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洒落怖な三好家

こわ~い話といえば……

葬儀が滞りなく終わり、信長を始めとした希美達織田の将は、芥川山城で宴席に呼ばれていた。


三好家家中の者達は、今回の織田グループへの吸収合併が逃れられぬものであると理解しつつあったが、これまでの三好ブランドの価値が下がる事への忌避感や反感などを持つ人間も少なからずいる。

柴田屋の化粧品が芥川山城以外の三好家中に広まりつつあるのもあって、『織田グループに属する者達は、柴田屋の商品に関して一割の社員割引が適用される』という発表に、一気に歓迎ムードとはなった。

しかし、急な展開に気持ちが追いつかぬ者もいる。

そんな者達と織田の将との間に溝ができるのを危惧していた織田と三好上層部が、織田、三好両家の将達を集めて大規模な酒宴を計画したのである。



ちなみに酒は、織田の領地で盛んに造られるようになった澄酒を、大量に持ちこんでいる。

織田領名産の高級澄酒がしこたま飲めるとあって、三好家中は大いに沸いた。


そうして、献杯から始まった宴は、酒が進むにつれて次第に織田と三好の垣根を取り払っていった。

もちろん喧嘩も起こったが、「勝敗は相撲で」という上役の一言で大相撲大会になり、さらに酒宴を盛り上げる。

戦った者達は周囲から「いいぞ」「良い一番じゃった」と声をかけられ、互いに健闘を讃え合って酒を酌み交わした。


別の所では、三好の者が織田の者に化粧の仕方を教えている。

化粧品はもちろん清洲や岐阜、越前は一乗谷の柴田屋でも販売されているが、購買層は主に女性だった。

高位のお洒落武将ならいざ知らず、そこまで男の化粧がブームになっているわけではない織田家中の武士にとって、洗練された中央の男化粧はなんだかキラキラして見えた。といっても、柴田屋の美容部員指導による柴田屋の化粧品を使った化粧品なのだが。

三好武士の実践講義に、熱心に耳を傾ける織田武士。

これは、柴田屋化粧品、逆輸入のヨ・カ・ン☆


なんにせよ、織田と三好は、酒と共にわだかまりを呑み込んで、消化しつつあったのである。




そんな中、希美はそっと長慶に誘われて、庭に出た。

庭では、大広間に入りきらぬ下位の将達がそこかしこで飲んでおり、何組か相撲をとっている。

向こうの茂みの奥がガサガサと揺れている。

「修理大夫殿、あそこの茂み、なんか……」

「ああ、恐らく相撲をとっているのだろう」

「ああ、相撲ね。……相撲?」

隠れて相撲をとる武士達について、希美は瞬時に記憶を葬った。



長慶は希美を伴って、慣れたルートを歩いていく。

以前、希美も通った事のあるルートだ。

そう。松永久秀と連れションした時の、あのルート。

連れションロードだ。


以前は久秀と歩いた道を、長慶と歩く。

そうして女中達の更衣室となっている建物の裏にたどり着いた。


「この時間、ここなら、誰もおりませんからな」

以前、久秀から聞いた言葉だ。

あの時はそんな事を言いながらも女達がやってきて、覗きぷれいを経験させられそうになったが、もしやこいつもか?と、希美は長慶をジト目で見た。

長慶は、慣れた手付きで用を足し始めた。


(oh!天下の副将軍!)


長慶の手元を横目で見た希美は、(いや、膨張率。問題は膨張率だから)と自分に言い訳しながら、なんとなく負けた気持ちで自分も用を足し始めた。

こういう時に、全裸鎖は便利である。


少し甘いような他人の匂いに、やはり糖尿病かと、希美は長慶の横顔を見つめた。

長慶は希美へ顔を向け、穏やかな眼差しを希美の視線と絡ませると、話し始めた。

「柴田様、此度はわしの事、三好家の事を慮って下さり、かたじけのう御座る」

「松永殿からどこまで聞いたの?」

「全て」

「左様か……」


つまり、長慶は己れが来年死ぬ事を知っているという事だ。

長慶の表情に悲嘆の色はない。

ただ、穏やかに、息子の死と己れの死を受け入れている、

そう希美には見えた。


「柴田様、わしは、死ぬ事は怖くないので御座る。息子の元に行けるのだから、むしろホッとしているくらいで」

「あなたなら、そう言うような気がしていた。だが、私はあなたをむざむざ死なせたくはない。短いつきあいだが、あなたは、私の信者だしな。それにもし何もしなければ、三好家は次代で滅ぶ。それはあなたの望む所ではないだろう?」

「然り。わしがおらずとも三好家が潰れぬようにせねばならぬ。()()あなた様が霜台(松永久秀)に言って下さったと聞き、目から鱗が落ち申した。わしが家を支えねばと思っており申したが、それでは確かにわしがおらねば立ち行かぬ。何、今から弟の摂津守(安宅冬康)霜台(松永久秀)にわしの代わりを務めさせれば、三好家が傾く事はなかろう」

「次代にはうちの殿がついておるから、摂津守殿や松永殿、それに一門衆や重臣が次代を中心に盛り立てていけば、三好家は磐石。後は、修理大夫殿にしっかり体を大事にしてもらうだけだな!」

「有り難い事よ。わしは得難き神を得た。慈悲深き神に、三好家を残す手立て。いつ死んでもよいが、あなたと三好家存続のために、今少しこの世に留まろうと思いまする」


そんな事を言いながら、長慶はこの世に執着をしていない。

やはり息子の死が、長慶の生きる気持ちを失わせたのだろう。

希美は、そんな長慶が痛ましく、抱きしめてあげたい衝動に駈られた。

だが、それはいけない。

互いに放尿中だ。誰かに浴びせるのも浴びせられるのも御免だ。

希美に、スカトロ趣味はない。


希美は抱きしめる代わりに、言葉をかけた。

「修理大夫殿、私はあなたをできるだけ延命したい。あなたとは、良い関係を築けると思うから。仕事でも、友人としても」

「柴田様……」

長慶の瞳が揺れている。義興の死からこっち、気持ちを決壊させぬよう張りつめているのだろう。

限界まで。

彼は、トップオブ三好だ。信長と同じだ。トップは孤独だ。

下を支えるために、独りで強く立たねばならない。

全てを支える頂点が崩れたら、下も崩れるから。

でも、頂点の上には、頂点を支えてくれる者などない。


「これからはうちの殿が上に立つけど、上司だし、しがらみや面倒事もあるから、弱味を見せられないでしょ?でも私は神だからさ、私なら修理大夫殿の辛さとか弱さとか見せても受け止めるよ。子を失うのはさ、耐え難いよ。私も、経験があるからわかる」

柴田勝家もそうだが、希美だって自分が柴田勝家として転生する事で我が子を永遠に失ったのだ。


(私が三好家に肩入れし、長慶を支えたいと強く思うのは、我が子を失った長慶に自分を重ねてるのもあるかも。……後、できるおじさんが弱ってる姿とか、どストライクなんす!ああ!優しくしたくてたまらん!!)

おもわぬ希美のツボだった。


長慶が涙を流す。

二人の尿は、いつの間にか止まっていた。

「柴田様、わしは、わしは……!」

長慶の肩が震えている。その目から溢れた涙が留まることを知らない。

一方希美の心中は、時は今まさに母性本能寺の変で、『やさしさで包めたなら』がリフレインして留まることを知らない状態だ。


希美の母性本能寺はバーニングした。

たまらず長慶の体をぎゅっと抱きしめる。哀しみごと、包み込むように。


長慶はというと、希美に力強く抱きすくめられているものの、不思議と苦しさよりも安心感を覚えていた。

幼い頃、危ない真似をして心配した母に、強く抱きしめられた時と同じ、全てを守られ委ねられるような、そんな大きな存在の中にいる。

長慶は大大名の仮面をかなぐり捨て、己れの抱えている辛さを訴え預けるように、硬い大胸筋に顔を埋めた。

希美の体に巻き付いている鎖が長慶の額に食い込んだが、構わず押しつけ、声を上げて哭いた。

そんな無防備なおじさんの姿が、さらに希美の母性本能寺を攻め立てた。

なんかわからんが、ただただ『是非も無し』だ。

きっと、その時の信長も、こんな心境だったに違いない。(そんなわけがない)




ガタッ。ガタガタガタガタガタガタ……!


バブみ全開の希美とオギャる長慶の耳を、突如、謎の物音が驚かせた。

長慶は反射的に希美から体を離して大大名の仮面を被り直し、希美は長慶を背に隠し物音の聞こえた方角に体を向けた。


その瞬間、目の前の建物の中から聞こえた物音が、ピタリと止んだ。

「誰か、中にいるのか?」

今しがたしていた話は、長慶の死や三好家の存亡を匂わせるものだ。

誰かに聞かれていたならば、口止めをしなくてはならない。

幸い、部屋から出ていくような足音は聞こえない。

希美は、以前久秀と覗いた格子窓から中を覗く事にした。


そろそろ日の落ちる時間帯だ。

少し離れたこの位置からは、格子の隙間から見えるはずの室内が影になって見えない。

希美は、窓に近付き、ひょいと格子の隙間から中を覗き込んだ。


ねろんっ。



「う、うわああああああ!!!!目玉、舐められたああ!!?」

希美は、右目を押さえながら、背後に跳び退り、その勢いのまま長慶にぶち当たって、長慶を巻き込んで二人で倒れ込み、尻餅をついた。


その時希美の脳裏に去来したのは、昔聞いた事のある洒落怖話だ。

『壁の穴を覗いてみたが、ふと気配を感じて目を離し身を引くと、穴からプラスドライバーがズポズポと……』という話である。

希美は、先ほど覗いていた窓を見上げた。

そこには、格子の隙間から、黒ずんだ肌色の棒のようなものが狂ったように激しくズポズポと……!


「ぎ、ぎぃやあああああ!!!!マイナススティックーーー!!?」


それと同時に、建物の中から、おどろおどろしい声が響いた。


「ああああ……、柴田殿おぉ、妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや妬ましや……」


「ぎ、ぎぃやあああああ!!!!丹羽長秀ーーー!!?」



希美は、震える手で腰を抜かした長慶を小脇に抱えると、転がるように一目散に逃げ出した。

希美達が去り、静かになった三好家秘密の用足し場。

そこに建つ建物の中からの、


「はふう……。こういうのも、また良い……」


という声を聞いた者は、誰もいない。

そういえば、我が家は毎年家族旅行に行くんです。

なぜかうちの親、毎年近畿をスルーするんですが珍しく、「今年の家族旅行、滋賀県!琵琶湖!」と。

安土城跡行かねば。

そして、片乳首の件を謝ってきます。


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