えろが力を合わせた結果、信長は……
ウルトラマンはバックショットが素晴らしい。
はい、私は尻派です。
希美は信長とパイフェチを連れて山門を潜り抜け、願証寺の外に出た。
すると、門の出てすぐ左手に、塀に片手をついて尻を突き出し、もう片方の手で親指を軽くくわえながら後ろを振り返っている、ごつめのおっさんを発見してしまった。
希美と信長は完全に理解した上で、おっさんを素通りした。
「お、おいーー!!!ちょっと待ていっ!!あ、いや、待ってくだせえっ。わかるでしょ?完全に俺が女如立ちしてたの、わかってたでしょ!?」
おっさんが追いかけてきた。
信長が希美をせっついた。
「逃げるぞ、権六。わしはあんなのと連れ立ちたくない」
希美はおっさんの方を振り返り、信長に視線を戻してため息を吐く。
「気持ちはわかります。わかりますが、ちょっと申し訳ない気もするんで御座るよね……」
「申し訳ないじゃと?」
「だって、あのポーズ、いつからやってたのかと思うと……。騒ぎになって、それなりに時間が経ちますし、ずっとあのポーズであそこに立ってたかと思うと、なんだか……」
そう話していると、おっさんが追いついてきた。
「そうですよ!俺、しばらくあの格好で待ってたんですよ!途中、何人かに尻を撫でられ誘われて、怖かったんですからね!?」
「ならあのポーズにしなきゃいいだろっ!」
「俺は女如使いですぜ!俺の女如はあの形なんです!成長する以外に形が変わる事は有り得ねえんですよ」
「スタ○ド使いみたいに言ってんじゃねえわ!」
女如使いって、何だ。
長島の隠れえろ門徒に新たな文化が芽生えているようだ。
「それより、その男は『揉み手の銀次』!長島門徒の胸を網羅するという、伝説の門徒じゃねえですか!なんで、そんなのといっしょに!?」
「その不審は、門徒といる事に向けられているの?それとも、パイフェチのド変態とつるんでいる事に向けられているの?」
おっさんは銀次を警戒しながら、答えた。
「ぱいふぇちが何か知らねえが、俺は尻派なんでね!胸好きとは合わねえんだっ」
「あ、そっち?そっちの問題?!」
「はっ、胸の良さがわからぬとは、哀れだな……」
自分を馬鹿にする銀次に、おっさんがキレた。
「んだとお!?てめえこそ、尻なめてんのか!?」
「お前の尻など、なめるわけなかろう。汚い」
「俺の尻が汚いだと!?俺ゃ、尻だけはキレイにしてんだ!」
「やめれっ!!尻だけじゃなく、全身清潔にしろ!」
希美は一喝した。
信長も呆れてのたまった。
「何の話なんじゃ……。大体、胸でも尻でもどちらでもよかろう!わしはどちらも大好きじゃぞ!」
そんな信長の言葉に反応したのが、パイフェチと尻フェチだ。
「どっちでもいい?尻の良さがわからん、どっちつかずの半端もんめ!」
「こっちは胸に命かけておるんだ!そんな中途半端な気持ちで「胸が好き」などと言う資格はないわ!」
げに恐ろしきは、一心念フェチ。門徒はそもそも、反体制派の輩集団である。
相手が大名だろうと、己れのフェチを否定する者は攻撃対象なのだ。
当然、信長は激昂した。
「な、なにい!?わしを馬鹿にしおって!胸派も尻派もわしの敵じゃな?ならば、わしは新たに小姓を愛でる茸派を作る!おい、権六っ、織田はこれより茸派以外認めんからな!お前は年上好きだから、百歩譲って小姓以外の男を許す!」
信長は、とんでもない方向へ、織田家の舵を切り始めた!
「許す!(キリッ)じゃねえ!大うつけですか、殿っ。その派閥に属したら、将来的に織田家中が悉く滅ぶだろ!」
茸より筍派の希美は、『信長の打ち立てた男色一辺倒の茸派という方針により、織田家の一族郎党が滅亡する』という歴史改変を阻止しようと、説得を始めた。
「大体、茸派は尻派と切っても切り離せないで御座ろうが。攻めは茸派でよいが、受け手は尻派。尻派無くして、茸派は成立せぬ。茸派だろうが亀派だろうが、結局人は一人じゃ生きられないんですよ……!」
「お、おう、そうじゃな……」
希美は、なんかどっかで聞いたような良さげな言葉で締めくくった。
すかさず、おっさんが合掌しながらカットインする。
「つまり、言い換えれば、茸派即ち尻派……」
「なに!?」
いきり立つ銀次。希美は諭すように言った。
「落ち着け、胸派よ。よいか?茸が尻でなければならぬと、誰が決めたのだ。えろの世界は広い。様々な性癖が存在するのだぞ?」
銀次は救いを求めるように希美を見上げた。
「つまり、胸も茸を……?」
希美は、全てを受け入れる眼差しを銀次に向ける。
「うむ。胸だろうが尻だろうが、人の体のあらゆる場所は、茸を糧として大きくなる。まさに茸を喰らって巨大化する何処かの配管工のようにな。そしてまた逆も然り……。『えろ』の前にあらゆるフェチは平等よ。そして『えろ』は共存共栄。己れの『えろ』を誇りに、他者と認め合い、切磋琢磨しながらさらに高みを目指すのだ。憎しみは、『えろ』を曇らせるぞ?」
「えろ大明神様……えろえろ阿弥陀仏……」
「えろえろもむ阿弥陀仏……」
尻派と胸派は、声を揃えてえろ念仏を唱えている。
(うん。私は一体何をほざいているんだろうな!)
「お前は、またわけのわからぬ事を……」
希美のセルフ突っ込みと信長の突っ込みもリンクしたようだ。
だが、『茸派』で織田家をセルフ滅亡させようとした信長には言われたくなかった。
その時、外まで聞こえてきた寺内の騒ぎの声が変化したのに希美は気付いた。
「声がこちらに向かってくるような……?」
「あ、殿に、大殿!まだこんな所にいたので御座るか!?悠長過ぎますぞ!」
寺内から現れたのは、町人姿に扮した藤林長門守達、伊賀忍者である。
「撒いた銭は、全て集まった者達が拾い、奪い合いまで起きて、中はかなり混乱しておったのですが、顕如や坊官等、願証寺の者達が動いて、随分収束してきておりまする!それと先ほど、牢や小屋や蔵の鍵を全て開け終えたので、そろそろ捕まっていた織田軍の者達が一斉に逃げて参りますぞ!この辺りはもうすぐかなり荒れまする。早くお逃げ下され!」
希美達は顔を見合わせた。
「確かに!早く逃げなきゃ!」
「えろ大明神様、まずはこの近くの俺の家に。織田の殿様の尼衣装を用意してますんで、着替えてから町を抜けましょう」
「わしもついていきます。わしは長島の全ての民を(胸で)把握しております。背中の肉を持っていって、胸を大きくする事もできます。必ずお役に立てます!」
「それ、何のお役に立つの……?」
だが、ここで油を売っているわけにはいかない。
希美達は、早足でその場を立ち去った。
「ぐあああああああああ!!!!」
願証寺の山門から歩いて六、七町ほどの所にある民家で、男の悲鳴が響いた。
「せ、背中が千切れるかと思うた……!」
涙目でそうこぼしたのは、織田信長。
尼姿の彼の胸は、Aカップほどの膨らみが。立ち姿は、肩を下げ、肩甲骨を背中中心に寄せて、撫で肩の女と見紛うばかりだ。
下さえ確認されなければ、まさに完璧な尼であった。
それを為したのは、胸派の『揉み手の銀次』と尻派の『女如使い』だ。
胸派と尻派が力を合わせれば、織田信長を立派な尼に出来ると証明した歴史的瞬間であった。
こうして、小者の門徒(銀次)を連れた一向宗の尼の一団として無事に寺内町を脱出した希美達は、ようやく織田軍の本陣に合流した。
そして信長のAカップは、その後しばらく戻らなかったという。
タイトルの『信長は……』の後に何が続くか、もうわかりましたね?