信長の属性
「さて権六、わしはその方の頭なぞどうでもよい」
(いや、今散々聞いてきたよね)
希美は突っ込むのを我慢した。
「わしは美濃攻めをする」
「はあ……」
「腑抜けた返答じゃの。その方、桶狭間に連れていかなんだのを恨んでおるのだろ?美濃攻めに連れていけと言わんのか?」
「いえ、無理にとは申しませぬ。何、某は外様のようなもの。弘治3年、某は弟君から殿へと寝返り申した。すぐ信用できぬのも仕方ない事かと」
(ええと、確か勝家は美濃攻めに参加しなかったはず。よしよし、合戦とかないわ。内政チートで屋敷や領地を好きに改造してやろ)
「ふむ……その方を連れていってやろう」
「えっ?」
信長はニヤリと笑った。
「その方が面白そうだからな。そもそも今さらその方が裏切るとも思えぬわ」
(こいつ……野生のカンかなんかでこちらの思惑を見抜きおった!その上での嫌がらせか、このドS俺様野郎)
「何やら不満そうだな」
「滅相も御座りませぬ、ドS野郎(ドS野郎)」
「どえす、とな?」
「はわわわ……何でも御座りませぬ」
(やっべー、腹立ち過ぎて心の声漏れた!)
信長は胡乱な目で希美を見た。
「その方、前も猪武者で愚直であったが、今は通り越してうつけであるの」
「ぐ……」
(さらっと悪口言われた)
「まあよいわ。何もかも忘れておるようなら隠居させるつもりであったが、まだ使えよう。存分に槍働きせよ」
「ははっ」
信長は立ち上がると来た時と同じくダンダンと足音を立てて去っていく。
希美は辞去のために来たのを思い出し、慌てて声をかけた。
「あ、殿、部屋や着替えをお貸し下さりありがとうございましたっ。本日はこれにて下がりまする」
信長は振り返り、呆れた顔をして希美を見やったが、ふんっと鼻で笑って向こうを向いた。
「……その方が使った剃刀はわしが日頃使っておるものの一つよ」
「はあ……殿のご愛用の品をお貸し頂いたのですか。ありがとうございました」
「ふん、権六の使った剃刀などわしはもう使わん。うつけが移るわ。持って帰るなり好きに致せ」
「……あ、有り難き……」
(なんか、デレたーーー!!)
信長はこちらの返答を待たず、去っていった。
「な、生ツンデレ……」
(よくライトノベルに出てくるけど、現実では見たことない。だって実際そんなやついたら、社会的にアウトだから)
(でも織田信長なら、許されるのか?)
「多少は可愛いような気がする。が、何かお前には言われたくない的な意味でイラッとするわー」
元祖うつけの人に、うつけが移る呼ばわりとか屈辱だわ、と希美はぼやいたのだった。




