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領民0人スタートの辺境領主様  作者: ふーろう/風楼
第三章 領主様、奮闘す

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決着と追撃

今回も前回と同様、視点があれこれと変わります。



 ――――イルク村、老婆達のユルト



 完成間近の編み物や、毛糸玉などが雑多に散らばるユルトの中で、何人かの犬人族達に囲まれながら腰を下ろすマヤが、その手の中にある赤や、黄色、青といった色とりどりの石達を放射状の線の描かれた丸い布の上に放り投げる。


 丸い布の上に落ちた石達は、石同士でぶつかりあい、あるいは不自然に跳ねたり、布の上滑ったりして……まるでそれぞれの居るべき場所へと向かうかのようにして動き……布の上のそこかしこでその動きを止める。


 マヤは動きを止めた石達を見つめながら、布の模様と石の色と何度も何度も見やりながらしばし黙考し……口を開く。


「無事、宝、吉報、大功、反響……。

 ……反響がちょいと気になる所だけど、この結果なら安心して良さそうだねぇ」

 

 マヤがそう言うと、マヤを囲いマヤに寄り添っていた犬人族達が尻尾を振りながら安堵の声をそれぞれに上げ始める。

 マヤはそんな犬人族達を一人一人撫でてやり……犬人族達の手を借りながら「よっこいしょ」との掛け声と共に立ち上がる。


 そうしてマヤは犬人族達を連れながらユルトの外へと出て、外で待っていた老婆達に向かって頷き、にっこりと微笑んで占いの結果を口にする。


 すると老婆達は、


「ああ、良かった良かった」「悪い結果じゃなくて良かったわぁ」「これで安心できるわねぇ」「マヤ様の占いは外れたこと無いですしねぇ」「マヤ様、ありがとうございます」


 なんてことを言いながら、その場を離れていってそれぞれの日課や仕事をし始める。


 そんな老婆達を満足げな様子で見送ったマヤは、さて自分は何をするかとユルトの周囲を見回して……セナイとアイハンの畑の側でじっと木の芽を睨む犬人族を見つけて、首を傾げながら、犬人族達を連れてそちらの方へと歩いていく。


「アンタ、木の芽を睨んだりして、一体何をしてるんだい?」


「はい! この虫が悪さをしないか見張っているんです!

 葉っぱを齧ろうとかしちゃったらすぐにお仕置きです!」


 白黒毛の若いシェップ族はマヤの方を向きもせずにそう言って、葉の上に乗る虫に鼻先を突き付けながらじっと睨み続ける。

 

 木の芽では無く虫を睨んでいたのかとマヤがそちらへと視線を移すと……そこに居たのは、なんてことはないただのてんとう虫だった。


「なんだい、てんとう虫じゃないか。

 ……その虫はね、木や草にとって有害な悪い虫を食べてくれる良い虫だよ。

 そうやって葉の上で体を休めているんだろうし、そっとしておいておやり」


 赤い翅に黒い紋、見ようによっては毒虫にも見えるてんとう虫の説明をマヤがしてやると、犬人族はマヤの方へと振り返り首を傾げて、


「それは本当ですか?

 この虫は畑に悪さをしないんですか?」


 と、尋ねてくる。


「本当だよ、バラの世話をしていた時によく見た虫だからねぇ、間違いないさ」


 マヤがそう言葉を返すとそれで安心したのか犬人族はホッと胸を撫で下ろし……そうしてからその場にストンと座り、首を左右に振りながらフンフンフーンと鼻歌を歌い始める。

 

 そんな犬人族を見て、周囲を見て……あることに気付いたマヤは首を傾げながら楽しげに鼻歌を歌う犬人族に声をかける。


「いつもこの時間に畑の世話をしているセナイとアイハンが見えないようだけど、あの子達はどうしたいんだい?」


「はい!

 セナイちゃんもアイハンちゃんも、他の皆も出かけちゃいました!

 僕はセナイちゃんとアイハンちゃんに畑をお願いと言われたので、こうして見張りをしているんです!」


「……出かけた? 皆がかい?

 こんな時だってのに、一体何処に何をしに行ったっていうんだい?」


「はい!

 セナイちゃんとアイハンちゃんはお馬さんに乗って、フランシスさんとフランソワさんと、それと何人かのマスティ族と一緒に周囲の見回りに行ってくるそうです!

 ディアス様とアルナー様が居ない今だからこそ自分達が村を守るんだそうです!

 アルナー様は僕の奥さんとかを連れてディアス様の下へ行きました!

 かくれんぼ魔法を使って皆を驚かすんだとか、確かそんな感じのことを言ってましたよ!」


 犬人族のその言葉にマヤは大きな溜め息を吐く。


「……セナイとアイハンはともかく、全くあの娘は一体何をやってるんだろうねぇ。

 坊やに村を頼むと言われてたろうに……やれやれだねぇ」


「だいじょーぶですよ!

 アルナー様の代わりに僕が村も畑も守ってみせますから!

 正しい人、ディアス様の大事な場所は誰にも荒らさせません!」


 マヤの溜め息を吹き飛ばすかのように鼻息を荒くする犬人族にそう言われて、マヤは苦笑しながら頷く。


「そうだねぇ、お前さんが守ってくれるなら安心だねぇ。

 それじゃぁあたしもここで見張りの手伝いをするとしようかねぇ」


 と、マヤはそう言ってからその場に腰を下ろし、連れ歩いていた犬人族達と見張りをしていた犬人族を優しく撫で回すのだった。


 

 ――――ディアス



 大声を上げ、敵兵が怯んだのを確認し、クラウスを追いかける形で敵兵へと向かって駆けていく。


 怯んでくれているうちに少しでも敵兵の数を減らそうと、駆けながら手近な敵兵に狙いを定め……戦斧の石突きでもって敵兵の腹を思いっきりに突く。


 当然、敵兵は鎧を着ているのだが、構うことなく鎧の上から石突きを突き立てて、その衝撃と痛みで更に怯んだ敵兵の腕を戦斧の柄で打ち据えて、その手に持つ槍を叩き落とす。


 武器を失っても尚、戦意があれば再度の攻撃をしてやるぞと構えるが……武器を失った敵兵は震えながら地面に伏していて、どうやら戦意を失ってくれたようだ。


 ならばと叩き落とした槍を遠くへと蹴飛ばして、次の敵兵へと狙いを定めて襲いかかる。

 

 戦斧の刃部分は使わないようにし、獅子の顔のような飾りの付いた戦斧の横っ腹や、柄、石突きなどを使って敵兵を殴り、時には蹴り、あるいは体当たりでもって、先程のように戦意と武器とを奪ってやる。

 

 そんな戦いを繰り返し、順調に敵兵の数が減っていく中、一方的にやられてばかりでたまるものかと開き直ったのか、何人かの敵兵が態勢を立て直し、しっかりとした陣形を作り……それなりの構えを取り始める。


 ……どうやらここから先は楽にはいかないようだと気を引き締めて、さてどこまで体力が持ってくれるか、なんてことを考えながら荒く息を吐いて……全力で戦斧を振り上げる―――。



 ――――ディアーネ軍、右翼



「ディアス殿とクラウス殿の戦い振り、カマロッツはどう評価するであるの?」


 椅子に浅く腰掛け、前のめりの体勢になりながら、豪華な装飾のされた遠眼鏡を覗き込んでいるエルダンが側に立つカマロッツへと質問を投げかける。


「……わたくしの評価でよろしいのですか?

 もしであれば武官を呼び、武官に評価させますが……」


 エルダンの側に姿勢良く立ちながら、質素な造りの遠眼鏡を覗いていたカマロッツが、遠眼鏡から目を離し、エルダンの方へと視線をやりながらそう言葉を返す。


「カマロッツの評価が聞きたいであるの」

 

 遠眼鏡を覗き込んだままのエルダンにそう言われて、カマロッツは改まった様子で頷き、遠眼鏡を覗き込み……少しの間の後に口を開く。


「ディアス様を見て何より驚かされるのは、底の見えない体力と凄まじいまでの膂力でしょうか。

 あれだけ動き回っても動きが衰えること無く、相手を殺さぬようにと手加減していてもその一撃は強烈で……時折兵士達が宙を舞っているのは一体何の冗談なのかと驚かされてしまいます。

 ……もしディアス様が手加減をしていなかったらどんな事になっていたのかと恐ろしくなる程です」


 カマロッツがそう言った瞬間に、陣形を組み、なんとか抵抗しようとしていた兵士の一人が、ディアスの一撃を食らって宙を舞い……味方達へと向かって突っ込んで行くのを見たエルダンは、確かにその通りだと静かに頷く。


「クラウス殿は、ディアス様が戦斧を振り終えて隙を作ってしまう度にそこに現れて、その隙を補っているのが実に見事かと。

 ディアス様の背後や横脇に敵兵が居ることを決して許さず、自分より体格の良い相手はディアス様が相対するようにとの誘導をしているのもまた見事です。

 力も技もまだまだ未熟な部分が目立ち、個人の武としては中の上……といった所ではありますが、目に付いた敵から敵へと動く、単調とも言えるディアス様を上手く補佐することで、実力以上の戦果を上げている……といった所でしょうか」


 カマロッツがそう説明している間もクラウスは、鋭く素早く戦場を動き回っていて、その槍で敵を突きながら、その槍で敵を払いながら、ディアスを中心にまるで舞い踊るかのようにその体を捻り、翻し、敵兵達を翻弄していく。


 それでいてディアスの邪魔になる位置には決して立たず、ディアスの動きを阻害するような真似を絶対にせず……見事なまでの連携を戦いの中で披露し続ける。


 そんなクラウスに対するカマロッツの評価を耳にしたエルダンはその口を尖らせて、如何にも不満げな様子で声を漏らす。


「カマロッツの評価は少し厳しすぎるの。

 クラウス殿は個人としても十分に強いお方だと思うの。

 それでいてディアス殿が次にどう動くかを完璧に読んで、上手くフォローしている点には本当に驚かされるの、ディアス殿の部下でなければ引き抜きたい程であるの」


「……確かにエルダン様のおっしゃる通りかも知れません」


 エルダンがそう言うのであれば否は無い。いつも通りのカマロッツらしい同意の後に、少しの間を置いて、声をいくらか重くしたカマロッツが言葉を続ける。


「……エルダン様、わたくしとしてはディアス様やクラウス殿よりも、犬人族の小型種達の活躍の方に驚かされてしまったのですが……」


「……確かに彼らの活躍には僕も驚くばかりなの」


 遠眼鏡の向こうでは、小型種の犬人族達が戦場を縦横無尽に駆け回っていて、五人がかりで一人の兵士に襲いかかり、あっという間に制圧していたり、ディアスやクラウスと相対している兵士の足や武器に噛み付いて動きを阻害してみたり、大きく吠えて敵を怯ませてみたりと、見事なまでの活躍を見せている。

 

 そのマントで攻撃を弾き、その牙で鉄の防具を噛み貫き、草原の中に潜んでは現れてと繰り返す犬人族に対し、兵士達はその数を掴めず、犬のようで犬では無い姿と動きにその正体を掴めず、冷静になって聞けばなんでもないはずの吠え声一つに恐怖し、混乱してしまっているようだ。


「小柄で非力で不器用で……本能的だからと僕達は彼らを過小評価していたようなの。

 ……全く我ながら情けない話であるの」


「……はい、わたくしも目が曇ってしまっていたようです。

 まさか彼らがあそこまで戦えるとは……。

 しかしディアス様は、本能的過ぎるが為に暴走しがちな彼らをどうやってあのように制御しているのでしょうか?

 ……何か秘訣のようなものでもあるのでしょうか?」


「……ふーむ、確かにそれは僕も気になるの。

 秘訣があるのか無いのか、あるとしたら一体どんなことをしたらあんなに上手く制御出来るのか。

 ……折を見てそのうちディアス殿に聞いてみるであるの」



 それを最後にカマロッツとの会話を切り上げたエルダンは、遠眼鏡の向こうの様子を眺めるのに集中し始め、次第に夢中になっていき、前のめりになっていた体を更に前へ前へと突き出し始める。


 そんなエルダンの肩にそっと手を添えて……倒れてしまわぬようにと支えたカマロッツは、そうしながらも戦場の様子をつぶさに観察し続けて……そしてほとんどの兵士達が、ディアスの戦斧に殴られるか、クラウスの槍に激しく突かれるか、犬人族に襲われるかして武器と戦意を失ったのを確認し、


「そろそろ決着ですか」


 と、小さく声を漏らすのだった。



 ――――ディアーネ軍、中央



 カスデクス公は一歩も軍を動かさず、傭兵達は撤退を始めてしまい、そして自らの手勢もほぼ壊滅となった折……中央の陣で一人になってしまっていたディアーネは、馬上で癇癪かんしゃくを起こしてしまい、建国王の王笏を振り回しながら、両足をバタつかせながら暴れてしまっていた。


 何故こんなことになってしまったのか、何故あいつらは自分の言うことに従わないのか、一体何故世の中はこんなに狂っているのかと、ディアーネはその思いをそうやって全身全霊でもって表現していたのだ。


 だが周囲にその癇癪を受け止めてくれる者は居らず、ディアーネを宥めてくれる者は居らず、ディアーネのその怒りと不満は解消されるどころか更に更にと募っていってしまうばかりだ。


 怒りと不満が募れば募るほどディアーネは更に暴れてしまい、馬上でそんなことをしてしまった結果……ディアーネの愛馬の我慢は限界を越えてしまって、ついにはディアーネをその身から振り落としてしまう。


 落馬し、強かに体を打ちつけて地面へと転がったディアーネは、金切り声を上げ、涙を流し、地面に寝転がったまま、建国王の王笏を地面へと何度も何度も叩きつける。


 そうして癇癪を起こし続けて、


「なにが建国王の王笏よぉー!!

 伝説の力は何処へいってしまったのよぉー!!

 燃やしなさいよ! 全部全部燃やしなさいよ!

 ディアスも、カスデクスも、あの馬鹿兵士達も傭兵達も、この草原も全部全部燃やしちゃいなさいよー!!」


 なんてことをディアーネは叫び始める。


 すると、その叫びに反応したかのように何処からか風切り音が聞こえて来て……その風切り音がディアーネの手元へ迫り、凄まじい衝撃が王笏を持っていたディアーネの右手を襲う。


 そのあまりの衝撃に癇癪を起こし続けていたディアーネは思わず正気へと戻り……そして一体何が起こったのかと困惑する。


 ふと気付けば先程まで右手の中にあったはずの王笏が無くなってしまっている。


 どうやら先程の衝撃で何処かへと弾き飛ばされてしまったようだ。


 一体何が起きたの? 今の衝撃は何だったの? あの風切り音は一体何だったの?


 と、そんなことを考えながらディアーネは意外にもしっかりとした足取りで立ち上がる。

 どうやら落馬はしたものの怪我にまでは至っていなかったようだ。


 そうして立ち上がったディアーネは、王笏は何処にいったのか? 先程の風切り音の正体は一体何なのか? と周囲を見渡し始める。


 するとすぐに、ディアーネのすぐ側に落ちていた一本の矢が目に入り、一体何故こんな所に矢が……? とディアーネは首を傾げながらその矢を拾おうとする。


 その瞬間、ディアーネが自らが意匠を考え王宮に仕える職人に作らせた特注の鎧に衝撃が走る。


 先程手に受けたよりもかなり強い衝撃だ。

 

 一体何がとディアーネが、衝撃を受けた自らの胸元へと視線を下ろすと……そこには鎧に突き刺さった一本の矢の姿があった。


 慌ててディアーネはヒィヒィと悲鳴を上げながら自分の胸元をまさぐる。

 意味が無いだろうに、必死に鎧の上から自分の胸元をまさぐる。


 ……しばらくして自らの身体に異常が、痛みが無いことに気付き、どうやら鎧は貫かれたものの、身体には届いていないようだとディアーネは安堵する。



 だがそうして安堵した瞬間に再びの風切り音と衝撃があり、新たな矢が鎧に突き刺さる。



 ディアーネはそれを見て恐怖し、困惑し……恐怖しながら困惑しながら、一体何が起きているのかと、何処から矢が飛んで来ているのかと周囲を見回す。


 しばらくの間そうしてディアーネが周囲を見回し続けていると……ディアーネがたまたま視線を向けた空間から、何も無いはずの空中から、突然矢が現れて風切り音と共に凄まじい勢いでディアーネの下へと飛んで来て、そしてまたもディアーネの鎧に矢が突き刺さってしまう。


 全く訳の分からない、理解の出来ない光景をその目で見てしまったディアーネは、そんな光景を見てしまった恐怖と、自らの命を狙われている恐怖から逃れようと、癇癪を起こしていた時よりも全身全霊の力を込めて、落馬した時よりも凄まじい金切り声を上げながら駆け出し、その場から逃げ出す。



 最初はカスデクス公の陣へと向かって逃げ出して、カスデクス公に助けを求めようとしたディアーネだったが、しかしすぐにカスデクス公がディアーネの命に逆らい軍を動かさなかったということを思い出し、この今自分の身に起きている現象がカスデクス公の仕業の可能性であるかもと思い至り……逃げる方向を東へと変えて、カスデクス領の西端、草原が唐突に終わり、木々が生え揃う、深い森の中へと逃げ込んでいく。


 そんなディアーネを追いかけるかのようにまた新たな矢が風切り音と共に迫って来て、耳でそれを感じたディアーネは兎に角奥へ、矢の届かぬ森の奥深くへと我を失いながら駆けていくのだった。



 ――――????



『……随分と脆い鎧だな、貫くつもりは全く無かったのだが……。

 まぁ、元気に走れているようだし、良しとするか。

 ……よし、お前達はあのおかしな力を感じるオウシャク? とかいう杖と、奴らがそこらに投げ捨てた物を回収してから村に戻ってくれ。

 私はあの女をもう少しだけ追いかけてみたいと思う。

 私から離れると魔法の効果が切れるから敵に見つからないよう気をつけるようにな』


『はーい!

 わたし達―――村婦人会にまかせてくださーーい!』


 


お読み頂きありがとうございました。


次回は????視点になる予定です。

普通に気付いてる方も多いようですけど、まだ????ですのでそこら辺よろしくオネガイシマス


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