サバトを開こう!前編
忍者編です。
長くなりすぎたので、分けてます。
ロータス様から、忍者FAをいただきました!
早速挿し絵にしています。ありがとうございました!
サバト当日。
……間違えた。『エロシタン自重しん祭!』当日。
堺の町は、南蛮人だけでなく、『えろ大明神がライブを開くらしい』という噂を聞きつけたえろ教徒や物見遊山の旅人が集まり、人でごった返していた。
中には、お忍びでやって来た他国の大名や公家の姿もちらほら見える。
彼らは屋台の『まぜ焼き』に舌鼓を打ち、安価なえろ大明神グッズを売っている様々な屋台を覗いては土産を物色していた。
この時、屋台の売り子に本店の紹介もされ、後に足を運ぶ流れが出来ている。
『ライブ』開始は、午時の入り(午前11時)である。
その四半刻前に堺に到着した林佐渡守秀貞達、織田勢は、人の多さに驚きながらも、信長が出奔してすぐ人を遣わしていた天王寺屋に荷を預けると、主君信長を捜し始めた。
といっても、信長は十中八九柴田勝家と共にいるはずなので、彼らは真っ直ぐライブ会場へと足を運んだのである。
別の場所では、堺やその近辺で活動しているカトリック神父達が、会場を目指して歩いている。
人の欲望を助長する悪魔の宗教『えろ教』のサバトが行われると聞きつけ、視察に来たのだ。
最近増えている『エロシタン』を迎えるサバトであるらしい。
「(神よ、彼らを許したまえ!)」
神父達は、恐ろしい悪魔の宴に恐怖しながら、これから殉教せんと言わんばかりの覚悟で、会場へと歩みを進めている。
そんな彼らの目指すライブ会場であるが、堺の北側、太平洋に面した開けた土地に、海を背にして人の高さほどの舞台が設置されていた。
その前に陣取るのは、当然エロシタン達だ。
着衣人形と会話する者、鎖をまとう者、木玉ぐつわを装着済の者、四つん這いの者、様々な変態達が集まった。
またエロシタンに混じって、ダブルふんどし姿のえろ教使徒達も立っている。
エロシタン達が暴走しないように、また何か問題が起こった時に助けられるよう、ここイベント会場だけでなく、堺の町の至る所に、多くのえろ使徒達がボランティアとして放たれているのである。
さて、午時に入った。
ドコドコドコドコ……。
タブふん姿の使徒達が、太鼓を打ち鳴らす。
開始の合図である。
うおおおおお……!!
歓声が上がる。
少し雲はあるが、夏の太陽も会場のボルテージを上げている。
とはいえ、時折吹く海風も爽やかな堺港だ。小氷河期の夏の暑さでもあり、熱中症になるほどではない。
そこへ、舞台の隅に、ややがっちりたが少し腹の出た、年かさのタブふん姿、いや、トリプルふんどし姿の男が現れた。
ふんどし姿で、ふんどし頭巾の上にふんどし前立ての兜を被っている。
『筆頭えろ』の河村久五郎だ。
彼が片手を上げると、会場は静まった。
「皆の者、よう集まってくれたあっ!わしは、『えろ大明神様の一番弟子』にして『えろ教筆頭使徒』の、河村久五郎である!」
黒い頭巾に二本の赤い角を生やし、一つ目に四角い口が描かれた白い面をつけた悪魔教神父のルイスが、エロシタン向けにポルトガル語で久五郎の言葉を通訳する。
うおおおおお!
河村久五郎にも歓声が上がる。
「これより、『エロシタン』達へのえろ教説明会を兼ねた、えろ大明神柴田権六様の降臨祭を始めるぞおっ!」
うわああああああああ!!!
大きな歓声が上がる。
今まさに、伝説のライブが幕を開けたのである。
「それでは、まずは『エロシタン』達へ、えろ大明神様からの贈り物じゃ!日本の武将達を影から支える縁の下の力持ち!『忍ぶ者』と書いて、『忍者』の皆さんによる『忍者しょー』を楽しまれよおっ!!」
ドコドコドコドコドコドコ……
太鼓の音と共に、舞台の上に煙が立ち込める。
観客がざわめく。
一陣の風が吹き、その煙が晴れた。
すると、舞台上には、二十名の忍者が立っていた。
青空の下、黒頭巾に黒装束がとても目立つ、『ザ・忍者』である!
観客は、普段目にする事のない『忍者』にどよめき、歓声を上げた。
忍者達は、様々に手妻を繰り出していく。
まず彼らは和紙を切り、細かな紙片にしたものを元通りに戻して見せた。
次にそれを燃やして握ったその灰を、皆で組体操のように高く塔のようになってから蒔く。
その瞬間、それぞれの手から白い糸が何十本も生まれた。さながら滝のようである。
「「「「「Wow!!」」」」」
二つ目の手妻は、脱出ものだ。
忍者の入った大きな葛籠の蓋を閉め、刀でメッタ刺しにしたのである。観客が悲鳴を上げるが、葛籠を開けると誰もいない。
安堵する観客。
忍者が葛籠の蓋を閉め、持ち上げたり回したりする。
そして、また葛籠を開けると忍者が入っているのである。
「「「「「Wooow!!」」」」」
三つ目は、飛び出す生き物マジックだ。
忍者達が扇子で飛ばした紙吹雪が、本物の蝶になって飛んでいく。
「「「「「Wooooow!!」」」」」
これには、南蛮人も日本人も、おおいに喜んだ。
そして、忍者の演舞が始まった。
用意した的に手裏剣を命中させる忍者。
「「「「「Cool!!」」」」」
仲間の頭の上に立てたマーラに手裏剣を命中させる忍者。
「「「「「oh my god!ouch!!」」」」」
皆で舞台を縦横無尽に駆け回り、側転し、大ジャンプしながら、手裏剣を投げ、キャッチし合う忍者達。
「「「「「COOL!COOL!excellent!!」」」」」
そうして全員整列した所で、ドンッという太鼓の音と共に、頭巾を残して忍者服が弾け飛んだ。
全員、裸鎖だ!!(鎖と忍者頭巾は、脳内で補完して下さい)
鈍色の鎖と鍛えられた肉体が、汗でしっとりと濡れ輝いている。
「「「「「Woooooooooooow!」」」」」
観客は興奮し、歓喜の声を上げた。
そして、最後にまた煙幕が張られた。
変態忍者達の姿が煙に覆われたその時、ドオンッ!と大砲の音が鳴り響いた。
全員、すわ敵襲かと思わず悲鳴を上げて身を縮めた。
だが、空からハラハラと色紙が舞い降りてくるのに、先ほどの音が『忍者しょー』の一幕であったと気付く。
この時代、紙は貴重だ。
皆、落ちてきた色紙を拾い、紙に書かれた字に気付いた。
「『甲賀忍者募集!軟弱な伊賀と違って最高の男の職場です。多羅尾四郎右衛門』とあるぞ!」
「こっちは、『伊賀忍者募集!むさ苦しい甲賀と違って男女混合の楽しい職場です。藤林長門守』と書いてある!」
皆、舞台の上の忍者を見た。
だが、煙の晴れた舞台上から、既に消え失せている。
父親に肩車された男の子が無邪気に言う。
「父ちゃん、忍者かっこいい!おいらも、大きくなったら、鎖で体をぐるぐるして、ち○○んに武器を投げつけたいよっ」
無邪気に、とんでもない事を口走っていた。
だが、まわりの大人達も口々に言い始める。
「忍者って、すげえな」
「格好いい!」
「おれ、甲賀の方に入りたいな……」
「わしは伊賀で女の子とお仕事したいのう」
南蛮人達は、少年のように目をキラキラさせている。
「COOL JAPAN!COOL NINJA!」
「Eu queria ser NINJA……(忍者になりたい……)」
「NINJA é o máximo!!(忍者は最高だぜ!!)」
案の定、南蛮人は忍者が大好きだった。
そこへ、河村久五郎のアナウンスが入る。
「忍者の皆さん、ありがとう御座い申したー!ただいまの『忍者しょー』は、甲賀の多羅尾一門、伊賀の藤林一門の合同ぱふぉーまんす忍者集団『しばたーず・でえもん』の皆様によるものでした!あ、忍者希望の方へ言っておきますが、普段の忍者は地味で危険なキツいお仕事で御座るぞ。その上で希望して下され!」
しかし、この河村久五郎のアナウンスに最も反応したのは、忍者希望の者ではなかった。
「「「『柴田's daemon』……」」」
カトリックの神父達は、『柴田's daemon』の大人気っぷりに、意識を飛ばしかけている。
河村久五郎は、そんな事とは露知らず、元気にアナウンスを続けていた。
「今皆様に見ていただいた忍者の黒装束ですが、堺の各呉服屋で予約注文を受け付けており申すー。また、紙で作った簡単なものなら、柴田屋の屋台にて販売中で御座る。合わせて、忍者が投げておりました手裏剣も、紙で作ったものを屋台の柴田屋で販売しておりますので、是非、お土産にご検討下されい!」
うおおおおおおお!!
会場が、ざわめいた。
「それでは、四半刻の休憩を挟んでえろ大明神様の降臨となりますので、今のうちに用を足すなり水を飲むなりして下されい!」
河村久五郎が引っ込むと、多くの者が移動を始めた。
周囲に設置されている専用の壺や堀に用足しに行くもの、柴田屋に忍者服や手裏剣を買いに行く者がほとんどである。
そこかしこに、水売りが樽を背負って歩き、柄杓一杯の水を安価で売りさばく。
それでも、かなりの儲けになるはずだ。
ここは、堺。
イベント一つとっても、大きな儲けを生む、商人の町である。
後半に、続くっ!