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睡蓮屋堺店の仕業

キリスト教の人にまず言っておきます。

「すんませんでしたっ」(土下座)

愛をもってお許しを!!


あと、今回の話の中に、私のスマホの予測変換がお勧めしてくれたパワーワードが隠されています。

気づいた方へのプレゼント☆

「いらっしゃしましー!」

睡蓮屋の暖簾をくぐり、入店した希美達を迎えたのは、睡蓮屋番頭の助兵衛すけべえであった。


助兵衛は使徒の証のふんどし頭巾を装着し、仕立ての良い着物の上に睡蓮屋のハッピを羽織って、恐らく笑顔を浮かべている。

その笑顔はふんどしに隠れていて見えぬものの、ちゃんと金を払ってくれる客であれば、河原者だろうが、南蛮人の連れている奴隷だろうが、変わらぬ笑顔で神対応できる、接客のプロである。



ここ睡蓮屋は希美がコンサルティングしている関係で、いつしか河村久五郎と共同経営となった遊女屋であるが、この助兵衛は別段どちらの家臣というわけではない。

そもそも仕官している武士なんてものは、武士階級に誇りを持っている。

遊女屋の店長なんて、してくれないし出来はしない。

他の店舗では、普通に現地でスタッフを雇っているのだが、堺店は様々な地の人間が集まる特殊な土地だ。

そこに目をつけ、『柴田えすて屋』と同様に、畿内や異国の情報収集も兼ねて、滝川一益が手下の諜報員である助兵衛を貸し出しているのであった。


こうして睡蓮屋堺店のオープニングスタッフとして派遣された、助兵衛を始めとした諜報員達だったが、オープン前、久五郎に『研修』と称して森部に連れていかれた。

そして五日ほどして堺に戻ってきた時には、もう『魔改造』されていたのである。


そう、『えろ』崇拝者として。


現在彼らは真面目に修行を続け、皆、えろ教の使徒となっている。

つまり睡蓮屋スタッフは、新しく雇った者や小僧以外は、ほぼ使徒なのである。



その助兵衛は、希美を見るなり目を見開き、希美が抱えている宣教師を認めると、さらに目を丸くした後感嘆の息を漏らした。


「えろ大明神様、お久しゅう御座います!それにしても、流石はえろの神様ですな。伴天連ばてれんと遊女屋でお楽しみに?」

宣教師は日本語を解するのだろう。

カタカタと震え出す。

希美は即座に否定した。

「違うわ!遊女はつけんでいいから、上客用の接待部屋を用意してくれ。二人で入る」

「なんと!伴天連()お楽しみになるのでしたか!」

「人聞き悪い事言うな!もう、早く案内してくれ!」

「はいはい。そういう事にしておきましょ。こちらへ……」


宣教師の震えが一層激しくなる。

何やら祈りの文句も絶え間ないので、でかい携帯電話が鳴っているみたいだ。



助兵衛に案内されて、日頃は賓客が接待に使うという、品の良い部屋に通される。

床の間に飾られた鎖と木玉ぐつわが品の良さをぶち壊してはいるが。


希美は部屋に入ると、助兵衛に居酒屋『喜んで』から二人分の出前を頼んだ。


助兵衛はそれを了解した後、希美に耳打ちした。

「えろ大明神様、南蛮人の『エロシタン』化は、順調に御座います。どうぞ、心安らかに堺の町をお楽しみ下され」

「『エロシタン』?……おい、なんだ、それ?」

不穏過ぎる言葉が出てきた。


嫌な予感しかしない希美を見て、不思議そうに助兵衛は言った。

「河村筆頭様からお聞きでは?『睡蓮屋の南蛮人客に、えろの良さを知らしめ、切支丹きりしたんにも心置きなく『えろ』を楽しんでほしい』と、以前から南蛮人向けの説明会を行っているのです」

「お、おう……(まあ、それは悪くはない……よね?)」

「伴天連は姦淫を罪としておりますで御座いましょう?私達使徒が持ち回りで、『修行して『えろ』を突き詰めれば、肉欲情欲による姦淫の罪なく、いつでも天国へぶんに至れる故、伴天連の御心にも叶う』と説いております。それで、切支丹でありながら『えろ』である者を、いつしか『エロシタン』と呼ぶようになったので」

「そんなヤバイ天国を目指す信者は、神様だって想定外だぞ。いや、そもそも修行中に、情欲しまくってるが……」

「なに、天国に至るために必要な事ですから、きっとデウスとて許してくれますよ。伴天連ばてれんの『きりすと』は、姦淫の罪を犯した女を、『これまでに姦淫の罪を犯さなかった者などいない』と証明して許したそうです。最終的に悔い改めたら良いはずです」

「そ、そうなのかな……」

希美は、なんだかそれも正しいような気がしてきた。

が、助兵衛は聞き捨てならない事を言い出した。


「特に、『朝柴物語』の噂がこちらに伝わってきてから、えろ大明神様への南蛮人の信仰が高まりましてな」

「へ?」

「『信仰心があつければ、一舐めするだけで、天国へぶんに行ける』と。いや、手前も舐めてみたいもので」

希美は、わなわなと肩を震わせた。

「さっきの南蛮人達は、それが原因かーーー!!!」


恐らく、『エロシタン』南蛮人達は、えろ大明神を舐めて天国へぶん状態になろうと殺到したのだろう。

『朝柴物語』の影響力たるや、とんでもない風評被害である。


「じゃ、じゃあ、あの四つん這いの南蛮人達にも、何か理由が?」

「四つん這い?ああ、あれはうちの新しい趣向(サービス)です。鎖緊縛にはまる南蛮人が多いので、銭を追加すれば『鎖に繋がれて遊女とお散歩』ができるようにしました所、大当りでしたよ。笑いが止まりませんね。ハッハッハッ」

「あれ、ドM様向けのオプションサービスだったのか……」

助兵衛はなかなかのやり手であった。



だが、助兵衛から話を聞く限り、先ほどの一件で顔バレしてしまった希美にとって、堺はエロシタンゾンビが闊歩するデンジャラスタウン。

希美は仕方なく、以前大坂本願寺で大活躍した尼の衣装を助兵衛に持って来させる事にした。


助兵衛は嬉しそうに声を上げた。

「おお、あの時の尼姿をまた見られるのですか!」

何故喜ぶのか。

希美は胡乱げに助兵衛を見た。

「お主、もしやコスプレ好きか?いや、百歩譲ってコスプレ好きだったとして、男のコスプレを何故喜ぶ……」

この場合、女装家好きの方が近いと思われるが、どちらにせよ、助兵衛の趣味はマニアックという事が今、判明した。


一方、助兵衛は希美の言葉に反応した。

「『こすぷれ』?」

「ああ、『コスプレ』とはな……」



希美は、知る限りの『コスプレ』知識と実体験を、赤裸々かつ大胆に、時に寸劇すらまじえて語り尽くした。

特に、修道女コスのシュエーションプレイを実演して見せた時は、熱演し過ぎて、部屋で震える宣教師の祈りボイスが音量最大になったほどである。


全てを語り終えた時、宣教師は壊れたように希美に向かって激しく十字を切り、助兵衛は五体投地を決めていた。


助兵衛は熱に浮かされたようにまくし立てた。

「これが、新たな『えろ』の啓示!『こすぷれ』を用いれば『えろ』の世界が広がりますよ!早速、遊女が着る様々な衣装を用意せねば……!」

「『お殿様と町娘』など、状況によっては、男の衣装もいるぞ!」

「確かに!では、手前は『こすぷれ』の準備がありますので、これにて失礼致しますっ」

言うなり、襖を開け放したままバタバタと走り去る助兵衛の背中に、希美は声をかけた。

「居酒屋『喜んで』の出前と、私の尼コスの用意も忘れるなよー!」

「そうでした!お任せをー」



去って行った助兵衛を見送って、希美は襖をパタリと閉めた。

「さて」と呟いて、振り返る。

その視線の先には、己れに敵意を向ける宣教師の姿。


宣教師の頭の中は、先ほどのコスプレ実体験話でいっぱいだった。

(闇の魂を持つ堕落した修道女が、罪を告解をしているうちに興奮し始め、鎌を振り回しながら神父を襲うとは……!そして神父も持っていた盃で迎撃。そのまま激しく組んずほぐれつしながら、いつしか神父に馬乗りになり、『天国に連れていってあげる』と……!)


「Deus me livre!(神様、助けて)!!」



そんな絶望姦溢れる宣教師に、希美はずんずんと近付き、目の前に立った。

極限状態の宣教師の男は、聖書の一節を思い返した。


『悪人に手向かってはならない。だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい』


(そうだ。悪人に手向かってはならない……。尻を強いられたなら、尻を向けなさい……)

希美あくまが宣教師に向かってかがもうとしている。

それと同時に宣教師は、四つん這いの姿勢で希美に尻を向けた。


「すんませんでしたっ」

希美は土下座した。




いや、正確には、土下座しようとかがみ、宣教師の尻に顔をめり込ませた。

希美のダークソウルぷれい。


ところで、キリスト教の教えではかなり有名な「右の頬を打たれたら左もねっ☆」というドM感溢れる御言葉ですが、あれは無抵抗に受け入れろというわけではないんです。

ハンムラビ(復讐)っちゃダメよ!

と言いたいだけで、ソウルは屈していないんですよ。

実際、頬を打たれたイエスは、ちゃんと抗議しています。


宣教師の男「尻は向けてあげるけど、心までは屈しないんだからっ」


こういう事です。


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