神々の
女性指揮官の飛び上がり攻撃を、戦斧ではなく虎の手斧で受ける。
戦斧は片腕で掴みながらも地面に落とし、手斧で受けて弾いて、そして投擲の構えを取る。
弾かれて後方に吹き飛ぶことになった女性指揮官は、受け身を取るのではなくあえて転げて、その勢いを殺すことなく利用して起き上がり、再度剣を振るおうとしてくる。
普通は地面を転がるなんて嫌がるものなのだが、それよりもすぐに立ち上がりたいという気持ちが勝っていたようで、その激しい表情からも闘争心の高さが伝わってくる。
その勢いは手斧を投げるよりも早くこちらに迫る程で、仕方なくもう一度手斧で攻撃を受ける。
と、そこで周囲の気配が変わったことを感じる。
どうやら周囲の戦闘は決着となっているようだ……ほとんど全員を拘束して制圧済み、何人かは逃げたようだが、それもほんの一部の大成功。
後は目の前の女性だけだが……一騎打ちのような形となっている所を邪魔したくはないのだろう、どの気配も一歩下がって静かにこちらを見守っている。
相手を制圧し話を聞くという目的の関係で、確かにその態度が正解なのだろう、堂々とした一騎打ちに勝った上で制圧した方が話はしやすくなることだろう。
そういう訳で一騎打ちの形で勝とうと気合を入れ直していると、なんとも言えない雰囲気が周囲に広がる。
嫌な感覚、嫌な気配、女性以外の敵がいるようだがどこにいるのかが分からず、私が困惑してしまっていると、同じ気配を感じ取ったらしい女性も一旦私から意識を離して周囲へと警戒心を向ける。
その間に私は一旦手斧をしまって戦斧を構え直して……女性もじわじわと私から距離を取って呼吸を整え、両手で剣をしっかりと握る。
そうして一体何がやって来ようとしているのかと神経を尖らせていると、突然何の音もなく何かが私と女性の間に現れる。
それが何なのかは私には分からなかった、それでも無理矢理言葉にするなら鉄の人。
鉄で出来た何かが人の形をしている……いや、本当にそれが鉄なのかも怪しいが、何らかの金属が裸の男性のような形をして、そこに立っていた。
正確には人の形そのものではない、人の形に近い何かで、それがまた妙に不気味で先程感じた嫌な予感も踏まえて敵だと判断した私はすぐさま戦斧を振るう。
それは女性指揮官にとっても同じことだったようだ、女性指揮官も必死な形相で剣をそれに振り下ろしていて、私と女性の攻撃が同時に当たり、戦斧はひび割れ剣は砕け散る。
「ちくしょうが!!」
そう声を上げて女性が飛び退き、私は戦斧に力を込めて修理しながらもう一撃加えようと振り上げる。
するとソレが動き始め、両腕を私と女性に向けて何かをしようとし、直後ソレが燃え上がる。
「そうはいかないな、非原種への洗脳なら見逃してやっても良いが、原種に手を出すとあれば許すわけにはいかない」
何故か私の肩からそんな声がして、驚いて視線をやるといつかに見た炎のような猫の姿があった。
確か一度獣人国絡みの事件の後に出会ったんだったか……獣人国に住んでいるらしい神々の使いか神そのものが、わざわざ助力にやってきてくれたようだ。
「全く度し難い、正道から外れるだけならまだしも、正道の邪魔をしようとは。
恥を知るが良い、貴様ごとき存在に出来ることなどないとも知るが良い。
さぁ、正道を行く者を、やつを倒し給えよ」
そしてまた別の場所から声、今度は私の足元で……そこには荒野に川を作り出したという大トカゲの姿がある。
こちらもまた恐らくは神かそれに近い存在……わざわざ神々が二柱も現れたということは、もしかしたらあの存在も神か、それに近い存在なのかもしれない。
……恐らくは王都に暗躍している神の一派、なのだろうなぁ。
そしてトカゲの声の直後に地面が割れて燃えるソレの足が地面のひび割れに挟み込まれる。
色々と異常事態ではあるものの攻撃の良い機会でもある訳で、私は考えるのは後だと戦斧を振り下ろす。
また女性指揮官もそこらで拾った剣をソレに突き立てて……激しい金属音が周囲に響き渡る。
炎猫と大トカゲが何かをしてくれたのだろう、先ほどとは全く違う感触が伝わってくる……が、傷らしい傷は出来ず、ただただそれは燃えながら地面から抜け出そうともがいている。
それを見て私も女性も武器を振り上げる、その際に目が合い……お互いに今はソレを倒そうとの意思疎通が出来る。
私としては女性をどうしても倒したい訳ではないし、明らかに目の前のソレの方が脅威だ。
女性がどう考えているかは分からないが……あるいは一騎打ちの邪魔をされたことが気に食わないのかもしれない。
そしてソマギリやクラウス達が加勢しようとしてくるが……、
「近付くな!!」
と、声を張り上げて制止する。
もし目の前のコレが王都でおかしなことをしている存在だとしたら、クラウス達を近付けるのは問題だろう。
私だけで対処すべきで、そうなると女性指揮官も危険ということになるのだが……まぁ、敵なのだからそこまで気を回す必要はないだろう。
そうやって私達が攻撃を繰り返す中、ソレ……鉄の人は地面からの脱出を諦めて体を動かし始める。
鉄の体なのだから固い動きになるだろうと思っていたが、まさかもまさか泥のように柔らかくうねり、ぐにゃりぐにゃりと腕を振り回し、そしてその腕を私と女性に向けて伸ばしてくる。
動きは柔らかいのにとても素早く、あっという間に目の前まで腕が迫るが、すぐさま鎧が光を放って弾き飛ばしてくれる。
女性はどうにか回避出来たようだが、地面に激しく転倒してしまい、結構なダメージを受けた様子だ。
彼女を助けるという訳ではないが、攻撃を防がれて姿勢が崩れている今がチャンスかもしれないと力を込めて……今日一番の勢いでもって戦斧を叩きつける。
先程までは叩きつけるとすぐさま金属音がしてきていたのだが、何故だか今度は音がせず、戦斧も不思議な程するりと相手にめり込み……慌てて戦斧を引き下げる。
どうやら腕だけではなく本体も泥のようになってしまったらしい、私の全力の一撃もぐにゃりと受け止めて、ダメージらしいダメージもないまま蠢いている。
……厄介なことになった、これならまだ金属のままだった方が対処出来たのだが……。
「駄目だ、それは許されない、世には道理というものがあるのだよ」
「全くもって論外だ、貴様はどうしてそうも愚かなのだ、時代の変化というものを受け入れよ」
と、そこで炎猫と大トカゲが声を上げ……泥となった鉄の人が激しく燃え上がり、燃えたまま盛り上がってきた土の中に呑み込まれる。
鉄の人を飲み込んだ土のそこかしこから煙のようなものが上がっているのを見るに、土の中でもまだ炎が燃え上がっているらしい。
普通は土の中に埋めたなら火は消えるものなのだが……そこは神々の力と言うことなのだろうか。
そうして土が蠢き波のように湧き出て次々に折り重なって……鉄の人を炎と一緒に土の中に押し込めていく。
……これで決着してくれたか?
と、そう考えていると土の中から凄まじいうめき声が響いてきて、どうやらまだまだ終わっていないようだと確信を得た私と炎猫、大トカゲと……それと女性指揮官やクラウス達は、それぞれ武器を手に戦闘態勢を取るのだった。




