帝国外廷定例会議
今まで名前だけ出ていた戦争の敵国……帝国の一幕となります。
今後に必要な回となりますので、お付き合いください
陰鬱な空気が充満する外廷会議室にて。
会議室の中央に置かれた長方形の机を囲うように座る、上質な衣服を身にまとった何人かの男女達が様々な言葉を交わし合っている。
長きにわたる戦争と……予想もしていなかったまさかの敗戦。
それらによって揺らぎつつある帝国の再建という、なんともままならない課題を抱えて、今日も今日とて帝国の廷臣達は暗澹たる溜め息を吐き出していた。
「――――これで、今日の議題は終わりかな?」
と、議長のそんな一言で、いつものようにいつもの会議が終わろうとした折……一人の廷臣が声を上げる。
「……ああ、私の方から一つ報告がある。
最近になってサンセリフェ王国の内通者達が妙に騒がしくてね……特に第二王子、マイザー派閥の連中が力を貸せ、金を貸せと五月蝿いのだよ。
なんでもあのディアスに痛い目に遭わされたとかで、その復讐がしたいらしい。
……さて、どうしたものだろうか?」
防諜長のそんな言葉に、会議の参加者達はそれぞれ大きな溜め息を吐き出す。
……そうして溜め息を吐き出したうちの一人が、防諜長へと言葉を返す。
「そいつらが騒ぎすぎて我々が内通者達を支援していたなどと発覚してしまったら……サンセリフェが下ろした拳を再び振り上げかねない。さっさと始末してしまえ」
「それも一つの手だが……いきり立っている奴らを利用してディアスを害するというのも一つの手かと思ってね。……内通者の始末についてはそれからでも遅くないはずだ。
ディアスには戦中は勿論、戦後になっても痛い目に遭わされ続けているからねぇ……どうだろうか?」
「……それはアレかね?
君達が失敗したという内乱工作のことを言っているのかね?
かつての帝国民達が君達の工作に対し、一切耳を貸さなかったどころか……むしろ工作の邪魔までしてきたというアレのことかね?
……冗談では無いぞ、防諜庁がかいた恥を雪ぎたいが為に帝国に損害を与える気かね」
そんな防諜長ともう一人の会話に、別の方向から別の声が割り込んでくる。
「ああ、その話なら私も聞いたよ。
なんでも民達の心から帝国への忠誠心が綺麗さっぱり消えてしまっていたのが失敗の原因だったとか?
一切の略奪をせず、善政を敷いて……その上、王国兵士達との結婚を推奨。
そんなのが十年以上も続いちゃえば……まぁー、そうなっちゃうよねぇ。
いやいや、全く……内政屋としては見事な手腕だとディアスを褒めたくなっちゃうねぇ」
まさかと思わずにはいられないそんな内政長の一言に、まず否の声が上がり、次に賛の声が上がり……そうして会議室内が騒がしくなっていく中、これまでほとんど喋ることの無かった、とある女性から鋭い声が上がる。
「……なるほど。
何故私などがこの会議に呼ばれたのかと思っていましたが、この下らない案に賛成させる為でしたか。
……ディアス殿を害す為だと言えば、この私が賛成するとでも?」
「……おや、これは意外なことを言う。
ディアスは、君の父上の―――将軍の仇では無かったかな……?」
女性に向けての防諜長のそんな一言に、女性はにこりと冷たく笑い……そうしてなんとも嬉しそうな声を口から吐き出す。
「えぇ、確かにディアス殿は父の仇です。
……ですがディアス殿は父の仇であると同時に、父と私の大恩人でもあるのですよ」
そんな女性の言葉に驚き、表情を歪める面々を眺めた女性は、満足気に微笑んでから口を開く。
「貴方がた内政屋と覗き見屋達が陛下に奏上した作戦のせいで、父は武人として全く不本意な……多くの醜悪な罠を使わざるを得ない状況に追い込まれてしまいました。
そんな状況下で……父はまるで毒沼で溺れるかのように悶え苦しみ、戦いを終えた後に自害することまで考えていたのですが……そんな毒沼から父を救い上げてくださったのがディアス殿なのです」
女性のそんな言葉を耳にして、会議室の中にあった視線が一斉に防諜長と内政長に集まる。
そうした視線達をなんとも涼しい顔をした二人が受け流す中、女性は言葉を続ける。
「こちらの作戦を看破した上で正面から応じ、こんな罠など武人の戦いには不要だと言わんばかりにその全てをあえて踏み……一つ残らず踏み抜いた上での威風堂々たる正面突破。
そうやって父の下にたどり着いたディアス殿は、父を非難することも無く、恨み言一つも無く、正々堂々と父と打ち合ってくれて……そうして父に武人としての名誉ある死を与えてくださいました。
父の満足気な死に顔の美しさと、父から託されたあの戦斧を手にしたディアス殿の輝かんばかりの笑顔……今でも忘れられません。
それ程の大恩人に対し抱く想いはただただ感謝の気持ちのみ。恨みを理由に害すなど……もってのほかです」
そう言って女性は父親から受け継いだ皇帝直下軍将の地位を示す懐剣を一撫でしてから、冷徹な表情を作り出し冷たい声で吐き捨てる。
「その……内通者のマイザー派でしたか? ディアス殿に痛い目に遭わされたという事はどうせ碌でもない連中なのでしょう。
生かしておいた所で帝国になんの利も無いでしょうし、そんな連中などさっさと処分してしまえば良いのです。
軍を預かる将として、この意見の採択を強く求めます」
女性がそう言葉を終えたのを見て……議長は、手仕草でもって書記に『最後の発言以外、議事録に残さないように』と伝え、書記は何も言わず何の反応も示さずに、ただ指示に従う。
そうして会議室に無言の間が訪れたのを見て……今まで発言を控えていた一人の廷臣が声を上げる。
「ま、外交畑としては好きにしてくれ、というのが正直な所だね。
今僕達が注視しているのは王位を継承するだろう第一王子リチャードと……元帝国領土で好き勝手やってくれている第一王女イザベルだけ。
全く動きを見せない第二王女ヘレナ。失脚した第三王女ディアーネ。そしてマイザーが……マイザー派がどうなろうが知ったことでは無いからね。
……いっそマイザーごと一掃してくれると手間も予算もかけなくて済むから楽かな、あはは」
「馬鹿を言うな。
内通者の一人二人ならともかく、王族まで手に掛けるなど不可能だ。
仮にやれたとしてサンセリフェをどれ程刺激することになるか分かったものではないわ。
……そんな有様でよく外交だのなんだのと口に出来るな」
そんな発言をきっかけに各々がそれぞれの立場での発言をし始めてしまって、議論へと発展してしまい……終わりかけていたはずの会議は、混沌とした空気に飲み込まれていってしまう。
そうしてこの日の会議では結論を出しきれずに、この件に関しての結論は次回の定例会議へと持ち越されることになったのだった。
お読み頂きありがとうございました。
本文中の「ディアスの輝かんばかりの笑顔」 は コミカライズ3話のセルフ(?)オマージュです。 コミカライズ3話を見ていただくとディアスさんの笑顔っぷりがよく分かります。
次回はイルク村に戻ってのお話となります。
ディアス視点になるかは……考え中です。




