婚礼騒動
実はこれでも、完全にBLにならないように抑えて書いているんですが……
最後に載せた【おまけ】は、性質上どうしてもBLにならざるを得ず……
苦手な人は、スルーよろです。
白い粉。
それを決して、許してはならない。
織田信長に、波着寺のガサ入れを心に誓わせたその男、朝倉景紀は、これまでの主張を一変させ、希美に迫っていた。
「権六殿、わしはお主と共に行きたい。わしを柴田家中に加えて下され」
「な、なんで?私達は信じられないんじゃなかったの?……はっ!白い粉?白い粉で精神が崩壊を?!」
希美は戦慄した。
景紀は先ほどとは打って変わって、神妙な態度で語った。
「確かにあの粉で、わしは織田上総介という男の本質を悟った。性癖はともかく、あれは覇者であり、器が違う。朝倉などよりももっと先を見ておる。朝倉が妨げにならぬ限り、朝倉は織田と高みを目指せよう。……うむ、性癖はともかくな。故に、わしの疑心暗鬼は解けたのも事実じゃ」
「殿の性癖の事はそっとしておいてあげて……。それで、なんで柴田なの?はっ!ペロペロ?私の傍でペロペロ狙って……」
「ち、違うわい!!……あ、いや、ペロペロしてもよいなら、するのはやぶさかではないが……///」
「ああっ!硬派な鈍感系武将だったのに……」
希美は頭を抱えた。汚染は深刻そうだ。
景紀は咳払いした。
「それはともかく、わしは先ほどまで、死ぬつもりでおった。殿も倅も失い、行く末が見えなんだのじゃ。しかし、お主等の心がわしを奮い立たせた。お主等の傍におれば、わしもまだ高みを目指せると……。そして傍で仕えるなら、お主が良い。そう思った」
「九郎左殿……」
「「「「「キャーーーー!!」」」」」
外野(腐女中)がうるさいが、希美は聞こえない事にした。
景紀は言った。
「昨日の夜、わしの心に寄り添ってくれたのはお主だけじゃ。わしを最後まで助けようとしてくれたのも。だから、これからはわしがお主を助けたい。そう思い、主をお主に定めた」
「「「「「キャーーー!!昨日の夜ぅーー!?」」」」」
(む、無視無視……)
信長が口を挟んだ。
「おい、権六、断れ!わしはペロペロを陪臣に持ちとうない!」
「「「「「ブー!ブー!」」」」」
景紀がじろりと信長を睨む。
「そんな事を言わんで下され、大殿。またペロペロ致しますぞ?」
「わしを大殿などと呼ぶな!権六っ、こいつ、わしを脅しおったぞ!お主もまたペロペロされるぞ!」
「「「「「ブー!ブー!」」」」」
「うるさいぞ、女共!!朝倉滅ぼしてやろうか!」
女中達は渋々黙った。
一方、希美は、
『ペロペロされるぞ!』
という信長の言葉で心を決めていた。
「あー、九郎左殿。当方、慎重に検討致しましたが、誠に残念ながら今回は採用を見送らせていただこうかと。九郎左さんの今後益々の活躍をお祈り申し上げ」
景紀は呟いた。
「わしの領地にある敦賀港、使い放題。大陸との直接貿易の実績有り。ギヤマン(ガラス)工房もつけます」
「やっぱ、採用!!」
「おのれ、権六うう!裏切りおったなあ!?」
希美は、ナイスな笑顔でサムズアップし、信長は頭を抱えた。
お金儲けって、大事である。
景紀はきちりと座り直すと、平伏した。
「それでは、今後末永くよろしくお願い致し申す。わしは一旦領地に戻り、倅の葬儀を終わらせ、寺から次男を還俗させて跡を継がせねばなりませぬ。なれば、その後に権六殿……いえ、殿の元に参りましょう」
希美は頷いた。
「うん、わかった。急がずともよいから、ゆっくり家族との時間を過ごしたらいいよ」
「かたじけない」
そこへ照任が声をかけた。
「えろ大明神様、しばらくお会いできぬなら、どうぞ敦賀様にあなた様の御ふんどしを与えておやりなされ。あなた様の持ち物をしばらくペロペロせぬと、震えがくるほどに堪らなくなるので御座います」
「何それ!?禁断症状!!白い粉、恐えな!!……ちょっと待ってな」
希美はごそごそと帯を外して袴を脱ごうとし……、
「おい!なんで、ふんどし限定なんだ?!別にふんどしじゃなくてもいいだろ!」
と照任に突っ込んだ。
「「「「「ちっ……」」」」」
そこかしこから女達の舌打ちが聞こえるのは、何故なのか。
そこに混じる男の舌打ちは、さらに意味不明である。
なんにせよ、何か持ち物を渡さないと禁断症状が出るのは確かなようだ。
少し考えながら、景紀を見る。
そして、おもむろに衣を脱いだ。
「「「「「フゥーーーー!!」」」」」
会場は興奮に包まれた。
希美は自分の着ている下着の単を抜き取ると、景紀に手渡した。
「昨日の夜、私が寝てしまった時に、九郎左さんが自分の単を私にかけてくれたでしょう?あの単、朝起きたら何故か穴だらけになっていて、もう返せないんだけど……」
朝倉方の何人かが、目を逸らした。
希美は続けた。
「今度は私があなたに贈るよ。私の単。使ってくれ」
「殿……」
「「「「「キィイヤアアアア!!後朝よお!!敦賀様が柴田様に嫁入りよおお!!」」」」」
女中共が激しく興奮の喜声を発し、その場の男達はビクリとなった。
希美は慌てて訂正した。
「お、おい、女中さん達や?嫁入りじゃない。ただの雇用だから」
「婚礼の準備がいるかしら」
「餅は?三日夜の餅をつきましょう!」
「あああっ!この話を物語にしないと!今なら凄いのが書けそう!」
「私、昨日から妄想が止まらないの。絵は私につけさせて。凄いのが描けるわ」
「その物語、是非写本させて」
「私も!」
「私も!」
(ああっ!全然聞いてない!)
仲間内で盛り上がり、暴走するのが女の集団というものだ。
希美は、それをよく知っていた。
織田方からも祝辞が届く。
「ええー!?柴田殿、嫁取るんすか!?おめでとー御座る!!」
「権六が、おと、男と、ジジイと結婚……!!ぶはっ、ひいーっ!ひいーっ!」
「ご、権六……。相手、男だけど、その、おめでとうな……」
「黙れ、馬ウェイクと彦右衛門(滝川一益)!!後、三左(森可成)、違うから……!」
信長が怒声を発した。
「わしはそんな男、認めんぞ!!」
「あんたまで、何言ってんだ!」
(うーん、このままじゃ外堀が勝手に埋まって、マジで『所顕し(結婚披露宴)』させられかねんぞ。いかん。世界で始めて同姓婚したのが柴田勝家になってしまう!)
「……ん?結婚?……あああーっ!」
希美は大変な事を思い出した。
「どうした、権六?」
「どうされた、殿?」
信長と景紀が反応した。
希美は青い顔で呟いた。
「結婚で思い出した。私、すぐに帰らなきゃ!!」
「なんじゃ?」
信長が、訝しんで聞いた。
「忘れてた。娘の結婚……」
「はあ?お主に娘など……あっ……」
信長と希美は、顔を見合わせた。
「伊達の娘と、芦名の嫡男の婚礼か!いつじゃ!?」
「な、七日後……」
「阿呆ーーー!!」
信長は、急かした。
「はよう、行け!お主のせいで東北が荒れても、もうわしは兵も兵站も出さぬからな!」
「う、うぃっす!!じゃあ、九郎左さん、また落ち着いたら出社して!」
「出仕ですかな?では、御武運を!」
「おい、そこのっ!私の馬!馬のぷーさんを持てっ」
「はっ、直ちに!」
こうして希美は越前で新たな変態を仲間にした後、同姓婚をなんとか回避し、慌てて加賀に戻った。
越後までの最短コースをとるには、安宅湊から越後に向かわねばならぬ。
ただ、船の確保の仕方など全て部下任せで自分じゃ出来ない希美は、船の乗船手続きを頼もうと、まずは加賀入りした。
だがそこには、越後にいるはずの上杉輝虎が希美を待っていたのである。
【おまけ】
朝倉館の女中により、新たな文学が誕生してしまいました。
『朝柴物語』 Wikipediaより
室町後期に成立した日本の物語。小説。
作者名は伝わっていないが、朝倉館に勤めていた女房だった事がわかっている。
文献初出は、1563年。
世界初のBL小説と言われ、織田の越前攻めの際に実際に起きた、柴田勝家と朝倉景紀の恋愛騒動をもとに書かれたという。
∧あらすじ
織田による越前攻めで、織田信長と共に朝倉館に入った柴田勝家は、朝倉一門衆の筆頭となった朝倉景紀を見初める。
だが、主君と息子を失った景紀は織田の支配を拒否。
『織田の支配か朝倉の滅亡か』でその日の夜は、夜通し会議が行われていた。
そんな時に、ふとした事から二人きりになった勝家と景紀。
勝家は景紀をかき口説き、景紀も徐々にほだされていく。
二人はその夜、手を繋いで館内をそぞろ歩きながら、想いを確かめ、ついに共寝する。
だが、勝家が目覚めた時には景紀の姿はなく、ただ景紀の単だけが残されていた。
その日は、織田への臣従か否かを返答する日であった。
他の一門衆が織田への臣従を誓う中、織田への不信と勝家との恋に板挟みになった景紀は、それでも武士らしく死ぬ覚悟で織田に抗う。
その時、波着寺の高僧照任が現れ、『えろ』の霊験あらたかな白き妙薬を景紀に飲ませた。
たちまち『えろ』の奇跡で、織田が朝倉を滅ぼさぬと理解した景紀は、勝家に嫁入りしたいと願う。
勝家の元恋人で主君織田信長が嫉妬心を起こして反対するが、勝家はこれを拒否。
後朝の習いに従い己れの下着を景紀に渡し、朝倉館の女中達が所顕しの準備を行い、二人は晴れて結婚。夫夫となった。
そして、同様に織田と朝倉も固く結ばれたのである。




