その頃の坊主&坊主、そして神保さん
今回希美はほぼ出番なし。
200話記念の前話『200話達成記念スピンオフ☆R15乙女ゲーム『三好一族の淫棒』松永久秀編バッドエンドルート』に、ロータス様からお祝いFAをいただきました。
前書きに載せています。
ありがとうございました!
そして、【爆発する松永久秀の美麗スチル『ああっ!!?』】の美麗じゃないイメージ画を描いてみたので、本文に挿し絵として貼っています。
画力ごめん。よければ、見てってください。
※追記
信玄の名台詞の一部『情けは味方』の誤字を、見方→味方に修正しました。
誤字を教えてくださり、ありがとうございました!
さて、希美が山の熊さんと相撲をとった挙げ句、「すまんな、人の味を覚えた熊は、殺さねばならん」しているその少し前、大坂本願寺では、顕如が何処からか書簡を受け取っていた。
坊官等が見守る中、開いて読み進めていく。
その内、顕如の表情が変わった。
驚愕の表情を浮かべたかと思うと、次第に顔が赤く染まり、憤怒の色を増していく。
そうして読み終えた書簡に八つ当たりするように破りちぎり、手に残った切れ端を丸めて床に叩きつけた。
「顕如様!どうなされました!?」
「どうもこうもないわ!!」
顕如は声を荒げる。
「堺と三好が織田の下についた!筑前守の葬儀の場で、そう周知されたそうじゃ。それも、新たな当主に織田の娘が輿入れするなどと……。三好家は悪魔に乗っ取られたわ!」
「なんと!しかし、堺は幕府の……」
「以前織田の者達が、堺から芥川山城へ、その後京に入ったという報告があったが、こういう事であったのよ!堺で開かれたという、あの第六天魔王の悪魔の宴。それにより堺は墜ちたのだ。その勢いで芥川山城で死にかけた当主や三好の者を墜とし、さらに京で公方様に堺の譲渡を取り付けたのであろう」
「そういえば、織田の当主がこの度、『弾正忠』の官位を得たと聞きましたが、まさか、朝廷も魔王の手に!?」
「わからぬ。まああそこは金次第で官位が手に入るゆえ」
まだ大坂には、京の惨状が知らされていないらしい。
朝廷、というより公家達が、ケモミミと筋肉に汚染されていようとは……。
ちなみに、公家女子達は、既に腐っていたが、希美がライブを行ったせいで、さらに発酵が進んだと言えるだろう。
罪深い事である。
何にせよ、顕如は『悪魔憎し』の炎をたぎらせた。
「おのれ、柴田権六!あやつが全て裏で操っておるのじゃ。織田は奴の隠れ蓑よ。表に出ずにこの国に悪をもたらしておる。姑息な!」
いいえ、表に出まくってこの国に変態をもたらしています。
ライブからパレードから、ど変態スタイルを堂々見せつけています。
隠れるどころか、もはや織田からはみ出して暴走しています。
しかし微妙に勘違いしている顕如は、何やら企んでいるようだ。
「このままでは、仏の教えが汚されてしまう。仏法の灯火を守らねば……。我ら門徒の力で、汚れた地を浄化するのだ。そのための布石は打った。後は、火をつけるのみ」
そこへ、年嵩の坊官が現れた。
「頼康に御座る。今、良いですかな」
「おお、構わない。どうしたのだ?」
「三好方から使者が。三好日向守と名乗っておりまする」
顕如は目を見開き、やがて笑みを浮かべた。
「くくく……。蟄居させられておるはずの日向守がやってくるとは。これは、御仏の御助力か」
「ははっ」
「会おう。面白い話が出来そうだ!」
顕如は立ち上がり、三好日向守の待つ部屋へと向かう。
(柴田権六……、えろの悪魔め。必ず追い詰めて、筑前尼を取り戻す!)
大坂に潜伏していた大勢の隠れえろと共に姿を消した筑前尼(希美)を、顕如は諦めてはいなかった。
筑前尼はえろ教徒の恋人についていった、と室から聞かされた顕如であったが、それがさらにえろ教への憎しみを呼び、『えろ教徒に騙された筑前尼を救い出さねば』という斜め上の結論に達していたのだ。
故に、顕如は織田と柴田への攻撃を、決して諦めない。
大坂本願寺は、史実通りに、いかにも一波乱起こしそうな空気を醸し出している。
またその頃、別の地では……。
「そうか。領内の門徒共に本願寺が接触をのう」
歩き巫女の若い女が頭を垂れている。
その前で床几に腰掛け、隣に立つ気に入りの小姓の尻を撫でているのは、戦国のBLハーレム信玄Boseこと、武田信玄その人である。
八月の中頃、能登畠山氏の介入により、越中は神保氏と停戦させられて二ヶ月近く。
柴田勝家(希美)に、「俺、神保攻めるから、畠山攻めてくんね?」と愛の共同作戦を提案したものの、「嫌」と一言レターで振られてしまった信玄は、甲斐本国に帰らず、未だ越中松倉城に留まっていた。時々神保氏に嫌がらせでちょっかいをかけて、思い通りにいかぬ鬱憤を晴らすためである。
だが、どうも大坂本願寺の動きが怪しい。
領内にえろ教徒が蔓延してからこっち、宗教上の諍いが起こる事もあったが、信玄がえろ教徒の保護を行い、またえろ教徒の寛容性や共存共栄の精神も手伝って、領は富み、貧困が緩和された事で門徒達は大人しく過ごしていた。
だが、歩き巫女によると、近江が織田領になった辺りから、甲斐や信濃の領で、大坂本願寺の僧の行き来が少し増えたというのだ。
何やら、門徒達を集めて説法を説いたり、本願寺派の各寺を回ったりしているようだが。
何やらキナ臭いぞ、と信玄は感じた。
もう少しすれば、冬が来る。
本格的に雪が降り始めれば、山に囲まれた甲斐に戻るのは、少し難儀になるだろう。
どうせ、能登畠山氏も、神保氏も、膠着状態である。
「よし。甲斐に戻ろう」
「お屋形様、越中攻めは!」
馬場美濃守信春が問う。
信玄は答えた。
「もちろん諦めたわけではない。この松倉城に兵を三千ほど残していく。万が一神保が攻めて参った時は、当座をこれで凌がせよ。時々神保をつつけよ?わしがおらんとわかるや、攻めて参るやもしれん。奴は調子がよいからなあ」
「御意!」
信玄は、馬場美濃守と共に控えている男に命じた。
「源四郎、お前に兵の人選は任せる。お前は、松倉城に残れ」
「……」
『源四郎』と呼ばれた男は、無言でじとりと信玄を見つめている。
「何だよ。何か答えろよ」
「某、源四郎では御座らぬから……」
「はあ?!」
不審げな信玄に、高坂弾正昌信が耳打ちした。
「お屋形様、山県は、この前『三郎兵衛尉』を名乗り始めたではありませぬか」
「あっ、そうだったな!すまんすまん。忘れておった」
「……」
「な、涙目になるなよ……。悪かったって……」
「あーあ、お屋形様が山県、泣ーかした!」
「お屋形様、酷う御座るぞ!山県が可哀想!」
「す、すまん……この通りじゃ」
「な、泣いてないし……!三郎兵衛尉って、ちゃんと呼んで欲しいだけで御座るしっ」
「さ、三郎兵衛尉……?」
「お屋形様、もっと声張って!」
「ああ、もうっ!三郎兵衛尉!これでよいか!?」
「(にっこり)」
「おお、良かったのう。山県!」
「山県が笑っておるぞ!」
「お前等ばっかり、名字呼びとかずるいぞ!!」
なんだかんだで、武田家中は仲良しである。
家臣達は信玄愛故に、信玄いじりでまとまりを見せ、信玄がそんな家臣に心配りして和気あいあいと過ごす。
『人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり』の言葉は、伊達ではない。
そんな信玄だからこそ、家臣も信玄のために動くのだ。
「はあ……。年内に越中をモノにして、そのまま加賀入りして希美もモノにしようと思ったのになあ」
信玄の呟きに、歩き巫女が反応した。
「柴田様なら、芦名と伊達の婚礼のために、今は越後にいるはずですよ?」
「何!?……行き先変更だ!越後へまいむぐっ」
「さて、甲斐に戻る準備をせねば。山県は、早う松倉に残る三千を選べ。高坂は、お屋形様のお相手を。勝手をさせぬようにな」
「ならば、快楽漬けにしておきまする」
「任せたぞ。工藤、明日には出立できるように、手分けして準備を進めるぞ!」
「わかり申した!」
「さ、殿。参りましょうねー」
「むがっ!もがもがっ」
武田四天王達が、各々の仕事に取りかかる。
信玄のために動くといっても、許容範囲というものがある。
こうして、武田軍は越中から引き上げたのだった。
一方、神保氏の鬱憤は、限界を超えていた。
上杉が柴田勝家の軍門に降り、武田が上杉の代わりにお隣さんとなったのが、不幸の始まりだった。
『柴田勝家に会いにいく』という謎の動機で、武田信玄が越中攻めを開始。
敵の敵だった時は、あんなに頼もしかった武田さん。
しかし、お隣さんになった途端、ガンガンに領地を喰らいにやって来る肉食系糞坊主にチェンジしたのだ。
もちろん抵抗したが、相手は武田信玄だ。
強いし、無茶苦茶面倒臭い。
能登畠山氏に助けを求めて停戦になったが……。
「武田軍が、谷中村を襲撃して、米を奪っていきやがった!」
「あいつら、こっそりうちの城の堀に、生魚を投げ込んでいきやがった!」
「また武田軍だ!奴等、夜中に忍び込んで、そこかしこの壁に武田菱を書いては引き上げていきます!」
神保長織は頭を抱えた。
地味な嫌がらせだ。だが、腹の立つものばかりだ。
「おのれ、武田め!何、人の領地に自分の家紋を書き残してんだ!!」
さらに、彼を苛つかせたのは、武田だけではない。
神保氏が助けを求めた能登畠山氏の行く末が定まらぬのである。
まずやって来た畠山氏の使者は、こう言った。
「武田をこれ以上越中に食い込ませるわけにはいかぬ。停戦させておいて、折を見て共闘して追い出そう」
流石、名門畠山パイセンである。
しかし、三角の尖った鞍に乗った次の使者はこう言った。
「能登畠山氏は柴田家に入るから、柴田家の同盟国である武田とは争えないわー。うちは当てにしないで。よかったら、おたくも柴田家で木馬に乗ろうぜ!」
神保家家中は、大混乱に陥った。
その後すぐに、畠山からまた使者が来た。
「畠山家は名門。織田はおろか、柴田家に降るなど有り得ないし、武田と戦う意思がある。共闘しよう」
その前の使者の話は何だったのか……。
だが、また使者が、三角鞍に乗ってきた。
「柴田家の木馬部隊は最高ですぞー!畠山にも、三角鞍部隊を増やしている所でしてな。柴田家に入れば、武田の問題は解決しますよ」
さらに別の使者が……。
「畠山家は、柴田家に入らぬ!!武田は敵!!」
三角鞍使者……。
「柴田家で木馬に乗ろうぜ!!」
「どっちなんじゃああああ!!?」
神保長織はキレた。
「武田も、畠山も、どちらも糞ほども頼りにならん!!じゃが全ての元凶は、柴田じゃ!柴田勝家が、上杉に勝ったせいじゃ!おのれ、責任とって、わしを守ってもらうぞ、柴田権六ぅぅぅ!!?」
ある日、希美のもとに一通の書簡が届いた。
「え?神保さんから?絡みないよね、私達。どれどれ?」
希美は、書簡を開いた。
(超意訳)
「柴田権六様
初めまして!神保長織です。
わし、ずっとずうーーっと、柴田様にお会いしたくて。
勇気を出してお手紙書きました。キャッ☆
あの、お願いがあります。
わし、武田からしつこく迫られて困ってるんです。嫌がってるのに、無理矢理襲われてわしの大事なもの(米)を奪ったの。ある時は、わしの深い所(堀)を生臭いもの(魚)をつっこんできて汚されたわ。別の日には夜中に忍び込んできて、自分の証を好き放題マーキングされて……。
お願いします。わしを柴田様のものにして!わしのことを守って!
わしのこと、大事にしてほしい。そうしたら、わしの一生をあなたに捧げます。
あなたの神保長織」
「何これ、こっわ!!」
裏表の激しい神保氏が、仲間になりたそうにこちらを見ています。
文中の武田四天王。
馬場信春。
山県昌景。
高坂昌信。
内藤昌豊。(工藤源左衛門尉昌秀)
山県さんは、史実で1563年に三郎兵衛尉を名乗り始めたそうです。
内藤さんですが、文中では、馬場さんに「工藤」と呼ばれています。
この方、元々『工藤昌秀』さんですが、1567年十月までは確かに工藤さんだったんですが、1569年には既に『内藤昌豊』さんに改名しています。
よって、1563年の時点では、工藤さんです。