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筑前尼のおねだり

いつも、誤字脱字報告、ありがとうございます!

さて、今回の『ポツンと一軒家』に関しましては、『』をしてそのままにしております。

表現がわかりにくいためご迷惑をおかけしました。しかし、なにぶんザルなため、ほとんどの誤字脱字疑惑は普通にやらかしていると思います。

よろしければ、今後とも誤字脱字発見にお力を貸していただき、共に『知将』を作り上げられれば幸いです。

よろしくお願い致します。

夕食もとっくに終わり、かれ時も過ぎ、辺りが闇に落ちた頃、希美の部屋に百地正永が訪れた。

……天井から。

希美は、もう面倒臭くなり、突っ込むのをやめた。


迎えたのは希美とてるだ。()等は、尼衣装である。

顕如に会うのに、柴田勝家スタイルで会うわけにはいかぬ。顕如は未だ、己が愛する『筑前尼』と『柴田勝家』が同一人物である事を知らないからだ。

柴田勝家は、一向宗が目の敵にするえろ大明神。それを知った時の顕如の反応は想像も出来ないが、喜……もとい悲劇であるのは間違いない。


そんな女装姿の希美に対し、百地正永はなんの変哲もない茶の小袖袴を纏っている。しかし、闇に紛れる時のために裏地は黒になっている。忍者服はリバーシブルなのだ。


「では、案内致します。今宵は月が出ておるとはいえ、もうすっかり暗う御座います。目立たぬよう灯りはつけませぬ故、わしの腰に繋がる紐を離さないで着いてきてくだされ」

「うむ。でも私、夜目が効くから、ここまでしなくてもいいよ。てるは、ちゃんと掴んでいなよ」

「はいな」


希美は肉体チートなので、夜行性動物並みに暗視機能が内蔵されているのだ。

希美達は部屋を出て、外に向かった。

山門は百地正永の手配で、伊賀者の門番にすり替わっていたようだ。

するりと寺から出て人もまばらになった町内を歩く。


「ふうーむ。暗いし、こちらも灯りをつけていないから、てるを伴っていても悲鳴が起こらんな」

「殿、喧嘩売ってますの?えろ一揆を所望なの?」

「さーせん、てるさんっ」

「灯りをつけずこっそり歩いてる意味がないんで、殿は黙っててもらえませんかな!?」

「さーせん、ももちんっ」


なんだかんだで忍びきれない一向は、サクサクと町外れまで進んだ。

ここまで来ると家があまり見られぬようになり、ついには畑と湿地ばかりになってきた。

そうしてやっと、河原の手前にある『ポツンと一軒家』の前に着いたのである。

正永は、小屋の手前に広がるすすきの枯れ野の中に入り、先に身を隠して見張りをしていた手下の男に指示を出した。

自分達がターゲットの潜伏先に着いた事を、多羅尾の差配する脱出舟担当に知らせるよう言ったようだ。

男は音もなく、その場から立ち去っていった。


「一軒家……というか、掘っ立て小屋?こんな所に、顕如様が……」

「ここは、大雨の時の川の見張り用に作られた小屋だそうで。普段は漁師が休憩用に使っておるようですな」


一軒小屋から少し灯りが漏れている。

漁師や農民などの一般庶民は、高価な油を使う灯りなどめったに使わない。

暗くなったら、さっさと寝るのだ。

つまり、中にはそれなりな身分の者(セレブ)がインしているという事だ。


「中が明るいから、セレブがインしてるのはわかる。やっぱり顕如様がいるんだろうな」

「せれぶが……いん……?はっ!性隷夫が淫している、か!中を見ずして、男色お楽しみ中であるとおわかりとは、流石えろ大明神様……」

「……なに言ってんだ、ももちん?」

「ももちん殿?顕如は女の方がお好みの方だから、男色は恐らく違うわね。そもそも殿はよく意味不明な事を言うから、いちいち反応してたらキリがないわよ。家中の者はみんな、無視してるわ」

「え?そうだったの?私、スルーされてたの?!」

「静かになさいな、殿」

てるは希美の『スルー』をスルーした。


正永は少し残念そうな表情を浮かべながら希美に尋ねた。

「男色お楽しみ真っ最中でないとすれば、しばらく様子を見ずに、さっさと中に入りなさいますか?」

「お楽しみ真っ最中だとしたら、中に入らずにしばらく様子を見るつもりだったんだな、お前……」


この忍者、とんだ覗き野郎だった。


「まあ、いいや。忍者なんて、どうせみんな覗き野郎だしな。お前の手下は中に何人いると言ってた?」

「顕如を含め、三人と」

「なら、私達も三人全員で行くか。私が顕如様と話をするのを邪魔しないように、押さえといて!」

「御意」

「はいな」


希美は叢から出ると、二人を連れて小屋の戸の前に移動した。

そして、おもむろに戸を叩いた。


ドンドンドンドンッ

「すみませーん。願証寺の方から来ましたー!ちょっとお話いいですかー」


「こんな堂々と乗り込むとは思わなかったわ……」

「正面から戸をくぐって入るなんて、緊張するのう」

後ろで、てると正永の呆れた声が聞こえる。

しかし、中からは何の返答もない。


「留守……なわけないか。なるほど、居留守こいてんな!誰もいないのに、油を消費するわけないしな。おし!ここは、かっこよく扉を体当たりでぶち破ろう。一度やってみたかったんだ」

「扉を体当たりで破るのに、かっこよさも何もないでしょうに……」

てるの突っ込みを無視して、希美は少し入り口から後ろに離れた。

助走をつけて、力いっぱい体当たりをかまそうというのである。


てると正永が脇に避けて見守る中、希美は軽く駆け出す。

そして、スピードを上げて直前で思いきり踏み込むと、その勢いのまま力任せに突っ込んだ。



ドッガアアッ!!

ガラガラガラガラ!ガランガランッ!

ドシャアーーッ!!


「うわあああ!!!」

「ぎゃあああ!!!」

「いやあああ!!!」


「やっべっ、顕如様!」


「「あ……あ、ああ…………」」



結果、小屋は倒壊したのだった。






土煙が立っていることすらわからぬ闇の中、小屋の残骸の山が、一部動いた。


ガタガタッ、ガランッ!ゴトゴトンッ!


中から現れたのは、埃や木片まみれの希美と、希美の下で庇われたらしき顕如である。

「「殿!!」」

その音と月明かりで希美の位置を確認した()()と正永は、慌てて希美に駆け寄った。

希美は、ぐったりした顕如の頬を平手打ちしながら、「顕如様!顕如様!」と呼び掛けている。

正永がそれを見て、おののくように呟いた。

「殿、小屋を破壊して顕如を殺すおつもりで……。さらに息のある顕如めにとどめを刺そうと攻撃を!?」

「違うわっ、阿呆!助けてんの!お前等は、他の奴を助けろっ。瓦礫から引きずり出してやれ」

「「ははっ」」


てると正永は瓦礫の中を掻き分けて、残り二人の救助を始めた。

希美は顕如に視線を戻すと、意識のない顕如の口元に耳を近付けた。

「息は……してない?!あ、あわわ、殺っちまった……。助けようとしただけなのに、こんな事になるなんて……」

実は、小屋が崩れて動転した希美が、顕如を助けようと突進し、そのまま顕如をはね飛ばしたのを慌てて体をひっ掴んで覆い被さったため、はねた時の衝撃で胸が圧迫されたのが死亡?原因であった。

なんにしろ、顕如殺人事件のあらゆる意味において、犯人は希美である。


しかし、希美としては顕如を死なせたくない。

救命行為を行わなければならない。

速やかに応急手当てを始めた。


「安全かどうか……うーん、知らねえっ。『119番呼んでくださいー』って、えよ!『AED持ってきてー』って、それこそあるわけえぞ、くそっ!ちなみに、意識もえ!」


希美は、顕如の顎をつかんで気道を確保すると鼻をつまみ、躊躇いなく口を合わせた。

人工呼吸である。希美は、息を吹き込んだ。

5秒待って、また息を吹き込む。

希美と顕如が繋がるシルエットが、闇に浮かび上がった。


「殿、火が!」


てるの声で、希美は顔を上げた。瓦礫の一部が燃えている。灯りの火が、瓦礫に燃え移ったのだろう。


「殿、こちらは助け出しました!両方息がありますぞ!殿も、顕如めを連れて、お早く!」


正永の呼び掛けに、希美は「わかった!」と応え、もう一度だけ、顕如に口を合わせて息を吹き込んだ。

すると、顕如の目がうすらと開き、ゲホゴホと咳き込んだ。息が戻ったのである。


「顕如様……よかったあ、呼吸が戻って」

覗き込んで安堵の顔をする希美に、顕如は喘ぐように言った。

「うすらと覚えている。目覚めた時のこと……。筑前尼がわしの口を吸うてくれたのを」

顕如は手をのろのろと上げて、希美の頬に触れた。

「わしの思いを受け入れてくれるのか、筑前尼……」


「いえ、違います」

希美はバッサリいった。


「これは、人工呼吸。息が止まってたから、私の息を吹き込んで息を戻しただけ。治療です」

「息を、戻した!?死んだわしを生き返らせたというのか?筑前尼、そなた、まさか御仏の使いなのか?」

「え?ああ、まあ、そんな風に言う人もいたり、自ら名乗ったりもした事もあったり……」

希美の目が泳いでいる。御仏と親友(ズットモ)設定は希美の出任せではあるが、実際に信じる人が大量にいるのも確かな話である。

(門徒からしたら仏敵である、えろ大明神として、だけど。しかも、顕如殺人未遂事件の犯人は私……)


そんな希美の気まずさに気付かず、顕如は希美を拝んでいる。

「おお……!!南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……!筑前尼よ、わしの命を救ってくれた事に報いたい。願いがあれば、叶えよう。いや、それよりも、わしがお前を幸せに……」

「あ、お願い、あります!聞いてください!」

希美は、やはり顕如をバッサリいった。


だが、顕如は『希美が自分におねだりしてくれようとしている』という事実に、喜びを感じている。

「そなたの言う事なら、この顕如、なんでも聞こう!言ってみよ」

希美は、おねだりした。


「逃がしてあげるから、帰ったら織田と和睦してください。そして、えろと共存して……」


顕如は、ぐっ、と言葉に詰まった。

「そ、それは……」

「顕如様もわかっているでしょう?これ以上続けても、えろは無くならないし、逆に織田に攻められて本願寺派は悉く滅ぼされるって」

「……それでも、えろは仏道を妨げ、人を堕落させる教え。それに、えろはそなたを私から奪った……」

「それは違うよ、顕如様」

希美は顕如の手をとった。

「私は誰にも奪われない。だって、私は私のものであって、誰のものでもないし、その私は以前と変わらず、顕如様を大事に思ってる。えろとか門徒とかは関係ない。私が顕如様を大事に思ってるんだから、顕如様は私を失ってなんかないのよ」

「筑前尼……」

「信仰と同じよ、顕如様。顕如様は仏像と一日中いっしょにいなくても、御仏との繋がりは消えないし信仰は変わらないでしょう?私が傍にいなくても、私との繋がりは消えないわ。違う?」

「わしと、繋がっていると、そう言ってくれるのか?」

希美は微笑んで、明言を避けた。

だが、顕如は感動している。


希美はさらにたたみ掛けた。

「それに、私は生粋のえろよ。えろの私が御仏の使いなの。わかる?えろが仏道を妨げる仏敵なら、私が御仏の使いとしてあなたを生き返らせられるわけがないの。えろは、仏敵じゃないのよ」

顕如は、衝撃を受け、蒼白になった。

「確かに……。ならば、私は……大変な事を……」

希美は仰向けのまま震える顕如の上半身を引き起こし、抱き寄せた。

そして、胸元に顔を寄せたまま、えぐり込むように顕如の顔を見上げた。


「私達は、大変な事をしでかした。だから、生きて償うのよ。これ以上戦や憎しみで人が死なないように、門徒とえろを共存させるの。それは、本願寺派宗主の顕如様にしか出来ない」

顕如は、希美の言葉と腕の中に収まりきれぬ肉感に、ごくり、と喉を鳴らす。

希美は、顕如の顔を両手で包み、泣ける映画を思い出して瞳を潤ませてから、至近距離で見つめた。


「お願い、顕如様。和睦と共存、し・て?」

「任せよ!」


顕如は、即決した。



そんな二人の世界に、水を差すような声が響いた。

「話がまとまったなら、早くそこから逃げて、との……、筑前尼様っ!けっこう火が大きくなってるからー!」

「と、いえ筑前尼様、お二人にこのままお楽しみしていただきたいのは山々ですが、流石に焼け死んでしまいますぞー!」


希美が辺りを見回すと、確かに向こうの瓦礫で炎が上がっている。

てると正永は、顕如説得中の希美の方へ火がいかぬように、間の瓦礫をギリギリまで撤去していたようだ。


「おわっ、ほんとだ!逃げるよ、顕如様っ」

希美は顕如を、ひょいと担ぎ上げた。

「ああっ、筑前尼、なんと頼もしい!」

「その賞賛は、女子に対してどうかと思うよ、顕如様」

そう言って、希美はてる達に呼びかけた。

「ごめーん、待たせたわね!あなた達は、それぞれ助けた門徒を担いで!タラちゃんとこに行くから、ももちんは先導を頼むわよ!」

「わかったわ!」

「御意ですわよ!」


女装中の希美とてるはともかく、何故か百地正永まで、つられてオネエ化してしまったようだ。

今だけであると信じたい。



そして希美達は、それぞれ門徒を担いで闇に消えていった。

その闇の先をじっと見つめる目があった事に、希美達は気付かなかった。

さきほど知将を更新し、ふとホームを見るとyeats様から素敵なレビューをいただいておりました。

『戦国×歴史改変×コメディ×水素並みに軽いシリアス×ライトなBL×作者という劇物=えろ(ほんのりネタバレ?注意)』

私(知将)という劇物を服用してしまったyeats様が、その感性で磨いだ知将愛をぶつけたレビュー作品です。

愛の囁きが鋭めですが、全て褒め言葉です。(信頼)

それにしても、なんか自分の作品の影響力を自画自賛したくなりました。

よろしければ、読んでみてくださいませ。



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