イルク村婦人会
外伝集で、昨日クリスマスSSを、今日コミカライズ記念SSを公開しています。
そしてついに本日、コミックアース・スターさんでコミカライズ『領民0人スタートの辺境領主様』の連載が開始となりました。
興味がある方は活動報告や、ページ下部にリンクを設置しましたので、ぜひぜひチェックしてみてください
イルク村婦人会。
アルナーと、アルナーの家事を手伝っていた犬人族の主婦達が作り出した会の事で……ただの仲良し会かと思いきや、婦人会の面々はアルナーの主導で色々と、戦闘訓練のようなことをしていたらしく……これもまたアルナーの主導で戦場にまで来てしまっていたらしい。
隠蔽魔法を使い、戦場で隠れながら……私達の様子を見守りながら、いざという時には私達の援護をする為にそうしていたのだそうで……話し合いをしていこうと決めたばかりだというのに、いやはや、全く何を考えているのだろうか。
ちなみにアルナーの言い分としては、私が戦いの準備にかまけて、ちゃんとアルナー達の、婦人会の話を聞いてくれなかったから、仕方なくそうしたんだ、とのことで……うん、どうやら私にも悪い部分があったようだ。
幸いというか、なんというか、私達はその『いざという時』を迎えること無く、戦いに勝利することが出来た訳で……それを見たアルナーは婦人会の皆に、戦利品を回収するようにとの指示を出したのだそうだ。
エルダンから贈られた品々を乗せた荷車を引きながらの帰路の途中、様々な品々を咥えたり抱えたりしながら村の方へと走っていく婦人会の面々を見かけた時の衝撃と言ったら……戦場で起こったどんな出来事よりも驚かされてしまった。
剣やら槍やらの武器に始まり、細々とした道具や、ディアーネ達が用意していた糧食を乗せた荷車達や、ディアーネの乗っていた馬、挙句の果てには戦鐘や、ディアーネの持っていたヘンテコな杖までもが婦人会の手によって回収されていて……私達がイルク村に到着する頃には広場にちょっとした戦利品の小山が出来上がってしまっていた。
すぐにでもその小山の片付けをしたい所だったが、流石にもう日が落ちてしまっているのでと、片付けは夜が明けてからやろうとなり、食料を倉庫にしまうだけにして……そうして色々なことがありすぎた昨日を終えた私達は、夜が明けるなり起き出して朝食を手早く済ませてから荷車の品々と小山の戦利品達の片付けに着手したのだった。
戦場で婦人会が拾った武器や道具に関しては、そのほとんどが質の悪いものばかりで、私達には不要だろうとなり……それらは鬼人族の村に譲ることにした。
鬼人族の職人達の手にかかれば質の悪い剣や槍も、便利な鉄器、鉄具に生まれ変わってくれることだろう。
戦鐘は広場に設置し、連絡用の鐘として使うことにした。
食事の準備が出来たなどの際に、皆を広場に呼び集める時には鐘を一度だけ鳴らし、何か緊急の事態を知らせる場合には皆にそれが伝わるまで連打する、といった使い方になる。
ディアーネの馬は、その背に誰かを乗せることを酷く嫌がった為、騎乗用としては扱わず、ただ世話だけをしていこうとなった。
アルナーによると、主人に懐いていた馬が主人を失った際にそうなってしまうのはよくあることなのだそうで……そういう時は無理強いせずに、向こうから心を開いてくれるのを気長に待った方が良いのだそうだ。
このまま私達に心を開かないままであったとしても、他の馬と番になることもあるだろうし……馬が増えたことそれ自体をアルナーが喜んでいるので、まぁ問題は無いだろう。
早速アルナーがその毛がクリーム色の……月毛という毛だからと、古い言葉で月毛の牝馬を指すらしいアイーシアという名前を付けて呼んでいるが、アイーシアがその名前に馴染んでくれるにはかなりの時間が必要そうだ。
そうした戦利品達の中で特に役立ってくれそうなのは、ディアーネが持っていた赤い宝石のついた杖になるだろう。
おかしな力を感じるからとアルナーがあれこれと調べて、その先端の宝石に魔力が込められることが分かり……試しにといくらかの魔力を込めてみたが何も起きず、しばらくの間弄り回しても振り回しても結果は変わらず、役に立たないゴミであると結論づけて、アルナーが投げ捨てた杖。
それを私がたまたま拾い、その際に杖の先端から火が出たことによりその力の正体が判明した……なんともおかしな杖。
なんとなく……こう、戦斧を直す時と同じ感じで力を込めると火を出してくれるのだが……そのなんとなくが言葉では上手く伝わらず、私以外に使えないことが判明したその杖は、火付け杖と名付けて、主に竈の火付け用などに使っていくことになった。
火打ち石でそうするよりも簡単で手早く火付けが出来るので、日々の生活の中で役立ってくれることだろう。
何度か使ううちに、魔力を込めたら込めただけの強さの火が出ることが判明したので、火事になったりしないように『魔力込めすぎ禁止』と『使い終わったらちゃんと魔力を使い切ること』との文字を、持ち手の部分に刻み込んでおいた訳だが……それで安全だと思い込まずに、保管方法などにも気をつけるようにしなければ……。
エルダンからの賠償品というか贈り物のほとんどは食料で、保存が利きそうなものは倉庫の奥へ、そうで無いものはなるべく早く食べていこうとなり……食料以外の綿布やシルク布は皆の服として生まれ変わることになった。
特に犬人族達は服らしい服を持っていないので、冬前にはしっかりとした服を揃えてやらなければならないだろう。
そんなこんなで、全ての片付けが終わったのは昼過ぎ頃のことだった。
皆が手伝ってくれたおかげで楽といえば楽だったのだが、それでもかなりの重労働であり、昨日の疲れも残っていた私は……今、アルナー達が用意してくれた日除け屋根の下で腰を下ろし、塩入りの薬草茶を飲みながら身体を休めている。
何本かの木の棒に一枚のメーア布を縛り付け、その何本かの棒を突き立てただけの簡易な日除けなのだが……これが中々どうして快適で悪くない。
王国の夏のようにじっとりと纏わりついてくる湿気も無く……常に柔らかな風が吹き続けてくれる草原の夏は、その時点で王国よりも何倍も快適なのだが……風通しの良い日除けがあることでその快適さが一層に増してくれる。
これだけ快適ならばアルナーが用意してくれたミント油を使う必要も無いだろうな。
……と、そんなことを考えている時だった。
強い爽やかな風が吹くと同時に、ドタバタとセンジー氏族の何人かがこちらに走ってくる。
確か彼らは……草原の見回りをしに行くと出かけた者達だったはずだが……草原で何かあったのだろうか?
「ディアス様。何者かが村に近付いて来ます!」
「なんかテカテカじっとりしていました。毛が生えてなくてツルツルしていました。それと口が大きかったです!」
「西です、西から来ます。馬車でした!」
駆けて来て、日除けの下へと滑り込みながらそう報告をしてくれるセンジー達。
早口で捲し立てて……ハッハッと息を荒くするセンジー達を撫でてやって落ち着かせてやりながら、それらの情報を頭の中でまとめて行く。
「……ペイジン達……か?」
テカテカとじっとりとして、毛が無く、口が大きく、西から馬車で来る。
それらの情報から思いつくのはカエルそっくりの行商人ペイジン・ドの一行で……確かにそろそろ来てもおかしくない頃か、と頷く。
ペイジンが来たなら出迎えるべきかと腰を上げていると、生命感知魔法が発動しているのか、その角を緑色に輝かすアルナーがやってきて、
「ディアス、どうやらペイジン達が来たようだぞ」
と、声をかけてくる。
アルナーによるとペイジン達は鬼人族の村に立ち寄ること無く、こちらへと一直線に向かって来ているらしい。
前回の取引の時に色々と注文を出したから、それらの品をまずこちらに運んでくれている、ということだろうか。
兎にも角にもペイジン達が来るのであれば出迎えるかと私とセンジー達と、アルナーとで村の西端へと向かい……そこでペイジン達の到着を待っていると、いつかに見たあの馬車がこちらへとやってくる。
その馬車の御者台に座るペイジンは私達のことを見つけるなり、なんとも勢い良くその片手を振り上げて、
「おお、貴方がディアスさんデスネ!
ご注文頂いた品々、お持ち致しまシタ!」
と、ゲコゲコとした音の混じった大声を上げてくる。
フロッグマン独特の声ではあるものの、その発音というか、喋り方はペイジン・ドのものでは無く……その声を耳にした私とアルナーは、一体アレは何者なのだと訝しみ、警戒心を顕にする。
するとそんな私達の様子を見たペイジンもどきが慌てた様子を見せて、焦り混じりの大きな声を上げてくる。
「お、おまちくだサーーイ! 警戒しないでくだサーイ!!
ワタシはペイジン家のペイジン・レと申しマス!
ペイジン・ドの弟、ペイジン・レと申しマス!
謹慎の身につき国を出ることが出来ナイ兄に代わって、ディアス様ご注文品々をお持ちシタ次第デス!!」
そんなペイジンもどきの言葉に、私とアルナーはお互いを見合って……そうして同時に首を傾げる。
弟? ペイジンの?
と言うかペイジン家とは一体……?
そうした疑問を浮かべた私達が戸惑ってしまう中、ペイジンが御する馬車がイルク村に到着するのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はペイジン弟とのあれこれです。
年末年始を挟む為、少し遅くなる……かも?しれません
ご容赦ください。




