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サバトを開こう!後編

年末調整、やっと書き終わったよおっ。

ドーンッ!ドーンッ!


四半刻が過ぎて、合図の太鼓がなる。

舞台の前には、既にエロシタンを中心とした観客が詰めかけ、食い入るように舞台上を見ている。


その舞台の下では希美がこそこそと歩いていた。

ほっかむりをして、抜き足差し足と、いかにも忍んでいる。


元々、どうも嫌な予感がしていた希美である。

だから、できるだけ朝から河村久五郎に会わぬように、ニアミスで久五郎をかわしまくり、そのまま舞台に上がろうと、直前になって舞台の下にやって来たのだ。


「してやったりっ!とうとう、あの『えろデューサー』久五郎を出し抜いてやったぜえっっ!!」


そうガッツポーズを決めた時、シュルリという音がした。

「へ?」

違和感を感じた腹辺りを見下ろす。

帯が無い。

そう知覚した瞬間、希美はふんどし一丁になっていた。

「う、うわああああーー!!」


「ハッハッ、いやあ、多羅尾殿の早脱がせの技は素晴らしい!このように素早く、裸にさせる事ができるとは!」

背後で聞きたくない声が聞こえた。その内容も、ろくでもない。

例のごとく、河村久五郎である。

そして、久五郎は一人ではない。

甲賀忍者の多羅尾四郎右衛門が、久五郎の手並みを評する。

「いやあ、流石『筆頭えろ』殿。一晩でこの技を極めてしまわれるとは!だが、惜しい。全裸ではありませんぞ」

「おお、確かに!」


希美はまさかの急なに、口をパクパクさせ、なんとか声を絞り出した。

「お、おま……!なんで、私、はだか」

「そいっ」

が、言い切る前に、久五郎の掛け声一つで、希美は全裸になった。


「ぬ、ぬわあああーーー!!!」


「そう!その呼吸で御座る!」

多羅尾が、すかさず久五郎をほめる。

「『その呼吸で御座る』じゃねええ!!」

「そいっ!」

じゃららららっ!!


希美の鍛え抜かれた筋肉を、久五郎の懐で人肌に温められた鎖が、あたかも蹂躙するが如く縦横無尽に蠢き、覆っていく。

「いやあああああっ!」

久五郎が希美に鎖をかける手の動きは、速すぎて残像を生んでいる。

「わしでなければ、見逃してしまうぞい⭐」などと言い出す輩が出てきそうだ。

「なんという緊縛の技よ……!」

一流忍者の多羅尾四郎右衛門ですら、息を呑んでいる。


あっという間に、希美は『武装』させられてしまった。


「そおいっ」

久五郎は、仕上げとばかりに、希美の頭に危ない兜(真珠入り)を被せた。


「おおっ!こんなに間近に、えろ大明神様のご勇姿が見られるとは……!柴田家に仕官して本当によかった!!」

四郎右衛門が感涙に咽ぶ。

久五郎が満足そうな顔で、希美に告げた。

「外れぬように、固結びにしておりますぞ!さ、所定の位置に移動して下されっ」

「おのれえっ!久五郎、おのれえっ!」


怨嗟の声を上げる希美が、忍者達によって連れられていくのを見届けた久五郎は、司会進行のために、ある人物を伴い、希美よりも一足先に舞台に上がったのである。




「さあっ!皆様、お待たせ致しましたっ。いよいよ、えろ大明神、柴田権六勝家様のご登場です!司会は引き続き、えろ教筆頭使徒河村久五郎。通訳は、謎の覆面南蛮人。そして、今回『特等席を用意せよ』という事で、主の織田上総介様と共に進行して参りたいと思いますっ」



「な、なんじゃとおおお!!?あんな目立つ所に座っておる!」

「ぶっはっ!殿、何してんの!?」


広場のどこかからそんな声がしたが、観客の歓声に書き消されて、舞台上には届かない。



「それでは、皆で祈りを捧げるのです!えろえろえろえろ……」


えろえろえろえろえろえろえろえろえろえろえろえろ……

祈りの合唱が広がる。


ドコドコドコドコドコドコドコドコ……

太鼓がいい感じに、場を温める。


なんとっ!

舞台の中央の板が外れ、中から拳を突き上げた希美がせり上がってくる。

始めは拳、次に真珠入りマーラ、そして希美の顔が徐々に見えてくる。

開き直ったような、諦めたような表情を浮かべたその顔が見えたその瞬間。


うわああああああ!!!


『えろ』の祈りが歓声に変わる。

希美は歓声の中、全裸鎖を公衆の面前に晒した。


うわあああああああ!!!

えーろっ!えーろっ!えーろっ!えーろっ!……


ほぼ裸で頭に猥褻物を陳列し、民衆から『えろ』呼ばわりされる。

完全に羞恥プレイである。

希美が手を上げると、歓声も祈りも静まった。


「皆様、ウェルカーーム!!私が、えろの神、柴田権六じゃああっ!!!今日は、エロシタン達に言いたい事があって集まってもらった!」


うおおおおおおおっ!

ドーンッ!

太鼓の音で、皆が静まり、希美の次の言葉を待った。



「エロシタン達よ、『えろ』を止めろ!!!」



シーーンと静まり返った後、観客から怒号が溢れた。


ドーンッ!ドーンッ!ドーンッ!

ようやく、静まる。

皆、悲痛な表情を浮かべている。憤っている者も。

全員、神の真意を待っている。


希美は話し始めた。


「まず、言っておく。えろ教は、悪魔教ではない!!」


(((((さっき『柴田's daemon』って言ってたよな?)))))


多くのエロシタンが思ったが、空気を読んで、黙って希美の言葉を聞く。

希美は言った。

「えろ教は悪魔教ではない!だが、カトリックの神父達は、我らを悪魔と考えている。……その危険性がわかるか?『えろ』の弾圧だ!魔女、いや、『えろ狩り』だ!!お前達が拷問され、殺されてしまう!」


エロシタン達は静まり返っている。

彼らとて、わかっているのだ。

キリスト教と『えろ』は相容れぬ。

いつか、それを突きつけられる日が来るであろう事を。


希美は叫んだ。

「私は、えろ大明神だ!信者のお前達を殺されるのは嫌だ!お前達、悔い改めて、『えろ』を棄てろ!私の望みは、お前達が生きる事だ!!」


エロシタンは、言葉を発しない。

拳を握りしめて、考えているのだ。『えろ』を棄てねば、生きられぬのか、と。


やがて、一人のエロシタンが声を上げた。

「De jeito nenhum!(絶対に嫌だ!)」

「NO!!(嫌だ!)」

「eroero!eroero!」


えーろっ!えーろっ!えーろっ!えーろっ!


「お前達、カトリックも、もしかしたらプロテスタントも、お前達を受け入れないかもしれないぞ!」


「ソレデモイイ!!ワタシハ、eroモgodも、死んでも棄てない!」

「Anch io!(私も!)」

「Eu também!(わしもだ!)」


えーろっ!えーろっ!えーろっ!えーろっ!



「そうか……。ならば、お前達、『えろ』の教えに従えるなら、『えろ』を許す!」


うおおおおおおおおおおおっ!


大歓声が上がる。

希美は、『えろ』の教えを叫んだ。


「えろ教徒は、『共存共栄』!!宗教、性別、身分、国、肌の色を越えて、相手を尊重すべし!」


そこへ、河村久五郎が舞台袖から誰かを連れてきた。


全身を白い布で覆った大柄な人間が二人、希美の前に立つ。


希美は、片方を指差した。

「こちらのマーダー君は、強盗や、殺人を平気で犯す狂った犯罪者だ」

そしてもう一人を指差す。

「こっちのカインド君は、誰にでも分け隔てなく親切な男。さあ、友達になるなら、どっちだ!マーダー君を選ぶ人は両手を上げよ。カインド君は、しゃがめ!」


全員がしゃがんだ。


あ、一人立ったまま両手を上げている者がいる!


笑顔の丹羽長秀だ。


希美は、長秀をじゃがいもだと思って話を続けた。


()()、カインド君だな。では、久五郎。布を取れ」


久五郎が、布を引く。

現れたカインド君は、黒人奴隷であった。

もう一人は、白人の男である。


南蛮人達は、どよめいた。

希美は、黒人の男と握手を交わし、ハグをした。

「わかるか?肌の色など、布を被ればわからぬ。私とて、お前達と肌の色は違う。人の本質は肌の色に非ず。その心である。相手を尊重せず、肌の色で見下す者は、『えろ』ではない!今すぐ、この場を去るがよい!!」


南蛮人達は去らない。

彼らは、既に『えろ』を選択している。

毒を食らわば、皿まで。

彼らは、『えろ』を理解し、変わろうとしている。


「そして、自制せよ!」

南蛮人達はの目は、語る希美に一心に向けられている。


「『えろ』は『共存共栄』。無理強いしない。嫌がる事はしない。国に戻った時は、仲間を巻き込んで魔女狩りに会わぬよう、バレぬように楽しめ!自分勝手な者ばかりが行く天国など、地獄と変わらん。天国の門は近付いてこない!自分から歩いていけ!」


希美は、声を張り上げた。

「そして最後に、風呂には毎日入るんだあーーー!」


「「「「「(風呂……?)」」」」」


南蛮人達が、それぞれの言語で『風呂?』と呟く。

希美は、言った。

「カトリックが言う『風呂に入ると病気になる』は、嘘だからな!逆に清潔にしないと病気になるんだ!そもそも、臭いし、遊女タソに嫌われちゃうぞ!?」

伴天連神父が声を荒げた。

「カトリックガ間違ッテイルト、イウカ!?」

希美は堂々と答えた。

「間違ってるに決まってんでしょ!!風呂に入れ!不潔マンめ!」

希美は、カトリックの教えをバッサリ否定した。



そうして希美は、エロシタン達南蛮人を見回した。

皆、『えろ』の教えを呑み込んだようだ。

よし、今の所、脱落者はいない。

調子に乗った希美は、勢いのまま宣言した。

「私の望む先は、『平和(ピース)』。私がこの世を『えろ&ピース』の優しい世界にしてみせるっ!お前達は、私を信じてついてこい!!」


うおおおおおおおおおおおっ!


会場は、沸き立った。

エロシタン達も伴天連神父も、希美の宣言を確かに聞いた。

もとい、ルイスの通訳を、確かに聞いたのだ。


「えろ大明神様は、世界を支配し、この世を『えろ』まみれにするだろう!そしてその時こそ、『えろ』による平和が訪れるのである!!」


エロシタン達は歓喜した。

伴天連神父達は、恐怖のあまり、十字を切り、神に祈った。



(な、なんか、すげえ盛り上がってんな……)

「まあいいか」

希美は呟くと、ライブの真骨頂に移る事にした。


「じゃあ、いつものやついくぞ!!全員で、楽しもうぜ!『スリラー』だっ!!」


希美は、力一杯、恐怖のゾンビダンスソングを歌い、踊った。

曲の途中、観客の中に混じっていた使徒達が、突然おぞましいゾンビに早変わりした。

観客は思わず悲鳴を上げる。

だが、ゾンビ達は怪しい動きで舞台に向かうと、舞台上に飛び上がった。

そして希美と合わせて、キレッキレのダンスを披露する。

忍者を使ったフラッシュモブであった。


これには、観客達もおおいに沸いた。

イベントに集まったほとんどの者が、この奇跡のような時を共有して一体となり、興奮し、激しくリズムをとった。

あの信長でさえ、『スリラー』に合わせて『敦盛』ダンスを激しく踊っている。

観客のボルテージは、最高潮に達した。


「ポウッ!!」


そして熱い夏フェスの終わりを告げるように、希美の甲高い声が、堺の海に響き渡ったのであった。




フェスが終わり、希美達もはけて、会場広場にはずいぶん人が減った。

そこには、まだ、伴天連神父達が、呆けたように立ち尽くしていた。


彼らは、うわ言のように呟いている。

「スリラー……恐怖の悪魔……」

「世界を支配……」

「えろまみれ……」


向こうを四つん這いのポルトガル人が、闊歩している。


「おや、兄弟達。どうしましたか」

「あ……、アルメイダ兄弟……」

神父達は、謎の覆面南蛮人通訳がルイス・デ・アルメイダである事にまだ気付いていない。


「何か困りごとですか?私でよければ、あなた達の心配を取り除いてさしあげましょう」


悪魔は、善人の顔をして近付く。

ルイスの黒衣の下の鎖は、新たな神父を求めて、舌なめずりをするようにジャリリと軋んだ。

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