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こじれた三角関係

平成最後の更新は、シリアスで!

今回はちゃんと、八割~九割シリアスだと思います。ギャグは抑え目です。たまにはね!

なんだか知将でシリアス展開書くのドキドキですが、今話は特にシリアスの是非が問われそうですね。


それと私は、時空魔法の使い手です。すぐ時を遡っちゃうんだぜ☆

こいつまたかよ、とお思いだろうが、時を少し遡る。


誰そ彼時を過ぎ、辺りが闇に落ちた頃、信長は滝川一益を伴って、希美の部屋を訪れんと宿坊内を歩いていた。

今宵は月明かりもあり、釣燈籠の仄かな火も手伝って、先導する一益が持つ手燭の心許ない灯りが無くとも、充分に辺りの様子を窺い知る事ができる。

宿坊の部屋は、織田方の将達で埋まっており、ガヤガヤ、ガチャガチャ、アッーー!と騒がしいほどだ。


……誰か、お楽しみ中の者がいるようだ。

男だらけ、密集、戦後の興奮さめやらぬ熱々の肉体。何も起きないはずがないですよね!


しかし、信長はそれらの喧騒を一切無視して、真っ直ぐ歩みを進めた。

柴田勝家のぞみの居室は宿坊の外れにある、庭に面した二間続きの部屋だ。

織田の将の一員ではあるが、柴田勝家のぞみは越後、加賀、そして堺を領する実質的な大大名。当然、別格の対応となるのも仕方ない。


信長が廊下の角を曲がろうとした時、前を行く一益が立ち止まった。


「どうした、彦右衛門」


信長の問いに、一益が先の方を窺うようなそぶりをしながら答える。


「……権六が家臣を伴い、部屋から出て参りました。庭に出て、恐らく外に向かう様子」

「外に?寺内の移動ではなく、か?」

「一人は、恐らく某と同じ生業(忍び)でしょう。どこにでもいるような格好をしておりまする。そして権六ともう一人は尼姿に変装しておりまする」

「なるほど、外に何か用があるのか」

「それも、灯りをつけておりませぬ」

「つまり、人に知られたくない用がある、というわけじゃな」

「御意」


信長は、ざり、と少しだけ頭を出し始めた武将髭を撫で、庭を睨んだ。

その先には、確かに、こそこそと庭を横切る柴田勝家のぞみ一行の姿が月明かりに照らされていた。


「わしに知られたくない秘め事か」


信長の顔が険しくなる。


「如何なさいますか」

「追う。こっそりと後をつけて、何をしているか見届ける」


信長は即断した。

一益は、直ぐ様「はっ」と応じ、手燭の火を吹き消し、懐の草履を掴んだ。



信長は闇の中、一益の腰紐を握って歩いていく。

山門を守る門番は忍びにすり替わっていると判断した一益は、密かに着いてきていた手下を囮に門番を誘導し、その隙をついて信長達は山門をくぐり抜けたのである。

そうして人もまばらな寺内町を、一益の夜目を頼りにひたひたと歩く。

そうはいっても、辺りは月明かりがあるので完全な闇夜ではない。

元々信長も夜目が効く方だ。

よって、その足取りは危なげのないものであった。

気をつけなければならぬのは、こちらの姿を勝家のぞみ達に気取られる事であったが、一益はうまく建物の死角や人の隠れられそうな草木を使い、着々と後をつけていった。


次第に寺内町から外れ、辺りは畑と湿地ばかりになる。

背の高い葦に身を潜めながらしばらく行くと、粗末な小屋がポツンと建っているのが見えてきた。

勝家のぞみ一行が小屋の手前にある茂みに入っていく。

信長もギリギリまで勝家のぞみ等に近い場所に隠れる。


「あの小屋に用があるようじゃな」

「小屋から灯りが漏れております。中に身分のある人間がいるのでしょうな。一体誰なのか……」

「お、権六等が出てきたぞ。中の者に会いにいくのだな」


勝家のぞみは、激しく小屋の戸を叩く。しかし、中からは応答がないようだ。

信長が見守っていると、勝家のぞみ達は少し話し合い、動きを見せた。

なんと、勝家のぞみは何やら後退りするや、やおら建物に向かって走り出し、勢いよく体当たりしてその小屋を破壊せしめたのである!


「「あ……あ、ああ…………」」


これには、信長と一益も目玉を飛び出さんばかりに驚いた。あまりの事に、「あ」しか発せぬ。

見ると、勝家のぞみの家臣等もまた言葉が出ぬほど、大口を開けて驚いている。

信長も一益も、あちらの家臣となんともいえぬ連帯感を味わいながら、事態を見守っていると、瓦礫の下から勝家のぞみが中にいたらしき人間を抱えて顔を出した。

月明かりがあるものの、その人物が何者かは、暗くて見えない。

勝家のぞみの家臣達が、主に駆け寄る。

勝家のぞみは、その人物の名を口にした。


「顕如様!」と。


信長は聞こえた名の意味を呑み込むまで、少し時間を要した。恐らく一益もそうなのだろう。完全に時を止めている。

しかし、ようやくそこに()がいるのかを理解した時、信長は思わず刀に手をかけ飛び出さんと全身の筋肉を収縮させた。

そんな信長の目に飛び込んできた光景は、あってはならぬものであった。


勝家のぞみが、顕如の口を吸うていたのだ。

深く、何度も。

瓦礫の一角で小さく火の手が上がる。

その炎に照らされて、勝家のぞみと顕如が繋がる姿が黒く浮かび上がった。


信長は、愕然とそれを見守った。

支えが失せて酷く足許が覚束ぬような、これまで信じてきたものが突然遥か彼方に消え去ってしまったような、そんな心持ちで、信長は立ち尽くしていた。


「権六、あの野郎……」


隣で一益が発した軋むような声で、信長は現実に戻った。

しかし、心は冷えている。

飛び出んとした一益の腕を掴む。

何故、と目で訴える一益に、信長は首を横に振った。


「あれ等が何を画策しているか、確かめねばならぬ」


一益は渋々従い、勝家のぞみの一挙手一投足を睨むように観察している。

信長達が会話している間に、顕如と勝家のぞみは何やらやり取りをしていたようだ。

勝家のぞみの声が聞こえた。


「逃がしてあげるから、帰ったら織田と和睦してください。そして、えろと共存して……」


(顕如を逃がし、織田と和睦させるつもりか?顕如めの命を永らえるために!)

勝家のぞみは信長の怒りも知らず、顕如に語りかけた。


「顕如様もわかっているでしょう?これ以上続けても、えろは無くならないし、逆に織田に攻められて本願寺派は悉く滅ぼされるって」

「……それでも、えろは仏道を妨げ、人を堕落させる教え。それに、えろはそなたを私から奪った……」

「それは違うよ、顕如様」

勝家のぞみが顕如の手をとる。

「私は誰にも奪われない。だって、私は私のものであって、誰のものでもないし、その私は以前と変わらず、顕如様を大事に思ってる。えろとか門徒とかは関係ない。私が顕如様を大事に思ってるんだから、顕如様は私を失ってなんかないのよ」


信長の心が冷えきっていく。

勝家のぞみは、言った。

『顕如()』と。『自分は誰のものでもない』と。

顕如が勝家のぞみの気持ちを確認する。

「わしと、繋がっていると、そう言ってくれるのか?」

勝家のぞみの表情は暗くてわからない。しかし、否定しなかった。

信長は、自分の口が自然と弧を描いているのに気付いた。嗤っているのだ。

何を?愚かな勝家のぞみの裏切りを?

勝家のぞみに裏切られた間抜けな(己れ)を?


「殿、顕如を捕らえましょう。いや、今すぐあの首をはね飛ばしてくれる!」

憤激する一益を信長は止めた。

「まあ待て。彦右衛門」

「何故です、殿!糞権六は馬鹿だからどうせ何も考えてない。でも、顕如は殿のお命を狙ったのですぞ!その報いを……」

「わしの命を狙った事などは、もうどうでもよいわ」

一益は、どういう事かと信長を見た。

信長は、嗤いながら言った。

「権六と顕如は、和睦を狙うておるのだろ?ならば、してやろうではないか、和睦を」

「どういう事で?」

「まず、ここで殺すのは難しい。なんせ、権六が邪魔に入る。わし等は二人しかおらぬから、失敗は確実じゃ。ならば、和睦の時に確実に仕留めるべきじゃ」

「確かに……」

「それにのう、彦右衛門。わしは権六の目の前で、確実に顕如を仕留めたいのよ。なんせ馬鹿で何も考えぬ権六はの、わしを『ただ一人の主』と誓いながら、いまだに顕如を『様』付けし、その身は『誰のものでもない』と言う。そして、わしには許さなかった体の繋がりを、あの様子じゃと顕如には許しておるようであるからのう……」

信長の言に、一益は苦々しげな表情をしながらも、勝家のぞみを庇った。

「殿……。しかし、あれでも権六とて、真実、殿の事を……」

「そうさな。()()がわしを主として好いてくれておるのは、真実であろうよ。じゃが、わしは二心は認めぬ。わしを蔑ろにするのもな」

「そ、それは……」

()()は、よく仕えた。わしの領を増やしたのも()()じゃ。それに免じて、一つ、賭けをしよう」

一益は、訝しむ。

「賭け、に御座るか?」

「そうじゃ。その賭け次第で、()()の処遇を決める。何にせよ、和睦の席には顕如も来るのじゃ。どちらにせよ、わしはその時、()()の目の前で顕如を殺す。わしが賭けに負ければ、()()は顕如を庇うであろうから、それを理由に永劫地下の特製の鉄箱の中で飼うてやろう。まわりには即身仏を望んだとでもしてな。流石に外に出して、他の大名に囲われたら困るからのう」

薄く嗤う信長に、一益は問うた。

「で、では、その賭けとやらに権六が勝てば……」

「その時は、()()に顕如を斬らせて終いじゃ。わしはこれまで、裏切っても心から改めるなら許してきたぞ?とはいえ()()は二度目じゃから、多少きつく躾ねばならんなあ。なあに、その時は()()も、躾を()()()()ようになっておろうよ」


くつくつと信長が嗤う。

その信長から賭けの内容を聞いた時、一益は思わず白目になった。

そんな一益から勝家のぞみに目をやれば、勝家のぞみは顕如の腕に抱かれている。

さらに勢いを増した炎が、一つの影となった二人を燃やし尽くそうと燃え盛る。


信長はその炎ごと、勝家のぞみを見据える。

勝家のぞみが炎から逃れてその場から去り、その後ろ姿が闇に溶け込んでも、信長は闇を睨み続けていた。




次の日、信長に呼ばれた希美は、『夜伽に応じるか否か』を問われたのである。

ね?シリアスの是非が問われたでしょ?

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