鉄の人の
簡単登場人物紹介
・ナルバント
洞人族の長、鍛冶職人、男性、妻はオーミュン、息子はサナト
・オーミュン
洞人族の女性、細工職人、女性、夫はナルバント、息子はサナト
・メイゾウ
鼠人族の男性、元獣人国の民、今はイルク村で暮らしていてエイマと仲が良い
「そろそろ出てくるぞ」
「だいぶ弱らせてやったからね、倒し給えよ」
炎猫と大トカゲがそれぞれそう言って、直後土が盛り上がる。
そして中から土まみれとなった鉄の塊が出てきて、どういう理屈なのかその節々から火花が散っている。
どういう生物なのか、どういう理屈で動いているのか、何もかもが分からないままだったが、弱っているのならば今がチャンスだろうと、戦斧を思いっきりに叩きつける。
すると先程とは全く違う感触があって、ザクリと鉄の体が斬れて……複雑な何かが蠢く断面を見せてくる。
初めて見るそれをどう表現したら良いのかが分からない、とにかく未知のもので誰に聞いても答えは返ってこないだろうと分かる断面となっていた。
それを見てなのかソマギリが投げたと思われる投げナイフと、鬼人族が放ったと思われる矢が断面に突き刺さり、断面が激しく損傷して……このまま決着かと思われた瞬間、鉄の人が再び人の形を取り戻し、そのままこちらに襲いかかってくる。
と、同時に何かが放たれる。
鈍い光……それを見て大トカゲが声を上げる。
「毒か! 避け給え!!」
しかし私は毒ならばとあえて気にせず、戦斧を構え直して横薙ぎに振るう。
毒の魔法ならばナルバントが作ってくれたお守りがあるし、魔法ではない本物の毒ならばセナイ達から預かったサンジーバニーがある。
場合によっては鎧が弾いてくれるだろうし、全く問題はない。
そして戦斧はまたも鉄の人の体を斬り裂いて……鉄の人は体を再生させるのではなく次の光を放っての攻撃を仕掛けてくる。
どうやら最初の魔法はナルバントのお守りか鎧かが防いでくれたらしい、だからなのか今度の光は色が違う。
赤く目の奥に染み込んでくるような色で……直後幻覚のような光景が見える。
『精神攻撃か、耐えてみせよ』
それは炎猫の声だった。
どうやら私の視界は幻覚に飲み込まれてしまっているようで……しかしまぁ、大した幻覚ではなかった。
そもそも心を攻撃しようって連中には今までも出会ってきたからなぁ、人の死だの何だの、そんな光景を見せられても今更でしかない。
以前も似たようなことがあって、それで自分なりに考えてみたのだが……私の心を攻撃しようと思ったなら両親を持ち出してくるしかないのだろうと思う。
自分のことながら両親に出て来られてしまうと参ってしまうのだろうが……しかし何故かこういう連中はそうしてこない。
この辺りのことをベン伯父さんに相談したこともあったのだが、伯父さんが言うにはたとえそれが神々であっても私の両親を利用することは難しいらしい。
両親が生まれてからずっと暮らしていた神殿は、神々でさえ簡単には干渉出来ない場所で、神々の記録にも両親のことは残っていない。
そして私や伯父さんも両親の容姿となると年月のせいでうろ覚えで……その言葉や一緒にどんなことをしたかは覚えていても、その姿を思い出すことは難しい。
こうなるとどう上手くやっても半端な結果にしかならず、下手に両親を持ち出せば私を激昂させる可能性もあるとかどうとか、ベン伯父さんはそんなことを言っていたなぁ。
つまりはまぁ、私に精神攻撃は通用しない、今までに散々されてきたことだからなぁ……。
なんて余計なことを考えていると幻覚が晴れて視界が戻る。
「させません!!」
直後に響く声、私の胸元からメイゾウが飛び出してくる。
メイゾウの手には短剣と円盾があり、短剣はナルバント製、円盾はオーミュン製、そしてセナイとアイハンが編んでくれた草木の兜と鎧を身につけている。
草木の鎧にはエイマが選んだ小さな花を乾燥させたものも編み込まれていて……その花がなんとも目立つメイゾウは、今回の戦いに私の護衛として参戦していた。
そんなメイゾウが持つ短剣の先には小さな虫……いや、小さな鉄の虫の姿があって、それが鎧の隙間から入り込もうとしたのをメイゾウが迎撃してくれたらしい。
メイゾウの短剣はドラゴン素材とオリハルコンの余りやら削り粉を混ぜ込んだもので特別性……ナルバントが言うには鉄塊であっても切り裂けるらしい。
更には盾にもまたオリハルコンの削り粉が混ぜ込んである。
私の兜や鎧程の力はないが、少しだけ相手を押し返す力が発揮されるようで、体の軽いメイゾウはそれを上手く利用して自分の体を吹き飛ばすなんてこともしていて、それによって本来の跳躍力以上の跳躍を見せてくれていた。
小柄で鋭く俊敏、エイマ程ではないがエイマの薫陶を受けているのでとても賢く、下手をすると私やクラウスでもあっさり負けてしまう戦士、それが今のメイゾウだった。
またも鉄の人の攻撃が失敗に終わる、毒、幻覚、小さな虫による攻撃と来て、今度は何をしてくるかという所で、女性指揮官とクラウスの攻撃が同時に鉄の人にぶち当たる。
女性指揮官はそこらで拾った槍を、そしてクラウスはドラゴンの槍を。
私の近付くなとの声を受けて二人とも十分に距離は取っていて……腰が引けた分だけ威力の下がった攻撃となっているが、それでもダメージがあったようで鉄の人の体にヒビが入っていく。
その時、妙な嫌な予感がする、全身に氷のような冷たさが走る。
それは女性指揮官も同じだったようで、指揮官は槍を手放して全力で脱兎、この場から離れていく。
それを見ながら私は兜を脱いでクラウスに投げてやり、それを受け取ったクラウスは味方や捕虜の下に走る。
そして私は兜がなくなった頭を守るため、両腕を顔の前で交差させて……メイゾウが大慌てで懐に戻ってくる。
ニャーヂェン族や鬼人族達は、この場から離れる道を選んだらしく気配が遠ざかっていって……そして炎猫が炎を放ち、大トカゲが土壁をそこら中に作り上げる。
その直後、鉄の人が弾けてその破片が周囲に飛び散る。
炎猫の炎がそれを焼き払い、土壁が受け止め……そうしきれなかった破片は私の鎧や兜が跳ね返し、跳ね返されなかった一部は地面や周囲の岩、木々にぶち当たり、岩や木をあっさりと砕く。
そうやって周囲にかなりの被害を出した鉄の破片は、尚も動こうとしていて……そうはさせまいと炎猫が周囲を駆け回り、破片一つ一つを燃やしていく。
それを見たメイゾウも破片集めに参加し、盾をしっかり構えながら短剣で破片を突き刺し集め、炎猫の火にくべていく。
……炎猫や大トカゲがいなかったらどうなっていたやらなぁ、かなりの苦戦を強いられていただろうなぁ。
「……炎猫も大トカゲも助かったよ、ありがとう。
しかしこんな遠方までやってきてしまって平気なのか? 自分の……領地と言うか担当地域と言うか、そういったものの管理は平気なのか?」
メイゾウの動きを見守り……一応戦斧を構えて警戒を続けながらそう声を上げると、炎猫は一瞬だけこちらを見てすぐ破片の処分に意識を戻し、大トカゲだけが声を返してくる。
「それについては何の問題もないよ。
我らのコレは……まぁ、そうだな、分体のようなものだからね。
本体は本体の居場所で今も役目をこなしているよ……君に分かりやすく言うのなら大メーアと小メーアみたいなものを思ってくれて良い。
本体が来ていたならもっと早く片付けられたのだがね……まぁ許してくれ給えよ」
そう言って大トカゲは大きく口を開ける、目を細めてもいて……もしかして笑顔なのだろうか?
ともあれそうして鉄の人との戦いは決着となり……同時に私は女性指揮官がどこにもいないことに気付き、捕縛に失敗してしまったことにようやく気付くのだった。




