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勝家、説教す

作者の勝家愛が……呼んでしまった。

フィクションなんで、何でもありってことにして下さい。

理想と現実は、特に戦国時代だと答え出なさそうです。

その後の記憶は定かではない。





希美がふと我に返ったのは、あの合戦から一週間以上が経ってからだった。


昨日清須の屋敷に戻り、武具を完全に解いたらしい。

次兵衛によると、あの後退却の合図があり、乗っていた人間が死んだのか、たまたまうろついていた馬を得た次兵衛は、どこか様子の定まらない希美と共に馬を駆けて自陣に戻ったそうだ。

その後も数回小競り合いが続いたが、攻めきれずに威嚇だけで終わったようだ。

それから清須に戻るまで、希美の様子は少しぼうっとすることはあったものの、特に変わりなかったらしい。


そして、戻って次の日、夕飯を食べていた時に、希美はやっと、本当に戻ってきたのである。


自分が飯を食べていると意識した瞬間、希美は吐いた。

吐き尽くして後、気分が悪いからと女中に謝った希美は、早々に床に入った。

寒くもないのに、ガタガタと震えた。

若い男だった。

絶望を宿した目で、こちらを見た。

その目が今も自分をどこからか見ている、希美はそう思った。


視線を遮るように、希美は夜着を頭から被り、膝を抱えて縮こまった。




ガタンッ

「起きよ」


いつの間にか寝ていたようだ。頭が落ちた衝撃で、希美は目を覚ました。

枕が無い。


「わしが蹴飛ばした」


(不審者?!)

希美はがばりと起き上がった。

「誰が不審じゃ」

目の前に、どこからどう見ても不審な奴がいた。

あまり手入れのされていない髪に、顔半分を覆う髭。その眼差しは鋭い。


(お、犯される?!)

「お主、自分を鏡で見よ。わしも自分を犯しとうはないわ」


(あわわ……この髭、心読んでくる!サイコメトラー、サイコメトラーの髭!)

「さいこめとらーはともかく、気になる所はそこなのか」

「ん?自分を犯す??」


希美は、この不審者を以前どこかで見た気がした。

(自分……あ……)

「柴田勝家、さん?」

「ようやっと気付いたか」

「ご、ご本人様ーーー!?」


「す、すみませんでしたー!」

希美は、すぐさま土下座した。

ご本人様がいるにも関わらず、体を自分のものにし、本人を騙って生きていたのだ。

たまに、女言葉が出た事もある。

トレードマークの髭を剃った事も、本人からしたら、大事に育てていた膝だったのかもしれない。

そもそも、知力より攻撃力の脳筋だと思っていたのだ。


「わしはの、腹が立ってたまらぬのじゃ」

思わず希美は、床に額を押しつけた。

「そなたが考えておることなぞ、どうでもよいわ。わしが事なぞ取るに足らぬ事よ」

「へ?」

希美は顔を上げた。勝家と目が合う。厳しい目だ。

「なぜ、敵方の足を潰した」

「え?や、だって、立ち上がって来られたら、皆が危険に……」

「お主、命さえ取らねば良い、片足では立ち上がれるからと、両足を潰して回ったであろう」

(あ、改めて言われると、我ながら鬼畜の所業……)

「皆を守りたくて……」


「甘いわあ!!」

ドゴッ。希美は顔を張られた。

(ひ、平手打ちの効果音って、『パンッ』じゃなかったっけ?)

どうでもいい事を考えてしまうあたり、所詮は希美である。


「お主、皆を守るためにどうすると心に誓ったのじゃ」

「殺してでも守るって……」

「なぜ、殺さなんだ」

「え?殺すって、敵でも殺さなくてもいいなら、無力化すれば」

「それで両足を潰したか」

「はい……」

「全てお主の自己満足よの」

「……でも、彼らも死ぬよりは」

「それが、甘いのよ!!」

勝家の厳しい声に、希美は震えた。

「歩けぬ百姓や武士が命永らえた所で、どうやって生きていく?」

希美は気付いた。ここは、戦国時代。社会福祉もバリアフリーもない、医療も未発達だ。

「あ、あの人達は……」

「自刃か、家族に打ち捨てられ孤独に死ぬか。誰かに養ってもらうにしろ、どのような思いで生きるのか」

「そ、それでも、命さえあれば何かできる事をみつけて……」

「お主は、傲慢よ。無知故にな。ここは乱世ぞ」

「……」

希美は何も言えなかった。

命は大事だ。敵であっても。味方を守るために殺すのが戦争だというのも理解しているが……

「誰であれ、死にたくはない。その命を取る。お主も取ったであろ?あの若武者の命を」

「わ、私は……」

「今さらじゃ。もう後戻りはできぬ。そなたは背負ったのだからな」

「背負った?」

「そうよ、背負ったのよ。命取った者が、取られた命の全てを背負うて、取った命と共に生き抜くのよ」

「背負う、命を」

「そうよ、重いであろうの。潰れそうな程に」

「はい」

「なれど、投げ出す事はできぬぞ。命取り合わねば守りたいものも守っていけぬ、乱世の理よ。」

「勝家さんも、重いのですか?」

「当たり前よ。どれ程の命を背負うておると思っておる」

「そうか、背負って生きるのか……」

希美に正しい答えなどわかりはしなかったが、勝家の言葉は飲み込めるものであった。

そんな希美に勝家は笑って言った。

「それに、お主はわしという命も取り込んでおるからの。わしが背負うておる分の命ごと背負うのじゃ。重いぞ」

「な、なんですと?!」

勝家は豪快に笑った。

「わしはもう行く。……強うなれよ、そして強く生きよ。奪っただけ強く生き抜け。そして、守ってやってくれ、わしの守りたかったものを……」

希美は勝家の目に厳しくも暖かい光を見た。


(大きな人だ……)


「あ、ありがとうございました!私、守るよ。生き抜いて、勝家さんの分まで、守るから!」


希美は泣いた。泣きながら必死に訴えた。勝家は満足そうに笑って、消えた。





目が覚めると、まだ明け方だった。

(え、夢オチ?)


だが、希美は自分の頬が塗れていることに気付く。枕も無く、離れた所に転がっていた。


(心なしか、ほっぺたもジンジンするような??)


希美の目は、力強く闇を見据えていた。

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