折れぬ心と一方その頃
登場キャラ簡単解説
・ゴブリン族
海に住むサメの亜人、何人かは領民になっている、広い海の守護者であり、世界中に分布している? 総数は本人達も知らない、代表キャラは勇者イービリス
・鷹人族
どこかの高山の巣に住まうタカの亜人、当然ながらディアス達が知り合った以外の巣もどこかに存在している、代表キャラはサーヒィ、その子のチャイ
・婆さん達
マヤ婆さん率いる12人の婆さん達、初期の頃からイルク村を支える人間族で、その全員が高度な魔法の使い手
・アイサ
ディアスが育てた子供の一人で人間族の女性、少ない魔力を工夫して使う礫魔法を得意としていて二つ名は悪辣アイサ
――――森を駆けながら ディアーネ
突然の乱入者のせいで敗北を喫してしまった。
しかしディアーネは歯噛みもせず苛立ちもせず、ただ冷静に森の中を駆けて状況を立て直そうとしていた。
どうせあの男は捕虜を殺しはしない、そのうち解放されて合流が叶うはず。
そうしたならすぐさま武装し編成し直し、また大暴れを楽しもう。
今回は負けたかもしれないが得るものはあった、経験を糧に成長も出来た。
何度も負けようとも最後に勝てば良い……最初にあんな惨敗を味わったことでディアーネは、なんとも不思議な成長の仕方をしていた。
負けを受け入れて糧になるものを常に探し、どこまでも成長していって仲間を集めて……そして行ける所まで行ってやろう。
明確な目標はない、自分に出来る限界をただ見たいだけ、その結果どこかの集落の長になっても良い、街の長になっても良い、領主になっても良い、自分はどこまでいけるのか、ただそれを探り続けたい。
その先に何があるのかは分からないが、それでも走り続ければいつかあの男のように何かを見つけられるだろう。
もう王位にもこの国にも、権力にも財貨にも興味はない。
ただただ自分が行く道だけに興味が向いていて……そのためにディアーネは泥と汗にまみれながらも満面の笑みを浮かべて、懸命に駆け続けるのだった。
――――一方その頃 メーアバダル領内では
ディアス達が出撃した後のメーアバダル領内では、ちょっとした異変が起きていた。
ディアス不在を狙ったかのようなタイミングで各地にモンスターが出現、同時に侵攻してくるというモンスターらしからぬ行動を見せてきていて……各地ではその迎撃が行われていた。
大入江。
ゴブリン達が住まうそこにも海から上陸しようとかなりの数のモンスターが集まってきていた……が、そういう可能性もあるだろうと予測していたエイマの号令によって集まったゴブリンの勇者達がそれを防いでいた。
「イービリスだけに名を挙げさせてたまるものか! 海の勇者は一人にあらず!!」
「南海、東海、西海それぞれの勇者が集う時が来るとはな!」
「ここで活躍したなら陸上に有名が広まるだけでなく、錆びぬ鉄の武器がもらえるのだから、駆けつけない訳にはいくまいよ!」
「陸上の食事も見逃せんぞ! 肉とデーツのなんと甘露なことか!!」
そんな声を上げながら、水中から飛び出して銛を突き刺し、あるいは陸上から水中に飛び込んで銛を突き刺し。
海は広く住まうモンスターの数も多く、かなりの数のモンスターが集まっていたのだが……ゴブリンの勇者もまたそれに負けない数で、大入江を挟む大地には隙間なく彼らのための簡単な造りのユルトが設営されていた。
そのための資材を運び、設営を手伝った鬼人族が言うには海を埋め尽くす程の数、それだけの勇者達が集まり、次々に入江に入り込んでくるモンスター達を次々に串刺しにしていた。
その中にはアクアドラゴンの変種も数体いたのだが、それがドラゴンであると気付くことなくゴブリン達が瞬殺してしまっていて……この騒動が落ち着いた後、大入江を挟む大地は、モンスターの素材の山で埋め尽くされることになる。
北の山地。
当然のようにこちらにもモンスター達が押し寄せていたが、その勢力に勢いはなかった。
今までの侵攻で力を失っていたのだろう……以前の侵攻からもそれが感じ取れていたが、今回は更に顕著で数は少なく力は弱く、結局モンスター達は草原に到達することすら出来なかった。
「サーヒィに続け! ドラゴン狩りの勇者となれ!!」
「今こそ約定を果たす時!」
「空を守れ!!」
と、勇ましく声を上げる鷹人族の襲撃を捌き切れず、夜になればどこからともなく狼の群れの襲撃を受け、北のモンスター達は歴史にない惨状を晒すことになる。
東の関所。
森の中ならばあるいは隠れて近付けるかもと、獣型のモンスター達が侵攻を開始していたが、その企みはセナイとアイハンの魔法によって打ち砕かれることになる。
森にある木々全てが彼女達の味方、犬人族達がその鼻でモンスターを見つけて一吠えを上げると、木々達がその枝を振るいモンスター達を散々に打ちのめす。
時には根を絡ませて地中に引きずり込み、時にはその毒葉でダメージを与え、粘着力のある樹液で拘束しようとする木もいる。
そうした木々による襲撃をかいくぐった先にあるのは、強固に強化されて関所で……体力も気力も失いつつあったモンスター達はそこから放たれる矢に討ち取られてしまうことになる。
西の関所。
西の関所もまたモンスターによる侵攻を受けていたが、関所が揺るぐことはなかった。
モント率いる領兵達にとってドラゴン以外のモンスターなどただの雑魚でしかなく、鬼人族からの援軍がやってきている上に、洞人族達が開発を進めている新型のバリスタの配備も進んでいる。
更には獣人国からも異常事態を察知してか援軍が到着していて……負けようと思っても負けられない布陣が揃っていた。
その上でそれぞれが手柄を立てようと、数に限りがある目標を争うように狩っており……こちらもまた一種の惨劇の場となっていた。
そして……草原。
どういう道のりなのかは不明だが、それでも草原に入り込むモンスター達がいた。
数は少なく相応に弱ってはいるが、モンスターはモンスター、イルク村に到着したなら家畜や子供達に少なくない被害を出したことだろうが……それを防ぐ一団が草原内を駆け回っていた。
それは以前活躍したメーアワゴンを改造したものだった。
車輪も本体も、壁も内部も走りやすいよう変に揺れないよう、最新の技術や素材で強化されていて、更に搭乗者に負担をかけないよう大きなクションまでが用意されている。
その上に堂々と座るのは婆さん達で……ナルバント達が拵えた杖を手に様々な魔法を放ち、草原に入り込んだモンスター達を駆除していく。
メーアワゴンは犬人族達がひいていて、少しでもモンスターの匂いが漂えば近くのメーアダゴンが急行するという仕組みで、婆さん達の討伐数はかなりのものとなっていた。
草原のモンスターを狩るのは婆さん達だけではない、野生の黒ギー達もモンスターを見かければ生存本能に突き動かされての突撃をかましていて……その勢いと角に砕かれたモンスターの数は少なくない。
それでもと諦めず進軍を続けてどうにかイルク村に到達したモンスターもいたが、結果は変わらない。
占いでその動きを予測したマヤ婆さん本人と村人達が待ち構えていて、あっという間の駆除。
一回だけウィンドドラゴンが襲撃しに来たこともあったが、マヤ婆さんの放った魔法一つで砕かれて絶命することになった。
それはアイサの魔法を見てマヤ婆さんなりに改良したもの。
土や石ではなく、洞人族達の仕事場で拾った鉄くずを放つというもの。
ちょっとした削りカスや破片、錆びた釘、折れた釘、駆けた刃の破片。
そうしたものを魔法で作り出した風の渦巻きの中に放り込み、敵をその渦巻きの中に閉じ込める。
後は敵が砕け散るのを待つだけというもので……ウィンドドラゴンはその素材の破片一つを残すことなく砕かれることになる。
「……流石でございましゅ」
成長し、鷹人族らしくなりつつある体のチャイが足元でそう言うと、杖を振り上げたマヤ婆さんはにっかりとした笑みを返してくる。
それを見てチャイは、イルク村最強はもしかしたらディアスではないのかも? と、そんなことを思うが言葉にはせず、いつも通りの平和な時間が続くイルク村の日常の中へとゆっくりと足を進めて、戻っていくのだった。




