おっさんの現実
軽くBLぶっこみました。中の人が女性なので、逃れられないのです。苦手な人は気をつけて!
追記
りくのすけ様から、200話記念として、14話目の素敵な勝家FAをいただきました!
本文頭に載せています。
じっと目を見る勝家さんです。やだ、イケメン。りくのすけ様、ありがとうございました!!
「殿、入りますぞ」
返答も待たず、次兵衛は障子を開けた。
そこには目を腫らして憔悴した勝家の姿があった。肩を落として何も言わずへたりこんでいる。
何も言わず、隣に腰を下ろした。
「……入っていいなんて、一言も言ってない」
かすれた声だった。たっぷり半刻は慟哭し続けていたせいだろう。次兵衛は部屋の外で勝家が落ち着くのを待っていたのだが、胸に迫るほどの悲痛な声だった。
次兵衛が問うた。
「少しは落ち着きましたかな?」
「……姉上は?」
「伊助と帰らせました」
「そうか」
勝家は少しほっとした様子だった。顔を会わせづらいのだろうと次兵衛は考えた。
「怒っていたか?」
「いえ、……まだ失った子の事をふっ切れていないのだろう、と殿のお気持ちを慮っていましたよ」
ふ、と息を吐く音が聞こえた。勝家が自嘲するように笑ったようだった。
「取り乱した。すまなんだな」
「いえ、珍しい姿を見られました。そのお顔の様子も含めて。明日は槍が降りましょう」
「次兵衛……」
拗ねたような声色だった。
次兵衛を見る目が少し潤んでいる。童か女のようだ。次兵衛は思わず庇護欲がそそられ、そんな感情がわき起こった事に驚いた。
前日まで勝家と言えば、男らしさの塊だった。自他共に厳しく、家臣団を強く牽引してきたのだ。
その男が泣き腫らした赤い目で自分を見つめている。
何かいけない気持ちになりそうで、しきり直すように次兵衛は咳払いをした。
「清洲のお城で何かありましたかな?」
「あったといえば、あったな」
次兵衛の問いに、勝家は憮然として答えた。
「大殿に膳をぶつけられたとお聞きしましたが」
「ああ、頭を打ったせいか少し記憶が混乱してな、今までの自分とは変わってしまったようなのだ。好みなども変わった故、髭もなくしてみた」
「若々しくお成りで。このように良き顔立ちを隠していたとは。ふふ、これから殿は女に不自由なさらぬでしょうな」
途端に勝家の顔つきが苦いものになる。
「女に興味はない」
「ならば男ですかな。男にももてそうですな」
くつくつと笑う次兵衛に勝家は少し考え、眉間に皺を寄せた。
「男の尻にも興味はない」
「なるほど、ならば跡継ぎはやはり養子をとらねばなりませんな」
「それは構わない。しかし、子には母が必要だ。元服後でないと養子はとらんぞ」
「それは御随意に。しかしこのご時世ですからな。いつ命を落とすかわからぬのが戦国の世というもの。跡継ぎは早めに決めねばお家が割れますぞ」
「それは大丈夫だ。六十までは生きられるはずたからな」
「何の根拠があってそのような事を……」
「……秘密だ」
次兵衛は呆れて勝家を見たが、ふいと目を逸らされた。その仕草が何やら可愛らしく、次兵衛は思わず笑んだ。
「それよりも、次兵衛。近々また戦があるぞ。」
「なんと!今度はどちらがお相手に?」
「美濃攻めだ。殿は私を連れていくと仰せだ」
「わかり申した、では支度を!」
「ああ、いつでも出られるように頼む」
「はっ、では御免」
次兵衛は足早に部屋を出る。障子を閉めて歩き出してから、ふと足を止め振り返った。
(以前とは確かに変わられた……だが、悪くはない)
弱さを見せぬ主だったが、弱さを隠さぬようになった。頼りなし、と戸惑う家臣も出るかもしれぬ。だが主についていくばかりでなく、主を助けることで家中がさらにまとまるやもしれぬ。
次兵衛はそのように算盤を弾いた。
(わしが守らねば……)
踵を返し、歩き出した。
**********
一方、希美は勝家の姉に啖呵を切って泣きながら無人の部屋に駆け込んで後、わんわんと泣き続けた。
一度思い出せば、子どもとの思い出が止まらず、もう二度と帰ることのない日々を思い、母を失った子どもの気持ちを思い、不幸を嘆いていた。
一時間はゆうに経った頃だろう。
「殿、入りますぞ」
その声と共に男が一人、入ってきた。そして、勝手に希美の隣に座った。
気まずさから、希美は強がって言った。
「入っていいなんて、一言も言ってない」
次兵衛は特に気にした様子もなく問うた。
「少しは落ち着きましたかな?」
表には出ずとも、この嘆きが胸から消えることがあるだろうか。希美は問いに答えず、勝家の姉のことを聞いた。すると、伊助と帰ったと言う。
姉は、勝家が『失った子』を思い出して取り乱したと考えたようだ。
まさに当たらずとも遠からず、である。
希美は、勝家の姉に子への愛情がないとは思っていない。当然離れがたいはずだ。
しかし、彼女は戦国の女だ。子どもを人質や養子に出すことなど、当たり前なのだろう。
ただ、こちらの事情を知らぬとはいえ、希美の子と同じ年頃の我が子を手放すなど、希美の心情を逆撫でする行為であった。
(姉の性分や背景は理解できるけど、しばらくは顔を見たくない)
希美は自分の了見の狭さに自嘲した。
と同時に、勝家の自分が泣き喚き、次兵衛はさぞ気味悪く思っただろうと希美は考えた。
「取り乱した。すまなんだな」
(とりあえず謝ろう)
しかし次兵衛は軽口を叩いて希美をからかい、希美の不安な心をほぐした。
「次兵衛……」
拗ねたような口調になってしまったが、希美は次兵衛という男の懐の深さを見た。次兵衛は草履取りからスタートした叩き上げだ。苦労もしたのだろう。
(顔もいい男だよね)
改めて見ると、少しキ○タク似だ。キム○クを少し崩して年を取らせ、ワイルドにした感じだろうか。
ぜひ「ちょ、待てよ」と言わせたい。
希美はつい、二十年前に合コンで散々駆使した落とし技その1『じっと目を見る』を繰り出した。
……意外に通じたようだ。次兵衛の耳が少し赤い。
(おっさんになっても通じるのか、この技……)
希美はさらにコンボで落とし技その2『胸を軽くテーブルに乗せ、自然に腕で寄せ谷間を作りつつ、斜め下から少し上目遣いで見る』を繰り出しそうになったが、幸か不幸かここにはテーブルも乳も在りはしなかった。
(く……、雄っぱいじゃ谷間が作れない!)
合コンにおいて『撃墜王』の二つ名を持つ友人ほどではないが、それなりに成果を挙げてきた希美にとって、この鉄板技の封印は痛かった。
(いや、何と戦ってるんだ、私は)
次兵衛の咳払いで無事希美は我に返ったが、その後の次兵衛との会話は希美に今後の人生における大きな問題点を浮き彫りにさせたのである。
「これから殿は女に不自由なさらぬでしょうな」
(女?そいや、私、今男か。え、恋愛対象が女?!無理無理、絶対無理ー!)
「……女に興味はない」
「ならば男ですかな」
(男か。男なら……って、ちょっと待って。私も男だから掘る方?いやいや、無理。女と同じくらい、掘るのは無理ー!)
「男の尻にも興味はない(断言)」
それから希美は、養子や美濃攻めについて次兵衛と話した。しかし、頭の片隅にはこの問題点が引っかかっていた。
(確か六十才でお市と結婚だったよね。そんな先の事はその時で!ともかく今は、縁談を全拒否で。最悪、出奔しよ。)
(ただ、私が誰か男の人を好きになった場合、消去法的に私が掘られる方か……)
希美は思い出した。あれはカラーコンタクトが流行った時の事だ。友達は軒並みカラーコンタクトをしていた。希美も当然その波に乗りたかったのだが、断念したのだ。
『目にレンズを直接つけるとか、怖すぎる!』
希美は、とんでもなくビビりなのである。
そんな希美だからこそ、こう思った。
(目にコンタクト入れるのすら怖すぎて無理なのに、尻に入れるとか、できるかーー!!)
ガチのBLの敷居の高さに、希美はただ戦くしかなかった。
最初はシリアスだったのに、最終的に尻アスに……(何言ってんだ、こいつ)
ふざけないと気がすまない性分ですみません。