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100話達成記念SS 『ナイト オブ ファイヤー』

100話達成で、ちょっとSSなるものにチャレンジです。

これは、まだまだ先のお話。



1581年元日、安土城の一室で待つ希美の元に信長の嫡男信忠がやって来た。

この頃、既に信長は信忠に家督を譲っており、希美は平伏して織田の当主を迎えた。

「おお、殿!明けましておめでとう御座る。某に内密の話とは、一体何事ですかな」

信忠は有能で凛々しい青年大名だ。彼は、神妙な面持ちで話し始めた。

「実は、権六に相談があるのだ」

「なんでしょう」

「父上の事だ。父はよく思い立っては少ない手勢で動かれる。いつかそれが仇になるのではないかと思ってな。だが、私の言う事など聞いて下さらぬ。どうしたらよいかと困っておるのだ。何か良い知恵はないか?」

希美は腕を組んだ。安易でベタなジェスチャーである。

「うーん、大殿は某の言う事など、聞かぬばかりか下手するとぽかぽかパンチが飛んできますからなあ」

「やはり、父上に危ないとわかってもらうのは難しいかのう」


「いや、ちょっと待てよ……」

「良い思案が浮かんだのか?!」

何か思いついた風の希美に、信忠が食いついた。

希美は独りごちた。

「今こそ、あの計画を実行する時……!」

「あの計画?」

訝しげな表情の信忠に、希美は提案した。

「緊急時のロールプレイングをやりましょう!!」

「ろ、ろおるぷれ……?」


耳慣れない言葉に困惑していた信忠は、見た。

柴田勝家が、非常に悪い顔でほくそ笑んでいるのを。


これは、父上に何か面白い事が起こるに違いない。


案外腹黒い所のある信忠は、希美の計画に全面協力する事を決めたのである。


さあ、息子の許可も得た所で、計画の実行をいつにするかである。

希美は記憶を辿った。確か、テレビの織田信長の特番で見た事がある。この年の二月二十八日、京で馬揃えがあるのだ。非常に好都合だ。

希美は、信忠に頼んで明智光秀をこの場に呼んでもらった。



「「『本能寺の変』どっきり計画?!!」」


部屋にやって来た光秀と元から部屋にいた信忠は、希美の謎の言葉に首をひねった。

「『本能寺の変』は何となく想像できますが、どっきりとは?」

明智光秀が希美に聞いた。

希美は答えた。

「ドッキリとはな、要は皆で特定の者を騙して相手の反応を楽しむイタズラの事よ」

「そんな事をして、大殿はお怒りになるのでは?」

光秀がまともな意見を出した。希美は、はっと鼻で笑った。

「大殿の怒りなど、大殿のお命に比べればどうと言う事もないわ。明智殿とて、主君よりも我が身を可愛がる方ではあるまい」

「そ、それはその通り!」

「であろう?なに、大殿は息子に甘い。殿の命令に従ったと言って、殿に責任を負ってもらおうぞ!ね、殿!」

「お主は、わしを『殿』という名前の友か何かだと思ってないか……?」

呆れ顔の信忠に、光秀が言った。

「殿、諦めなされ。散々見て来られたでしょう。大殿にはもっと、失礼な口をきいておりますぞ」

「で、あるな。これでも神だものな」

希美は抗議した。

「何故!こんなに敬っているのに!」

信忠と光秀は、無視して話を続けた。


信忠は希美に計画の内容を尋ねた。

「それで、どのようなイタズラを仕掛けるのだ?」

希美は、取り繕うのも面倒なので、ぶっちゃけた。

「実は、今度朝廷から要請があって、二月二十八日に織田軍みんなで軍事パレー……馬揃えをやります」

信忠と光秀は絶句した。

「……まさか、御仏からの予言か?」

「御仏からの予言です」


希美は大分前から未来予知、つまり予言の事を公表していた。

ただ、歴史は改変されまくっているため、予言は御仏が勝手に希美に通信してくるという事にしていたのだ。

それを知る信忠は天を仰いだ。

「イタズラのために御仏が予言を……」

「御仏も望んでいるのです。『けしからん、もっとやれ』とね」

信忠と光秀の信仰心が試されている。

希美は構わず計画の大筋を打ち明けた。

「……という流れです」

信忠と光秀の顔色が悪い。

信忠が言葉を発した。

「なるほど。無茶苦茶父上に怒られそうだが、確かに実際に手勢が少ないばかりに謀反で殺される体験をすれば、危機感を持ってくれそうだ。無茶苦茶父上に怒られそうだが」

大事な事なので、二回言ったんですね。わかります。

光秀が呻いた。

「某が謀反役……」

「やってみれば、案外しっくり来るかも。ガンバッ!」

希美は悩める光秀の肩を叩いて励ました。

大丈夫だ。本番では無事完遂したのだ。お遊びでできぬ筈がない。

希美は二人に言った。

「明智殿は、大殿から馬揃えの準備を命じられますから、いっしょにドッキリの準備をお願いします。二月二十八日が馬揃えですから、決行はその翌翌日くらいでどうでしょう。殿はその日の手勢を百人ほどに調整して下さい。明智殿、その手勢等は計画遂行のために訓練をせねばなりません。手勢予定者を早めに京に入れて、説明会と予行演習しちゃいましょう」

「「わ、わかった……」」


その後、希美は宿所の本能寺に使いを送り、日承上人に計画の協力を取り付けたのである。




そして、迎えた『本能寺の変』ドッキリ決行日。

夜中の本能寺は異様な緊張感に包まれていた。

寺の周りでは明智光秀の軍勢がぐるりと取り囲み、出番を今か今かと待っている。

希美は、本能寺内の信長の部屋が見える辺りに潜み、様子を探っていた。


その時、信長が部屋から出て、厠に行くのが見えた。

(今こそ、決行の時!!)

希美は光秀に使いを送った。


門の外では、光秀に決行開始の連絡がもたらされた。

光秀は緊張のあまり震える声を、頑張って振り絞った。

「んんっ、んっ。て、敵は、本能寺にあぁりい~!!」

最後、声が裏返ったが、ドンマイだ!

明智家の家臣等が微笑ましげに見ているぞ。

さあ、謀反開始である。



寺内の厠から出た信長は、大勢の具足の擦れ合う音を聞いた。

そこへ雪崩れ込む明智勢。応戦する織田方。

お互い、怪我をさせないように頑張っている。

希美が陰から合図を送る。

「当てないように、気をつけて!(小声)」

合図を受けて、明智の弓兵が信長の隣の柱に矢を放った。

「焚き火、七輪部隊、急いで!(小声)」

辺りから煙がもうもうと立ち込める。

信長が妙な顔をしている。

「魚の焼ける旨そうな匂いがするな」

(誰だ!七輪で魚焼いてる奴は!!焚き火の芋は許したが、魚は許してねえぞ!!)

小姓の森蘭丸が言った。

「だ、誰か干物でも隠し持ったまま、炎に巻かれたのでは?」

苦しいが、ナイスフォローだ、森蘭丸!


信長は聞いた。

「相手は誰じゃ!」

蘭丸が答えた。

「明智で御座る!兵は一万!こちらは百!」

信長は、目を瞑った。そして言い放った。

「是非も無し!!」


(言ったーー!!!生『是非も無し』いただきましたー!!)

希美は興奮した。


蘭丸が信長を促した。

「殿、この手勢の数では最早これまでかと!」

ナイスな言い方だ、森蘭丸。『手勢の少なさ故のピンチ』アピールだ。

信長のまわりに向けてバンバン矢が飛ぶ。

うまい!うまく本人を避けて刺さっている。

矢は信長を寺の中に追い立てるように放たれているようだ。

信長が中へと移動する。

明智勢に那須与一でもいるんじゃないのか?

希美は隠していたプラカードを取り出すと、信長を尾行した。


信長は蘭丸と一室に入ると障子の戸を閉めた。

いよいよ大詰めである。

希美は障子に穴を開けて中の様子を伺った。

(あっ!敦盛ダンスが始まりそうだ)

慌てて傍らの使い番に伝言を頼む。

「任務完了!各部門の長は全員集合!通達よろしく!!」


そのうち、信長が敦盛を舞い始めた。

「人間五十年、下天のうちを……」


責任者達が集まってきた。

信忠、光秀、本能寺の日承上人である。


「一度生を得て滅せぬものの……」

「行くぞ!!」


ガラリッ!

「ドッキリだいせいこーう!!!」

希美はプラカードを掲げて、部屋に突入した。







信長が扇を落とした。

いろんな感情がない交ぜになった、凄まじい顔で固まっている。


(この顔が見たかった!!)


これこそがドッキリの醍醐味というやつだ。

希美は大いに満足した。


だが、もう一つ目的を達成せねばならない。

このためのドッキリなのだ。

希美は、その場に土下座した。

まわりも全員平伏という名の土下座状態だ。



「どういう事じゃ……」

地を這うような低い声が聞こえた。

これは、最高に怒っている。


信忠が声を上げた。

「私が頼んだのです!どうにか、父上に少ない手勢で動かれる危険をわかってもらおうと!」


信長が声もなく信忠に怒りを爆発させようとした、その時だ。

希美が親子の間に割って入った。


「怒りなら某にぶつけなされ!これは、全て某が考えた計画に御座る!!」


信長が希美の頭を踏みつけた。

希美はそのままの体勢で言った。

「某に思う存分怒りをぶつけたら、皆を誉めてやりなされい!」

信長は足を下ろして問うた。

「なあんで、こやつらを誉める……」

希美は信長を真っ直ぐ見た。

「皆、自分の命を賭して、殿の命を救う事を決めた忠義の臣に御座る!此度で殿もわかった筈。手勢の少なさが織田の破滅に繋がる事が。皆、殿が大事なのです!」

希美は、平伏して言った。

「私だって、殿を失いたくない……!どんなに怒られても、織田を追い出されても、殿に生きていて欲しい!みんな、そう思って……思って………」

希美の声が震えている。

信忠は、瞳を潤ませながら呟いた。

「権六、お主、そこまで父上を……」



信長は、深くため息を吐き、どかりとその場に座った。


「許す」

「へ?」

信忠が信じられぬという顔で信長を見た。

信長は、ばつの悪そうな顔をして言った。

「わしも、此度は胆が冷えた。奇妙、お主がずっと言ってくれておったのに、わしは無視しておった。すまぬ」

「父上……!」

「皆にも、奇妙が無理を言ったの。主の命なら、断れまいて」

信長は苦笑いした。

「殿……」

「織田様……」

光秀等もほっとしたようだ。

希美は平伏したまま、時々震えてくぐもった声を出している。

信忠は、希美の肩に触れた。

「泣かずとも良い。そなたも、ようやってくれた」


だが、信長は希美を見て鼻を鳴らした。

「ふん、奇妙、お主もまだまだよの。おい、権六、顔を見せよ」

希美は、うつむいたまま黙って首を振った。

信長は希美の頭を掴んだ。

「命令じゃ!顔を見せよっ!!」

そのまま、無理やり顔を上げさせた。



希美は、笑い死に寸前の表情で信長を見るや、「ぶぼっ」と吹き出した。

どうも、ドッキリ大成功の瞬間の信長の顔がツボったようだ。


信長は、魔王と化した。

その夜、本能寺において、魔王の怒りの炎でバーニングされたのは、希美だけであった。



信長は、三月五日に再度馬揃えパレードを行った。

その中で一際人々の目を引いたのが、柴田勝家である。


柴田勝家は一人ふんどし姿で縛られたまま馬に乗せられ、その背には『この者、本能寺に出没した変態也』と書かれたプラカードがくくりつけられていたという。



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