加速する歴史
インターナショナル武将となってしまった希美は、エローバル化に向けて南蛮人達と今後の話を詰めていた。
「ボンバイエ達の中で国に戻る者は、本国で、えろの秘匿と支援をしてくれ。彼らが発散できるよう、時々えろの集会を開いてもいいだろう。特に四つん這い散歩の奴等、くれぐれも、教会にみつからないようにな!」
「ココロエマーシタ!」
「ホウ、サバトデスネー!ソウダ、着衣人形ヲ、『聖母マリア』トイウコトニシマショウ。ソウスレバ、祈リヲ捧ゲルフリデ、修行デキマース」
「キリストじゃいかんのか?」
「彼ハ、ホボ裸デース」
「確かに。着衣人形にはならんな」
そこへ、騒がしい声が近付いてきた。
「やはり、ここにいた!おいっ、わしを見捨てて一人だけ逃げるとは、家臣の風上にもおけぬ奴め!罰として、お前は、わしの倍、佐渡の説教を受けよっ!!」
「権六には言いたい事が山ほどある故、説教は致しまするが、わしも暇ではないのですぞ、殿」
「柴田殿への罰ならば、ぜひ某に。……侵し尽くし、すすり尽くして差し上げましょうなあ。うふふ」
身の毛もよだつドSな言葉が聞こえる。
希美は、「急に催した!厠に行ってくる!」と立ち上がりかけたが、「諦めなされい。永遠には逃げられませぬ」と久五郎に珍しくまともな事を言われ、渋々ドS達を迎えた。
「あー、……殿、某を脅して岐阜から逃げ出す片棒を担がせるとは、いけない主君ですなあ(棒)」
希美の酷い言い様に、信長がいきり立つ。
「この野郎、わしに全てをなすりつける気か!」
「だって、佐渡殿が怒じゃないっすか!丹羽長秀もなんか暗黒微笑してるしっ」
「わしは主じゃぞ!!」
「殿こそ、かわいい家臣のために、犠牲になれ!」
「主に犠牲を強いる家臣の、どこがかわいいんじゃ!!」
「某、殿の命を守るためならいくらでも体を張りますが、サドの守のロング説教と丹羽長秀だけは、殿を犠牲にしても回避する所存」
「この、大うつけーー!!」
「黙りなされええっ!!!」
「「はい」」
希美と信長は、思わず罪人座りした。
林秀貞が辺りを見回して、希美に問うた。
「説教の前に、どういう状況じゃ、権六よ。この者達は何じゃ」
希美は、ハキハキと秀貞に答えた。
「はいっ!濡れ縁のおじさん達は、私の左が河村久五郎、右のガチムチ白髪ゲジ眉が、甲賀忍者の多羅尾四郎右衛門。その隣のガチムチヤ○ザ顔が、伊賀忍者の藤林長門守。庭にいるのは、エロシタンの皆さんでっす!」
秀貞は呆れたように希美を見た。
「河村久五郎は言われずとも知っておる。聞いたぞ、権六。甲賀者と伊賀者を家臣に加えた、と」
「……ダメでした?」
「駄目ではない。お主に、叛意が無ければな」
「え?あるように見えます?」
「……」
秀貞は、希美の顔を見て、ため息を吐いた。
「馬鹿の顔にしか見えぬ」
「殿っ!サド先輩に、悪口を言われました!」
「いつもの事で、かつ事実であろう」
信長を呆れた様子で希美に返す。
「事実なら、何でも口にしていいわけじゃないんですよ!」
希美は憤慨した。
「アノー、コノ人達ハ?」
突然の乱入者にポカンとしていた南蛮人達は、その正体を確かめるために、希美に尋ねた。
その時、希美はふと考えた。
南蛮人達にとって、神は王の上に存在する。
その感覚でいけば、エセ神である希美が信長の上の存在だと勘違いしてもおかしくはない。
でも、実際は、あくまで希美は信長の一家臣なのだ。
いや、一家臣でいたい。
主の信長も大事だし、そもそも国のトップとか面倒な立場は絶対に御免である。
希美の本質は、自由人なのだ。
(そのあたりを、ちゃんと南蛮人達に言っておかねばな!)
希美は、南蛮人達に説明した。
「お前達、祭でも舞台の上で見ただろうが、こちらのお方が私の主の織田上総介様だ。お前達は私に仕えるのだから、私を『殿』、織田上総介様を『大殿』と呼び、大切にするように!もし、私が南蛮に進出したとして、得た土地は織田領となる。組織のトップは、織田の殿様だ。織田の殿をないがしろにする者は、許さないからな!」
「そ、そうなのですか……?」
南蛮人達がざわつく。
希美は、ぴしゃりと信長にトップの座をなすりつけてやった。
「私は、『織田上総介信長』を主として大切にしている。他の南蛮人達にも知らせよ。織田上総介は、神を従える男なのだ、とな!」
「「「「「ハ、ハハアッ!」」」」」
「お前が一番、わしを、ないがしろにしておるよな?」
希美は、信長の呟きを無視した。
一方秀貞は、眉間に皺を寄せて希美を睨んでいる。
希美は、その熱い視線に気付き、ドキンッ……と心臓が高鳴った。
「あの、佐渡殿?何か?」
希美の不安げな問いかけに、秀貞は益々眉間の皺を深くして問い返した。
「今、この南蛮人達がお主に仕える、と聞こえた気がするが、どういう事じゃ?それに、南蛮に進出、じゃと?」
「おい、権六!どういう事じゃ!?」
信長も希美に問う。
希美は、何から話したものか、と少し逡巡して、三行で行くことにした。
「簡単に三行で説明しますとですね、堺の南蛮人のほとんどが柴田家の家来になり申した。それで世界にえろを広める事に。南蛮国の王達にえろの良さを知ってもらうために、南蛮人鍛えようず!⬅今ココ」
秀貞は頭を抱え、信長はシャウトした。
「主のわしがまだ天下とってないのに、なんで家臣のお前が世界に進出しようとしておるのじゃあ!!!」
(た、確かにーー!)
そりゃそうだ。
よく考えてみたら、信長はまだ日本の一大名である。
まずは、天下を目指すのがセオリーだ。
普通、海外に出ていく武将はいない。
いや、これまで、インターナショナル武将がいなかったのだから、当然である。
しかし、希美には、インターナショナル武将としてエローバル化を進めなければならない理由がある。
その結果、逆輸入武将となろうが、それはそれだ。
希美は信長に言った。
「殿、某にはエローバル化を進める理由があるので御座る。何、すぐすぐ海外進出は考えておりませぬ。南蛮船をさらに増やし、南蛮船水軍と南蛮人忍者を育て、準備を整えて後に……」
「南蛮船の水軍じゃと!?」
信長は仰天した。
「南蛮人達と共に、南蛮船も手に入れたか!そして、水軍まで……!う、羨ましいぞおおっ!!」
「落ち着いて、殿!私は殿の家臣だし、ひいては南蛮船水軍は、殿のものでしょ!」
「それはそうじゃが……」
「南蛮船建設したら、殿の所にも回すから、殿も南蛮船水軍作ったらいいじゃない?ただ、南蛮船は外洋向きだから、恐らく近海戦には役に立たないで御座るよ?」
「む……」
信長は、黙った。
その信長と交代するように、秀貞が希美に話しかけた。
秀貞は希美の真意を探るような厳しい眼差しで、希美を見ている。
「権六、お主、わかっておるのか?えろはこの日の本の国全土に広がりつつある。お主がもし天下に名乗りを上げれば、えろは皆、お主の忠実な兵となろう。お主には、戦での実績も、有力武将との繋がりもある上に、堺の商人と南蛮人達も手に入れた。今、最も天下に近いのは、お主じゃ、権六」
「はあ」
希美の気の抜けた返事に、秀貞は声を荒げた。
「何じゃ、その間抜けな返事は!!お主は殿にとって、危険な存在となっておるのじゃぞ!?お主が望めば、この国はお主とえろのものに……」
「無いわあー!」
「は?」
思いもよらぬ希美の反応に、秀貞はつい毒気を抜かれた。
希美は、真剣な表情になり、秀貞に言った。
「天下が私とえろのものに?何、その地獄絵図!えろは確かに庇護しないととは思うけど、天下がえろ一色でガチのHENTAI国とか、ヤバイで御座るぞ。さらに、天下なんか取ったら、こないだの殿みたいに、他国に旅行に行くのもままならなくなるんで御座ろ?そんな面倒で不自由なもの、誰が欲しがるの?馬鹿じゃないの?」
秀貞が、希美の言葉に、えもいわれぬ間抜けな表情を浮かべている。
信長が声を上げた。
「おい、わしは欲しがっておるぞ!」
「知ってるし!だから、某、全力で殿の天下取りに協力してるんで御座ろ?その結果、私にたくさん戦力が集まったけど、何が悪いの?だってそれ、殿の戦力でもあるじゃん?私、殿の家臣だし」
信長はため息を吐き、希美の言葉を呑み込みきれぬ秀貞に、目を向けた。
「諦めよ、佐渡。わしはもう諦めた。こやつは、わしらとは違う頭をしておるのじゃ。並みの武将ならば、疑わねば寝首をかかれる。だが、こやつは疑うだけ無駄じゃ。なまじ力を持ち過ぎて怪しい立場にあるだけに、疑いを持ち続けると疲弊するぞ」
「殿……」
秀貞が、なんだか疲れた目で信長を見た。
信長は、その目を見てしっかりと頷いた。
「認めようぞ?佐渡守よ。権六は、『真のうつけ』なのじゃ、とな」
「最後の締めが、悪口!!!」
希美はビシッと突っ込んだ。
「ねえ、殿?某の事、ずっと『真のうつけ』と思ってたの?ねえ、殿?」
しつこく繰り言する希美を、うっとおしそうに無視して、信長は秀貞と話を始めた。
「こうなってしまえば、堺は実質、この権六を受け入れたと見てよい。さらに、南蛮人の事も考えると、堺を織田領に組み入れるべきじゃ」
秀貞が提案する。
「それでは、此度の三好との同盟条件に、堺の実質的庇護と支配の譲渡を認めさせましょう。堺は、昔から三好の力が強い土地で御座るからな」
「それと、幕府と朝廷にも認めさせねばの。先日、羅城門の建設費用を公方様に送ったであろう?あれをうまく使おう。恐らく、朝廷にも織田が金を出した話は伝わっておるはずじゃ。官位をくれてやるだの、なんだのと、向こうから話が来るであろう」
「ともすれば、北畠氏と畠山氏が邪魔じゃのう。三好との同盟が為らば、伊勢に侵攻しよう」
「北の抑えは?」
「これまで通り、松平と兄上(織田信広)に任せる。それに、権六にもな」
秀貞が意外そうに信長を見た。
「権六に伊勢侵攻を手伝わせないので?」
信長は頭を横に振った。
「兵は出させるが、権六は来ぬ方がよい。わしが権六に頼って国を大きくしたと思われれば、わしの立場に影響が出る」
「なるほど。では、岐阜に戻り次第、伊勢侵攻の準備を致しまする」
「うむ。早急に畿内を織田のものにするぞ」
なんだか、話が大きくなってきた。
(あれ?もしかして、私のせいで、伊勢侵攻決まっちゃったの?)
希美は、信長と秀貞の会話を聞きながら、少し青くなる。
だが、時は戦国時代だ。
いつどこで戦が起こってもおかしくない。
伊勢の国さんだって、イケイケの織田さんがお隣さんなんだから、仕方ないはず。多分、史実でも侵攻してただろうし。
このタイミングかどうかはともかく。
うん、そう。仕方ない。
希美は自分に言い聞かせた。
そんな希美の肩に、ぬるりと誰かの手が置かれた。
「流石は柴田殿。えろを広め、この日の本の人間の心を侵食し手下としてしまうとは。さらに、殿を矢面に立たせ、自らは殿の家臣として、秘かに裏からこの国を欲望で支配するのですね……わかりますよ。なんという壮大でおぞましい計画か。そして、今、あなたの底知れぬ欲棒は、世界を侵そうと既に鎌首をもたげて……」
「うわあっ!!丹羽長秀、いつの間に私の背後に!」
希美はちびりそうになった。
長秀は、つつ……と希美の背中を、指先で腰まで撫で下ろした。
「どうぞ、思う存分、この世の全て人間を侵し尽くして下さい。なあに、某なら、あなたの背後でその光景を眺めさせてもらいますから。あなたの背後で、腰を振」
「言わせるかあっ!!!」
希美は、近くの河村久五郎をひっつかみ、丹羽長秀に投げつけた。
歴史は、希美のせいで、(HENTAIの国へと)加速しつつあった。