てはめてもいいんだぜ?殿と坊丸様なら、お前、どっちの命を助けんの?」
希美は、完全に沈黙した。
答えが出ないのだ。
それを見て、一益は、嗤った。
「そこで『殿』と即答できないから、お前は殿を不安にさせんだよ。俺は、家族だろうが、殿のために捨てられるよ。俺は殿に全てを賭けてるからな。織田が強えのは、家臣達が全てを賭けて殿のために働くからだ。お前が人に甘いのはもう今さらだし、そこに人が惹き付けられるんだろうから無理に変えろとも言わねえが、家族の命を犠牲にできねえなら、せめて殿のためにてめえの尻を犠牲にしろよ。お前も、殿の家臣だって言うならな」
一益はそう言うと、もう言う事はないと言わんばかりに、すくと立ち上がり、希美を振り返る事なくその場を去った。
(お前も織田の家臣だって所を見せろよ、権六。じゃねえと、お前、殿に見限られんぞ)
立ち去る一益の心中の呟きは、希美に届いたのか。
希美はずいぶんとその場に留まっていた。
ただ、庭を眺めながら。
心配した小姓に声をかけられ、「冷えますから」と熱い白湯を供されても、希美はじっと庭を眺めていた。
その白湯がすっかり熱を失い、冷めきってからしばらく経った頃、信長が離れに戻ってきた。
希美は、眉尻を下げた情けない顔で信長を見、どこか表情の強張る信長に伝えた。
「伽のお役目、謹んでお受け致しまする」と。
さあ、次回、希美はとうとうBLヒロインとなってしまうのか!?
『知将』は、ムーンライトに導かれてしまうのか!
お楽しみに★
さて、今日新幹線口の改札で、男性の駅員さんが別の男性駅員さんの手を取り、判子みたいなものを手の甲に押していたんですが、それを見てなんだかニヤついてしまった私は発酵が進んでいるのかもしれない。




