殿拐い
久々に番組表見てたら、CSのヒストリーチャンネルで、『柴田勝家』特集やってるーー!
柴勝おじさん、ドラマとかではやたら「ガッハッハ」な能筋ぽく描かれるけど、実は、上司から可愛がられ同僚からは慕われるアニキ系。内政もいける有能武将なんだよー!
そこら辺の真実を紹介してくれそうな番組です。
録画、録画っと♪
【11/15追記】すみません。風邪でダウン中です。執筆進まず。今日の更新は無理そうです。
明日は更新したいなー。少し良くなれば、明日がんばりまーす。
割烹でもお知らせしとこ……。
散々女子会トークに(菊の)花を咲かせた希美は、その日はそのまま、信長の居館に泊まった。
なんか、夜中に「アヒィッーーーー!」という妙な物音が聞こえた気がしたが、庭に設えられた滝の音にかき消されてしまった。
岐阜の信長の居館は、自然の岩と水を取り入れた荘厳で素晴らしい庭があるのだ。
大自然に抱かれた気持ちで布団で眠る贅沢に、希美は、妙な悲鳴など気にする事なく、ぐっすり寝てしまった。
次の日、寝坊してしまった希美は、堺に戻るため信長に暇乞いをしようと、登城した。
しかし、林秀貞と取り込み中だという。
何やら、信長の怒鳴り声が聞こえる。
希美は、「あ、じゃあ、堺に戻るんで、殿によろしくお伝え下さい」と小姓に頼み、さっさと城を出る事にした。
てくてくと金華山を下山していき、中腹の虎口門まで来た希美は、後ろから走り来るような地面を噛む足音に、思わず後ろを振り返って驚いた。
信長が走り降りて来ているのだ。
「え!?殿?」
「そこで、止まれ、権六っ!」
立ち止まった希美の元にたどり着いた信長は、肩で息をしながら希美に話しかけた。
「権六、もう、出立するのか?」
「あ、はい。早めに着いた方が、祭の準備に協力できますし。殿、某を見送りに来てくれたので?」
「そうではない。わしも権六と共に堺に向かう」
「……は?」
希美は、まじまじと信長を見た。
信長は、真っ直ぐ希美を見ている。
「やべえ。マジで着いてくる気だ、こいつ」
「誰が『こいつ』じゃあっ!」
ビシビシビシッ!
久々に、主からのバラ鞭である。
(やだ、殿のバラ鞭、なんかホッとする……)
などと考えてしまった希美は、危険な思考に戦慄を覚えつつ、とりあえず謝っておいた。
「すんませんっした!……で、この事、佐渡守(秀貞)は知ってるんで御座るか?」
信長は、ふん、と鼻を膨らませた。
「知らん!どうせすぐ芥川山城に向かう準備をしておるのじゃ。先に権六と堺に参ると言ったが、あの頑固者め、『なりませぬ』の一辺倒で話にならぬ。らちが明かぬ故、『堺にて待つ』と書き置きして、出てきたわ!」
「どこの家出少年ですか?!実質大大名でしょ、あんた!自由か!」
「すぐ領地を飛び出すお前に、言われとうないわ!」
自由人武将二人が不毛な争いである。
希美は、信長に聞いた。
「なんでそんなに急ぐんですか?どうせ近いうちに芥川山城に行くんでしょ?祭に間に合わせたいなら、せめて一日準備に費やしてから明日にでも出発すればいいでしょ?ほぼ手ぶらじゃないすか、殿!」
希美にそう言われた信長は、怯えた表情を浮かべた。
「嫌じゃ!ここで夜を迎えとうない。夜になれば女どもがまた……!怖い、夜が怖い……!!」
ガタガタと震え出した信長を見て、なんとなく予想がついてしまった希美だったが、一応聞いてみた。
「な、何があったんですかね……?」
「……武士の情けじゃ。聞かんでくれ」
『武士の情け』。
何かえらい目にあった武士の常套句である。
若干涙目の信長は、希美に尋ねた。
「その方、昨日女どもと話しておったよな?何があったんじゃ?あやつら、意味のわからぬ言葉をわめきながら、よってたかってわしを執拗に……」
「全ク、ワカリマセヌナー。一体何ノコトヤラ?(棒)」
「そ、そうか」
すっとぼけた希美だったが、ふと疑問が湧いた。
「それで、殿、昨夜は結局『吹け』ました?」
「お、お前の仕業かああああ!!!」
「ああっ、何故バレたし!?」
信長のシャウトが金華山にこだました。
例によって信長と希美がワチャワチャしていると、
「あっ!いたぞ、殿じゃ!」
「殿ー!お戻りをーー!!」
と、上から林秀貞や近習の侍やらがわらわらと降りてくるのが見えた。
先ほどから生暖かく信長と希美のやり取りを見守っていた虎口門を守る門番役達も、何事かと様子を伺っている。
「いかん!権六、走るぞっ」
「え?で、でも、佐渡殿が……」
ドえす主君とサドの守先輩との間に挟まれ、まごまごする希美に、信長はバラ鞭を突きつけた。
「お前の主は、誰じゃ?」
きゅん……
「殿でっす!!」
「おい!殿を行かせるな!門を閉じよっ!!」
秀貞が上から命じたため、門番役は、慌てて門を閉じる。
だが信長が、正反対の命令をする。
「ちっ!門を開けよ!」
門番役は、「え、でも」と戸惑っている。
「早うせんかあっ!!」
信長に怒鳴られ、門番役等は飛び上がって、門を開こうと動き始めたが、秀貞等はすぐそこまで来ている。
間に合わない。
希美は、信長に背を向けて中腰になった。
「殿っ!乗って!!」
「応!!」
信長は、迷う事なく希美の背に身を預けた。
「全力でかじりついててよっ!」
そう言うや、希美は虎口門から横に回り、土塁の急斜面を一気に駆け降りた。
「あああああああ!!!」
信長は絶叫した。
斜面に設置してある敵避けの逆茂木(逆さに置かれた木々)の枝葉が希美と信長の足を打ち付ける。
「殿拐いじゃあ!」
「殿拐いを逃すなあっ!!」
「柴田権六を止めろおーー!全ての門を閉じさせろお!」
上の方で騒ぎになっている。
「権六っ、どうする!?」
「門を通らねばいい!」
希美は迷わず、木々の生い茂る山の中へ突っ込んだ。
そのまま一直線に、ふもとへ向けて駆けていく。
迫り来る木々をひょいひょい避け、巨岩から巨岩へと飛び移り、崖を『I can fly!』する。最早人間の動きではない。
背中の信長は、いつの間にか静かになっている。
背中にかじりついたまま、気を失っている。
器用な男である。
希美はそのまま下山を果たし、城下の自宅に飛び込むと、既に用意していた旅の荷物を胸元にくくりつけ、背中の信長が落ちぬように鎖で希美に縛りつけた。
そして女中から、満タンの竹の水筒を二つ受け取るや、馬にひょいと跨がって、そのまま門より出走した。
敵もさるもので、城下を駆ける希美達をただちにみつけ、騎馬で追ってくる。
が、流石に無茶苦茶な希美用に仕上げられた馬である。
『ドえす』と目覚めかけた『えむ』の二人分を乗せているとは思えぬ力強い走りを見せている。
敵に三馬身ほどあけてなかなか追いつかせない。
このまま逃げ切るか、『エスアンドエム』号!?
ああっ!追い上げてきた!『サドノカミ』!!
後ろに、『ワライジョウ』号!
逃げる『エスアンドエム』!追う『サドノカミ』!
『ワライジョウ』号も来たっ!!
『エスアンドエム』逃げる!
『サドノカミ』追う!
『ワライジョウ』号、ここで『サドノカミ』を差したあっ!!
『ワライジョウ』号、そのまま追い上げるっ!後少しで並ぶっ!
『エスアンドエム』……、おや?柴田騎手が後ろを振り返り、滝川騎手に話しかけた!
「知っておるか、彦右衛門!!」
「何じゃあ、権六ぅ!!」
「殿の乳首、子に吸われ過ぎて片方だけ伸びてんだぞ!」
「ぶごはっ」
『ワライジョウ』号が脱落したあっ!!
『サドノカミ』、巻き込まれて減速!
後ろの『キンジュウエー』号、『キンジュウビー』号、その他の皆さん、追いつけない!
そのまま、『エスアンドエム』号、街道に出たあ!!
『エスアンドエム』号、逃げ切りましたあーっ!!
「『女子会』情報のえげつなさ、思い知ったか、彦右衛門よ」
そう呟いた希美は、スピードを落とす事なく、街道を駆けていく。
信長は、己れの恥ずかしい個人情報が流出したとは知らぬまま、昨夜の疲れもあり、希美の広い背中にもたれて無防備にいびきをかいていたのだった。